表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄血の武田信玄 ― 科学で天下を取る男  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/50

第28話 『鉄脈を読む男 ― 砂鉄流路図の誕生』

甲府の朝は静かだった。

茶畑の黒土が朝露を吸い、薄く光っている。

二十七話で広がった“根の理”の成功に、里の者たちはまだ興奮冷めやらぬ様子だ。


だが――信玄だけが、茶畑を前にして立ち尽くしていた。


「……土が育つなら、鉄もまた“流れる”はずだ」


呟きに最初に反応したのは真田昌幸だった。


「殿、それは……どういう……? 鉄は山に眠るものでは?」


「眠るだけではない。雨が降れば、鉄もまた動き出す」


今川義元が目を細めた。


「……鉄に潮のような“流れ”があると?」


「うむ。山が海なら、谷は川底だ。鉄は川を伝って運ばれる」


横で聞いていた南蛮人ドミンゴが青ざめる。


「タ、タケダ殿……鉄は動く、と……?」


信玄は静かに頷いた。


「確かめに行くぞ。山を歩く」


その一言で、赤備え衆が即座に叫んだ。


「山だな!? 山なら突撃します!!」


「突撃ではない。ただの調査だ」


「調査突撃ですね!!」


「違うと言っておる!」


────────────────────


◆ 山地調査


豪雨の翌日。

信玄は山県昌景、昌幸、義元、ドミンゴ、赤備え衆を引き連れ、甲斐の山へ足を踏み入れた。


谷川の水は濁り、流れの端には黒い砂がまとまって堆積している。


信玄はその砂を指でつまみ、陽にかざした。


「この黒み……磁鉄鉱だ。鉄は砂となり、川を下る。

 そして流れの“曲がり角”――水が弱まる場所に溜まる」


昌幸の目が一気に輝いた。


「な……なんと……鉄が……川を下る……!」


義元が海を思い出したように頷く。


「海底の砂も潮で動く……山の鉄も同じ理か」


ドミンゴは震えを隠せない。


「鉄に……潮流……地の理はどこまで続くのです……」


信玄は地面に線を描いた。


「谷を流れる鉄砂は、まるで血脈だ。

 甲斐の山は――鉄の体である」


昌幸が感極まり、奇声に近い声を漏らす。


「殿……これは……鉱脈図ではなく……“鉄の地図”です……!」


赤備え衆も感動……したふりをして叫んだ。


「よく分からんが、鉄が勝手に集まるってことか!!」

「殿! 鉄の突撃が始まりますな!!」


「だから鉄は突撃せぬ。流れるのだ」


義元とドミンゴが声を殺して笑った。


────────────────────


◆ 甲府にて ― “鉄の流路図”の誕生


調査から戻ると、信玄は巨大な甲斐国全図を広げた。


そこに川筋を描き、谷の角度、流速、黒砂が溜まる地点を次々に赤で記す。


昌幸は地図をのぞき込んで固まった。


「殿……こ、これは……

 鉄の道を描いた……甲斐全土の“鉄の動脈図”……!」


義元が目を細めた。


「潮を読むように鉄を読むとは……タケダ殿の国づくりが見えてきましたな」


ドミンゴは放心したように呟く。


「南蛮でも……資源そのものの動きを地図にする者はおりません……

 これは……国の根本そのもの……!」


信玄は筆を置き、弟子たちを見渡した。


「鉄の流れを制すれば、

 鉄砲鍛冶も、甲冑師も、巨大船の骨も、海城の杭も揺るがぬ」


昌幸の目がさらに光った。


「つまり……甲斐は“鉄の都”となると……!」


信玄はゆっくりと頷いた。


「鉄は国の骨ぞ。

 これを知らずして国を治めることはできぬ」


義元は胸を打たれ、深く頭を垂れた。


「……殿の理の深さ、もはや海も山も隔てておりませぬな……」


────────────────────


◆ 次の改革


信玄は“鉄の動脈図”を巻き、静かに宣言した。


「次は……“鉄を選ぶ場”を造る」


昌景が勢いよく手を挙げる。


「鉄を……選ぶ!? どのように突撃を!?」


「突撃ではない。

 水の流れで鉄だけを“選び落とす”のだ」


義元が気づき、息を飲む。


「……砂金を洗うように、鉄を……?」


ドミンゴが叫ぶ。


「タケダ殿、それは……“選鉱場”……!

 まさか、国を挙げて造るおつもりか!」


信玄は口角を上げた。


「甲斐を――“鉄の母なる国”にする」


赤備え衆が歓喜の咆哮を上げる。


「母ぁぁ!!」「母に突撃ぃぃ!!」


「……だから突撃はやめよと言っておる……」


そのやり取りに、甲府の風は柔らかく笑った。


こうして――

武田家の“鉄の革命”が、静かに大地を揺らし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ