表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄血の武田信玄 ― 科学で天下を取る男  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/50

第26話『海の理(ことわり) ― 大海原への第一歩』

富士川河口には、朝靄がゆっくりと流れていた。

 濡れた砂地が陽を受けて銀色に光り、遠くでは波が寄せては返す。その静けさの中に、ひとり佇む男がいた。


 今川義元である。


 潮風を胸いっぱいに吸い込みながら、彼は目を閉じた。

 ――駿河の海。

 かつて自分が守るはずだったはずの海。

 今は戦に荒れ、多くが失われた。


 そのすぐ後ろで、蹄の音が響く。


「待たせたな、義元殿」


 馬を降りた武田信玄が淡い笑みを浮かべる。山県昌景や真田昌幸、金山衆、そして南蛮技師ドミンゴ一行が続いた。


「……この潮の匂い、懐かしい」義元は呟く。

「信玄殿、本当にここに“海の工房”を?」


「うむ。海の国・駿河を再び立てるには、そなたの海の理が必要よ」


 その言葉に、義元の胸が熱くなった。失いかけた誇りが、静かに息を吹き返す。



■ 海の工房 ― まだ何もない土地から始まる未来


 湿地を歩くと、木材や鉄材が山のように積まれ、作業台が並び始めている。

 昌景が指を差した。


「殿、昨日届いた南蛮材です」


 信玄は頷き、広げられた巨大な巻物――船の設計図へ歩み寄る。


 その図を見た瞬間、義元の表情が固まった。


「……これは……なんだ……?」

「でけえ……城かよ……?」昌景が素で驚く。


 描かれていたのは、キャラベル船を遥かに上回る巨艦。腹の部分は鉄骨の格子に支えられ、二重底、区画防水、可変帆――まるで未来の船だった。


「信玄殿……これは“海城かいじょう”ですか?」

 義元の声は震えていた。


「うむ。潮と争わず、風を“面”で受ける構造だ」

 信玄は帆の角度を指でなぞる。

「二つの舷側に“理”を通す。すると船は海の道を走るように進む」


 南蛮技師たちがざわつく。


「こんな構造、我らの国でもまだ……」

「帆の可変軸など、理論だけのはず……!」


 その反応を見て、義元は確信した。

 ――この男、本気で海を獲りに来ている。


「信玄殿……駿河の海を、再び……?」

「うむ。そなたと共にな」


 義元の胸に熱いものが込み上げた。



■ 海の理と科学 ― 義元の経験が繋がる


 信玄は羅針盤を取り出す。


「南蛮の羅針盤は優秀だ。だが偏角が足りぬ。

 駿河・三河・伊豆の潮と星のズレを計らねばならん」


「潮の癖なら心得ております」

義元は自然に言葉が出ていた。

「この海域は満ち潮で船が北へ引かれます。逆風でも“流されて進む”のです」


「流されて進む……それだ」

昌幸が目を見開く。

「潮の“癖”が分かれば、海底地図が作れる……!」


 南蛮勢はまた顔色を失った。



■ 火薬と鉄 ― 海と戦を繋ぐ改良


 次に信玄は火縄銃を手に取った。


「湿気に弱い。海では使い物にならん。

 火皿を革と油で覆い、“黒煙封鎖戦”でも火が消えぬようにする」


「黒煙……封鎖戦での……!」

ドミンゴは震えた。


 金山衆が精製した硝石を見せると、信玄は言った。


「硝石の純度が上がれば、火薬はもっと軽く強くなる。

 海城の防衛用砲も作れるの」


 義元

「……ここまで見据えているのか……」



■ 木と鉄の理 ― 船体構造の核心


 昌景が問う。

「殿、海城に鉄をどれほど使うのだ?」


「骨組みは鉄、外殻は木。

 格子のように組めば、軽く、強く、浮く」


「木と鉄の格子……!」

義元は驚いた。

「海では波の衝撃を逃がせる……理に適う……!」


 ドミンゴ

「タケダ殿……あなたの国は、本気で大海へ……」



■ 土の理へ至る ― “次回の伏線”


 近くの試験畑を見て南蛮技師が言う。


「土を……混ぜ分けているのか?」


「殿の“根の研究”だ」昌幸が笑う。


 義元が土を手に取ると、信玄が言った。


「船も鉄も縄も帆布も、全部“土の理”から生まれる。

 次は“茶と鉄で作る黒き土の薬”を試す」


「土の薬……? まさか海まで土で……」


 義元は呆然とした。

 信玄の頭の中では、海と土と空気が一本の線で繋がっているのだ。



■ 夕暮れ ― 海城誕生の第一歩


 夕日が海を赤く染める。

 その中で、巨大船“海城”の骨組み図が風に揺れていた。


 ドミンゴが深く頭を下げる。


「タケダ殿……我らはあなたと《理の同盟》を結びたい」


「よかろう。互いの理を積めば、互いに強くなる」


 義元はそっと潮風を吸い込む。


「……信玄殿。

 駿河は……再び“海の国”へ戻れるのですね?」


「うむ。そなたと共にな。

 海の中心は、甲斐と駿河が作る」


 その言葉に、義元の頬を一筋の涙が伝った。


 波の音が静かに響く。

 それは、海城誕生の鐘のように――新しい海の時代の始まりを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ