表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄血の武田信玄 ― 科学で天下を取る男  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/50

第17話 黒煙奔流 ―― 駿河封鎖作戦、発動

駿河国は、ざわめいていた。

 武田軍が迫っているわけではない。だが――敗走兵の噂、食糧不足、そして「武田信玄復活」の報が民心を激しく揺らしていた。


南風みなみが吹かねぇ……今年は妙だ」

「海沿いが、まるで息をしておらんようだ……」


 漁師たちの声が、駿府にも届く。異様な静けさ。

 それは偶然ではない。季節風の変化を信玄が予測し、“南風が弱まる期間”を狙っていたのだ。


 駿府城の一室で、今川義元はふと空を見上げた。


「……風まで武田に味方したというのか」


 その瞬間、運命の扉が開いた。


――――



 甲府・躑躅ヶ崎館。


「殿、ご覧ください。風洞班がまとめた駿河の“風道図”にございます」


 畳の上に広がる巨大な地図。富士川・安倍川・興津川――三つの流れが三角を描く。

 信玄は扇でその三角形をなぞり、静かに言った。


「……駿河は、風の逃げ場が少ない。

 ならば煙を流し込み、大平野そのものを“牢獄”にしてしまえばよい」


「煙で……国を封じる、と……?」


「毒は要らぬ。ただ、刺激臭と湿気だけで良い。兵は歩けぬ。弓も鉄砲も使えぬ。視界も奪える」


 真田昌幸が息を飲んだ。


「殿……これでは駿河が丸ごと、お手の中ですぞ……!」


――――



 富士川沿いで、巨大な塔が組み上がっていた。


 木と鉄でできた丸太風車。その裏に、黒煙を送り込む太い管。

 信玄の改革で進化した水車技術と風洞実験の結晶――“送煙塔”である。


「殿……これは、まさしく……煙を“押し出す”機械にございます」


「うむ。五基を稼働させ、一斉に黒煙を南へ押す。煙は上へ逃げぬ――海風が弱いこの時期ならな」


 信玄は風を読み、季節を読み、地形を読んでいた。


「駿河の平野は……逃げられぬ“器”よ」


――――



 やがて、その時が来た。


 甲府より送られた合図の鏡光が送煙塔の頂で一斉に輝く。

 職人たちが車を回し、黒煙が地を這うように南へ押し出された。


 駿河側――。


「なんだ……この黒い霧はッ!?」

「目がッ……喉が……ッ!」


 黒煙は毒ではない。

 しかし刺激が強く、視界を奪い、涙と咳を止められぬ。


 弓は湿り、鉄砲は火がつかない。

 兵は陣形を組むことすらできず、ただ狼狽して崩れていった。


 駿府城のやぐらで義元が立ち尽くす。


「……これは……戦か?

 いや……国そのものが……敵に殺されてゆく……」


――――



 一方、武田陣。


「殿、“回廊”が完成いたしました」


 鏡通信が駿河の煙の流れを読み取り、煙の薄い“安全通路”が作られていた。

 そこは赤備えだけが突撃できる“科学の道”であった。


 信玄は扇を閉じ、つぶやく。


「……駿河を操作する」


 その目は盤面を見る棋士そのものだった。


――――



 黒煙が街道へ流れ、農村に流れ、人々は逃げた。

 だが逃げれば逃げるほど煙が追いかけてくる地形だった。


「殿! 脱出路が……ございませぬ!」

「どこへ行こうにも……煙が!」


 岡部元信でさえ狼狽する。


 義元は、静かに悟った。


「……これは……国を奪われる戦よ……

 武田は……国を丸ごと掴んだのだ……」


――――



 黒煙が駿河中央で“逆三角形の封鎖帯”を完成させた頃。


 信玄は軍議で立ち上がり、扇をぴたりと閉じた。


「黒煙の奔流は整った。

 これより駿河は分断される。

 ――反撃ではない。制圧である」


「赤備え、突撃の準備万端にございます!」


「行くぞ。

 科学合戦・第二段階――“駿河制圧戦”開始だ。」


――――



 鏡通信が一斉に点灯する。

 地響き探知器が今川軍の逃走ルートに光を灯す。

 黒煙の壁が迫り、赤備えが“煙の回廊”へと突撃する。


 風が鳴り、煙が走り、光が道を示す。


戦国は今――科学によって塗り替えられようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ