第10話 『光と音 ―― 武田が“見えぬ戦”を制す』
甲斐国・躑躅ヶ崎館。
金山から運び込まれた金塊が淡く輝く部屋で、信玄は静かにそれらを見つめていた。
「金は国を豊かにする……だが、戦を制するのは“金”ではない」
ぽつりと落とされた言葉に、山県昌景と馬場信房の眉が動く。
「では、何が戦を決するのでしょう……?」
「“情報”だ」
山県は顔をしかめ、馬場も首を傾げる。
「情報……?」
「光と音を使えば、“遠くの味方に一瞬で合図”ができる。
合図が速ければ、軍は空を駆ける」
山県と馬場は、まるで雷でも聞いたかのように固まった。
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◆ Aパート:光を操る ―― “鏡通信隊”誕生
翌日、信玄は鍛冶衆に命じ、鏡のように磨かれた鉄板を数十枚作らせた。
忍びが山頂に立ち、もう一枚の鏡を手にする。
「太陽を捕らえよ。
角度を合わせ、光を反射させれば……日の文は空を走る」
信玄が鏡を軽く傾けた瞬間、山の向こうで――
ピカッ、ピカッ、ピカッ!
忍び「殿ッ! 光が……点のように、こちらへ来ておりまする!」
山県「ま、まさか……!」
点滅の間隔で「短」「長」を作り、信玄は文字を送っていた。
信玄「これが“光の文”。敵には読めぬ。
狼煙より速く、旗より遠く、声より確かだ」
馬場「まるで……殿が雷を操っておられるようで……!」
信玄「甲斐は光を操る国となる」
こうして “鏡通信隊” が誕生した。
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◆ Bパート:音を聞く ―― 大地の声を読む技術
続いて信玄は鼓と巨大な桶を持ち込み、山県に言った。
「地面に棒を刺し、その棒に手を当てよ」
信玄が鼓を打つ。
ドン……ッ!
山県「!? 棒が……低く震えております!」
信玄「硬い地は高く響き、
空洞は鈍く響く。
音は大地を伝うのだ」
馬場「これは……山崩れの兆しを知ることが……?」
「できる。
金山の崩落も、地脈の乱れも、音で読める」
こうして、山師と忍びから成る “地鳴り観測班” が結成された。
さらに信玄は、遠くの雷鳴が響く方向に耳を澄ませる。
信玄「雷の音は距離によって遅れて届く。
音を測れば“雨の距離”が分かる」
山県「殿……天気を読み、雷を読み、大地を読むなど……!」
信玄「読むだけだ。天も地も、読めば味方になる」
“雷距測班” が気象隊に加わった。
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◆ Cパート:戦国管制塔 ―― 光と音を制御する城
信玄は地図を広げ、甲府の城と周囲の山々を指した。
「ここに《光台》。
ここに《音台》。
山の尾根には小さな反射板。
夜間は油灯を遮光して点滅させる」
馬場「……殿。それはまるで……」
「空の道を作るのだ」
狼煙の代わりに光の点滅。
伝令の代わりに山を越える反射板。
地震計の代わりに大地の音。
甲斐国は、“空を読む国”へと姿を変え始めた。
忍び「殿、この仕組み……敵が山を越える前に分かりまする!」
信玄「それで良い。
敵が動けば、光が知らせる。
地が震えれば、音が告げる。
味方は闇でも迷わぬ」
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◆ Dパート:夜の演習 ―― 光が走り、音が響く
ある月のない夜、信玄は山県軍を山中で待機させた。
「夜に戦を仕掛けられたらどうする?
暗闇は兵を殺す。
だが──光と音があれば、闇も味方だ」
その瞬間。
ピカッ!
山の上から光が閃いた。
山県「『敵役、左より接近』……!?
光だけでこれほど正確に……!」
数秒後。
ドン、ドン、ドンッ──
(短・短・長)
馬場「『伏兵あり』の合図!」
山県隊が動き始める。
暗闇でも迷わず、正確に。
信玄は山の頂で腕を組んだ。
「これが……武田の新しい“目”と“耳”だ」
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◆ Eパート:技術は戦だけでなく人を守る
演習が終わり、夜明けの光が信玄を照らす。
山県「殿……光も音も……戦のために使われるのかと……」
信玄「戦だけではない」
馬場「では……?」
信玄「光で遠くを照らし、
音で地を知り、
災害を防ぎ、
道を整え、
村と人を守る」
山県と馬場は息をのむ。
信玄「技術の道は、人を救う道だ。
国を豊かにし、戦を減らす道だ」
山県「殿……甲斐はどこまで行くので……?」
信玄は空を見上げた。
「空だ。
空を読み、空と話し、空を味方にする。
次は──“空気そのもの”を操る」
朝日が城を照らし、光台の鏡が赤く輝いた。




