第8話
拓人と屋上で過ごし始めるようになってから1週間が過ぎた。
彼の方から話を振ってくれることが増えた。たったそれだけで、少し心が温かくなる。
彼がなんであんなに他人を受け入れようとしないのかはまだ聞く事ができていない。
だけど少なくとも私の事は受け入れてくれてるみたい。
クラスメイトから「昼休みにどこに行ってるの?」と聞かれた事はあるけど話をするつもりはない。
あの時間は私と拓人の大切な時間だから。
そう思っていた時に事件が起きた。
いつもの全校集会。
朝から校長先生の長い話に辟易としていた後に教頭から驚くべき発表があった。
——屋上への立ち入りは禁止——
私の頭は一瞬にして混乱した。
教頭先生は理由をいろいろ話していたけど私の中にはまったく入って来なかった。
せっかく拓人と作る事ができた特別な空間。
あそこに行けなくなってしまう。
午前中の間、私の頭の中はその事でいっぱいだった。
昼休みになり、私は屋上への階段を登ってみる。
あそこに行けなくなるなんて冗談であってほしい。
思い足取りで階段を登った先のドアには張り紙がされていた。
——この先生徒は立入禁止——
私の中で何かが崩れる音がした。
張り紙が信じられず何度もドアノブを回してみた。
でもガチャガチャという音がするだけでドアは開かなかった。
どうしていいか分からない。
せっかく拓人が私に心を開きかけてくれていたというのに。
どうしてこんなことになるの。
フラフラと階段を降りると私は思い出したように拓人のクラスに向かう。
ワイワイと騒がしい教室。
拓人はこれが嫌で毎日屋上にいたんだろう。
必死に探してみるもあのいつもの無表情も、屋上の風に揺れる黒髪も、どこにもなかった。
近くの女の子を捕まえて聞いてみたけど、彼女も拓人の事は知らなかった。
教室から離れた私はスマホを取り出す。
本当は校内で使ったら校則違反だけど気にしてられない。
スマホを握りしめて、少しだけ迷った。
でも、送らずにはいられなかった。
拓人にどこにいるのかメッセージを送る。
だけどいつまで経ってもメッセージには既読の文字がつかなかった。
ひょっとしたら彼は別の場所を見つけたのかもしれない。
そしてそこには私は不要なのかもしれない。
そう考えた時、私の中でモヤモヤしたものが爆発した。
気がついたら私はトイレの個室にいた。
1人閉じこもってスマホを握っている。
拓人がメッセージを読んでくれる事を祈っていた。
だけど既読の文字はまったくつく気配を見せなかった。
そのうち午後の授業のチャイムが鳴り、私は呆然となりながら教室へと戻った。
午後の事なんてまったく覚えていない。
いつの間にか自分の家にいてベッドに転がっていた。
これからどうしたらいいのか分からない。
もう拓人と二度と話ができないかもしれない。
なぜか涙が溢れそうになる。
大切な相棒を失って途方に暮れた正義のヒーローみたいだ。
下で母が私を呼ぶ声がする。
行かなきゃいけないのに体が石のように動かない。
いつの間にか私の中で拓人の存在がそれだけ大きくなっていた事に気づいた。
——彼と話がしたい。
私はシンと静まり返った部屋で届くはずのないメッセージを待ち続けていた。
外を車が走る音がする。
世間話をする近所のおばさん達の声もする。
ただ私が聞きたい音はそれではなかった。
お願いだから鳴って。
私はスマホを握りしめて体を丸めていた。
突然スマホの音がする。
私は慌てて画面を覗き込む。
メッセージの受信に『雨宮拓人』という文字を見た瞬間、私の体は崩れ落ちた。
心が踊り始める。
慌てずゆっくりとメッセージを見る。
「屋上が使えなくなったから他の場所を探してた。図書室の裏がちょうどよく人も来ない」
良かった。
拓人は私が不要ではなかった。
私との新しい居場所を彼は探してくれていた。
灰色に見えた部屋に色彩が戻ってくる。
私はゆっくりとメッセージの返信を送った。
「じゃあ明日からはそこに集合だね」
送信するとすぐに彼から「明日もお弁当よろしく」と返信が来た。
彼との居場所がなくならなくて良かったという安堵と共に彼が私を覚えててくれた事に嬉しくなる。
——明日はなんのお弁当を作ろうかな
窓の外で風が吹いた。
また、あの時間が戻ってくる気がした。
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