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君を信じた最後の季節ー約束は空の向こうでー  作者: かみやまあおい


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7/8

第7話

 夕暮れが差し込む、誰もいない俺だけの部屋。

 ここに帰ると自分が孤独だという切なさを感じる。

 だけど今日は違った。

 ここに住んでから初めて明日という日が待ち遠しく感じた。


 彼女——牧島ほのかはなぜか俺に興味を抱いてきた。

 最初の出会いは最悪だったはずなのに。

 今日は俺のためにお弁当まで作ってきてくれた。俺の事を知りたいと言って。

 そこまでしてくる理由が分からない。

 気持ち悪さすら感じる。

 ——でも彼女と話すのに抵抗は感じなくなった。

 俺は一体どうしてしまったんだろう。


 モヤモヤを抱えながら俺はベッドに倒れ込む。

 制服を脱いで洗濯して、晩飯の買い物に行って、やらなければならない事が沢山あるのに今はする気にならない。

 仕方なくベッドの横に手を伸ばしテレビのリモコンを取る。

 テレビでは相変わらずくだらないニュースが流れていて俺の心をささくれ立たせる。

 すぐにテレビを切ると俺はスマホを手に取った。

 LINEを開くと一番最初に出てくる『牧島ほのか』の文字。

 昼休みに半ば無理やり登録された彼女の名前が気になって仕方ない。


「こいつ……一体どういうつもりなんだ?」


 誰に言うでもなく言葉が漏れる。

 家族と連絡を取るためだけに強制的に渡されたスマホ。

 連絡先も家族しか登録されていなかった。

 それだけにほのかの名前が物珍しく感じる。

 とは言え俺から連絡を取る気はない。

 あいつが勝手に入れたんだ、連絡とりたきゃ向こうからしてくればいい。


 俺がぼんやりとスマホを眺めていると突然着信が入った。

 画面には『母』という文字が表示されている。

 俺の心が一瞬で曇る。

 追い出しておいたくせに着々連絡をしてくる。

 正直鬱陶しい。

 だけど生活のためには出ないと仕方ない。

 俺は嫌々受話のボタンを押してスマホを耳に当てた。


 母親の電話は相変わらずのつまらない電話だった。

 父の事やら兄の事やら、いい大学に入れば家に帰って来れるなど。

 そんな言葉は聞き飽きた。

 いい加減にしてほしい。

 俺はあの家に戻るつもりなんて全くないし、家族の様子なんて興味もない。

 俺の心が塞がっていくのを感じる。


 受話器を置いた瞬間、スマホが小さく震えた。

 画面には『牧島ほのか』の名前。

 その文字を見た途端、胸の奥にこもっていた冷たいものが、少しだけ溶けた気がした。

 俺はすぐさまメッセージを見る。


「明日もお弁当作っていくからご飯は買わない事」


 メッセージはそれだけだった。

 だけどその言葉が今の俺にはすごく暖かく感じた。

 何もない殺風景なこの部屋で俺はその暖かい温もりを感じていた。




 次の日の昼休み。

 屋上に上がる俺の心はなぜかドキドキしていた。

 なぜなのかは分からない。だけど彼女の顔を早く見たい。

 階段を登る足は自然と早くなり、ドアを開けると屋上へと飛び出した。

 天気はあまり良くなく雲がかかっているが、俺の心は晴れ渡っていた。

 心を落ち着かせながらゆっくりといつもの居場所に向かう。

 そこには昨日と同じように床に座り単語帳を見ているほのかの姿。

 足音で気づいたのかほのかは顔を上げると笑顔で俺に「よっ」って言ってくる。

 俺の中の日常が変わり始めていた。

 世界から離れて1人の世界で過ごしていた日常は、ほのかのおかげで変わっていった。

 なぜかそれがすごく嬉しい自分もいた。


「早いな」


 そう言うと彼女はにっこり笑って弁当箱を見せる。

 昨日も貰ったお弁当だ。

 昨日食べた時、人の温もりを感じた。俺の凍った心を溶かしてくれるぐらいに。

 俺は彼女の横に座ると弁当箱を受け取る。

 いつの間にか彼女との距離が近い事も気にならなくなった。


 お弁当の中身は昨日とさほど変わらない。

 だけど俺にとっては最高のお弁当だ。

 しっかり味わうように食べる。

 コンビニで買ったものよりも人の温もりを感じる。


「どう?

 昨日とあまり変えないようにしたけど美味しい?」


「美味しい……

 昨日と変わらない

 でも昨日より温かく感じる」


 彼女の顔がパァーっと輝く。

 俺に喜んでもらえるのが嬉しいみたいだ。

 俺もその笑顔を見るとなんだか嬉しくなる。


 いつの間にか2人だけのこの時間が俺にとって唯一の癒しの時間になっていた。


 ——だけどこの時間が突然なくなる事になるなんてその時の俺は思ってもいなかった。

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