表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を信じた最後の季節ー約束は空の向こうでー  作者: かみやまあおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第21話:雪の告白

 雪が久しぶりに積もった次の日の朝。

 俺は少し震えながら校門の前に立っていた。

 足元の雪を踏むとサクサクと音が鳴った。その音が、昨日までの沈黙を少しだけ壊してくれた気がした。

 

「ごめん、待った!?」

 

 不意に声をかけられ顔を上げる。

 マフラーを巻いて手袋をして、でもその暑さではないだろうぐらいに顔を赤くしたほのかがいた。

 

「少しだけだよ」


「そっか。なら良かった」

 

 彼女は笑みを浮かべながら俺の横に並ぶ。

 

「雪積もったね」


「……うん」


「これじゃいつもの場所行けないね」


「……うん」

 

 なぜか彼女とうまく話せない。

 昨日嬉しさのあまりにメッセージを送ったのが、今になって恥ずかしくなった。

 言いたい事が言えなくて体がムズムズする。

 

「良かったね」

 

 その言葉に俺は彼女を見る。

 彼女は俺の方を見ずにただ真っ直ぐ前だけを見ている。

 赤かった顔は更に赤くなり、まるでりんご飴のようだ。

 なぜそんなに顔を赤くしているのか俺には分からなかった。

 だけど彼女も喜んでくれているのだけは分かった。

 

「でもまだ兄貴が話してくれるってだけだから」

 

 俺の言葉に彼女は俺の方を向く。

 目が頬と同じぐらいに赤くなっている。

 ひょっとして昨日俺のために泣いたのだろうか。

 

「でもお兄さんが話してくれたらなんとかなるよ!」

 

 その熱のこもった言葉が嬉しかった。

 絶対に上手くいくと思える力強さだった。

 

 朝の始業のチャイムが校門まで鳴り響く。

 

「あとでゆっくり話そうか」

 

 そう言うと彼女は校舎に向かって歩き始めた。

 俺もその後を追うように雪を踏みしめていった。

 



 放課後になり、俺達はいつものように下校していた。

 まだこの時間が続けられるかもしれない。

 子供のようにはしゃぐほのかを見ていると期待で胸が疼く。

 

 ——突然スマホが鳴った

 

 全身が硬直しその場で立ち止まる。

 ほのかが難しい顔で俺を見てくる。

 今、俺に電話をしてくる相手など画面を見なくても分かる。

 全身が震える。

 ほのかの声もボンヤリとしか聞こえない。

 だけどこの電話に出なければ俺の未来は塞がったままだ。

 俺はゆっくりと手をズボンのポケットに入れた。

 スマホが温かい。

 取り出して画面を見ると、やはり相手は俺の思っていた通りだった。

 受話を押し、凍りついたような指でゆっくりと耳に当てた。

 

「……拓人か」

 

 俺の全てを壊そうとした相手の声。

 俺の心がざわめき出す。

 

「……そうだけど」

 

 本当は言いたい事は沢山あるのに口に出せない。

 そう思うと俺はこの相手によく似ているみたいだ。

 

「冬馬から話は聞いた」


「そう」


「お前は……

 その学校にいたいのか?」

 

 初めてだった。

 いつも人の話を聞こうともしない親父が、初めて俺に質問してきた。

 そう思った途端、堰を切ったように俺の口から言葉が紡ぎ出された。

 

「当たり前だろ

 俺はここでようやく自分の道を進めるようになったんだ

 今更あんたの引いたレールになんて乗りたくない

 俺は自分の人生をここからスタートさせたいんだ」

 

 親父が無言になる。

 冷たい風が俺の中を吹き抜ける。

 雪の照り返しが眩しい。

 

「……いいだろう」

 

 一瞬、風の音しか聞こえなかった。

 まるで時間が止まったように感じた。


 親父が初めて俺の意見を認めてくれた。

 それが何より嬉しかった。

 俺の事をようやく認めてもらえた気がした。

 

「ただし」

 

 親父の言葉が追加される。

 俺は身構えてその続きを聞く。

 

「受験前の最後のテスト

 そこで1番を取ってみせろ

 それができなければ転校させる」


「……分かった」

 

 やってやろうじゃないか。

 それで俺の世界が守れるのなら。

 隣にいる彼女と残り少ない時間を過ごせるのなら。

 

「絶対1番取ってやるよ」

 

 その言葉に親父はちょっと笑ってた気がした。

 顔は見えなかったけど息遣いでなんとなく感じた。

 

 電話を切ると横で待っていたほのかが声をかけてくる。

 

「お父さん……なんだって?」


「次のテストで1番取れって」


「それだけ?」


「そしたら俺は転校しなくていいってさ」

 

 その言葉に彼女の体が震え出す。

 俺はそっと彼女の肩に手を乗せた。

 

「ほのかのおかげだよ……

 俺、戦えた」

 

 彼女は体を震わせながら「うん、うん」と何度も頷いた。

 その目には涙が浮かんでいた。

 そんなに俺の事心配してくれてたのか。

 俺は彼女に笑みを見せた。

 ぎこちなかったと思う。

 だけど、それが俺のできる精一杯だったから。


「……拓人くん」


 少しの沈黙の後、彼女が不意に俺を呼んだ。


「何?」


 彼女は下を向き、両手をぎゅっと握っていた。

 靴の先で雪をかき混ぜながら、何かを決意するように深呼吸をした。

 そして顔を上げたとき、その瞳にはまっすぐな光が宿っていた。


「私は……」


 真っ直ぐな瞳が俺を見る。

 何かを決心した迷いのない瞳。

 俺は黙って次の言葉を待った。


「……拓人くんが好きです」


 その言葉が雪に溶けた。

 世界が静まり返り、雪の音すら消えた。

 俺は何も言えずに、ただ彼女を見つめていた。

 白い息だけが、二人の間に揺れていた。

作品の評価や感想をいただけると非常に励みになりますのでぜひお願いします!


またXは以下のアカウントでやっています。

ぜひフォローお願いします!

@aoi_kamiya0417

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ