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君を信じた最後の季節ー約束は空の向こうでー  作者: かみやまあおい


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19/22

第19話:彼を独りにはしない

 私は怒っていた。

 せっかく人として動き始めた彼をまた冷たい牢獄に戻そうとする大人達に。

 どうして彼だけそんな目に遭わないといけない。

 普段仏頂面な彼が見せた涙が私の心に火をつけた。

 絶対に彼は私が守る。

 何のためにと聞かれたら分からないけど、今の彼の味方は自分しかいないと思っていた。

 

 私は彼と別れた後に職員室へと向かった。

 放課後の職員室は静かなものだ。

 既に帰宅している先生や部活に出ている先生を抜かしたら数人ほどしか残っていない。

 その中で私は彼のクラスの担任を探した。

 端から端まで部屋の中を見渡す。

 

 ——見つけた。

 

 彼は机で何やら資料を作っているようだった。

 私はそこに向かってズカズカと歩いていく。

 

「立花先生」

 

 私の声に立花先生はパソコンから目を離し私に向けた。

 

「牧島じゃないか

 一体どうした」

 

 ちょっと間延びした口調が私の心をざらつかせる。

 

「雨宮君の事でお話があります」

 

 そういうと立花先生は少し気まずそうにしながら「今しなきゃいけない話か?」と聞いてくる。

 当たり前だ。今しないでいつすると言うんだ。

 

「はい、今すぐお話をさせてください」

 

 立花先生はため息をつくとPCを閉じて気だるそうに立ち上がった。

 

「ちょっと指導室に行こうか」

 

 そう言って歩き出す先生の後を私も追う。

 

 指導室に着くと先生は部屋の中央にある椅子にどかっと座った。対面の椅子に私もそっと座る。

 

「今日の三者面談の話か?」

 

 先生は拓人が教室で暴れた事を知っているみたいだ。

 面倒事は持ち込まれたくないという気だるそうな目で私を見る。

 大人がこんなだから彼が涙を流したんだと思うと私の心は燃えるように熱を帯びた。

 

「先生は雨宮君が転校すると言う話をどう思ってるんですか?」

 

 先生は目をおおきく見開くと「そんな事まで知っているのか」と呟いた。

 

「雨宮君が転校してしまえば先生だって困るんじゃないんですか?」

 

 極力冷静に努めて私は問いかける。

 ここで爆発してしまったら話はできなくなってしまう。

 

「そりゃあ、彼のような優秀な生徒がいなくなるのは私だって嬉しくはないがな……

 だけど親御さんの言い分だからな」

 

 先生の言っている事は当然だと思う。

 学校に生徒の転校を止める権利なんてないんだから。

 だけどもっと生徒の事も考えて欲しい。

 彼がどんなにこの学校に残りたいと思ってるのか分かってほしい。

 

「でも雨宮君はこの学校に残りたいと心から願っているんです

 そんな気持ちを考えるのも教師の役目なんじゃないんですか?」


「牧島、お前の言いたい事は分かる

 私だって最近雨宮が少しずつ変わってきたのは感じてた

 だけど学校だってできる事とできない事があるんだ」

 

 先生は真剣な目で私を見ながら正しい事を言ってきた。

 そう、それは正しいんだ。

 学校が頑張ったって彼の転校を止めるなんてできない。

 言葉にできない熱が胸の奥で弾けた。

 それでも私は、涙をこらえて先生を見つめた。

 

「とにかくだ」

 

 先生は立ち上がると私を見下ろす。

 

「雨宮の件は一度校長とも話をしてみる

 どういう話になるかは分からんけどな」

 

 なんて無責任なんだろう。

 こんな情熱もない担任では彼が心を開かないのも分かる。

 このままじゃ彼を助けられない。

 

 気付けば私の頬を涙が伝っていた。

 

 大切な友達のために何もしてやれない。

 でも彼を助けたい。

 

「牧島……

 最近お前は雨宮と仲良くしてたな

 お前が悔しい気持ちもよく分かるよ」

 

 先生は綺麗に折りたたまれたハンカチをそっと差し出してきた。

 私はそれを受け取り、クシャクシャになった目を拭く。

 

「……ありがとうございます」

 

 使ったハンカチを返すと私はゆっくり立ち上がった。

 

「先生、私は彼を助けたいんです

 彼は今すごく悩んでいるんです」

 

 私はもう一度力を込めて先生に訴える。

 先生は難しい顔をしたまま私を見る。

 指導室に時計のカチカチと言う音だけが響く。


「……お前らの年頃の頃、私も教師に救われた

 だから本当は見捨てたくはないんだけどな」


 その言葉に驚いた。

 無気力だと思っていた目の前の人が実はそんな事を思っていたなんて。

 でもそれならば尚更彼の事を助けてほしい。

 それができるのはあなた達だけなんだから。

 

「ひとまず後の事は我々に任せて牧島はもう帰るんだ

 お前だって留学するための準備もあるだろう」

 

 先生は指導室のドアを開けると出ていくように促した。

 結局何もできないか。

 私の心で悔しさと残念さが入り混じって何も考えられなくなる。


 私はぼんやりと気がつくと校舎の外に出ていた。

 澄んだ夜空を見上げながら、私はひとつだけ誓った。


 ——もう絶対に彼を独りにはしない。


 空気が頬を刺す。けれど不思議と、痛みはなかった。

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