第18話:君の手がくれた光
気づけば俺は図書室裏にいた。
周囲の木々が色づいていたはずなのに。
赤も黄も、すべて灰色に沈んで見えた。
俺には何も色が見えなかった。
ここで座っていると悔しさが再びこみ上げてくる。
ようやく前に進み始めて。
俺の人生はこれから変わると思っていた。
それなのに——
こんな事ならずっと一人でい続ければ良かった。
一人ならこんな喪失感はなかったはずなのに。
気がつけば俺の頬を一滴の滴が流れていた。
途端に悲しみが溢れ出てくる。
俺は寂しいんだ。
親父に理不尽に扱われた怒りより、ほのかに会えなくなる事が寂しくてたまらないんだ。
彼女が海外に行くと聞いた時の言葉にできない感情もそうだったんだ。
涙が止まらない。
どうしようもできない。
俺は無力だ。
こうして自分の人生を狂わされても何もできない。
誰か助けて欲しい。
俺をこの呪縛から解き放って欲しい。
「……ほのか……」
俺はいつもそばで支えてくれている彼女の名前を呼んでいた。
無意識だった。
心の中で彼女の事を求めていた。
彼女に助けてほしかった。
「私のこと
……呼んだ?」
静かな風が、落ち葉をひとひら舞い上げた。
その中で、俺は確かに——彼女の声を聞いた。
驚いて振り向くとそこにほのかがいた。
「どうして……
ここに?」
止まらない涙を必死に手で拭いながら言うと、彼女は小さく笑った。
「拓人くんが教室で暴れたって聞いたから……
きっとここにいると思ったの」
彼女はゆっくりと俺に近づき、俺の隣に腰を下ろす。
夕暮れの風が二人の間をすり抜けていく。
その風の中で、彼女がそっと俺の手に触れた。
——あたたかい。
その瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
嗚咽なんて我慢できなかった。
彼女の手の温もりが、心の奥まで染み込んでいく。
まるで壊れかけた俺を、ひとつひとつ繋ぎ直してくれるみたいに。
何も言わず、ただ手を握ってくれる。
彼女は俺の痛みを分かってくれていた。
その優しさが、余計に胸を締めつけた。
こんなに泣いたのはいつ以来だろう。
悔しくて泣いたことはあったけど、
誰かの前で、安心して泣けたのは初めてだった。
涙が尽きるまで、ほのかは何も言わなかった。
ただ、手を握ったまま、時々そっと親指で俺の指を撫でてくれた。
その小さな動きが、言葉よりも優しくて。
世界の全てが、少しだけ静かに色を取り戻していく気がした。
そして、涙がようやく止まった頃。
ほのかが小さな声で、静かに尋ねた。
「……一体なにがあったの?」
俺は、もう隠す気になれなかった。
「今日の三者面談で親父が来たんだ……
それで、俺を転校させるって言われた」
「……え?」
ほのかの瞳がわずかに揺れた。
その小さな震えが胸に刺さる。
「前に言ったろ、家追い出されたって
でも結局、俺の成績見て気が変わったんだ。医者になれって、また言われた
親父の決めたレールに、俺を戻したいんだよ」
ほのかは何も言わずに俺を見ていた。
夕焼けの光が彼女の瞳に反射して、滲むように光っていた。
彼女は真剣な表情で聞いてくれた。
俺の言葉を一言も聞き漏らさないように。
「……拓人くんはそれでいいの?」
その問いは、優しいのに痛かった。
俺は拳を握りしめ、答える。
「いい訳ない」
自分でも驚くほど低い声が出た。
こんな事で俺の居場所を失ってたまるものか。
彼女はそれを聞いて、小さくうなずいた。
「そっか……」
少しの間、沈黙。
風が二人の間を通り抜け、落ち葉をさらっていった。
「……じゃあさ、戦ってみたら?」
「戦う……?」
親父と戦えと言うのか。
無理だ。あの人が人の言う事を素直に聞く人じゃない。
俺の煮え切らない表情を否定と取ったのかほのかは握る手に力を入れてきた。
「拓人くん
このままじゃ君の勇気が無駄になっちゃうよ
やっと……人を信じられるようになったのに」
その“やっと”に、涙腺がまた熱くなる。
そうだ。
俺は前に進み出したんだ。
彼女と出会い、人を信じる事を覚えたんだ。
ここで負けていたら全てが無かった事になる。
そんなのは絶対嫌だ。
俺は握られた手で強く握り返した。
「……そうだよな
ここで諦めたら全てが無駄になる
俺、戦うよ」
言葉にした瞬間、彼女が小さく笑った。
その笑顔はどこか寂しくて、でも優しくて——
俺はこの顔を、絶対に忘れられないと思った。
強く秘めた想い。
体の中から熱い何かが湧き立ってくる。
彼女がいればなんだってできる気がしてきた。
冷たい風の中で、確かに俺は生き返った気がした。
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