プロローグ 鬱陶しいので婚約破棄します
「ルシェリア!!」
アカデミーのど真ん中、大きな声で私の名前を呼ぶ男はフィオナード・グラデリオン。私の婚約者だ。
「何か用でもあるの?」
「はぁ?お前はこれを見てもなんとも思わないのか??」
よくよく見てみると、フィオナードが親しげに女の子と手を組んでるじゃありませんか。
女の子も満更でもなさそうにしているし。
「それが何?」
ーー鬱陶しい。
これが初めてのことなら、膝から崩れ落ちて泣く悲劇のヒロインみたいな迫真の演技をしてあげたけど、5回目にもなると鬱陶しさが勝つ。
毎回毎回女の子を取っ替え引っ替えしては私に自慢してきて、何がしたいのだろうか。
「婚約者が別の女に取られそうになっているのに、呑気なやつめ!!!」
「あなたの小さな頭で覚えてるか分からないけど、このやりとりするの5回目よ」
「誰かアリ以下の脳みそだ!」
「そこまでは言ってないけど、自覚あるのね」
いい気分で古い文献を翻訳して読んでいたのに、頭のおかしな婚約者のせいで台無しだ。
世界に2体と存在しない伝説の黒龍と、そんな黒龍を従えた男の建国物語だったが、面白かった。
伝説の黒龍……探してみたいな………
「おいルシェリア!!聞いているのか!?」
こいつ黒龍に食べられてくれないかな。
「フィオナード様、きっとルシェリア様はあまりにも突然の出来事に酷く驚いていらっしゃるのですわ…」
違うけど?
「確かにそうだな、リヴィアナ…いやリヴィー……」
違うけど????
フィオナードとリヴィアナ嬢は熱い抱擁を交わしながら私に憐れみの目を向けてくる。
「すまないな、ルシェリア……僕はリヴィーを愛しているんだ……」
黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい黒竜探したい!!!!黒竜に会いたい!!ついでに色々なモンスターを見たい!!!!!こいつらなんかと居るよりも!私は!!!冒険がしたい!!!!!
「そう、なら婚約破棄しましょう!」
「え?????」
「本当に!?やったわねフィオン!!!!」
喜ぶリヴィアナとは反対に、フィオナードは状況を理解できずに立ち尽くしていた。
(っ…間抜けヅラ)
私はフィオルドの間抜けヅラに今にも笑い転げそうになるが、なんとか飲み込んだ。
「フィオナード、あとは貴方の方で手続きお願いね!!!!」
「私、一時休学して黒竜を探しに行くから!!!!!!!!」
「ルシェリア……???」
「え!?!?!?」