〈3〉 忍法、人海戦術!
ただ時間を浪費するだけのようなそんな日々が何日か続いた。
影山なる人間を調べる案はいくつか出たが、どれも現実的ではなかった。
無限にある選択肢の中からちょうど欲しかったものを手掴みで取るような、そんな希望的観察案が出ては積もるばかりのこの現状にうんざりしていた。
こんなちまちましたことをするのは、ワタシらしくない。
裸一貫この身一つで飛び込んで、そして、頭のおかしいふりをして聞くのだ。
「初めまして。そして、初めましてで申し訳ないが、聞かせてもらいたい。あなたは超能力を使えるかい?」と。
方針が固まったら後は、行動に移すのみ。
ということで、煩わしい情報収集を全放棄して、ワタシらしく、強引な正面突破として直接会うことにした。
とはいえ、相手は不登校の生徒である。
いくら学校で待ち構えていたとしても一向に会えない。なので、影山の自宅を目指さなくてはならないが、当然、住所も知らなければ、そのヒントとなるはずの交友関係について一つも聞いたことが無い。
とりあえず、模索できる方法としては二つ。
・影山の住所を知っている知り合いや友達を探す。
・能力を使って家の表札を片っ端から確認する。
この二択である。
結局どっちを選んだとしても、一筋縄ではいかなそうだが、何もせず考え立ち止まっているよりはましだろう。
ということで、失敗したとしても一番情報が得られそうな前者の案、『知り合いや友達を探す』ことから始めるか。……いやでも。
うーん、このままここで悩んでいてもらちが明かない。
なので、今日はここで解散ということで一幕!
―――………
一日経って、翌日。
授業も一通り終わって、各々が教室から出ていくのを見届ける。
昨日の自分が考えた二つの作戦の一つ、前者の案を実行するならば今話しかけていくのが定石だろう。
だが、一晩よく考えたら、もっといい方法を思いついたのだ。
それは、影山のいるクラスの担任の先生に話を聞けばいいんじゃないかということである。
その上で知っている情報として、影山は隣の教室であり、二組に所属していて担任の先生は富樫という数学教師である。
ワタシのクラスでも数学の授業を担当していて、印象としては若くてさわやかな先生という感じ。多分女子人気も高い。
人当たりもいいので、もしかしたら掛け合ってくれるかもしれない。
ということで早速、先生のいる職員室へと向かうことにする。
――コンコン。
「失礼します、一年一組の全世界です、富樫先生に用があって来ました」
扉を開けて中を観察する。
まだ清掃の時間が終わっていないので、バラバラと先生が座っている中、一番端の机――その一番奥の椅子にその人物は座っていた。
富樫先生はこちらに気がつくと、軽やかな足取りで職員室の入り口まで歩いてきた。
「全世界君、どうしたの?」
前髪を軽く分けた流行の髪形に、整った塩顔、すらっとした立ち姿、こりゃあモテるねと自分で勝手に納得する。
「ちょっと、影山君のことで話したいことがあるのですが……」
そう言うと、少しではあるが先生の眉が八の字に曲がった気がした。
「うーんと、そうだね……じゃあ全世界君、この後時間あるかい?」
「はい」
「じゃあ、十分後に一階の空き教室へと来てくれるかな?」
「分かりました、では失礼します」
ガラガラガラ、コトン。
これでまず、第一関門は突破したということで間違いないだろう。そして、ワタシの予想通りだとしたらこのまま先生が協力者になってくれるだろう。
だが、そのためには、しっかりとした理由とそれっぽい動機が必要だ。なので、この十分間にイメージトレーニングをしながら、例の空き教室へと向かう。
―――………
来た時に暑苦しい教室だと、話したい事が詰まったり、気が散って集中できなかったりと、交渉が決裂しかねないので予め窓を開けておく。室内に溜まっていた蒸し蒸しとした空気が、外から流れ込んできた風に運ばれて反対側の窓から出ていく。頬をさらりと撫でるこの風は、この季節こそなせる業だろう。
コンコン、ガララ。
「ごめんなさい、少し遅れてしまいました」
時計を見たら、確かに三分ほど遅れていた。他の先生だったら、そんなことまったく気にしなかっただろうこと考えると、この人が几帳面な性格だと知れる。
「いえいえ、気にしないでください。では、ここに座って下さい。ワタシは向かい側に座りますので」
先に主導権を握る事は、交渉をする上で大事なことだ。
机を二つ向かい合わせた面談形式のステージで話し合う。
そう、今から行われるのは、裏の目的を隠しながら行うディベート対決。
そして、その火ぶたが今切って落とされたのだ。
2021/06/18に初投稿。本文は当時の文章から加筆・修正を加えての投稿になります。