表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウキネシーズ  作者: 不透明 白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

 〈10〉 遭遇 ~カフェにて~

 ワタシ達は今、最近できたばかりだというお洒落なカフェに来ていた。

 どうやらここは、昔工場として使われていた建物をリフォームしてできたカフェらしい。さっきそう影山から聞いた。

 天井から吊るされたアンティークなライトが店内を照らし、ガラス窓になっている壁からは太陽光が入ってきて、外には田んぼの緑が見えた。

 なぜ影山がこんな場所を知っているのかと尋ねたら、「インターネットの情報を聞き齧っただけだよ」と言っていた。

 壁にかけられた時計の針はちょうど十六時を指している。

 窓から入ってくる風と店内の雰囲気も相まって、かなり落ち着いただらっとした空気が漂っていた。ワタシはこの感じが好きだった。初見にしてこの評価なのだから、今後はもっと人に溢れるだろうことを考えると、少し残念な気持ちにもなった。

「ところで……妄想さん、どこに行ったか知ってるか?」

「たしかさっき『お花摘んできますね』って言ってたよ」

 ぼんやりしすぎて気付かなかったみたいだ。

 影山はきょろきょろと首を振って周りを確認したかと思ったら、手で口を隠すようにして小さな声で話しかけてきた。

「全世界君、妄想さんがいないうちに話しておきたいんですけど……」

 一体何を話すんだろう。まさか、「妄想さんが好きかも」とか「彼氏いるんですか」とか言い出すんじゃないんだろうな、と思っていると、影山は神妙な面持ちで口を開いた。


「最近、近所で不審者の目撃情報が出始めているのですが、学校で何か聞いたりしてないかなって思って……」


 そんな話どこかで聞いたような気がする。

 そう思って、ここ最近あった出来事を振り返ってみると、一つ思い当たることがあった。

「そう言えば佐藤のやつがそれっぽいこと言ってたような――」

「本当ですか!? 詳しく教えてください!」

 喜々とした様子でそう言ってきた影山に、ワタシは小さな不安を感じた。

「別にいいのだけれど……影山、何か変なことしようとしてないか?」

「え? 変なことって?」

「例えば、その不審者を捕まえようとしてる……とか?」

 影山は動きを止めた。そして、段々と意味深な表情へ変わっていき、そして口を開いた――

「お待たせしました! 二人で何話してたっ……どわぁー!」

 影山が何を言おうとしたのかは分からなかった。

 そして、お手洗いから戻って来た妄想さんが盛大にすっ転んだのも、何故なのか分からなかった。

「大丈夫ですか!」「大丈夫か?」

 心配になって声を掛けると、妄想さんは何もなかったかのようにスッと起き上がってぺかっと明るく笑った。

「いやいや、ごめんごめん! 足が絡まっちゃって……」

 良かった……。あんなに派手に転んだので、どこか怪我をしていたらと心配になったが、彼女の様子を見る限り大丈夫そうだ。

 ふと、影山が一人、別の方向を見ているのに気が付いた。最初はワタシと同じように妄想さんの方を見ていたと思う。

 影山はすぐ手前の床を、今もジッと見つめている。

 その表情は何か興味深い物を見つけた子供のようでありながら、若干の恐怖心が混じっているようにも見える。

 釣られてワタシもその方向を見てみると、そこには何か紙きれのようなものがくしゃくしゃになって落ちていた。

 近くに妄想さんが持っていたカバンが落ちているので、その紙きれが妄想さんのカバンから零れ出たのだと推測できた。

 ワタシはそう思った。多分影山もそう思ったはずだ。誰が見てもそう思うに違いない。

 だけど、影山のその視線は一ミリも動くことなくその紙切れへと釘付けになっている。その視線は「そこに何かある」という明確な意思を感じざるを得ない。

「影山? 何を見て……」

 言いきる前に影山が「しーっ……」と言いながら、口元に人差し指を添えるジェスチャーをした。

 影山を見た。

 影山は急に右足を引いて自身の顔をその紙切れに近づけた。

 そんな挙動をした影山の視線の先を見る。つまり、再び紙切れに視線を戻した時、そこにはもう何もなく、ただ綺麗な木目調の床があるだけだった。

 あの紙きれはどこにいった? 影山が拾ったのか?


「ワンワン、ワンワン!」


 わんわん……?

 この店はペット同伴禁止である。それに、店の前で犬が待っていなかったのもしっかり覚えている。

 ではその声の出処(でどころ)は?

「全世界君! 妄想さんの足元を見て下さい!」

 その声に従って視線を妄想さんへと向ける。

 目に飛び込んできたのは、妄想さんの細くて真っ白な美脚――の近くにいた存在。

 手のひらサイズの小さな毛の塊みたいな何かが妄想さんのスニーカーに向かってすり寄っていた。

 ハムスターサイズでワンと鳴く動物などいただろうか。記憶の引き出しを探索してみるが、その検索結果はどこにもなかった。

「えへへ……」

 笑ってごまかそうとしているが、これは説明してもらわなければならない。

「妄想さん、説明してもらっても?」

「……はい」

 彼女は大層申し訳なさそうな声で返事をし、しょんぼりと眉尻を下げた。


2021/09/04に初投稿。本文は当時の文章から加筆・修正を加えての投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ