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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第8章 孤高の鷹

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第91話 女神の提示


(こんな質問をするつもりではなかった)


「お前はどうだ?」

「私?」


ただ、聞きたかった。

求めている答えなんてない…彼女にとっての自分の役割は何なのか。


「あ…のわた」

「いや…今のは忘れろ」

「えっ?」

「それより…ほら」

「!」


ノーヴェラの手綱を引き、少し走ると…湖に出た。


「わあ!綺麗…」

「いいところだな」


水面を陽光が反射し、その上を白い水鳥たちが悠々と泳ぐ。

木々に囲まれたこの場所は、遠くに白い山々を映しまるで一枚の絵画のよう。雄大な景色と爽やかな風に、思わず頬が緩む。


「あの、ヘルト]

「…ん?」

「私は…クレインとフェイリーとは少しか距離は縮まったかな、と思っているけど…まだ、お父様や、タリア様とはやっぱりまだなじめません」

「…そうだな」

「だから、その…お兄様をとても頼りにしているんです。こう見えて」


(お兄様、か)


「それは光栄だな」

「そんなこと…だから、どうかいなくなるとか、そんな簡単に言わないで」

「!」


ぎゅっと外套を引っ張られる。見れば泣きそうな顔でこちらを見ている。


「そう言う顔には弱いな」

「え?」

「いや。別に今日明日の話じゃない。いずれ…のことだから、あまり気にするな」

「でも……」

「それとも…戸籍を抜いた後、お前が俺と結婚するか?」

「…は?!な、なななにを?!」

「離れたくないっていうから」

「そ、そう言うことじゃなくて!!!…もう!」

「ははっ」


なんともカサンドラらしく、兄としては感無量な答えだ。

今はそれで十分…そう思えるなら、まだ大丈夫かもしれない。適当な木陰を見つけて外套を脱いで地面に敷く。


「いい時間だな。せっかくだから、食事にしないか?」

「…まあ、そうですね。お腹もすいたし」


二人並んでバスケットを広げ、他愛もない話をして過ごす。

その時間がとても穏やかで…気が付いた時には、少しうとうとしかけていた。


「…ヘルト、少し眠ったら?」

「でも」

「夜寝れないないなら、眠れそうな今がチャンスでは?」


(確かに…少し眠い)


「…すぐに起こせよ?」

「まあ、何かあったら」

「わかった…」


さて、ここで前回の書斎での一件を思い出す。

熱でもうろうとしていたせいか、あまり覚えていないが、何かしらやらかしたのは朧げに覚えている。

…さすがにここでまた何かしでかして、カサンドラに怖がられるのはさすがに…いや、かなりつらいものがある。

彼女と逆側に背を向けて横になることにした。


「その体制、疲れません?」

「いや!気にするな」

「…そう??」


そうして…俺は久しぶりに、俺は夢を見ることなく休むことができた。


**


ややしばらくすると、傍らでヘルトの安らかな寝息が聞こえた。


「やっぱり…相当眠たかったのね。もう寝てる」


昔読んだ本に、虎というのは自分が寝ている姿を一切見せないという話を聞いたことがある。

孤高の生き物で、プライドが高くて…弱みを一切見せない。

まるで、このヘルト・グランシアという人みたい、と思う。ふと、先ほど聞いた話を思い出し、私は少しため息をつく。


(そんなことを考えていたなんて…)


少しの間、彼と共にいてわかったことがある。

それは、実は相当な努力家であること。養子としてこの公爵家に来た時から、きっとその名にふさわしい存在になるように血のにじむような努力と研鑽を重ねてきたのだろう。

ユリウスにしても、ヘルトにしても…公爵家の血統というものは、この世界では普通であることを許されない楔なのかもしれないと思う。


「でも…ヘルトがいなくなるのは、寂しいな…」


その言葉は、心からの本音で…どの感情を示すのか、自分でもよくわからなかった。


**


首都・アンリには、複数の大神殿がある。

女神アロンダイトの信仰は根強く、特に王城の真向かいにある大神殿というのは規模が大きい。

まず、大門を入って大理石の回廊を抜けると、普段は解放されていないが、日曜には一般公開されており、誰でも入ることができる最も収容人数の多い大拝殿につく。アロンダイトの像を右手に進み奥に青い扉がある。そこは限られた者しか入出の許可が下りない神殿の中枢部分となり、そこで巫女や神官が毎日祈りを捧げる祈りの泉がある。

 そのほか、左右にある神殿には聖騎士たちの詰め所だったり、神学を学ぶ神学校があったり、とその他もろもろの施設が数多くあるが…一般の人間はほぼ無縁の場所となっている。

神殿所属のレイヴン・クロムは、その中でも泉の間の警護任務に就いている。…実を言えば、ヴィヴィアンに傾倒しきっていた呪いから解放されてから、初の勤務となる。


(さすがに、緊張するな…)


結局、あのパーティー後ヴィヴィアンとは直接会っていない。聖女・ヴィヴィアンは、月ごとの休息の日には必ず泉の間で託宣を受け、国の繁栄と祈りを捧げるのが決まりだ。

どんな顔をすればいいのか、任務と理性の間で揺れていると、向こうから白いドレスを着たヴィヴィアンを見て、言葉を失った。


「…?」


軽く頭を振り、再びヴィヴィアンを見る。

その視線に気づくが、ヴィヴィアンはさっと視線を外し、レイヴンなどまるで興味の内容に表情を変えない。


(何か…変だ)


別に、その行為が哀しいわけでも、切ないわけでもない、無の感情。

何よりも気になったのは…ヴィヴィアンという聖女であるはずの少女に何ひとつ「力」を感じないことだった。


(俺が…おかしいのか?それとも…このヴィヴィアンという少女がおかしいのか?以前感じた力を一切感じない…何故)


むしろ、どこか不安になるような、不信を感じるくらいの違和感を覚える。

そして…胸元にやたらとギラギラ光る赤い宝石の首飾り。

血のように鮮やかな赤い宝石は、白いドレスを纏う姿にひときわ目立ち、まるで生きているかのように瞬く。

レイヴンの横を通り過ぎる瞬間、いつもは感じなかった香料のきつい香水も、表情さえも全て異様に見えたのだ。


「レイヴン・クロム?」

「?!…え?」


突如聞こえた声にはっと我に返る。

…同僚の騎士・ケヴィンだ。


「どうした、顔が真っ青だ」

「真っ青って…俺が」

「ああ。まるで化け物でも見たような表情だぞ?」

「……そんなに」


気が付いた時には、額は汗で濡れていた。


「前は巫女姫ににっこり笑顔を向けられていたのに…お前、何かしたのか?」

「…そう言うわけではないが。…何か、変じゃなかったか?」


尋常じゃない様子のレイヴンに首をかしげながら、同僚は答える。


「変…ていうか、なんというか。そう言えば…毎度休息の日にはレアルド殿下が巫女姫と必ずいらっしゃるのに、今日はまだ姿を見ていないな」

「…そう言えば……」

「そっか…巫女姫には、第一殿下がいらっしゃるもんな」

「……は?」


レイヴンは耳を疑った。

第一王子であらせられる彼の君は、とうの昔に故人となり、暗証として白薔薇の君と称されることが多かった。

それを、《《生きている》》という。


「ヴィヴィアンの…巫女姫は、レアルド殿下と恋人同士だったんじゃなかったのか?」

「お前何言っているんだ…?前々からお二人は結婚秒読みだ―とかなんとかいろいろ言われていたじゃないか!復活祭だって、ヒューベルト殿下が随伴を務めたし、急遽留学から帰国されたのも、ご成婚されるからって……」


まくし立てるようにケヴィンが説いたが、急にぴたりと止めた。


「お前…本当に大丈夫か?顔が真っ青だ」

「…それ は、何時から…だ?」

「は?そんなの《《ずっと前から》》だろ?」


自分が知っている事実と全く異なることを言われた瞬間…レイヴンは脳天に衝撃を受けた。


「ずっと…前、だと?!…どういうことだ」

「??本当にどうしたんだ…?」

「いや……」


(吐き気がする。こいつが言っているのは、冗談なのか?それとも)


「すまない…少し、席を外す」

「え?あ、ああ…」


ふら、と壁に手を置き、一度呼吸を整える。

思わず口元を抑え、その場にうずくまる。何とか気力を立て直し、その足で大拝殿へと赴いた。


(女神・アロンダイトよ…俺は、俺だけが、この違和感を感じているのでしょうか?何か…何かがおかしい!)


休息の日は、別名祝福の日とされる。

大拝殿が一般に公開されている今日は、多くの人でにぎわっていた。人の合間をすり抜けていく道中、聞こえてくるのは【第一王子・ヒューベルト】の話ばかり。


「ご遊学先でも、素晴らしい成果を出されたみたいで…」

「お似合いよねえ…巫女姫様とのラブロマンス」


(どうして?何が起こっているんだ…!!)


「やめろ…そんなことがあるはずがない…!」


否定の言葉を出さないと、第一王子が生きていることを認めてしまいそうで、恐ろしく感じた。


「あの方は…レアルド殿下が…!!!」


ふらふらになりながらも、ようやく到着した拝殿に足を踏み入れた瞬間、周りの雑音がぴたりと止まった。


「!!」


恐るおそる顔をあげると…そこは、何もない真っ白い世界だった。

そして、ただ一つ…巨大な女神アロンダイトの像が静かにたたずんでいる。がくり、と膝をつき女神に問うた。


「俺は…何を、信じればいいのでしょうか。俺の持つ記憶と認識は…正しいのでしょうか?それとも…俺が間違っているのでしょうか?」


…その沈黙は、永遠とも、数秒とも、ほんの一瞬にも思えた。

時間という概念が形を失い、その場には自分と女神像だけがいる、不思議な空間。祈るように、縋るように女神を見上げると…美しい青色の瞳を見上げた。


「白布が…」

『私の愛する子供たち――目に見えるものを疑い、心にある事実を信じなさい…さすれば、進むべき道が見えてくる』

「それは…!」


突然、静寂が破られた。


「!!!!」


多くの不要な情報と言葉が入り混じり、レイヴンの耳を研ぎ澄ませていく。だが、先ほどまで感じていた不快感や焦燥感は消えてなくなっていた。

そして…そのレイヴンが一番最初にその眼にとらえたのは―――

映像石で映し出された、聖女・ヴィヴィアンの姿だった。

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