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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第7章 それぞれの役割

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第83話 正体


(雨の音を聞くと、思い出す。あの日も、こんな雨だった)


何かを成し遂げたような清々しい表情で横たわる兄は、とても安らかに見えた。

今わの際まで病に向き合い、投げ出さずずっと一人で戦いぬいた…その証であるかのように、戦場に赴いた騎士勲章のような手首に巻かれていたリボンが特に強く印象に残っている。

それが…兄を見た、最期の姿。


「つきました」


ざあざあと激しい音を立てて大粒の雨が壁をたたく。ユリウスは持ってきた鍵を使い、その扉を開いた。

扉の向こうに広がるのは、広大な敷地に所狭しと立ち並ぶ石碑の数々。中には小さな神殿のように無意味に大きく飾り立てられたものもあり、一種異様な光景を作り出している。


(変わらない…ここは)


ここに葬られているのは、【フォスターチ】という血塗られた歴史に色濃く関わっている人間達…自分たちを誇らしく思っているからこそ、華やかに飾り立て、自分の背丈以上の規模の大きい墓石を建てているのだろう。


「ここは…」

「フォスターチ公爵家の墓地です」

「墓地…」

「兄、リオン・フォスターチはここに眠っていました」

「眠って…いた?」

「ええ。兄が亡くなったのは、今から五年まえの秋のことです」


実は、ユリウスは過去二回しかこの墓地に訪れたことがない。一度目は母が亡くなった時、そして二度目はリオンが亡くなった時。

命日の墓参りという習慣はなく、できるだけここに来るのを避けていた。


「そして…墓荒らしがあったのは、丁度2年前のこと。お調べでしょう?ノエル君」

「ああ。…何軒か続いた事件の真相は、とある貴族の娘の駆け落ちが失敗したところから始まる。娘だけ亡くなり、生き残った平民の青年は自らを恨み、いつの間にか妙な研究に没頭することになる。それが…いわゆる、錬金術というものだ」


その言葉が出た瞬間、ユリウスの表情に緊張が走る。


「……」

「青年は、裕福な平民の息子。大学では医学を学んでいて、そこで錬金術を学ぶサークルに入っていた。人間という生き物が《《何で》》できているのか…数字と物理学で合理的に説明された本を見て、骨を掛け合わせてその材料通りに作れば、彼女が生き返ると信じ、凶行に及んだらしい」

「それは…本当のこと、なのか?」 


レアルドの言葉に、ノエルは肩を竦める。


「さあ?ただ…そういう噂があるのは事実で、実際彼が大学に在籍していたのも、そういう研究に没頭していたのも本当だった。それらをつなぎ合わせると…この動機を説明する証拠としても、不十分ではないでしょう」

「確かに…」


(恐らく…殿下は俺と同じことを想像しているだろう。あいつは、本当に似ているから。だが、ユリウスの方は…)


「そして…このフォスターチも同様の手口で墓を荒らされている。目的は不明だが、どう考えても全てその青年が単独で考えて起こしたことではなく、裏で協力者か…もしくは指導していたものがいたと仮定すれば」

「初めから…その青年は傀儡、もしくは利用されていたこととなるでしょう、そして目的は……」


ユリウスは終始表情を変えずにいるが、何かに怒っているかのようにも見える。


「しかし、錬金術…そんなものは、とうに失われた技術だと」

「それは…表面上の話」

「!」

「失なわれたことにしないと、闇深い研究は女神アロンダイトの倫理に反する…だから、女神神殿はそれを厳しく罰しました」

「…そうなのか」


(本当に私は…何も知らないのだな)


レアルドが知る帝国記では、錬金術は『悪』とされている。

ハルベルンには、古来より『女神神話』と一緒に『魔法』も伝わっていた。

ただ、目に見えない『魔法』の原理は難解で誰にも理解されず、時代と共に廃れていった。しかし、『錬金術』に関する文書が異国より伝わり、その関りについても次第に注目を浴びていくこととなる。

錬金術は単純に鉄を金に変える研究と一般的に言われ、魔法と似て非なる物として

認知が広まったのは約50年程前のこと…そして、それがいわゆる旧信仰、『名もなき神(ノン・ネームド)』の元となったと言われている。


「錬金術の極意をご存じですか?」

「錬金術の極意…?」

「一度壊して、全てを作り直す…それが極意です。錬金術の深淵は『破壊』…その危険な思想は、神殿の権威を著しく弱らせていきました」


その頃、王家をしのぐほどの力を持っていた女神神殿だったが、その信仰が急速に広まってゆき、一時はその規模は王家も神殿をも超える一大勢力となった。

危機を覚えた神殿、王家はともに『錬金術』や『魔法』は女神固有の力による非現実的で根拠なきもの、それを人間が理解しようとするのは傲慢だと排斥する動きを活発にし、火消しに勤しんだ。

結果、時代の軋轢により、権威ある研究者たちはこぞって処罰の対象となり、多くの知識人が日の目を見ることなく処刑台の露と消えていくこととなる。


「だが、残念ながらその学問は途絶えることはありませんでした」

「それは…絶やさぬようにしていたものがいたと?」

「医学・薬学・学術・算数術…その真理を追究すると、人々は究極の理想『錬金術』という合理的で神秘的なものに価値を見出してしまいます」


錬金術は表向きには廃れてしまうが、学問の一環として日の当たらぬ場所でひっそりと受け継がれていくこととなった。


「随分と、詳しいな?」


ノエルが尋ねると、ユリウスはふ、と笑った。


「それを導いた人間も存在していました。それが…」


ユリウスはそう言って、一つの大きな墓石をにらみつけた。歴代の公爵傍系の墓は、無意味に規模が大きいが、その墓標はひときわ大きい。


「ファルケン・フォスターチ。俗にいう毒公爵。私の祖父です」

「……毒、公爵…」

「さあ――リオンの墓はあちらの方にあります」


父は母とリオンを無意味に立派な墓石の中に葬ろうとはしなかった。

ただ、公爵家の中心からそっと離れた場所にある、海が見えるひときわ高い場所に墓地を構えた。


「今は、このように鉄の柵で囲まれ、土を掘り返されぬように敷石を詰めています」

「…一つ、確認したいのだが」

「はい」

「…ノエルの報告にもあったが、盗まれた骨はそのほとんどが背骨の部分だという。もしや、リオン殿も」

「おっしゃる通りです」

「‥‥兄と、同じだ」

「え?」

「恐ろしい程、状況が似ている…はは、錬金術、とは」

「レアルド殿下…?」

「私は、兄に酷似した人間を見た。…ノエル君も、だね?」

「……ええ」

「ならば…二年前に起きた事件の発端となった『実験』はその頃には既に成功していたんじゃないか?」


ひときわ雨音が耳に響く。

ノエルは何も言わず、目を伏せた。ユリウスは、言葉を見つけられず茫然と立ち尽くす。


(実験…錬金術…死に戻った人間……まさか)


「レアルド殿下は…10年前の事件を調べていた、とか」

「ああ。…私の方は、また別の件で気になることがあったんだ」

「別の件…?」

「私は、兄の墓を荒らした犯人を見つけるために、独自で似たような事件を調べていた」


アローヴァを出たあと、レアルドがまず始めたのは、過去に類似した事件がないか調べることだった。

二年前の事件についてはある程度の報告書はそろっていたし、詳細をさらに調べるためにギルドに依頼することにした。

結果的に、大まかの状況を把握するのにそう時間がかからず、そこから更に遡った先でもう一個の事件を知ることとなる。


「そこで見つけたのが…南の郊外の村で起きた事件。聖女と呼ばれた女性は10年前に同じように墓荒らしにあったという。だが…遺骨は全て持ち去られ、跡形もなくなったらしい。まるで、最初からそこになかったように」

「そんな…」

「しかし、王宮の目が至らない場所での事件…結果、犯人はわからずに野獣の仕業だろう、と結論付けられたらしい。だが…その10年後、妙なことが起きる。同じ村からもう一人、再来とまで言われた一人の少女が聖女として、最近王都にやって来た」

「少女…とは」

「まさか…!」


ノエルは、初めて彼女が来た時に聞いた話を思い出す。


『聖女ヴィヴィアン?』

『はい。なんか、南の方の街で女神アロンダイトの託宣を受けた一人の少女が、流行病を無くしたとかなんとか』


「聖女の…再臨、ヴィヴィアン・ブラウナー…?」


呟いた言葉に、ゾッとする。


「別に彼女を疑っているわけではない。ただ…妙な勘というか、符号のようなものを感じた。だから、もう少し掘り下げて調べていくうちに、自分が無自覚で陥っていた時と、似たような状況がその村に起きていたことを知った」

「つまり…レイヴン・クロムも陥っていたような、心身喪失状態…ですか?」

「ああ…そうだ、ユリウスは先日彼に会ったのだろう?…彼はどうだった?」

「殿下と似たような症状でありましたが、今は正常に戻っているようです。しかし、彼女と共にいた前後の記憶がない、と…そう話しておりました」

「…私と同じだな」

「そして…その全てに」


パズルのピース…とでもいうのだろうか。

散りばめられた出来事が一件バラバラに見えても、どこかにつながっているような、そんな感覚。

そして、ユリウスはその場に崩れ落ちる。


「ユリウス!!」

「…ありえないことがつながりすぎている…」


空想や妄想で物事を語るのは良くないということは、重々承知している。

だが、ユリウスはこの目でファルケンを見、ヴィヴィアンの異常さを見、起きた事象を聞いて、全部が一つの線となってつながっていき、どうしても想像したくない『真実』を見出してしまう。


「言えることは…全てが本当なら、彼は悪魔だ」

「……悪魔?」

「実を言うと…祖父の墓はあっても、遺骨はこの場所にはありません。ある日、墓石で閉じられた門を内側から開き、遺骨ごと、跡形もなく消えてしまった…まるで、どこかで聞いた話しと同じでしょう?」

「…それは、まさか」

「申し訳ありませんが…私は、大至急行かなければならない場所があります」


(それを知るために…行かなくては。植物園に)


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