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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第4章 いざ、仮面舞踏会

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第46話 邂逅



「待って!!」


誰もいない庭園が見える長い廊下を歩く銀髪の後姿を見つけた私は、全速力で彼女を追いかけた。


(ヒールって動きずらいのよねえ~)


仕方がないので、靴を手に持って走り出した。


「待ってよ!ヴィヴィアン・ブラウナー!」

「あたしに触らないでよ!!」


私が掴もうとした手を払いのけながら、ヴィヴィアンは私をルビーのような赤い瞳でにらみつけた。


(やっぱり!この子、ゲームの中のヒロインじゃない…瞳の色が違う)


「ねえ、あなた…もしかして、私と同じ場所から来たの?」

「……ふうん?やっぱり。あの帽子屋が言っていたこと、本当だったのね」

「帽子屋?」

「世界を維持しようとするものがいれば、それを《《壊そう》》とする者もいる…って奴。あんたがそうね」

「…ッ」


私は彼女の言葉を聞いて、身構える。改めて言わられると、ずしりと重たいものがのしかかってくるようだ。


(世界を壊す…壊そうと、私はしてるのよね)


『壊す』という言葉だけでも色々あるが、形あるものを壊すという点においては、誰でも抵抗を感じるかもしれない。私だって。


「いいご身分よね。初めて会った時はただの気の弱いデブでトロい、ストーリに絡みもしないモブ!!だったくせに!!!」

「モブ…ねえ。その言い方…あなた、もしかしていわゆるハードユーザーってやつ?」

「そう、大好きなゲームの中に入った…ヒロインは私!この私なんだから!!」


勝ち誇ったような笑顔を見せるヴィヴィアン。

…やっぱり、夢で見た青い瞳のヴィヴィアンとは全然印象が違うように見える。


「なのに…あたしからヘルトもユリウスも、ノエルまで奪っておいて。いちいちあんたむかつく!」

「奪うなんて…」


だめだ、今のこの子に何を言ってもだめかもしれない。


「ねえ。気が弱くて、モブのカサンドラに何をしたの?」

「別に?偶然出会ったふりをして…ヘルトに近づくために少し友達のふりをしてあげただけ」

「友達の…ふり?」


ふり、だなんて。

ずっと独りぼっちだったカサンドラの境遇を思うと哀しくなる。きっと嬉しかっただろうに。

病んでる時に見えた希望の光のように感じてしまったのかもしれない。それがまやかしだって気づかないまま…あの子は。


「引きこもりの高名な貴族の令嬢、しかも隠しキャラのヘルトの妹だなんて、運命感じちゃった。あ、このゲームは本当にあたしの為にあるんだなって改めて実感したわ」

「あんたの為?」

「そうよ。…グランシアの公女の友達ってだけで、みーんな!ちやほやしてくれてさ。その節はありがとうございました。おかげで色々な情報コネを集めさせてもらったわ」


そう言って、ヴィヴィアンはわざとらしくにっこりとほほ笑んだ。


(何コイツ…)


私は、ヒロイン補正入りまくりの天使の笑顔でとんでもない毒を吐くこの少女に寒気すら覚える。


「ヘルトに近づくため…ってことは、失敗しちゃったんだ?だって彼はもうあんたの攻略対象じゃないものね?」

「…あんたがこっちに来なければ、うまくいっていたはずよ!ユリウスだって、ノエルだって元はこのヒロインのモノなんだから!」


こんな。

こんな奴に、カサンドラは…利用されて、最期は。

私は唇をかむ。


「…彼らはモノじゃない!!ましてや誰かの所有物なんかじゃ…そういう言い方はやめて!」

「はあ?何言ってるの?ゲームの世界の人間なんて、所詮データ通りに動いているだけじゃない!選択肢で選んで、好感度上げて…最後は私を愛してくれる。それが彼らの役割!!愛されるのが私の宿命なのよ!そして、最期は最っ高のエンディングが私を待ってるの!!」

「あんた…!」

「ふふ、どうせあんたもそう思ってるんでしょ?…ここはゲームの世界だっ、て!」

「確かに、そう思ってた時もあった。……でも!」


今は違う。って、そう確信してる。


「彼らは感情もあって、心もあって。傷ついたり考えたりしてるちゃんとした人間よ!?」

「はぁ?!…バッカみたい。うざいのよあんた…!!邪魔しないでよ…私の!!ヒロインの!!!邪魔をしないで!!」

「邪魔って…」


何か、様子がおかしい。

いや、この女がそもそもおかしいのはそうなんだけど。


(何で…こんなに違うの?夢の中のあの子と)


夜の空みたいな瞳のヴィヴィアン…あの子は、なんて言っていたっけ?

女神がどうとか…扉が、とか。

でも、これだけは言える。…このヒロインは、まがい物だ。


「…ダメね。あんたと私は一生話が通じないことが分かったわ。もしかしたら、色々協力できるかなって考えたけど、やめておく」


私はくるりと背を向けた。


「あんたは自分を愛してくれるゲームシナリオの中に一生いればいい。私は違う道を行く」


そして…そのまま歩き出した。

本当、私って結局人がいいというか詰めが甘いというか。


「…あんたが消えれば、全部元に戻る」

「!」


私は、大事なことを忘れていた。

ヴィヴィアンがそう言った瞬間、ぞわりと背中を這うような寒気に襲われる。


「違う道なんてあり得ないわ。カサンドラ…あんたはあたしにとって障害以上何者でもないの」

「?!」


慌てて振り返ると、突如ヴィヴィアンの長く伸びた影から得体の知れない生き物が複数姿を現した。


「この影…あの時の」


まるでとがったナイフのような黒い塊がこちらに向かって飛んでくる。

そういや私、命が脅かされるってお告げが下りたんじゃなかったっけ?!

私はたまらず、ぎゅっと瞳を閉じた。―――だがしかぁし!!!

今の私には…超必殺技がある!!


「豚さん来い!!どっすこーーーい!!」

「きゃ?!」


声を出しながら私は思い切り踏み込んだ。

そう!毎朝の超訓練のおかげで、あの頃の私はまた一味違う!!華麗なステップを踏み、襲い掛かってきた影たちを手づかみにした。


「物理攻撃は効いたはず…ふん!!」


そのまま握りつぶすと、きーきーと憐れな泣き声をあげ、影たちはバチン!と霧散する。


「う、嘘でしょ…?!ちょっと!!話が違うじゃない!!」


ざざ!とヴィヴィアンの前に踊りだすと、影の出どころであろう、ヒロイン特有のアクセサリ…翼の紋章のネックレスに近づくために、その肩を思いきり掴んだ。


「オーイーターをすーる子はーーあ?!!」

「っきゃーーー?!」


叩こうかどうしようか逡巡すると、私の身体はまた間抜けな音を立てて急激にしぼんだ。


「!…来たわね!」

「本当に厄介な方ですね」


ふわりと躍り出た黒猫は、そのまま例の片眼鏡の紳士に姿を変える。その距離があまりに近く、私は体制を整える前によろけた。


「もうちょっとだったのに…!」

「この影はね…貫く以外にもいろいろできるんですよ?」

「貫く以外に…って」


すると、影はぶわっと二倍、三倍に広がり、私の身体を覆っていく。


「…な?!」


そして…すっぽりと、飲み込まれてしまった。



**


「ああ、くそ!どこ行ったんだよカサンドラ…」

「だめだ。二手に分かれよう!」


カサンドラが去っていったあと、ノエルとラヴィは彼女を追いかけた。

しかしどこか背徳的な雰囲気に呑まれた人々によって行く手を阻まれ、ものの見事に見失ってしまった。

あちらこちらでべろんべろんと酒に酔っぱらった人々の群れは、それぞれふしだらな快楽に耽ったり、溺れたりして一夜の夢を楽しんでいるようだ。


「ねえ待ってよお兄さんたち!」

「ひぃ?!」


中にはダイレクトアタックをかましてくるご婦人もいたりして、ラヴィは対応に困る。


「ごめん!ノエル君後は頼んだ!!」

「あ!?こらーーー!!」


あらゆることに手慣れてそうなノエルを人身御供にして、ラヴィは誰もいない廊下を走った。

ひとしきり走っていくと、柱の陰に人がいたような気配を感じ、その腕をがむしゃらにつかんだ。


「?!」

「あ…ごめ」


そこにいたは、白いマント姿に燕尾服の青年だった。

なんとなく、自分の普段の姿と重なり、複雑な気持ちでいると、その青年はラヴィのマスクをはがした。


「…ヒューにい、様?」

「え?」


どこか縋るような朱色の瞳がこちらを捉えると、ラヴィはなぜか胸の奥が苦しくなる。ガシッと腕を掴まれると、そのまま引きずり降ろされる。


「兄上…ヒューベルト兄さま!!!」

「…き君は?」

(ヒューベルト?)

ラヴィは思わず左手で自分の顔を隠すが、青年の表情はみるみる落胆のものに変化していく。


「…ひ 瞳の色が、ちがう」

「だ、大丈夫かい君。もしかして酒に酔ってる、とか?」

「よ、酔っていない」

「その割には、少し顔が赤い。熱でもあるのかな」


こんなことしている場合じゃないのに…と思いつつ、目の前の青年を放っとくわけにもいかない。


(何っか…突き放せないというか、なんというか)


彼に手を貸して、庭園のベンチまで運ぶ。

肩に手をのせて歩いていると、何故か青年は泣きだした。


「…ううっ」

「?!い、いやちょっと、君何があったの?」

「……僕を知らないとは、とんだ田舎者だ」


(強がるのか、弱るのかどちらかにしてほしい…)


彼からわずかにツン、と鼻に来るほどに香りがする。


「ねえ、君、この匂い」

「…どうして。避けるんだ、ヴィー‥‥」

「…ヴィーって」


そして、はっとなる。

なるほど、もしかして彼はヒロインの攻略対象者・レアルド皇太子、かもしれない。


「そんなに有名な人なら…従者はどこに行ったの」

「居ない…」

「居ないって」


ならばなおのことこの場を後にしたかったのだが、残念ながら腕を掴まれて離そうとしない。


「君は彼女が好きなの?」

「…ああ。全部、投げ出してもいいくらい。まるで、強力な薬みたいに…依存する」


(確か、バルク君も似たようなことを言っていた。カサンドラも、呪いのようだ、と)


もし、「大いなる意志の影響」そのものを、例えば魔術のようなものに変換したとしたら、どういう魔術になるのだろうか。


「それがおかしいって感じることは今まで一度もないの?」

「…何故、だなんて、考えたことはない…」

「…君は考える必要があるよ、考えることを休むのはいいけど、放棄してはだめだ」




ラヴィがそう言うと、パッと何かに気が付いたようにレアルドは顔をあげた。


「その言葉…誰から聞いた?」

「‥‥?何の話?」

「いや…あなたの名前を聞いてもいいか」


(これは困った。…なんて言おうか)

もしここでラヴィと名乗ってしまえば、どこかでカサンドラに迷惑がかかるかもしれない。


「名前はない。今目の前で起こっていることは、全て夢だよ、レアルド」

「夢…?」


そう言うと、ふらりとそのままレアルドは倒れ込むように眠ってしまった。

そっと掴まれた腕を離すと、ラヴィは軽く息を吐いた。


「ヒューベルトって…誰、なんだろう」


ラヴィはその場を後にした。



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