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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第3章 毒公爵家の夜会へ

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第29話 ヘルト① ~ヘルトから見る彼女~


それは、いつものように仕事をこなし、定刻の通り戻って来た時のこと。突如、エントランスに入ろうとしたとき、アリーとクレインがやって来た。


「ヘルト様!!」

「…一体どうし」


そして…そそっと近寄ると、頬に手を当てながらアリーが報告した。


「カサンドラ様が、お見合いされるそうです」

「!…相手は?」

「フォスターチ家だそうです」

「今日来たんですよ!!‥前回僕を助けてくれた方なので複雑ですが‥兄さまに引けを取らぬ美男子でした!」

「まさか」


クレインの評価はともかく、アリーの報告を助けるようにクレインも報告をする。

(司祭殿がわざわざ…?)


「阻止するなら、お手伝いいたしますわ!!わたし!ヘルト様を応援しておりますので!!」

「あ!!いいな僕も!!お姉さまを守れるのは兄さましかいません!!」

「そ、阻止ってお前たちな…」


こちらの事情をお構いなしに口々に勝手なことを言う二人に、ヘルトは呆れてしまう。


「全く…」

「本邸の侍女はみんな、お二人の味方です!!!」


ぐっと親指を立ててアリーとクレインはそろってウィンクをした。何とも言えない複雑な表情でそれを見つめてはいたもの…正直、動揺は隠せない。

その足で、そのままグラス・ハウスへと足を運んだ。

相変わらずこの場所は静かで心地よく、空に浮かぶ星は美しい。


「……サンドラが見合い」


子供の頃から大人に囲まれて生きてきた俺は、物心ついた頃には人の顔色をうかがいながら空気を読む子供に育ってしまった。


「ここが、僕の新しい家なの?母様」

「ええそうよ。これからあなたは、公爵家の名に恥じぬような振る舞いをすることになるの。わかっているわね?」


3年前父を亡くしてからというもの、元気がなかった母タリアは、ある人物との出逢いをきっかけにその人生さえも劇的に変えた。

その日から、俺はハルベルン帝国でも格式高い由緒あるグランシア家の養子として生きていくことになったのだ。

そうして、6歳になったばかりの新しくできた『義妹』と出逢うことになる。

初めて見た印象は「大人しくて暗い子」だった。いつも肩をすぼめて人形を抱えていて…、まるで俺のことなんて目に入らないように、人形遊びに没頭している人物だった。


「ねえ、外で遊ぼうよ」

「…いや。」


会話らしい会話というものはほとんどなく、カサンドラとはあまり関りを持たぬまま、最初の一か月が過ぎた。俺自身も元もと字の読み書きは出来ていたので、とにかくそれ以外のことを勉強した。

貴族としてのマナーやら、常識、言葉使い、礼儀作法諸々。


「うーん、素晴らしいな。ヘルト、お前は賢い子供だ」

「はい、父上。」


新しく父となった公爵は、俺のことをよく褒めてくれいていたし、関係も良好だった。

けれど、相変わらずカサンドラとは距離ができたまま、気が付いた時には両親ですら彼女とあまり関わり合いを持たなくなっていったようだった。

そして、状況が変わったのはそれからすぐのこと。公爵の直系である嫡子「クレイン」が生まれたのだ。

父と母の喜びようはそれはそれは大きくて、その時俺は悟った。


「クレインがきちんとした大人になって、社交界にもデビューしたら、俺はここを去るべきだ」


これは誰に言われたわけでもなく、確信に近いものだった。

それからまた一年が過ぎ、俺が14歳の頃、妹の「フェイリー」が生まれた。その頃、母タリアは質素な生活を好み、グランシアの本邸の敷地内に小さな別邸を建てた。


父上もそちらに仕事を持ち込むようになり、いつの間にか本邸に住んでいるのは俺とカサンドラと二人だけになっていた。

そのあたりから彼女は引きこもりがちになり、それからまた数年がたった頃、事件が起こった。


それは、ある名家のパーティーに呼ばれたときのこと。


「こんな姿を人に見せられるか!」

「お父様 ご、ごめんなさい…」


一家そろっての出席だったため、どうしてもカサンドラの体形が公爵の眼に余ったのだろう。


「そんな姿で出席したら、周りになんて言われるか‥もういい、お前は出席させん。」

「全く…グランシアの人間なんだから。もう少し気を付けないと‥!」

「……はい」


理不尽だろう、とその時思った。

父上は、母のご機嫌を取るのに必死で、タリア()が満足いくように別邸まで贈ったくせに。

実の娘であるカサンドラには目もくれず、放置したまま。

本邸で食事もとらず、自分たちだけあの小さな箱庭のような場所で穏やかな時を過ごしていた。‥‥まるでカサンドラも俺も、この場にいないみたいに。

辛うじて家庭教師はつけさせているものの、彼女の為に何かしたのか?何もしていないだろう。


けれど、そんなの、俺だって同じだった。


カサンドラに何かしてやろうとしても、何をしたらいいのか分からず…いつの間にか埋められない距離ができてしまった。

15歳になる頃には、俺は自ら志願して王国騎士団のなるため士官学校に進み、寮生活に入る。あの、いびつな家族の元から抜け出してしまいたかったのだ。

彼女だけを置いていくことに罪悪感を感じながら。


季節が過ぎて、卒業し…、グランシアに戻った頃、少しだけ状況は変化していた。

どうやら、カサンドラに友人ができたらしい。


(‥少しか、良い方に向かっていけばいいが)


そして…あの日。


「初めまして、ヘルト様。私はヴィヴィアンと申します。カサンドラとは仲良くさせていただいておりますの」


女神の声が聞こえるという、聖女・ヴィヴィアンと初めて出会った。


「あ、ああ。それは、どうも…」


印象としては、カサンドラとは真逆だな。だった。

そのパーティーは王家主催の記念パーティーで、聖女就任のお披露目の日。カサンドラもどうやら出席していたようだったのだが‥異変があったのは、パーティーも終盤に差し掛かったあたりのことだ。


「お前を!不敬罪として処刑する!!」


突然の罵倒から始まったその見世物は…はたから見てもどこか異常で、なにかおかしいと感じるものだった。

騒ぎの中心にさらされていたのは…カサンドラだった。


「…なっ?!どういうことだ…!」

「おっと、ヘルト、近寄らない方がいいぜ。…なんかおかしいぞ、これ。触らぬ神はなんとやら、だ」


友人のノエルは彼らから若干距離を取りながら、様子を見ていた。

居ても立っても居られなかったが‥この状況が非常にまずいものだというのは一目でわかった。


王子殿下自らが()()を起こしている中心人物だとしたら、誰も諫めることができない。


(くそ‥どういうことだ…?殿下も一体どうして…?)


目の色が違う。状況は最悪で、カサンドラのいわれのない裁可は下されようとしているように見えた。

しかし。


「神の名のもとに、この裁判が公平であるということを証明されるのなら!喜んで裁可を受けましょう!!」


凛とした声が響いた。…カサンドラが自ら立ち上がったのだ。そして、見事に状況を好転させてしまった。


「‥‥」

「へえ、やるね、お前の妹君」


まさかあのカサンドラが?

何が変わったのか、自身で確かめたくて、後を追った。

そして、その時響いたのがドコォ!という衝撃音だった。

見ると、今度はまた別の状況でカサンドラが事の中心におり、また違う人間達から攻められている状況だった。


「?!何をしているんだ‥」


しかし、よくよく見ると、決してカサンドラに悪い状況ではないように見えた。今まで見たことのないような動きでくるりと踵を返すと、誇らしげに去っていく後ろ姿。

慌ててその後ろ姿を追いかけた。本当に彼女なのか、確かめてみたかったのだ。


「ちょっと待て!カサンドラ‥」


何とか追いついたとき…彼女は泣いていた。


「…ッ」

「私のことはほうっておいてよ!」


今思えば、あの時、あの場所であの姿をみれてよかったのだと思う。

勢い余ってか吹き飛ばされてしまったが、それがなければ彼女と関わることが出来なくなっていたかもしれない。

その日を境に彼女は変わった、まるで別人のように。

いつからか、もっと知りたい、もっと彼女を見ていたい。そんな想いを抱くようになり‥毎朝、あの庭園で彼女を待っていた。


「ヘルト兄さま。おはようございます」

「ああ、じゃあ行こう」


努力している人間は見てて気持ちがいい。成果も出始めてきた…その頃にあの事件が起きる。

…アグレイドの実だ。


「おい!しっかりしろカサンドラ!」

(と、とりあえずこのまま運ぶのは無理だな?)

「わんわん!」

「グラン!お前も手伝え!!」


あの赤い実は、別名「栄光の実」ともいわれているのだが‥良くも悪くも彼女にいいように作用したようだった。


そして、今。

いまだに戸惑うが、カサンドラは更に美しくなっていた。

薄赤の髪も、白い肌も。前だけを見ているその青い瞳も‥目が離せない。


(本当に、ここまで誰かを想う日が来るなんて)


「それが、お見合いとはな…」


何となく、椅子に腰かけながら、復活祭の日のことを思い出す。

あのあと…二人でしばらく星を見ていると、時間を立つのをすっかりと忘れてしまっていた。静かに流れていく時間に身をゆだねていると…こてん、と安らかな寝息と共に、カサンドラの頭が揺れ出した。


「毎朝早いからな」


ふらふらする身体を捕まえて、こちらに寄せる。支えを見つけると、安心したように眠りについてしまった。…正直、あまりに無防備すぎる寝顔なので、複雑な気持ちになる。


(安心され過ぎるのも困りものだが)


これが兄に対する親愛でも構わない。

ただ、もう少し。もう少しだけ、このままでいられたら。

けれども、同時に妙な独占欲も出てき始めている。


「…君が、もし、俺と」


その続きを、今は言葉にしない。

その正体を、俺は知っているから。


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