第27話 フォスターチ公爵家との縁談
思わず公爵を二度見してしまう。今、なんていったんだろう?
え?ユリウスと私が??何それ?!そんなシナリオ聞いてないわよ?!
「ええと…ゆ、ユリウス様は聖職者でいらっしゃるし…」
「何を言うんだ。女神神殿は聖職者の結婚に寛容だ。それに先日の復活祭で既に二人は知り合いと聞いている。…フォスターチ家ともなればハルベルンにおいても我が家紋と並んで高名な公爵家…断るならそれなりの理由を述べよ」
(…くっ。何よまるで試験問題みたいな問の仕方をしておいて‥!)
「……私はまだどなたかと結婚なんて考えたことありません。」
「まだ、といったな。安心しろ、あちらも最初は婚約だけしておいて、後は二人に任せると仰せだ」
公爵の目がきらりと光る。これはきっと、想定内の返答ということなのだろう。
「そ、そういう中途半端な気持ちではお互いの為にもならないと思いますけど?!」
「…待て、カサンドラ。気になる殿方でもいるのか?この間も復活祭の夜は帰りが遅かったそうじゃないか?!」
「それとこれとは関係ありませんでしょう!!!」
なんなのよ、何で知っているのよ?!ていうか、一緒に出掛けたのはあんたの息子だっつうの!
だめだ、このままじゃらちが明かないわ。どうにか断る正当な理由を探さないと…!
ってああああ、何も思い浮かばない!!
「とにかく、婚約するにしてもしないにしても、一度は会ってみるのはいいだろうっ?ちょうどよくフォスターチ家主催の夜会が明後日あるそうだ。それには必ず出るように!!!」
「…くっ。分かりましたわ‥どうなっても知りませんからね!!」
何がちょうどよくよっ!!
これは私が絶対に断れないようにぎりぎりまでスケジュールを黙っていたからじゃないの!
し…信じられない。これは攻略本にも書いていない!ま、まあそもそもユリウスのシナリオ自体よくわからないのだけど。
(まさか夜会に出席することになるなんて?!)
「ユリウス・フォスターチ‥か」
父が去ったあと、私は攻略本をパラパラとめくり、ユリウスシナリオをラヴィと確認していく。
今さらながらだが、どのページにも彼が『戦う』シーンは見当たらなかった。
そもそも、この世界自体戦いとは無縁の世界のはずだし、復活祭で見た化け物が登場するなんて記述もどのシナリオにもないので、恐らく本当にイレギュラーの出来事なのだろう。
確かに暦通りの大まかな出来事は起こっているんだけど、ところどころ物語の形が変わってきているような気もする。
「なんだか、このシナリオにあるユリウス像とは違うような気がする。ヘルトも‥まあ確かに真面目ではあるけど、この攻略本にある通りの女嫌いなんて設定はなさそうだったし‥」
私に関わったことで、キャラクター像の初期設定が変わるなんてあり得るのだろうか?それか、もしくは。
(本当にゲームに似ているだけの別の世界ってこと?)
しかしそれはラヴィも頭をひねるばかりで明確な答えが出てこない。
「うーん、今度の夜会とかも本来ない筈のイベントだし、行ってみる方がよさそうだよ、カサンドラ」
今回私が参加する「フォスターチ家の夜会」なんてイベントは通常シナリオでは起こらないようなので、私固有のイベント‥もしくは、シークレットフラグ関連のイベントになるのかもしれない。
「え~…結婚とか言わないといいんだけど…」
私がそう言うと、ラヴィは一瞬固まってしまった。
「へ…け結婚?結婚するの?!カサンドラ?」
「しないよ!!どうにかして互いに合意で縁談破棄したいんだけど‥どうすればいいかなあ」
「う。うーん…ユリウスはどう思っているんだろうね?」
「…会いに行くとややこしいことになりそうだし…ああ、でも。手紙を送るのはありかなあ?」
しかし、考えてみたらこの世界の郵便物っていったいどれくらいのスピードで届くものなのだろう?今贈ったとして、明後日に夜会が開かれるってことは…
「間に合わない可能性の方が大きいわね…」
ため息をついていると、先ほど退出したアリーが血相を変えてやってきた。
「お嬢様!!大変です!!」
「何?どうしたのよアリー」
「フォスターチ公子のユリウス様がいらっしゃいました!!!」
「…はぁ?!」
バタバタと用意をして、応接間に行くと…。
「こんにちは、カサンドラ様」
「ご、ごきげんよう、ユリウス様‥」」
ユリウスは、今日は司祭服ではなくて、普通のダークスーツにジャケットである。
神官の時には束ねている髪も、今日はきっちりと三つ編みで固められていて、どこからどう見ても貴族の御子息、って感じでオーラが違う…。
そうか…この人は司祭であると同時に、名門フォスターチ家の四男であらせられるのだ。
にっこりと微笑む姿は相変わらずの美人さんなのだが、どこか表情に陰りがあるのは気のせいだろうか?
「あの、何もおもてなしができなくて…!」
「いえ、今日は急に来てしまったので、お構いなく。すみません、御迷惑ではなかったでしょうか?」
「と、とんでもございません!今日は一体どうしてこちらに?」
「ええ、明後日の話ですが…フォスターチ家の夜会にぜひご招待をさせていただければ、と思いまして」
私は耳を疑った。
なんてタイムリー…というか、お父様はユリウスがこちらに来るのを知っててあの話を振ったわね?!
(ご本人がいらっしゃるなんて、断るに断れないじゃない!)
「えっえぇ―…と、はい。父にもそう言われておりますが…」
「それともう一つのお話ですが‥別途お送りしましたお手紙の方も拝見いただけましたでしょうか?」
もう一つのお話‥それは勿論、彼との縁談の話だろう。
実は、夜会の他にもうひとつ手紙が届いていた。それも、公爵宛てではなく、私宛に。
(ヤバイ、見てない!)
「ええと あの」
「お嬢様、ティールームの準備が整いました」
「?!ティールーム…?」
すると、ものすごくいいタイミングで、グランシア家の統括執事のトーマスが現れた。
(い…いつの間に)
ティールームとなると‥つまりは。そいう言う場を設けたということなんだろう。とどのつまり全て父が仕組んだ作戦に違いない。
(…その手には乗らないわよ公爵め!)
「いいえ、今は季節がもちょうどよいですし、庭園の方に‥」
「もちろん、庭園の方にもティーセットは準備完了でございます」
「‥‥そ、そうですか」
ぐぬぬ。先手を打たれてしまったわ…これも予想済みということですか、全く腹の立つ。
(…まあいいわ。むしろ手間が省けたじゃない?ユリウスと腹を割って話をするとしようか!)
「よろしければ、少し休んでいきませんか?」
「ありがとうございます。それでは」
この世界の庭園というのは、日本の庭園と違う様相である。
日本は苔や岩、大きな庭園に行けば樹木が植えられたりするものだが、こちらの庭園は背の低い植物が植えられていることが多い。
なので、天気のいい日は割と見通しもよく、風も感じられて部屋でお茶を飲むより私は好きなのだ。
そして、今が盛りの薔薇の庭園には…それそれは豪華なティーセットに、ケーキスタンドに綺麗に陳列された見た目も華やかな色彩豊かなケーキにスコーン。さらにはアミューズやスープもきっちりと準備されていた。
つまり、準備万端なのである。‥不自然なほどに。
「…もしかして、どなたか来客の予定でもあったのでしょうか‥?」
「わ、我が家の使用人たちは、いつどんな時でも、お客様をお招きする準備は常に万端ですから…」
「そうなんですか、素晴らしいですね」
(…メイドちゃんズを問い詰めることにしよう)
後で覚えてなさいよ、公爵。
「…改めて、先日はうちの弟の救出に尽力してくださり、ありがとうございました」
「いいえ、私など何も…、ご無事で何よりでございます」
これだけは本当に、後で考えてもユリウスがいてくれてよかったと心から思う。
あの正体不明の影の襲撃だって、フェイリーを守りながらだったら私もフェイリーも…もちろんクレインも。無事だったという保証はないのだ。
「そういえば、すごくお強いんですね!華麗なナイフさばき、とてもお見事でした!」
「…私は今は聖職者として籍を置いておりますが、基本的に我がフォスターチ家はハルベルン帝国の雑事から荒事まで対処しています。我が一族の異名をご存じですか?」
「異名?」
「…毒の公爵家、です」
「!」
多分この情報は、あの攻略本にはなかったと思う。
それをわざわざいうなんて…どういうつもりなのかしら。
「……なら、あのお強さは納得してしまいます」
「ふふ。驚かないのですね」
「ハルベルンで唯一帝国の紋章と同じ鷲のモチーフを授かった誇り高き一族ですもの。公子様達は幼少時より文武両道であるようにと教育されていらっしゃっても、不思議ではありませんわ」
「…さすが、グランシアのご令嬢です」
「……」
(この設定?というかフォスターチ家の事情については攻略本の情報だ。でもうこうなると、どこまであの攻略本を信じていいのかわからない)
ハルベルン帝国において、グランシアに並んで力のある貴族…「公爵」を名乗れるのは、うちとフォスターチしかいないのだ。
そう考えると、この縁談というのは実は相当意味のあるものになるんだろうけどなあ。
「カサンドラ様は、休日には何を?」
「え?!あ、そうですね。最近は読書とえーと、鍛錬、でしょうか」
「…た、鍛錬…ですか?」
「体を鍛えるのが楽しくて!」
ようし、引いてる引いてる。
この令嬢はちょっと普通じゃないな、と思ってくれた方が後々何かと便利だしね。
このままの流れで合意の上で破断、というのを狙いたいところなんだけど…。
「素晴らしいですね!!私も好きなんです。心が無になるというか‥余計なことを考えなく、純粋な強さを求めればいいので!」
(おっと予想外だわ?!)
私の予想に反して、ユリウスの反応は普通ではなかった…。この人、見かけによらず…ていうか、司祭って職業向いてないんじゃ。
「ま、まあ‥それは。ユリウス様こそ休日は」
「わんわん!!」
「?!」
すると、庭の向こうからグランが突然現れた。いつものようにものすごく嬉しそうな顔をしながらこちらに突っ込んでくる。その後ろからは‥なぜか笑顔のクレインが手を振りながら付いてくる。




