第20話 こんなイベント聞いてないけど?!
「えええ?!クレイン坊ちゃまが行方不明に?!」
「しーーっ!!声が大きい!!」
あわあわと口をふさぐコラン。
現在我々は、地図の通り中庭の中をこっそり移動中である。
「全く…クレインの奴め」
ヘルトがため息交じりにそう呟くと、コランの眉はしおしおと下がっていく、
「あ…の、坊ちゃまは坊ちゃまなりに…」
「そういう、余計な気遣いをさせてしまったのは、俺たちの責任だろう」
「ヘルト様…」
「地図の通りであれば、このあたりですね」
ユリウスがぴたりと足を止める。
たどり着いたのは、ハーブや薬草などが植えられた、庭というよりも菜園のようなこじんまりとした空間になっている場所。
この場所は、過去は噴水も設置された美しい庭園だったらしいのだが、すっかり用途が変わってしまったらしい。
噴水があったであろう場所には、円形の石畳が敷き詰められていた。
「あの、差し出がましいようですが…お嬢様方お二人は待っていた方が」
ユリウスは私の方を振り返り、心配そうに尋ねる。
「大丈夫です!力と体力はあるので!」
いざとなればスキルを発動できるしね!ぐっと拳を突き出すと、ユリウスは苦笑いを浮かべた。
「た、頼もしいことです…」
「でも‥フェイリーは…」
ちらりと前をの方向くと、ノエルに抱っこされたフェイリーと目があった。
「ふ、フェイリーもいく!!ノエルが守ってくれるもん!」
「おや、御指名ですか。こりゃあ断れないなあ」
「お前たち…大人しくしないと全員置いていくぞ」
先頭を行くヘルトが後方にいる全員をにらみつける。
「ユリウス司祭殿。時と場合によっては剣を抜きますので、ご容赦を」
「ええ。わかっています、ヘルト殿」
アロンダイトの神殿に仕える聖職者たちは、流血事を嫌い、攻撃性を嫌うという。基本的に自分の身を護るための武器以外は持ち合わせていないらしい。
「す、すみません。巻き込んでしまって」
「ああ、カサンドラ様、大丈夫です。…神に仕える身といえど人助けはフォスターチ家の名誉ある責務の一つですから」
(顔は超美人なのに逞しい…!)
思いがけず感動していると、面白くなさそうにノエルが呟いた。
「俺だってやるときはやるんだけどなー」
「ノエルは十分かっこいいから大丈夫だよ!!」
「はいはい、ありがと、フェイリーお嬢様」
フェイリーはどうやらすっかりとノエルに懐いてしまったらしい。
うう‥私にはまだそこまで心を開いてくれていないのに~‥イチャイチャしちゃって、ズルいわ、ノエル。
「…静かに。あそこを見てみろ」
壁側に身を寄せてヘルトが前方を指さす。
そこは、蔓延るツタがレンガの壁を覆い、一見すると何も異常がないような場所だった。
しかし、よく見ると辛うじて扉の引鉄のようなものが見えた。
「これ…取っ手?」
「…コラン、お前は逆側を」
「はい」
持っていた剣の柄で鍵を壊し、即座にヘルトが中に滑り込んだ。
「階段がある、水の流れる音がするということは…これは外につながっているのか?カサンドラとフェイリーはそこに居ろ。ユリウス司祭、二人を頼めますか?」
「心得ました」
「フェイリーお嬢さま。オレがいなくても我慢できるね?」
「う、うん!」
ノエルがそっとフェイリーをおろすと、フェイリーは私の手をしっかりと握りしめた。
(‥少し震えてる)
フェイリーの小さな手をそっと両手で包み込むと、できるだけ安心できるように笑って見せた。
「大丈夫よ。…ここで一緒に待ちましょう」
「‥‥うん。気を付けてね!ノエル」
ノエルはこちらに向かってひらひら手を振ると、ヘルト達の後に続いて扉の向こうに行ってしまった。
「真っ暗ですね‥」
「過去の歴史の遺物‥といった具合だな」
「目が慣れてくると、そこそこ見えそうです」
コランは慎重に壁に手を付けたまま歩き出す。中に入ると、川の流れる音が更に大きくなり、同時にかぐわしい匂いが全員の鼻を襲う。
「すげえ匂い」ノエルが鼻を抑えて言うと、そんなことは気にしない様子でヘルトは前のめりになる。
「…!いた、あいつら」
「おいこらヘルト、熱くなるなよ。無作戦で飛び込んでどうする、この能筋め」
ノエルにしっかりと肩をつかまれ、ヘルトは舌打ちをした。
「‥‥わかってる」
「人数は二人、か?」
三人いる場所から50メートルほど離れた場所で、ゆらゆらとたいまつの灯りが揺れている。ちらりと見えた人影は二つあるように見える。
「足元、気をつけろよ」
「ああ。しかし、妙な場所だ…落ち着いたら調査しないとならないな」
「仕事熱心だねえ」
この場所は全体的にかび臭く、普段は使われていないせいかコケのようなヘドロのようなものが幅1メートル程の通路にびっしりとこびりついており、足場が良くない。
「黙れ。…コランはクレインを。ノエルは右の方の男を」
「了解」
ヘルトは手近にあった手ごろな大きさの石ころを手に取り、たいまつの方に向かって投げた。ガラン、と派手な音が通路に響くと、男たちがこちらを振り返った。
「!!!誰かいるのか?」
だが、たいまつを持った男が振り向くよりも先に、ヘルトの剣の柄が男の顔面に届いていた。
「へぶっ?!」
固い剣の柄で顔面を強かに打ちのめされ、よろける。
その隙を逃さず足払いをかけると、男は背後にいたもう一人の男に倒れこんだ。
続けざまコランはたいまつを奪い、周りを確認する。
「誰もいないようです。‥おい。お前ら!!お前らが連れ去った子供はどうした?!」
「ぐっ‥一足遅かったな、もうここにはいねえよ‥グハッ」
「どこに連れてった?え?お前らの依頼主は誰だ」
ノエルが床でもがく男の胸を足で押さえる。少し力を入れるとメキメキと、何かが折れるような音が聞こえた。
「いでで、いでえ!し、知らねえよ!どっかの貴族だと思うけど‥顔は見てねえ!!」
「貴族だと?」
ノエルは自分たちが歩いてきた入り口の方を見た。
「まずい‥!ヘルト!サンドラ達が危ないかもしれない!」
**
「大丈夫かしら、みんな…クレインは見つかったかな?」
三人が地下に潜ってから、時間がすごく過ぎたような気もするし、全く進んでないようにも思えた。
「寒くない?フェイリー」
「‥だ、大丈夫‥クレインのほうが、もっとやな思いしてるかもしれないもん」
「優しいのですね、フェイリーさんは」
ユリウスがそういうと、フェイリーは唇を尖らせて顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
こういう仕草は本当に子供らしくてかわいいなあ。
(もう少し仲良くなれたらいいのに‥)
「‥こんなところでどうされたのですか?」
「!!」
突然茂みの向こうから人影がぬっとあらわれ、私とフェイリーはぎょっとする。さりげなくユリウスが前に出て、私達を背中にかばってくれた。
「‥子供が迷子になったようで。どこかで見ませんでしたか?」
その人影に対して、ユリウスは軽く眉を顰める。
「ふむ、こちらにはあなたが探しているような子供はいませんよ」
冷めたような口調は、底冷えする凄みのようなものを感じた。
茂みの中から姿を現れたのは、真っ白い髭に、シルクハットを目深にかぶった上品な佇まいの紳士だった。月光にさらされ、片眼鏡がきらりと光る。
「今宵は神々と一緒に形無き亡者共も共に騒ぐ聖夜の刻。人ひとりいなくなってしまうのも不思議なことではありませんから」
「…あなたは」
ユリウスが何かに気が付いたようにぱっと目を見開くと、片眼鏡の男性はにやりと笑った。
「ふふ、素敵な偶然‥というべきか」
「なぜ…!」
ユリウスが何かを言うのと同時に、紳士の影からずるりと得体のしれない影の塊のようなものが飛び出し、獣のような姿に変えこちらにめがけて襲い掛かってきた。
「えっ」
「伏せてください、カサンドラ様」
あまりにも突然のことで私は身動きが取れずにいると、真横を白い光がとおりすぎ、影の身体に命中した。
「お怪我は」
「あ、あありません…」
ユリウスは静かにそういうと、着ていたジャケットの内側から刃渡り5センチくらいの小ぶりのナイフを取り出し、黒い影の犬たちに向かって投げた。
それぞれギャン、とか断末魔の声をあげて影は散っていく。
…こ、腰が抜けると思った。
(こ、こここのゲームって魔物が出て来たり戦ったりするような内容だったっけ??‥ていうか、神官は戦わないんじゃないの?!!!)
私ははっと我に返り、とりあえずフェイリーの小さい身体をしっかりと抱きしめた。




