第19話 誘拐事件
「うーん…」
グランシアの本邸で、ゆっくりとラヴィは目を開き、大きく伸びをした。
くわああと、あくびをした後、籠からぴょこんと飛び出した。
「まだ、魔力の半分も回復していない‥時間がかかりそうだな‥」
少しだけ胸騒ぎを覚えて、窓の外を見つめた。
(…なんだろう。嫌な予感がする。…カサンドラは無事だといいけど)
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(ま、前が見えない!!)
クレインは、突然目の前が真っ暗になった。
気が付いた次の瞬間には、布のようなものにくるまれて、どこかへ運ばれてしまったらしい。
しかもご丁寧に口元には布とロープが塞がり、うまくしゃべることすらできない。
(う、打ち合わせと違うじゃないか~コランってば‥)
クレインの作戦はこうだった。
「僕が、誘拐されちゃったらみんな困るでしょう?だから、あえて姿をくらますんだ」
「でも、それではフェイリー様がお一人になってしまいます」
目の前に若き騎士コランが正座をしてクレインの話を聞いてくれている、今は作戦会議の真っ最中なのだ。
「だから、あえてフェイリーの目の前で僕が攫われれば、フェイリーだってすぐに人を呼びに行くでしょ?」
「‥で、その坊ちゃまをさらう悪い男が…」
「そうだよ!コラン‥君さ!」
笑顔でなんてことを言い出すんだこのぼちゃまは。と、心の中で異を唱えてみたが、コランがそれを口に出すことは出来るはずがなかった。
「‥‥はあ、わかりましたけど‥ちゃんと私のことを見捨てないでくださいね?!」
「もちろんさ!」
(って言ってたのに~~)
「むーむー!!」
クレインが文句を言おうとじたばたと暴れていると、布の外側から知らない男たちの声が複数聞こえた。
その声を聴いて、ぎょっとなる。
「ちっ‥うるせえガキだな。だから嫌いなんだよ子供ってのは」
「まあまあ、とっととブツを渡して報酬をもらいましょうや」
(え?!う、嘘だろ?…コランの声。じゃない!!)
突如予定と違う攫われ方、見知らぬ男たちの声。更には、何か大きな布にでもまかれているのか、うまく身動きすら取れない…。そして、ようやくクレインは自分が本当に攫われてしまったということに気が付いたのだった。
(ぼ、ぼぼぼくは…本当に攫われちゃったのっ?!!)
「ほーら。…泣かないで」
「…うん、もう、だいじょうぶ‥」
今だぐすぐすと鼻をすするフェイリーだったが、しっかりとノエルの肩にしがみついていた手をそっと緩めた。
「…あなたは、かさんどらねえさまのお友達?」
「ああ、そうだよ。ちなみにヘルトとは親友で、クレインは俺の弟子」
「おししょーさま?」
持っていたハンカチでフェイリーの涙をふくと、ノエルは笑って答えた。
「それいいなあ。…お嬢さんも俺に弟子入りする?」
「おじょうさんじゃないよ、フェイリーだもん!」
馬鹿にされたと思ったのか、フェイリーはむっと頬を膨らませて反論した。
「おや、これは失礼、フェイリーお嬢様」
「…クレイン、だいじょうぶかなあ」
「大丈夫だろう、きっと。ヘルトなんて血相変えて探すだろうし、必ず無事だよ」
「ノエル!フェイリ―!」
そんな話をしていると、向こうからカサンドラがヘルトと…もう一人、見知らぬ男性を連れてやってきた。
「‥サンドラ、誰そいつ?」ノエルが仏頂面で尋ねると、カサンドラは慌てて答えた。
「あ‥ユリウス様です。その、協力してくれて…ヘルトがいる場所も教えてくれたわ」
「初めまして、取り合えずお話はあとで…フォスターチ家は代々このハルベルンの城の設計に関る仕事を任されています、大まかの地図を用意させました」
そう言って手近なテーブルを引き寄せると‥ハルベルン城の地図を開いて見せた。
「こんなものをすぐ用意できるなんて、ふうん…やるじゃないか」
「フォスターチ家は王家と並んでも引けを取らない名家だ。ノエルも、言葉遣いに気をつけろよ」
「へいへい」
「フェイリーがいたのはこの応接室よね‥どういう状況だったか、覚えている?」
カサンドラが尋ねると、フェイリーは力強く頷いた。
「‥うん!クレインはここに居て…この窓からぶわーっておっきな黒いマントがきたの!」
「と、なると…この裏庭か。この辺は各部屋から窓の外が見えるが、潜む場所は結構ありそうだ」
ノエルが持っていたペンで円を描く、いまだしっかりとノエルに抱き着いてるフェイリーはうんうんと何度も頷いた。
「‥ならば、今日は警備も多く、下手に動くとすぐに発見される可能性があります。基本的に城内は外との出入り口の数は少なく、数か所しかありません。隠れて潜むのにはうってつけですが、逃げ出すとなると、相当骨が折れるでしょうね」
「この辺の警備の連中に確認を取りましょう。あとはどこを探すかですが‥」
カサンドラは三人の話を聞きながら、そういえば、とあることを思い出した。
(そういえば‥ヘヴンス・ゲートのゲームのレアルドシナリオに城内に暗殺者が紛れ込んで云々てイベントがあったような…あの時犯人が逃走経路に使ったのは…)
「…あ 下水道‥みたいな、地下水路みたいなもの‥もしかしてあったりする?」
カサンドラの発言に全員が一斉に沈黙する。
「水路‥ああ‥そういえば」
「そうか!裏庭には昔使っていた噴水広場の水路があります!その入り口がわかれば…!」
「よくわかったな、カサンドラ!」
「え?!!あ、いえ、何となくそ、そういうのありそうかなあって」
まさかゲームで見ました☆などと言えるはずもなく、カサンドラは曖昧に答えるが、皆それ以上は何も言ってこないので、そのままやり過ごした。
「となると…この地図の場所から推察するに、今は使われていない廃園の裏側、つまりは…こちらの方でしょうか」
ユリウスが指さしたのは、目の前の庭園の北側。
「!」すると、ヘルトが何かに気が付いた様子で、窓に向かって突如歩き出す。
バタン!と窓を開くと、黒いマントを被った男が立っていた。
「貴様!何者だ!!」
「?!!」
男は、ヘルトが叫ぶと突然走り出した。
しかし、長いローブに足がもつれて転んでしまった。
「…なんだ?随分間抜けな奴だな??」
「アレが犯人‥?」
カサンドラとノエルが顔を見合わせているうちに、ヘルトはその男の組み倒した。
「わーーー!!!待って待って!!待ってください!!!ヘルト様!!」
「…?!お前…」
バッとフードを外すと‥そこから現れたのは明るいオレンジ色の髪の若者。
「コラン?何をしているんだお前?!」
「いてて‥‥!すみません、クレイン坊ちゃまはどこに」
「「「「こっちが聞きたい!!」」」」
その場にいる全員の突っ込みがシンクロした。




