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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
外伝 暁に見る夢~レアルドEND編~

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外伝 暁に見る夢2


次の日の朝、ルイスはもぬけになった馬房を見て、ため息をついた。


「…どれだけ、楽しみにしてたんですか…」


厩の主人から話を聞くと、…どうやら、日が昇ると同時に馬を駆り遠出していったという。

結局、レアルドが何処に行っていったのか、はたまた誰かに会いに行ったのかなど詳細は何一つわからず、身近な使用人や執事でさえ、その行き先を知らなかった。


(ああもう、何かあったらどうすればいいんだ…)


ただ、レアルドは非常に頑固者で、口は堅く、言わぬといったこと貝のように口を閉ざす。

だから、恐らくその行き先というのも誰にも口外することはなく…その強力な護衛とやらと一緒に出掛けているのだろう。


「ああ…心配だなあ うう、胃が」


――こうして、ルイスは今日一日、気が休まぬ時間を過ごすことになったのだ。



雨上がりの草原は、そこかしこに爽やかな香りが充満していた。

雪が融け、春に差し掛かった今の季節は、眠っていた若葉が次々と起き上がり、他の季節にはない自然の力を直に感じられる。丁度今頃が、レアルドは一番好きな季節だった。


「まだ少し寒いか…でも、日差しが暖かい」


月毛の愛馬・カダムは、その言葉に同意するように嘶いた。

この馬は、かつては兄が乗っていた馬の初仔にあたる。

王家の人間を落馬させたということで、毒で処されるところを救ったのが始まり。その後、カダムを産み落とし、まるで役目を終えたかのように、この世を去った。

若草を思う存分食んだのち、自身も休息をとり、思い切り駆け抜ける。太陽が天頂に乗り切る頃、目的の場所が見えてきた。


「…大分復興が進んでいる」


そこは、湖畔の保養地。

かつて、土砂崩れが起き、その半分が埋まってしまった場所である。

その村から、一頭の白馬がこちらに向かってかけてくる。


「あ…」


大きく手を振るその姿に思わず笑みがこぼれる。


「レアルド様―――!お久しぶりです!」


特徴的な暁色の髪は後ろで無造作に括り付け、淑女らしからぬパンツルックの姿は鍛えて締まった体の曲線美が良く映える。

ロングブーツを鐙に乗せ、軽やかに降りると、胸に手を当て会釈した。


「ようこそ…湖畔の村、ルクセンへ。こちらに来るのはしばらくぶりですね」

「ああ、カサンドラ。…あなたも元気そうでよかった」

「無事、冬も超えましたし。山の方にはまだ雪が残っていますけど、この辺はもうすっかり春でしょう?」


あれから一年。

カサンドラ・グランシアは、成人を迎え、グランシア家の領地の一部を譲り受けた。成人したての令嬢が未婚のまま自身の手で領地の一部を任せられるなど、前例がない。

しかし、その行動は多くの女性を勇気づけた結果になった。…そして、彼女は社交界という枠に収まらず、以来拠点をこちらに変えて過ごしているという。

この地は、かつて自分も身を寄せたことのある場所でもあるし、色々と思い出深い。馬で遠出するのにもちょうどよく、良く足を運んでいる。

最も、理由はそれだけではないが。


「…俺はこの季節が一番好きだな。あなたはどうだろう?」

「私は…そうですね、季節で言うと夏が好きかも知れません」

「だと思った」

「あら、どうしてです?」

「一番動きやすいし、作物の成長もいいから、だろう?」


王子らしからぬ答えに一瞬目を見開き、やがて笑った。


「あはは!その通りです。取れたての野菜は、王宮のスぺシャルグルメにも匹敵するくらい美味しいんですよ?」

「今度ぜひいただきたいものだ」

「ええ勿論!」


グランシア領地・ルクセンは、主に美しい湖岸と景観、そして水車小屋や、一面広がる農作物の畑が主な観光資源だった。

貴族が通う保養地としても有名ではあったが、山が半壊するほどの土砂崩れにより、その様相を大きく変えた。観光資源となる景観は崩れ、一部の村は土砂の下に埋まり、多くの人々が住居を失った。それに加えて起きた地震により、この地方は今まで頼りきりだった観光という資源ではない、別の資源を模索することとなったのだ。

そこに名乗り出たのが、カサンドラ・グランシア。

元々肥沃な土を生かし、水源のある湖に水車を作り、治水を整えた。…今はそれを利用した農作物の開発に尽力している。


「…今度の建国式典には?」

「一応、お父様から言われているので…ちょっと日に焼けたりいろいろしているから、侍女たちには怒られるかもしれませんね…」

「……それなら、良ければ俺がドレスを送ろうか」

「え?」


つい、発した言葉にレアルドは後悔する。


(しまった…)


「あ…うーん、確かに毎年ユリウス様からいただいていたんですけれど、今年はお断りしました」

「え?」

「……私は、今、この地でやっている事業が本当に楽しくて。今まで、何一つ自分の力だけで成しえたことがなかったから」


その表情はどこか吹っ切れたような、すっきりとした表情で…遠くに見える水車をいとおしそうに見つめる。


「できる限り、やってみたいし…私が選んだ道です。それを全うしたい」

「…カサンドラ」


数年前起きたことを、どれほどの人が鮮明に覚えているだろう。

レアルドは当事者でもあるし、一時は心を囚われ光を失ったときもあった。王族に代々伝わる連鎖のような呪いが全て終わったわけではない、だが、それでも背負って生きていかねばならない。


「あ、そう言えば…以前の土砂崩れが起きた場所の奥に、妙な遺跡?みたいなものが見つかったと聞きました」

「遺跡?…そんなもの、このへんにあったのか…?」

「ええ。なんでも、雪が解けてから現れた壁の一部…だったかな、と聞きました」

「君は見た?」

「いいえ…あ、良ければ一緒に行ってみましょうか」

「そうだな…」



その場所は、半壊した山間の裏手にあった。

まだ雪が残り、枯れた木々が雪の重みで倒れた場所をくぐり、更に急な斜面を登った場所にあった。


「大丈夫か?手を」

「あ、大丈夫です…それにしても」


カサンドラは傍にあった大きな樹をしっかりと支えにしながら、眼下の景色を眺める。

エメラルド色の湖の周囲には、カラフルな屋根が多く見える。その後ろ、遠く見えるのは、地平線。青々とした緑の絨毯が広がっていた。


「きれいな景色…」

「まあ、下を見なければね…」


だが、あと5歩ほど行くと、湖に続く急な斜面が見える。


「やはり心配だ、俺の手を掴んで」

「あ、はい…ええと、もう少し上ったところにあるみたいです」

「わかった」


上を見上げると、登るのにはやや苦労しそうな坂の向こうに、それまで立ちはだかっている枯れ木が切れ、開けた空間がありそうだった。


(この上か…?よく見つけたな…)


ようやく登り切ると、カップのように中心がくぼんだ場所の中心に、朽ちかけた壁画のような物が見えた。


「あれか?」

「はい、…白い壁と聞いているから、間違いないかと」

「ふうん」


しかし、そこに至るまで積雪がかなり残っていた。


「今の装備では万全ではないな」

「そうですね…あれ?」


何かに気が付いたようにカサンドラが振り向く。


「カサンドラ?」

「今、何か」

「え?…う?!」


突然、腰に帯びていたレアルドの剣が眩い光を放った。


「なんだ…?!」


その瞬間、レアルドの脳裏に、以前カサンドラと廃村を探索している時に遭遇した状況が思い浮かぶ。


「サンドラ!手を!」

「は はい! うわ?!」


ギュッとその手を掴んだ瞬間、ぐらりと眩暈のような感覚に襲われる。

そして…ガタン!という衝撃と共に、はっとなった。同時に、しっかりと握っているもう片方の手の感触があり、安堵した。


「無事か?」

「いたた…大丈夫です」

「それにしてもここは…随分、ほこりっぽいな」

「…は?」

「ん?」


突然、カサンドラが妙な声を発する。

ぐるりと見渡すと、そこは何かの倉庫のようで、四方に棚が設置してあり、グラスや食器が雑多に収納されていた。


「これは…いったいここは」

「嘘でしょ」

「…さっきから、どうしたんだ?」

「そんなバカな、いえ、まさか…」


狼狽した様子の声に振り返り、レアルドもまた、言葉を失った。


「…カサンドラ…()()()よね?」

「…はい あ、でも」


暗闇に目が慣れ、じっくりと見て、気づく。

そこにいたのは…茶色の髪を後ろでひとまとめにした、黒い瞳の女性。着用しているものも、どこか見慣れない、膝上までのスカートに、黒いベスト姿。


「これは…」

「レアルド様!!」

「う…うんっ?」

「いいですか、落ち着いて聞いてください!一度新呼吸をして!!」


(別に、そこまでうろたえているわけでもないのだが)


ひとまず言われた通り、深く息を吸い、吐いた。


「あのですね…こ ここは、わたしの、 いた場所です」

「君がいた…?どういうことだ?」

「ええっと…ああ、まずどこから話せば」

「…今は、緊急事態なんだな?」


その問いに、彼女は首が千切れるくらい上下に頷いた。


「一体これは」

「ここ…異世界なんです」

「…… … …??」

「ああもう…私、正気です!決して頭がおかしいわけじゃありません…ッ」

「イセカイ…と、言う国か?」

「違うんです!違うんです!!いや、ここはもう一回見てもらった方が早いかも…」

「見る、とは」


ぐっと手を握り、ためらいなくドアを開く。

されるがままついていき、窓辺らしき場所に出た。


「ここは…」

「下を、見てください」


そして…見た景色に、レアルドが息をのむ。

空にある月は変わらないが、まるで眩い宝石のように散りばめられた光の数々―――、そして、驚くべきはその高さ。


「こ れは」

「ここは、19階なので…」

「19階……?!」


証明の光の中で、レアルドの隣に立つ女性は戸惑うような不安そうな表情で一言呟いた。


「私の名前は、橋本 真梨香…あちらの国では、カサンドラと呼ばれていた人間です…」

「…え?」


ここまで来てさすがに正常ではいられない。

が、レアルドは気力とプライドで、何とかこの状況をのみ込むべく、耐えていた。



お読みいただき、ありがとうござます。間が空いてますが、必ず完結します!

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