最終話 魂の旅
「何で…どうして!!!」
その青年は、泣いていた。
その傍らで血を流し、横たわる一人の少女。そして…重なるようにそれを見守る白い影。
(どうして、こうなってしまうのだろう)
世界の異変は、一番最初に砂時計を私利で逆転した人間から始まった。
これは、呪いと呼べるものだった。
過ぎた力を行使するには、代償が伴うというのに。
誰かが過ちを悔やみ、砂時計が返される度、強烈な魔力が消費される。そのために、砂時計は使い手を引き寄せ、その大事なものを奪う。
バロル国王陛下は息子を、フォスターチ公爵と、グランシア公爵は愛する妻を。そして…ヘルト・グランシアもまた。
―――人は私を【女神アロンダイト】と呼ぶ。
かつて、人の身となり、彼の地を救いその身を捧げた…それに後悔はない。
(それがこのような結末になってしまうとは)
私は死後も、この世界を見守っている。
代行者と呼ばれる【使い】を地に遣わし、私の目となり、声となり…次代に伝える。彼女たちは、誰かを愛した時点でその任を解き、役目から外していく。情報として伝えた記憶は次に選んだ娘に託し、未来を紡いでいる…はずだった。
だが、小さな運命のズレは、一人の王の心を壊し、同時に一人の少女の未来さえ打ち砕いてしまったのだ。
(彼女の声が聞えなかったわけではない。でも…あの子は)
女神の記憶を受け継ぐべき代行者の少女は、片目の悪魔に囚われ、そのささやきを聞いてしまった。
…それが罪だと知らぬまま、純粋な心は闇に呑まれて色を失う。
悪魔は私の輪廻から外れた身体を作り、そこに封こた。
そして、世界は歪み始める。
繰り返される時間の向こうで、運命に翻弄される者達。
かつて私が最初に愛した者もまた、私を失うことで心を壊し、してはならない罪を犯した。罪の証となった砂時計は、その後もまるで罰として受け継がれていくように、形を変え、姿を変え…彼らの心を蝕んでいく。
繰り返されるたびにその世界を切り取り、まるでつぎはぎのように上書きし、世界は悪魔の手によっておかしくなってしまった。
彼もまた、世界を変えるための一つの駒だったはずなのに、その駒は意志を持ち、知識を持った。
(…止めなくては)
そこで見つけた。
この世界を変わらず見つめ続けてきた、穢れなき心を持つ眼を。
**
その眼はずっと、小さなガラス瓶の中で、繰り返されるその世界を見つめていた。そして、旅立ち…一人の少女の一部となった。
「「ああ…結局、終わらない」」
少女は、血を流して横たわる自分の姿をずっと見ている。
彼らはずっとこのまま永遠に繰り返し続けてゆくのか。暗躍する錬金術師は、大いなる意志がもたらした、手札の一つ。
世界を正常に導くために鍵であり、誰かが断ち切る理由のために作られた憐れな存在。
踊らされた憐れな魂など、まともな末路など辿れるはずもない。
「私は、また…何もできずに見守るしかできないの」
『なら、あなたが変えてみますか?』
「…?」
眼は、私をとらえる。
『人ではないあなたと、形あるあなたにしかできないことがあります』
「私にしか…できない?」
『そう。時間の輪廻にとらわれることなく、世界を正しい方へ導くの。あなた達、二人で』
「私…達?」
『時に女神としての情報は…何も言葉だけでなく、一つのゲームとして伝えることもできるわ』
「ゲーム??」
『そう。…ちょとだけ、遊び心よ。ずっと見守るだけじゃ、退屈でしょう?』
どうか、選択することを恐れないで。
歪んだ世界でも、愛してほしい。時間の呪いが消滅したとき、よりよい未来が待っているから、絶望しないで。
そんな願いを込めて。
『世界を滅亡から救ってください』
こうして女神は、カサンドラという一人の少女と、かつて【眼】だった形なき魂を、旅に出すことに決めた。
こことは違う場所で、この繰り返される世界を終わらせる鍵を見つける長い長い、魂の旅へ。
**
そして、今。
「新しいゲーム…やってみようかな?」
私は、また彼女の中から世界を見ている。
彼女が本当の幸せを見つけて、自分で鍵を開いたように。私もまた。
ーENDー
一度締めます。二番煎じをここまで読んでくださり、ありがとう御座いました。やり残したことをまとめたらこんなことに。reではない、同タイトルの方にユリウス、ヘルト、アードラ、ノエルのEDが載ってるので、興味があると読んでくれると嬉しいです。
全キャラ幸せにさせるにはカタブツレアルド王子とこっちの人間アードラが残ってるんだけど…まだ考え中。機会があれば外伝投稿します&添削等も。
また、いいねアンド評価くださった皆様に心からの感謝を。




