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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
終章  ヘヴンス・ゲート

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第110話 黒曜の間

「創生の…神話?」


神は存在するのか?

と聞いた時、多くの人間はアロンダイトを指すだろう。

古来より、女神アロンダイトはそれだけこのハルベルンという国の心に根付いており、幾度と時が過ぎた今でも、その信仰は篤い。

しかし…歴史というのは、後世に伝わるにつれ不要な情報や、都合の悪い真実は湾曲され元の形状を失い、民衆が好む物語のような美しく形に彩られていく。

それは、この創生の神話でも如実に表れていた。


「大衆が喜び、神格化された物語の存在はより多くの信仰を集める。元・神官のお前ならわかるだろう?」

「……」


だがユリウスにとって、この世界においての『神』という存在は、女神ではなかった。

それは、『運命』やら『時間』やらを超越した、人間には認識すらできない大いなる意志。

神職としての任を退いたのも、真実自らを信じるものが神ではないと気が付いてしまったからである。


「…女神の骨で作られた砂時計の力に一番初めに気が付いたのは…バロル国王陛下だった」

「砂時計の力?」

「女神の骨粉には、年月が経った現在でも尋常じゃない魔力と、時を歪めるほどの強烈な力を放出し続けている。…女神は、それを戒めとして伝えたはずだった」


ふ、と白い煙が上がる。

どうやら、ロッシが手持ちのパイプに火を点けたようだった。そして、ちらりとヘルトを見、複雑そうに微笑う。


「息子を思う気持ちというのは、時に人を狂わす。それが、望まぬ末路を迎えたとなると」

「望まぬ末路…まさか、ヒューベルト殿下の…」

「実の息子が事故とはいえ、兄を死に至らしめた…その事実を、国王夫妻は受け入れなかった。…陛下にはお会いしたか?」


ユリウスとヘルトは顔を見合わせた。


「…正気ではない様子でした」

「実は、それがあの方にとって、一番幸せなのかもしれないな」

「まさか…」

「そう、砂時計の秘密に気が付いた陛下は―――多くの者を代償にして、時をゆがめた」

「歪めた…そんな、そんな一言で」


何のために騎士や、民衆は、誰のために。

その言葉を飲み込み、ヘルトはロッシの言葉に頷いた。


「それから始まった…ある程度の時間を過ぎると、変事に見舞われ滅びを迎えるこの逆行の世界。」

「あなた方は…気が付いていたのですか」

「……それが砂時計を使った代償だと、気が付いたのは随分後のことだ」

「回避する方法は?」


ヘルトの問いに、ロッシは首を静かに横に振る。


「出来事は形を変えても必ず起こる。一度時をくりかえした人間は、時の記憶を持って時を追体験することとなり…その先にある末路を見届け、次につなげていく…それ以外、滅びを止める方法はない」

「それで…それで、いいのですか」

「ならば、どうする?!黙って滅亡を受け入れる以外に道はない…何をしても、結末は変わらない…!」


ロッシの言葉につなげるように、ゲオルギウスもまた口を開いた。


「…形ある者はいつか失い、滅びる。亡びることが決まっている未来があるなら、一つの時間軸で失った物と再び巡り会えるのだ、それもまた…奇跡だろう?」

「代償は、償うべき罪。一人の人間が犯した過ちを我々は受け入れ、決められた時を生きる事…それしかできない」


諦めにも似ている。

絶望にも似ている。

どこか投げやりな言葉を受け、ヘルトは思わず歯を食いしばる。

そのやり取りを見て、ユリウスは自らの拳を握りしめる。


「…そんな理由で」


言いかけて、ユリウスは先ほどのヘルトの言葉を思い出す。


「まさか…ヘルト殿」

(彼女を愛する資格がない、と。…一度、砂時計の力を借りた、という)


「使ったものは代償として、その直前の戻した世界の記憶を持ち合わせている…と、あなたは言った」

「ユリウス…それは」


(言葉にすらできない。…彼は、ヘルト・グランシアは、己を律し、自身に誇りとプライドを持っている。そんな彼が、砂時計を使う理由など一つしかない)


「…そうだな、お前たちにこの世界の仕組みを教えてやろうか」

「仕組み?」ゲオルギウスの言葉に、ユリウスは頷いた。

「出来事は形を変えても必ず起こりえるという事実が一つ。それを覆すと、何が起こるか予測が難しくなるということ、もう一つは、稀にその時の記憶を持って時を追体験する者が現れるということがある」

「回帰者、まさかあの錬金術師…?!」

「ある事象(原因)から、それより未来の時刻における事象(結果)は全て因果的に決定されることとなる。逆行世界には、必ず起こりうる出来事が点在していて…それを組み合わさった先の果てが滅びとなる…その一つ一つを確実に把握していれば、あるいは」


淡々と語られる話は突拍子もなく、かといって妄想や俗話として片付けるのは難しい。…結局、それが真実だと認めざるを得なかった。


「……全ての過程を弄くりまわし、条件と、設定を理解さえしていれば…、おのれの都合のいいように操作もできると。それが、許される…と?」


身体の内側から沸き起こる沸騰するような感覚になった時、ふと、ユリウスの耳元で忍び笑いが聞こえた。


「くく…くくく…」

「?!」


――そして、暗転。

気が付くと、ユリウスの周りには誰もいなくなっていた。


「…これは」

「ユリウス、お前は賢い。世界とは…ある偉大な存在が支配し、生命をやりくりして回しているということを知っているだろう?」


影一つない、真の暗闇。

それとも、自身が影の中にいるのか、それすらわからない。


(まるで見えないのなら、自分が目を閉じればいい)


瞳を閉じると五感が研ぎ澄まされる。

四方から聞こえるこの声は、紛れもなくファルケン・ビショップと名乗っていた存在と同じように思える。


「ここは私の領域――私は影。物質的でもなく、全てを歪めることができる究極の存在に到達している」

「爆風で自爆したものとばかり思っていましたが……ここまで来ると、あなたのその執念に感服いたします」

「おやおや…私の名前を呼んではくれないのか?我が血を引く者よ」


我が血を引く者。その言葉は、ユリウスの精神をさらに逆なでした。


「挑発には乗らない」


ユリウスの言葉を聞き、声は耳障りな甲高い声で激しく笑った。


「何が可笑しいのです?」

「お前はやはり、私によく似ている。ユリウス・フォスターチ」

「……は?」

「目に見えない、全てを作り出す存在が確かにある。女神でさえも、それに仕えるだけの小さな存在に過ぎない」


更に耳元で聞こえた自分の言葉に、ぎょっとなる。


「…いつも、そう思っているだろう。だから、司祭を辞めた」


ユリウスは、肯定もしなければ、否定もせずに口をつぐんだ。

だが、やがて瞳を開き影の向こうをにらみつけた。


「…あなたが崇める存在とは異なる物だと考えています。一緒にしないでいただきたい」

「お前なら分かりあえると思ったのだが」

「心外ですね…そもそもの根底の考え方が違うというのに。勝手に同類にしないでいただきたい」

「はは、何が違うというのか!ユリウス、お前は私と同じだよ。認めるがいい」

「…誰が」

「今からでもこちら側へ来い。お前の求める真理の答えはこちらにある」

「……」


ユリウスは、ファルケンの言葉をすべて否定することは出来なかった。

しかしそれ以上に、一つでも認めてしまうことは、あまりにも危険で恐ろしことだと本能が告げている。


(化け物の心理は化け物にしかわからない、か)


今こうして向き合い、心底それを感じた。


「残念だが、私には到底理解できない。王家を巻き込んで、国全体を貶めて…そうまでして得るものは何だというのですか。ご自身の研究の痕跡?それとも、力の誇示ですか?」

「力の誇示?研究の痕跡?…そんなものに興味はない。」

「では、一体何を」

「お前たちも想像できるだろう?今皇帝に坐しようとしている彼が何者か、何のために生まれたか。何で出来ているか」


すると、足元に人の形をした赤い石がびっしりと並んでいるのが見えた。


()()()()()()()()がこのハルベルンという帝国の皇帝になる…私の研究はすでにヒューベルトが王の座を得たことで完璧な成果を出している」

「完璧な成果?事実をゆがめて生み出した結果など、評価に値しない」

「私の作品たちは自らの運命を悲観してなどいなかった」

「作品…だと?」

「くく…また会えて嬉しかっただろう?…お前はリオンを慕っていたからなあ」


懐かしい、あの姿。

『再び巡り会えることを奇跡と思う』―――

先ほど聞いた、ロッシの言葉を思い出す。


「ヒューベルトも、ヴィヴィアンも、リオンも。最終的には、そうすることで自らの我を通したまでのこと」

「我を…通した?」

「ああ、ヒューベルトは己の願いのまま、ヴィヴィアンは己の欲望の為。とても人間らしい行動だと思わないか?」


公爵家に伝わる記録を見て、温室の邸を見て…手帳を見て。気が付いたことがある。この存在にとって、生命や想いなどは全て形のない材料にしか過ぎないということ。


「貴様とて、元は人間だろう?!」

「欲望こそ、生あってこその原始的感情!彼らは仮初でも、生きることを選び直す権利を与えてもらったことに感謝していることだろうよ!」

「死者の冒涜するな!!!」


たまらずユリウスが声を荒げると、ファルケンはさも意外だと言わんばかりに首を傾げた。


「何を怒る、何を嘆く?これは正当な等価交換だ!!ヘルト・グランシアと同じように…お前もまた、同じ選択をするだろう」

「!」

「カサンドラ・グランシア…お前は彼女の何を知っている?」

「彼女は関係ないだろ…」


言いながら、はっとなる。

全ての根源は『分相応の願い』と『その代償』から始まった。

繰り返される時間の度、失うものが何もないなどありえるのだろうか?


「等価交換…砂時計を使う度、何かが、失われていく…のか?」

「もう、時間がない。選べ」

「な にを」

「砂時計は、返された。…もう残りわずかな時間しか残っていない。資格を有する者…次はお前だ。ユリウス・フォスターチ。黒曜の間に入った時から…世界の命運はお前の手にある」

「…な」

「ハハハ!!!憐れなものよ!!!言っただろう!!同じ条件、同じ因果で起こりうる結果がある、と。…国の心臓に最も近く、曖昧な逆行記憶を持つお前たちをここに導くよう仕向ける事の、なんとたやすいことか!!!」

「……っすべてが仕組まれた…?」


曖昧な逆行記憶、回帰者と呼ばれる者。

例え過去の記憶を持っていたとして、その先に何があるのか確信できない場合、どうしてもそれに足る確信に似たものがあれば、縋ってしまいたくなる。

黒曜の間自体が、埋め込まされた記憶の引き金となるなら。


「私は…!」


その時、どこかで何かガラスのような物が割れる澄んだ音が聞こえた。


「…?!」


一筋見えた光に手を伸ばし、掴む。

その先にあった光景は―――ぱらぱらと、金色に光る砂が舞い上がり、ちらちらと赤い光が瞬く。

その向こうにいたのは…横たわるカサンドラの姿と、粉々に砕けた銀色の砂時計だった。


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