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【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第9章 ヒロインと主人公

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第106話 その名前は、崎本結奈


「ヴィヴィアン!!」

「!あなたは…」


名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がざらりと波打った。


(何で…ここにこいつがいるの?!)


ヴィヴィアンの唇が動こうとする前に、身体の奥から別の声が漏れる。


『バルク…』

「!!」


見えない手が喉を締めつけるようで、うまく喋れない。


「何を――しに、 きたの」


顔の筋肉が引きつり、笑ってみせた。けれど、その笑みは自分でも不自然だとわかる。


「……ヴィヴィアン?」

「久しぶりね、バルク」


声が違う。

トーンも、呼吸も、何もかも。

バルクは混乱しながらも、ただその姿を真っすぐ見つめた。


「何が…あったんだよ」


風が吹いた。

窓から差し込む光がゆらめき、部屋全体がひとつの幻のように揺れる。

目の前に立つのは、確かにユイナその者。…けれど、その奥に“別の誰か”が笑っているように見える。


(大人しくすっこんでなさいよ…!!)

『ヴィヴィアン…ッ』


内側の声が重なり、ヴィヴィアンの身体は軋んで、うまく動かせない。


「ヴィー…!何か、変だ。今の君は…何処か、違う!」


バルクが歩みだすと、ヴィヴィアンは後ずさり頭を押さえた。


「うっ…邪魔、しないで」


更にバルクが一歩近づく。

彼の目は、まっすぐで、まるで昔の“あの人”のように優しい。

前に行こうとする心と、逃げ出したい心が衝突しあい、立ち上がった弾みにテーブルのシルバーカトラリーを落としてしまう。

そこに映る自分の顔を見て、ヴィヴィアンは片手で顔を覆った。


「いや…」


落ちたカトラリーには、色々な人間の顔がいて、皆口々に何かを訴えているように見える。


「いや!!いやああーーー!!!」

「ヴィー…?!いったい、どうし」


駆け寄ろうとしたバルクの隣にいたアードラがにやりと笑う。


「一つ、教えてあげるよ、バルク。彼女は今戦っている。君の知っていると彼女と、もう一人の――あの、化け物と」

「戦って…る?」


すっと指さした先で、ヴィヴィアンはものすごい表情でこちらをにらみつけた。


「うるさい、うるさいうるさい!!!何よ!!アタシの邪魔するなよ!!!」

「あんたからは、僕と似ている空気を感じる。ま、最も…僕の方がよほど力が強いけれど?」


息が荒く、目が血走る。その形相を見て、その場にいた侍女や神官が逃げ出そうとした。


「きゃああ!!!」

「ヨコセ!!」


喉元に手を当てると、赤い光があふれだし、一つの結晶になった。


「それは…あーあ。ほんとに、哀れな化け物に成り下がっちゃったわけだ」

「お、おい!あれは…なんだ?!」

「さあ、バルク。君に選択権を与えるよ」

「選択?!」


アードラはそう言うと、バルクの肩を掴み背後に回る。


「あの化け物を殺すか、愛するか」

「な…」


バルクの目のまえにいるのは、先ほど奪い取った赤い結晶を口の中に放り込み、ゲラゲラと笑う赤いドレスのソレは、ずっとバルクが傍で見ていた大切な少女によく似ている。


「フフ…!ははは!!邪魔しないでよ!!私はねえ!!あたしは!!彼と幸せになるの!!!自由になって、みんなに褒めてもらって!!私が…ぼくが!!」

「…っどうして、こんな」


それでもなお、怯むことなくバルクは目をそらさない。


(だって!どんな姿でも、俺の知るヴィヴィアンは…!)


「わあ…素敵なドレス!!バルクがデザインしたの?!」


その時、贈ったのは復活祭の時に着る、眩いスパンコールに、幾重にも重なった青レースのフリルドレスだった。


「その、エスコートはできないけど…少しでもって」

「すごい!すごい!…でも、大変だったでしょ?その、ドレス一着って作るのはとても大変だって」

「あー大丈夫だって!!俺はプロだし?」


言いながらも、実は二日続いての徹夜作業で、頭はふらふらだ。

(でも、この子の前でかっこ悪いとこは見せたくないし!)


「もう、無理しちゃって。…なら、これをあなたに」


そう言って差し出したのは…自分の名前が刺繍された白いハンカチだった。


「!これ…あ でも」

「ん?」

「スペルが…」

「!!!嘘…調べたのにっ」

「!ぜ、全然大丈夫だって!!ほら!こっちの名前をデザイナー名にするのもいいしさ?」

「でも…」

「いや、ホントに嬉しいよ!!ありがとう、ヴィヴィアン」


あの時のハンカチは、今も胸もとにきちんとたたんでしまっている。

それを握りしめ、バルクは歯を食いしばった。


「何か…悪いものがいるんだろ?ヴィーが…っヴィーじゃなくさせている、化け物が!!!俺はそんなのに、絶っっ対に!!負けない!!」


その言葉を聞いて、アードラは満面の笑みを浮かべる。


「やるじゃん。じゃあ、君にあの子を悪い魔法から解き放つ、とっておきの呪文を教えようか」

「呪文?!早く!!このままじゃ…」

「サキモト ユイナ。この名前を」

「…えっ ユイナ…って」

「君が会いたい、あの子の名前さ」


アードラの言葉を最後まで聞かず、バルクは走り出した。


「うおおおおっ!!!!ユイナぁあああ!!!今!助けるから!!!!」

「!!!」


(や、やめて。呼ばないで――その名前で)


『そんな…いや』

「バルク!!」


声にならない声と、ちぐはぐの言葉が二つ重なった。


「崎本結奈!!!俺は、君が好きだから!!!どんな姿だって…!!!」


ドキドキと、胸が煩い。

緊張からなのか、恐怖からなのか。でも、それにめげずバルクはただただ、しっかりと抱きしめた。


「絶対に!!君を見つけて見せる!!!!」

「!!!」


(触らないで!わたしに触れられたら――【私】が、壊れる―――)


…カラン。

首元の翼の紋章…聖女の証が足元に転がる。全身の力が抜け、立っていられない。それでも、しっかりと抱きしめてくれている腕が暖かく、その手に縋った。

バルクが息を呑む。


「あの、ヴィ・・・違った、ユイナ、 さん?」


一番最初に聞こえた声は甘く、懐かしく、どこか懐に染み込むようだった。


「…なによ、今更《《さん》》だなんて」

「……あ!」


バルクにもたれながら、結奈は微笑する。

ユイナの瞳の奥に、金色の光がちらりと灯った。


「ふふ…ありがと。バルク…いつもたすけてくれ…」


その続きを紡ぐ前に、結奈の唇はふさがれた。

あまりのことに、思わずのけ反る。


「…んっ、ち ちょっと」

「!!!わああ、ごめん!!」

「あ」


慌てて手を離した瞬間、ぐらりとユイナの身体がふらつく。

再びしっかりと抱きしめた。


「いや、ごめ……っじゃなくて!!…君が、好きなんだ」

「バルク…」

「どんな姿だって…俺は、いつも君を見てるからっ…」


その言葉を聞いて、結奈の瞳から涙がこぼれた。


「だ…大丈夫?」

「だいじょうぶ。わたしは、もう――」


頭の奥で、ヴィヴィアンの声が囁く。

〈だめよ、ぜったいにゆるさない〉

微かに笑う声が、頭の中で何重にも反響する。


「……!」


思わずこめかみを押さえ、膝をつく。


「ユイナ!」

「そのまま…支えてて」


バルクしっかりとその肩を支える。


「大丈夫…もう、負けない!!!」


その瞬間、身体の奥で何かが“はじけた。


(やっと、見つけた…私が、この世界に来た意味)


…目が覚めたら、異世界だった。

しかも、憧れていた『ヘヴンス・ゲート』の世界。結奈がいたのは、ハルベルンの首都・アンリで一番大きな宿屋のベッドの上。

窓から差し込む光がまぶしくて、空を自由に飛ぶ鳥たちを見て、外にある見知らぬ景色に息をのむ。


「わあ…!大きなお城に…時計塔!!!すごい…すごい!すごすぎる!!」


初めはただ嬉しくて、ゲームみたいにキャラを攻略して、幸せになって。それが現実にできることを夢見ることが許されていて。

幸せだった。

身に宿る不思議な力も、手をかざせば色々なものを浄化してくれて、綺麗になる。

それが嬉しくて…色んな人に出会って、彼女と会って。

気が付いた。ここは、現実だと。


(ちゃんと、意味がある。与えられた力だって)


ぎゅっと目をつぶると、内側にひしめく声なき声達の想いが流れ込んでいく。

愛し合っているのに、どうにもできなくて死を選んだ令嬢。

家族に愛され、その想いを抱いたまま病で散った少女の祈り。

アカデミーの試験に合格して、明るい未来が約束されていたはずのなのに、事故で命を落としてしまった絶望。


様々な想いが一つの糸のようになっていて…大きな束になる。

そして、かつて聖女と呼ばれ、逢いたいと願った王子様と再会したのに結果、離れ離れになってしまった哀しい少女の願い。


「ただ…彼に会いたかった。もう一度」

(わかった…。じゃあ、一緒に行こう。必ずもう一度、会わせてあげる)

「うん…お願い」

そして、二人の聖女の魂は手を合わせる。そして――

バルクの額に、雨粒が当たる。


「あ…雨」

「浄化するのは…私の役目だから」

「ユイナの…力?」

「うん。…ありがとう、バルク。…大好き」

「!」


しっかりと抱きしめ合う二人を見て、アードラはため息をつく。


「やれやれ…おや」


いつの間にか隣にやって来たカシルは、肩で息をしているように見える。


「僕は…決めたぞ!体力をもっとつける!!知力さえあればどうにでもなるって思ってたけど、意味がない!!って…よくわかった」

「ひよこくん。遂に鶏になる決心をしたんだ?」

「ひよ子っていうな!!…なんだよ、みんな幸せになりやがってっ…」

「あー…もしかして、さっきのお二人さん?あっちも片付いちゃったか」


どうやら、レイヴンとリンジーもまた、命の危機に瀕した吊り橋効果の一端で、想いを確認しあったらしい。


「異常事態だからねえ。正気に戻った時、大丈夫かね?」

「フン!知らないよそんなこと!!」


(さて…こっちの聖女様問題は片付いたけど)


アードラは神殿の窓から見える、王城を見た。


「あっちは、どうかな…」


一つが解決したからと言って、全てが解決するとは限らない。

突如降り注いだ、雲なき空から落ちる絹のような糸の雨は、首都に留まらずハルベルン全体に染み渡る。

それは…遠く離れた場所も例外ではなかった。


同時刻、フォスターチ・植物園

爆散した邸の残骸の中に、黒焦げになった物体が転がっている。

瓦礫に半ば潰され原型はとどめていない。にも拘らず、煤けた塊は徐々に結合しあい、ぴくぴくと動き出す。


――からだなど、いれものにすぎない


既に煤けた黒い灰はゆらゆらと動く。


「これで、おわりだとおもうなよ」


そう、呟いた。

読んでいただきありがとうございます。

バルク、頑張った。あともう少しで決着がつきますので、お付き合いいただければ幸いです。

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