表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】re:どすこい令嬢の華麗なる逆襲~すべてのフラグをぶっ壊せ!~  作者: いづかあい
第9章 ヒロインと主人公

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/119

第100話 開かれた扉


今日は休息の日。

いつもはどこか開放的で、浮足立った雰囲気の礼拝堂なのに、今日はどこか異様な静けさで包まれている。

きっちりと閉じられた扉に背を向け、ヒューベルトは拝殿のさらに奥へと進んでいった。


(これで、よかったのかい?)

「ああ、あの二人には早く気が付いてもらわないと」


大理石が敷き詰められている長い廊下をゆっくりと歩いていく。時折すれ違う司祭は皆虚ろな目をしていて、こちらを気にするようなそぶりも見せない。いつもは目を光らせて通るものを監視している門番たちも、見向きもせず虚空を見ている。

ヒューベルトはひとり、女神神殿の拝殿のさらに奥になる、深淵の間に向かって歩いていた。

やがて、一見すると壁画のようにも見える、取っ手のない大きな扉の前に立つ。

描かれているのは、荒廃した大地に祈りを捧げる青年と志を共にした幾人の仲間たち。そして、まさに神の使いとして天上から降り立つ女神の姿の壁画だった。


「女神降臨伝説の始まり…これが扉か」


手をかざすと、複雑な印がまるで細かい糸のように絡み合い、資格なきものがその術を解こうとすると、命を落とすとも言われている。


(…すべてはこの為に)

「全ては、このために」


そこは女神神殿の宝物庫となっていて、特殊な魔法が仕掛けられていた。

ハルベルンには王宮と女神神殿、それぞれに相応の女神の遺産が収められている。

ヒューベルトは勿論、レアルドでさえその鍵を手にしたところで、玉座に就かない限り中を窺うこともかなわない。

ある例外を除いて。

音もたてずに開かれた扉の先で、ヒューベルトの目に入ったのは、エントランスにかけられた一枚の絵画だった。


「我が最愛の妻に捧ぐ…すべての母、全ての恵みの象徴」


それは、ヒューベルトと同じ白金の髪と黄金の瞳を持ち、優しく微笑む姿の女性。初代のハルベルン国王が最も愛したという最愛の女性、【アロンダイト】の在りし日の肖像画だった。

その絵画を始まりに、まるで物語のように絵画が複数連なっていた。

遠い昔、ハルベルンの大地は荒れ果て、続く災厄の嵐に人々の心も体も疲弊しきっていたという。

誰かを妬み、少しでも自分より優れている物を見ると、互いに羨み奪い合い…人々は毎日何かを失うことに慣れてしまい、ついには何も守らなくなってしまった。

凄惨な光景を目にしたある一人の心優しき青年は、天に向かって昼夜問わず、祈り続けた。


「多くは望みません。どうか我々に少しでもいい、安らぎと希望をください」


天の扉の奥に住まう大いなる存在はその青年の祈りを聞いた。

人間達を憐れに思い、乾ききった大地に天の娘を遣わすと、みるみるうちに大地に雨をもたらした。

彼女の名前は『アロンダイト』。

正義の天秤を持って人々の心の善悪を測り、人々の中にある悪しき心を鋭い剣で浄化していったという。

やがて、悪しき心は影を潜め、人間達に正しき心が戻った頃。女神は神の任を終え、祈りを捧げた青年の元にゆき彼もまた彼女を妻に迎えた。その尊き血は代々受け継がれていく。

アロンダイトが一人の人間として死を迎えた時、その遺体は天に還る為に炎に巻かれ、煙となって空に還っていったとされている。

絵画の物語は、初代国王と6人の子供たちが大きな円を描き、その中心に白い薔薇の花束と小さな銀色の砂時計が置かれている絵画で終わっている。

―――しかし、この物語には続きがある。

絵画の回廊を抜けるとヒューベルトは、最も奥にある部屋の銀色の扉の前に立った。ハルベルンの印が刻まれた鍵を掲げると、扉は音もたてずに開け放たれる。

その奥にあるのは、強力な魔法で幾重にも封をされている銀色の箱だった。


(いよいよだ、フィサーリ)

「ああ…本当に、やっとかもしれないね」


銀色の箱に写る自分の姿を見ていると、頭の奥の方に聞きなれた乾いた声が聞こえてくる。

その姿を見て、フィサーリと呼ばれた青年は哀し気に眼を閉じた。


「…君には本当に申し訳ないことをしたと思っている」

(いや、こうなるのは決まっていたことだから。…僕と君でしか、この扉を開けないだろう?)

「うん…二つの王家の、血を受け継ぐものでしか」

(女神は、二つの血が分かつことなく、一つに交わることを願っていたんだろう)

「しかし、ルベリアムもエイリアスも…互いに背を向けたまま、未来の時を刻んでしまった」

(私は過去が…そしてフィサーリ、君は)

「僕は…遠い未来が視える」


持っていたナイフで自らの指を切ると、淡い光の波が現れ、慎重に印を一つずつ外していく。

何度目かの錠がほどかれていくと、徐々に封印は解かれていった。

全ての封印を解かれると、静かに閉ざされた箱の蓋が開かれた。

金と銀が混ざった文様に、赤い石が散りばめられた不思議な光沢。固い強固な玻璃で何重にも覆われた砂時計は、さらさらと微かな音を立てて流れていく。


(もう…あまり時間がない)

「ああ。…急がないと」


***


バサバサと翼をはためかせ、そのかぎ爪に、小さなネズミを二つ持ち、鷹が空を飛ぶ。はたから見ると、捕食者と獲物のような様子だが…実は違う。

館に入ると、相変わらずかび臭い匂いがつん、と鼻を刺激する。

翼を広げて館の中を回ってみるものの、二階に続く全ての階段は不自然な程に塞がれていた。

奥の部屋に続く廊下もまた同様に粉々に砕け散っているように見える。そこにできた小さな隙間をめがけて、アードラはネズミ二匹を放り込む。


「余程隠したいのかね…全く。それじゃ、行く―…よ!」


そう言って、雑に放り投げられたネズミはころころと転がる。

一匹がピシッと着地するが、その上をもう一匹のネズミが飛んできて、その頭上を襲撃した。


「おい…わざとか?」

「いいえ。偶然です」


言いながら、人の姿に戻るとユリウスは服についた埃を払う。


「なるほど…ネズミの視界はああなっているのか…」

「……二度とごめんだ」


ぶつぶつ文句を言う二人の前にアードラが着地する。


「はー…つっかれた。無駄な魔力つかわせないでほしいな、全く」

「一人より二人、二人より三人の方がうまく行く場合もある」


結局なんだかんだともめた後、アードラは二人の姿を小さなネズミに変化させ、鷲掴みにして運ぶ、という乱暴な手段をとることにした。


「内装を見れば綺麗な物なのに、これじゃ誰も二階に眼もくれないだろうな」


壊れた階段を見下ろしながら、ヘルトが呟く。


「…ユリウスがこの館に入ったことは?」

「当時はまだ子供でしたから…祖父と会ったのも数えるほどですし」

「建物の構造からすると、おそらく結構な広さの部屋があるはずだが」


先行するアードラが、倒れかけた壁の木くずや積み重なったガラクタの合間を縫って奥に進むと、そこだけ異様に綺麗な状態の大きな扉の前に行きついた。


「ねえ。扉があるよ…僕達以外に人の気配はしないと思う」

「わかった。少し待て」


遅れて二人が到着すると、アードラもまた人の姿に戻る。

と、そのまま扉に触れた途端電流のようなものが全身を駆け巡り、思わず一瞬構える。


「?!」


しかし、それ以上は何も起こらずに扉はすんなりと開いた。


「扉が開いた」

「これは…」


アードラにとってその場所はどこか懐かしく、言いようのない不快感と閉塞感が同時に沸き起こってきた。


(僕はこの光景を知っているぞ。ここはかつて自分がいた切り離されたあの空間に似ている)


部屋の中央には大きなテーブルが置かれていた。

その上は雑然としていて、大小さまざまなガラスの容器や分厚い本、それに怪しげな液体やら何かの骨、異臭を放つしおれた花など、気持ちの悪い物が所狭しと置かれている。


「まさに…研究所、という光景ですが…」


思わずユリウスがうなると、しおれた花をそっと持ち上げる。


(紫スズランの花…根の部分は既に使用済み、か)


 四方の壁に窓はなく、何かが書き込まれた走り書きのメモがびっしりと隙間なく貼られており、わずかに見える白い壁はどれも汚れているように見える。


「これは…メモの様子を見る限り、年月はそう経っていないな」


各々その部屋にある物を物色する。

ヘルトは壁際の棚にあるノートを何気なく手に取ってみた。パラパラとページをめくり、ある項目に目が留まる。


「時間的逆行的情報保存原理と復元の課題…結合と矛盾、時間的パラドックスの調律、因果律の不可侵性……時間逆行…?!」

「なんか、随分と難しそうなものを見てるな、ヘルト君?」

「…鷹。お前はこれを見てわかるか?」

「ん?…これは、多分…うーん、いわゆる、タイムパラドックスや、タイムリープが実際にできるか、とかそう言う内容だと思うけど…僕自身そこまで知識があるわけじゃないからな…」

「タイムリープ…」

「持ってくの?」

「ああ」

「へえ…ん?」


ふと、アードラの目に壁際に置かれている机の上にある、異様な赤色を放つ深紅の宝石のようなものに目が留まる。

近づいてみてみると、その赤い光はどこかで見たことがあるような気がする。


(この赤色はどこかで)


ふと、ウサギの姿を思い出した。


「ウサギ。ラヴィと同じ、色?」


そしてもう一人、彼女もまた同じ瞳の色をしていた。


(…まさか、冗談だろう)


「美しいだろう、その光」

「!」


ぎょっとして振り返ると、現れたのはファルケン・ビショップだった。

(さっきまで…誰もいなかったのに)


「やあ、《《リオン》》。…それにユリウスまで。まさかこんな場所で可愛い我が孫に会えるとは」


なじみのない【孫】という言葉と、リオンと呼ばれたことに両眉をひそめた。ユリウスも同様で、化け物が、と吐き捨てるように呟いた。


「それに…」

「……」


ちらりとヘルトの姿を見ると、ファルケンはにやりと笑った。


「ヘルト・グランシア。…こうして私と対峙するのは、一体何回目だろうね?」

「何の話を…?!」


ファルケンの言葉がやたらと頭に響き、思わず頭を押さえる。


「…既視感というものがある」

「!!」

「君はこれまで過ごした時間の中で、1 一度も見たことがないのに、すでにどこかで見たことがあるような景色や出来事を感じたことはないだろうか?」


ヘルトはその言葉を否定することはできなかった。




ついに100話超。読んでくださり誠にありがとうございました!

最後まで見届けてくれると、嬉しいです!

ブックマークや評価、ありがとうございます。精進します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ