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第9話 「プレゼント選び」

 「すまん我が妹の由美利……助けてくれ……!!」


 昼下がりのリビングに、俺の情けない声が響き渡った。


 そして——


 バンッ!!


 俺は勢いよく床に頭を擦り付け、完璧な土下座フォームを決めた。


 「…………はあ?」


 突然の兄の土下座に、妹の由美利は呆れたような声を漏らした。見上げて妹の顔を見ると顔も呆れ返っていた。


 「なに? お兄ちゃん、とうとう悪事でも働いたの?懺悔するなら私じゃなくて日本国民全員に懺悔しないと」


 「いや、そうじゃねえ! 俺には由美利の助けが必要なんだ!……てかなんで日本国民全員!?」


 俺は顔を上げ、真剣な目で妹を見つめる。


 「氷室透華の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってくれ!!」


 「……は?」


 由美利は瞬きしながら、俺の言葉を反芻する。


 「いやいや、お兄ちゃんさ……なんでそんなこと私に頼むの?」


 「そりゃあ、お前のほうが女心ってやつを分かってるだろ!」


 「……まあ、確かにお兄ちゃんよりはね?」


 何その微妙な間? ていうか、俺そんなにダメか?


 「でも、普通はこういうの、彼氏とかが悩むもんじゃない?」


 「違ぇよ! 俺たちはまだ、いや、全然、そういう関係じゃなくて……」


 「まだ?」


 「今のは聞かなかったことにしてくれ!!」


 俺が慌てて誤魔化すと、由美利はニヤニヤしながら腕を組んだ。


 「まあ……お兄ちゃんがそこまで頼むなら、付き合ってあげてもいいよ?」


 「マジか!? ありがとう!!」


 「でも、その代わり——」


 由美利は意地の悪い笑みを浮かべる。


 「この土下座の写真、後でお兄ちゃんの携帯から透華さんに送っとくね♡」


 そう言っていつの間にか俺の携帯で撮られた俺の土下座する様子を上から見下ろす画像を見せられた。


 「お前マジでやめろォ!!」


 昼下がりのリビングに俺の叫び声が響き渡った。




 *******

 




 こうして俺と由美利は、透華の誕生日プレゼントを選ぶためにショッピングモールへやってきた。


 「で、透華さんって何が好きなの?」


 「いや、それが分かってたらこんなに苦労してねぇんだよ……」


 「ふーん?」


 由美利は俺を横目で見ながら、じっくりと観察するような表情をする。

 あの後俺と透華の関係性については、一緒に付き合わせるならその代償として……ということでもちろん根掘り葉掘り透華との出会い、そして関係について聞かれた。

 

 出会いの部分についてはナンパを撃退した、とだけ言っておいた。

 なんぱ撃退時のセリフまで言ってしまうと、さすがに妹に一生ドン引かれる恐れがあり、そうなってしまった暁にはお兄ちゃんも立ち直れないので死人を出さないためにもプライバシーの権利を行使した。


 「……ねえお兄ちゃん、透華さんってさどんなもの持ってた?」


 「え?」


 由美里は分析してくれるようで俺にそんなことを尋ねてく。


 「普段つけてるアクセサリーとか、スマホケースのデザインとか。何かヒントになりそうなものなかった?」


 「……そう言われると……」


 俺はこれまでまだ少ない透華と過ごした時間を振り返る。


 「うーん……そういや、あんまり派手なアクセとかはつけてないな。服装もシンプルっていうか、落ち着いてる感じだし……まぁまだ私服を見てないからなんとも言えん」


 「なるほどねぇ」


 由美利は軽く頷きながら、ショーウィンドウを眺める。


 「じゃあさ、あんまりゴテゴテしたものより、シンプルで上品なものがいいのかもね」


 「たとえば?」


 「そうだなぁ……」


 由美利は店を見渡しながら、何かを探しているようだったが——


 「……あ!」


 突然、足を止めた。


 「お兄ちゃん、ここ!」


 指差したのは、シルバーアクセサリー専門のセレクトショップ。


 「ほら、こういうのならシンプルで使いやすいし、透華さんにも合いそうじゃない?」


 ショーケースには、細身のブレスレットやシンプルなネックレスが並んでいた。


 「たしかに……こういうのなら、透華もつけやすいか?」


 「でしょ? じゃあ、お兄ちゃん、どれにする?」


 俺はショーケースを覗き込みながら考える。


 (透華に似合うアクセサリー……)


 すると、ふと目に入ったのは、シルバーのシンプルなブレスレットだった。


 「……これ、よくないか?」


 透華のことを考えた時に真っ先にビビッときたのがこのブレスレットだ。


 「お、いいじゃん! シンプルだし、さりげなくオシャレだし!」


 「しかも、さりげなく小さな星のモチーフがついてる」


 俺は指でそっとデザインをなぞる。


 「星……?」


 「ほら、透華ってちょっとクールで、みんなから遠い存在って感じだろ? なんか、星みたいじゃね?」


 「……へぇ〜」


 由美利はニヤニヤしながら頷く。


 「お兄ちゃん、そういうところちゃんと見てるんだねぇ?」


 「うるせぇ!」


 俺はそっぽを向いて、ブレスレットを指さした。


 「これ、買うわ!」




 ******



 

 買い物を終え、ショッピングモールを出る。


 「ふふっ、お兄ちゃん、意外といいセンスしてるじゃん」


 「うるせぇ……俺だって、ちゃんと考えたんだよ」


 「そっかそっか〜、透華さんのこと、ちゃんと考えたんだ〜?」


 「……ッ!!」


 俺は何も言い返せず、ただ前を向いて歩いた。


 そんな俺の様子に、由美利はますます楽しそうに笑う。


 「でもさ、お兄ちゃん」


 ふと、由美利が少し真面目な顔になる。


 「透華さんにとって、このプレゼントって、きっと特別なものになると思うよ」


 「……なんでそう思う?」


 「だって、透華さんって、今まで“友達からの誕生日プレゼント”なんて、もらったことなかったんでしょ?」


 「……あ」


 そうだった。


 透華は、自分で「友達がいたことがない」と言っていた。その事もさっき由美里に説明済みだ。


 ということは——


 (もしかして、俺が透華にとって“初めての友達”なのか?そしてこのブレスレットは"初めての友達からのプレゼント"なのか?)


 そう思った瞬間、なんだか妙に緊張してきた。


 「……まあ、プレゼントは渡すだけだからな」


 「うんうん、頑張れ、お兄ちゃん!」


 由美利は俺の背中を軽く叩く。


 俺は、買ったばかりの小さな紙袋を握りしめながら、夜空を見上げた。


 星が静かに輝いている。


 (透華、喜んでくれるかな……)


 そんなことを考えながら、俺たちは家へと帰った——。


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