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第4話 「ぎこちない距離」

 透華と連絡先を交換してから、数日が経った。


 特に何かがあるわけでもなく、俺の日常は変わらない……はずだったんだが。


 スマホを手に取り、俺は画面をじっと見つめる。


 ——そこには、一件の未読メッセージがあった。


『あなた、今暇?』


 氷室透華からのメッセージ。


「……マジかよ」


 俺は思わずスマホを持つ手を強く握る。

 俺は夢かなんかじゃないかと何度も目を擦ったが見える景色は変わらない。

 氷室透華と連絡先を交換し連絡が来た。

 これは変えようのない事実であった。


 連絡先をなんだかんだ交換したとはいえ、向こうから連絡が来るとはさすがに思ってもいなかった。

 そもそも、あの氷室透華がスマホを使って他人とやり取りするイメージが湧かない。まぁこれは偏見でしかないが。


(とはいえ無視する理由もないしな……)


 俺は軽くため息をつきつつ、適当に返信を打つ。


『まあ、暇っていえば暇だけど、どうした?』


 送信ボタンを押すと、すぐに「既読」がつく。


(意外とこういうのマメなんだな……)


 しかし既読が着いてからの返信がなかなか来なかった。

 既読スルーか?とも一瞬思いはしたが少し待つと、また彼女から新しいメッセージが届いた。


『そう。ならいいわ』


 ……え?


「ならいいわ」って、なんだよ。「ならいいわ」って。


 俺は思わずスマホを見つめたまま固まる。


(暇かどうか聞いといて、俺が暇だって答えたら、それで終わり……?)


 それとも、何か用があるのか? だったら言ってくれればいいのに。

 それから少しだけ待ってみたものの特に追加のメッセージが彼女から送られてくることは無かった。


 若干のもやもやを抱えつつ、俺は再びメッセージを打つ。


『……それだけ?』


 数秒後、透華からの返信。


『ええ』


「ええ、じゃねえよ!」


 俺はメッセージで返すわけでもなく、思わずスマホに向かってツッコミを入れてしまった。


(なんだこれ……会話として成立してるのか?)


 俺は頭を抱えたくなった。


 あまりにそっけなさすぎる。やっぱり透華とLINEみたいな会話をしようってのがそもそも間違いなのか?


 悩みながら、俺は試しにもう一度メッセージを送ってみる。


『もしかしてそっちって会話苦手?』


 数秒後、氷室透華からの返信。


『私は無駄なやり取りはしないの』


 ……なるほど。おお?なるほど?パクリか!?

 つまり「会話のキャッチボール」じゃなくて「会話のキャッチ」だけをしてるってわけか。


「お前、それはただの壁打ちやんけ……」


 俺はスマホを持ったまま、溜め息をつく。


 こんなんでどうやって会話を続けろっていうんだよ……。


 と、その時。


 また新しいメッセージが届いた。

 

『それじゃあ……』


『何かしてほしいことはないの?』


「……は?」


 俺は思わずスマホを持つ手を強くする。


 何かしてほしいこと? いやいや、急にどうしたんだよ。


 俺は戸惑いながらも、適当に返信を打つ。


『いや、別にないけど』


 すると、数秒後に返事が来る。


『そう……』


 なんだ、その「そう……」は。


 なんとなくだけど、ちょっと不満そうな感じがするのは気のせいか?


(え、もしかして俺、なんか悪いこと言った?)


 でも、何かしてほしいことなんて特にないし。


 俺が戸惑っていると、さらに新しいメッセージが届く。


『……なら、今度暇なときに付き合いなさい』


 ……ん?


 俺はメッセージを読み返し、スマホを握り直す。


 「付き合いなさい」って、つまりどういう意味だ?


 俺は慎重に返信を打つ。


『付き合うって……まさかとは思うがデートか?』


 送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。


 そして、透華からの返信。


『違うわ! ただの用事よ!』


「ただの用事って……」


 俺は頭をかきながら、ふっと小さく笑う。


 結局、何をするのかは分からないままだが——


「まあ、なんか面白そうだしいいか」


 俺はそんなことを呟きながら、スマホをポケットにしまった。


(次に会ったとき、何を言われるのか……ちょっと楽しみかもしれない)





 ******



 

「……」


 私――氷室透華はスマホの画面をじっと見つめていた。


 悠斗とのやり取りが終わり、画面には最後のメッセージが残っている。


 ——『付き合うって……デートか?』


「……ばか」


 私は彼とのやり取りにどこか満足感を感じている自分に少し驚きながら小さく呟いた。

 そしてスマホの電源を落とした。


 久しぶりな感覚。

 なんだか胸の奥が、少しだけくすぐったいような気がした——。

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