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「胸を揉ませてください!」と叫んだら冷血美人な他校のツンデレ"茨姫"に気に入られた件。  作者: こうと


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第17話 あの日のキラキラを求めて



 御影学園はエスカレーター式で中等部からそのまま上がってくる人もいれば、高校入試で御影学園に入学する人もいる。

 光華は後者であった。


 そんな光華が入学して間もない頃。

 御影学園。格式ある学び舎で、誰もが誇り高く、優秀であることを求められる場所。


 光華は期待に胸を膨らませていた。

 この学園でなら、自分はさらに高みを目指せる——そう信じていた。


 けれど、すぐに気づかされた。

 どれほど努力しても、どれほど完璧を目指しても、「本物」には敵わないのだと。


 ——初めて見た、氷室透華という存在。


 彼女は、誰とも群れず、ただ静かに学園の中心にいた。

 その立ち姿は誰よりも美しく、冷ややかに見下ろす瞳には、決して揺るがない自信が宿っていた。

 他人の目を気にすることもなく、誰かに媚びることもなく、ただ一人でそこに立っている。


 気高く、完璧で、孤高。

 まさに、理想そのものだった。


 彼女を見た瞬間、光華は確信した。


(ああ……この人こそ、私が求めていたものだわ)


 透華は、学園の象徴だった。

 生徒たちが憧れ、羨望し、そして決して届かない存在として彼女を崇める。

 それこそが、「茨姫」と呼ばれる所以。


 光華は、そんな透華に惹かれた。

 彼女のようになりたかった。


 そして一年かけて自分の持ちうる物を全て出し切って彼女に肩を並べることが出来た、と少し思えた。


 それなのに。


(どうして……最近の透華は、こんなにも変わってしまったの?)


 透華は、確かに変わった。

 冷たく、隙のなかった彼女が、最近はふとした瞬間に笑みを浮かべるようになった。

 周囲に対しても、以前より優しくなった気がする。


 透華から、あの日光華が感じた「キラキラ」が消えつつある。


 それが、たまらなく怖かった。


 透華が変わることが、間違いだとは思わない。

 けれど、彼女の「特別さ」が薄れてしまうのは、どうしても許せなかった。


 ——そして、その変化の原因は分かっている。


 風間悠斗。


 あの男が、透華を変えてしまった。

 彼が現れてから、透華は「普通の人間」になりつつある。

 誰よりも遠い存在だった彼女が、手の届く場所へと降りてきてしまった。


 それが、光華には耐えられなかった。


(透華……あなたは、そんなふうに変わってしまっていいの?)


 彼女は特別な存在であるべきなのに。

 他の誰とも違う、孤高の「茨姫」でなければならないのに。


(……私が、透華を取り戻さなくては)


 光華は決意する。

 透華を、本来の「茨姫」に戻すために——。


 


 ******



 


 放課後、光華は透華を校舎裏へと呼び出した。


 人気のない静かな場所。

 透華は、相変わらず整った立ち姿でそこに立っていた。


 けれど、その表情は以前とは少し違う。


「光華さん……何かしら?」


 静かな声。

 それだけ聞けば、透華はまだ「茨姫」なのかもしれない。


 だが、光華には分かる。

 透華の目には、ほんのわずかに迷いが宿っていた。


(やっぱり……あなたは変わってしまったのね)


 光華は胸が痛くなるのを感じながら、それでも口を開いた。


「透華……あなた、最近変わったわ」


 透華はわずかに眉をひそめた。


「そうかしら?」


「そうよ」


 光華は一歩、透華へと近づく。


「昔のあなたなら、誰かに優しくすることも、誰かの言葉に揺らぐこともなかった」


 透華の瞳が、少し揺れる。


 その反応に、光華は確信する。


「ねえ、透華。戻って。あなたは、変わらないで」


 透華は、一瞬何かを言いかけて——口を閉じた。


 光華は、じっと透華を見つめる。

 否定してくれればいい。

 「私は何も変わっていない」と、強い声で言ってくれればいい。


 だけど、透華は――。


(私は……変わったの?)


 そう思い返してみると、確かに以前とは違う気がする。

誰とも深く関わらず、ただ自分の「役割」を果たしてきた。

 けれど、悠斗と関わるうちに、それが少しずつ崩れているのを感じる。


 悠斗は、あの時も言った。

「お前はもっと、自由でいいんじゃないか?」


 自由——そんなもの、考えたこともなかった。

 「茨姫」として見られることが当たり前で、誰かに影響されることなどないと思っていた。


 けれど最近、少しだけ、心が軽いと感じることがある。

 誰かと話し、誰かを気にかけることが、こんなにも楽なことだったなんて。


(でも……それは、本当に"変わる"ことなの?)


 自分の中で生まれた変化を受け入れるべきか、それとも拒むべきか。

 答えの出ないまま、透華はぽつりと呟いた。


「……私は……変わったのかしら?」


 その言葉は、光華にとって衝撃だった。


 まるで、自分でも分かっていないような、迷いのある声。


(嘘……そんなはずないでしょう?)


 透華は、何も迷わない人だったはず。

 誰よりも強く、完璧で、孤高で——。


 なのに、今目の前にいる透華は、違う。

 揺れている。

 迷っている。

 変わってしまっている。


 それを見た瞬間、光華の中で何かが弾けた。


(……このままではいけない)


 透華は、自分でも気づかないうちに変わってしまった。

 風間悠斗のせいで。

 彼がいたから、透華は「茨姫」でいられなくなってしまった。


 ならば。


 ならば、自分が——。


「……私は、あなたを取り戻すわ」


 光華は静かに宣言する。


 透華は、驚いたように光華を見つめた。


 けれど、光華は微笑んだ。


「安心して、透華。私があなたを、元に戻してあげる」


「……」


 光華の声は、確信に満ちていた。


 このまま、透華が変わってしまうのは許せない。

 彼女は「茨姫」であるべきなのだから。


(だから——私が、絶対に止める)


 光華の胸に、新たな決意が宿る。


 透華を元に戻すために。

 風間悠斗という「余計な存在」透華から遠ざけるために。


 対する透華は自分から遠ざかる光華の背中をただ見つめるしかなかった。

 

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