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第13話 「御影学園の来訪者」

 放課後、俺は駅前のカフェにいた。


 別に用事があったわけじゃない。たまには落ち着いて一人で課題でもやろうかと思って立ち寄っただけだ。


 透華との噂が広まってから、学校では何かと面倒なことが増えた。

 松本やクラスメイトたちがしつこく詮索してくるし、昼休みに教室でのんびりするのも気が引ける。


(……ったく、なんでこんなことになってんだか)


 透華とファミレスで一緒にいたくらいで、ここまで話が広がるのは正直めんどくさい。

 俺はただ彼女と仲良くしたいだけ、そう思っているはずなのに。

 でも、透華本人が「否定はしなくていい」って言った手前、俺も余計なことは言わずに流していた。

 流すとあっちもあっちでヒートアップしてくる。でも俺は変わらず流していた。


 カフェの窓際に座り、スマホをいじりながらコーヒーをすする。

 ふぅ……。たまにはこういうのも悪くねぇなぁ、と物思いにふけていた。


 する不意に俺の隣に影が差した。


 「——風間悠斗くん、で合ってるかしら?」


 顔を上げると、そこには黒髪ボブの美少女が立っていた。美少女と言うよりかは美人。


 美少女というより、美人。

 透華が“圧倒的美人”なら、この黒髪ボブの彼女は"少し可愛げのある圧倒的美人”だ。

 

 その立ち振る舞いからかなのかは分からないが、透華の近寄り難い圧倒的オーラに比べると彼女の方は親しみやすさを感じる。


 ……にしてもなんだ?こんな美人が俺に何の用だ。

 なんだか厄介事の匂いがする。


 俺はただ一人で放課後のカフェ優雅に一人コーヒーをすすり適度に勉強を進めつつ日々の喧騒からはなれて……っていうのを求めてここにやってきたのに。

 とりあえずまず俺の前に立っている黒髪ボブの美人が誰なのか、それが分からないことには何も始まらない。

 一方的に知られてるってのも気持ち悪いしな。


「あ、そうですけど」


「そう、合っててよかった」


「……前どこかで会っていたならほんとに申し訳ないのですが……どなたでしょうか」


「失礼、自己紹介がまだでしたわね。御影学園の三条さんじょう光華みつかです、以後お見知り置きを」


「あ、はい、よろしくお願いします」


……よかった、初対面か。

こういう時が一番気まずい。向こうだけ覚えてて、こっちは忘れてるパターン。それじゃなくて助かった。


 三条光華。なんか聞いたことある気がするんだよなぁ……あ。おもいだした。

 

 ――三条光華。

 

 御影学園の有名人。透華と並んで「御影の二大美少女」と言われる存在。


 透華が「静のカリスマ」なら、光華は「動のカリスマ」。


 誰にでも分け隔てなく接し、学園の中心にいる社交的な美人。明るいお嬢様である。


 しかしここで当然の疑問が浮かぶ。


(……なんで俺に?)


 知り合いでもないし、接点すらなかったはずの彼女が、なぜいきなりこうして俺の前に現れたのか。

 たまたま見かけたからというような訳ではなさそうだ。


 「お向かいの席いいかしら?」


 「あ、ああ……」


 断る理由もないので、俺は適当に頷く。


 光華は微笑みながら椅子を引き、優雅な仕草で座った。


「カフェオレを。あとシロップを3つお願いしますわ」


 ……おお。なんだか意外だな。

 

 透華は噂で聞くほどお嬢様、という感じではないことがわかったが、今の俺の前にいる三条光華は立ち振る舞いといい、喋り方と言い、生粋のお嬢様、というような感じだ。

 お嬢様なのに甘党なんだな……。まぁそれは偏見か。

 

 そして間もなくして、シロップが3個付属したカフェオレが届くと直ぐになんの躊躇いもなくシロップを3つカフェオレにぶち込んでそれを飲み始めた。


 ……おお。コーヒーの飲み方はもちろん、シロップを入れる所作までさすがお嬢様、と言ったところか。全てが綺麗すぎる。

 でも飲んでいるのは普通の人は飲まないような甘々カフェオレ。そのギャップがまたまた面白い。

 三条さんは優雅な所作でカップをカツンと置くと、カップに手を添えながら俺をじっと見つめる。

 そしてこんなことを聞いてきた。


 「――ねえ、風間くんって最近氷室透華と仲が良いの?」


 探るような視線。


 この言い方、ただの世間話じゃない。俺の反応を見ようとしている。

 いきなりぶっ込んできたな。何となく察しは着いていたが透華との事だろう。


 「まあ……知り合い?」


 俺がそう答えると、三条さんは「それならいいの」と微笑んだ。


 その言葉に、なんとなく引っかかるものを感じる。


(“それなら”って、どういう意味だよ)


 違和感を覚える間もなく、三条さんは続けた。


 「でも、あの子と気軽に関わるのはやめたほうがいいわよ」


 表情は変わらない。けれど、その声色には確かな“意図”があった。


 俺は眉をひそめる。


 「……なんで?」


 三条さんはふっと目を細め、まるで何かを見透かすような視線を向けてきた。


 「透華は“氷室透華”でいるべきだからよ……そういうものなの」


 その言葉に、一瞬、思考が止まった。


(……氷室透華でいるべき?)


 意味が分からない。


 透華は透華じゃないのか? 何か彼女の“あるべき姿”みたいなものが決まっているとでも?


 三条さんは俺の反応を確認するように一拍置いてから、静かに席を立った。


 「じゃあ、忠告はしたから。……失礼するわ」


 カップを置き、すっと優雅な足取りで店を出ていく。

 いつの間にかカフェオレは飲み干していた。早いな……。まぁ、そんなことはどうでも良くて。


 俺はその後ろ姿を見送りながら、胸の奥に引っかかるものを感じていた。


(透華は……周りからみて完璧でいなきゃいけない、みたいな事なのか?)


 透華自身が、周りの求める“氷室透華”でいたいなら、それでいいのかもしれない。

でも、俺の知ってる透華は……そんな単純なやつじゃない。


 ファミレスで一緒にいる時の透華は、学園の「氷室透華」とは違う顔を見せる。


 意地っ張りで、負けず嫌いで、たまに分かりやすく動揺したりする。


 そういう透華を知っている俺だからこそ、三条さんの言葉には違和感しかなかった。


(透華が“氷室透華”でいるべきって……誰が決めたんだ?)


 そんな疑問が、胸の奥にくすぶり続けていた。

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