表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

第12話 「両校での噂」

 昼休み、購買でパンを買い終えた俺は、のんびりと教室へ戻る途中だった。


 しかし、その途中——


 「おい悠斗、ちょっとこっち来い」


 背後から聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、クラスメイトの友達の松本が仁王立ちしていた。


(……なんだよ、また妙なこと言い出すんじゃないだろうな)


 警戒しつつ近づくと、松本は俺の肩をガシッと掴んできた。

 な、なんだ……!?


 「お前さぁ……なんであの氷室透華と関わり持ててんだ!?」


 「…………は?」


 いきなりの話に困惑する俺をよそに、松本はさらに声を荒げた。そして俺の肩を揺すった。


 「俺は知ってるぞ!? ついこの前まで『胸揉ませてください!』とか人目も気にせず叫んでて、俺調べによると校内付き合いたくない人ランキングが一時的に一位になったと言われていた風間悠斗がなんであの"茨姫"こと氷室透華と普通に話せる関係になってんだよ!? どういうことだよ、あぁん!?」


 「おいおい、そんな大声で言うなって!!……てか校内付き合いたくないランキング一位ってなんだ!?初めて聞いたぞ!?」


 周囲のクラスメイトも何事かとこちらに注目し始める。

 

 にしても結構傷つくなぁ。不名誉な校内ランキング一位になってしまった。

 でも所詮松本調べだしな……。

 ……いや、俺が駅前で『胸揉ませてください!』って叫んだのは瞬く間に校内全体に広がっていたから全然有り得る。てかまぁそうだろうな。はああ。

 

 まぁそのおかげで透華と関係をもてたのならそれくらいの不名誉は許容だな。……許容か?


 「マジでどういうこと?」

 「いやいや、いくらなんでも急展開すぎるでしょ!」

 「もしかして2人って付き合ってる!?」


 ツッコミやら詰問やらが飛び交う。


(……やべぇ、これ全部説明できる気がしねぇ)


 俺は適当にお茶を濁すことにした。


 「いや、そりゃまあ……いろいろあって?」


 「いろいろってなんだよ!?」


 さらに俺の方を激しく譲ってくる松本。

 松本が食い下がってくるが、説明できる自信はゼロだった。


 「……まぁ、知り合い?」


 苦し紛れにそう答えたが——


 「知り合いってレベルか!? だってお前らこの前ファミレスで——」


(え? なんで知ってんの!?)


 思わず息を呑んだ。


 どうやらすでに俺と透華が放課後にファミレスで会っていることは、学内で広まっているらしい。


 しかも、その噂はかなり都合よく「俺と透華が付き合ってる」という方向にねじ曲げられていた。

 

 まぁこの時期の高校生はそういう話に敏感で、すぐ男と女が喋ったり遊んだりしただけでそういう風に解釈し出すからなぁ、とその高校生が思ってみる。


 (……いやでもちょっと待て、それはマズくないか!?)


 その後も松本やクラスメイトたちの問い詰めは続いたが、俺はひたすら「いや、違うから!」と否定し続けた。

 詳しいことを聞かれようとしても違う、の一点張りで押し通し、始業のチャイムで何とか事なきを得た。

 いや……事無くないな。


 


 ******




 

 放課後。


 そんな事が高校ではあったが1度家に帰ってしまえばあとはくつろぐだけだ。授業の課題だけ終わらせて、家でくつろぎながらスマホをいじっていると、透華からメッセージが届いた。


 『……最近、妙な噂が広まっているみたいだけど』


(……やっぱそっちでもバレてるか)


 俺と透華があっている、という噂が広がっているのは俺の高校だけじゃないらしい。誰かしらが俺たちを目撃し噂を広めてる最中のようだ。

 俺は素直に返す。


『まぁな、俺と透華が付き合ってるっていう噂が』


 そう打つと既読はすぐ着いたもののなぜだか知らないが1分くらい返事が返ってこなかった。彼女のことだから動揺してるのだろう。

 そして返事が来た。


『そうね』


「ふふっ」


 1分かけて来た返事がたった3文字。

 俺は動揺している彼女の姿を想像して思わず一人で笑ってしまった。


『どうする?なにか聞かれた際の対応の仕方は統一しといた方がいいと思うんだ』


 『それはどうして?』


 『俺と透華の間で文字対応の違いがあると変に詮索するヤツらが出てくると思うんだよな、こっちはこう言っていたのに違うぞ?何かまだ隠してるんじゃないか?って』


 『確かに』


 『……ってことでどうする?』


 ぶん投げてみた。無責任に。

 すると、透華は少し間を置いて、意外な返信を寄越した。


『……否定はしなくていいわ』


 「…………は?」


 思わずスマホを持つ手が止まる。


 (いやいや、透華がそんなこと言うか!?)


 俺は動揺しつつも少し震える指で返事を打ち込む。


 『え、どういう意味だ?』


 尋ねるものの、


『特に意味はない』


 そう返事が返ってきた。


 『わかった、じゃあそんな感じで行こうか』


 そう返事をしてその会話は終了となった。

 でも――


(……いやいやいや、意味なかったらそんなこと言わなくないか?)


 適当に流されたようでモヤモヤする。


 透華の真意はわからないが、少なくとも「絶対に否定したい」という感じではなかった。

 少なくとも俺と彼氏彼女に思われるのが絶対にいや、という訳では無さそうだ。ほんとに嫌なら何がなんでも否定して、と言ってくるだろう。

 

 そうじゃない、ということは少なからず俺に対して何らかの親しみを彼女なりに感じてくれているんだ、そう思うと嬉しい気持ちになる。


 しかし……


(……これってどういうことなんだ?)


 そもそも俺たちってどういう関係なんだ?


 ——いや、それ以前に、透華って俺のことどう思ってんだ?


 今までは「借りを返すだけ」と言い張っていた透華。


 でも、最近はその「借り」を口実にして会うことが増えていたし、そもそも向こうからメッセージを送ってくる回数も増えていた。

 貸し借りしない関係になればいい、と提案してきたもののそうなりきれていない。

「貸し借りしない関係になればいい」と提案したのは透華なのに、それを完全に断ち切るつもりはないように見える。

 じゃあ、今の俺たちの関係って、なんなんだ?


 ほんとになんなんだろうな。

 考えたところで答えは出ない。

 まぁいつか分かるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
続編をアリガトウ 最高です。 砂糖が多くていい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ