寒空の朝5時、散歩に連れ出した猫がじつは地球の英雄だった件
俺は今猫と散歩をしている。
よく考えてほしい。
普通、猫は散歩しないだろ?
なぜこうなったのか、説明させてくれ。
朝5時に起きた。
いつもなら二度寝するところだが、今日は珍しく一度寝でやめた。理由はうちの猫が俺のお腹にドシンと乗っかって内臓を圧迫させてきたからだ。
俺がベッドから起きると、猫はバタバタバタっと移動する。
「ん?どうした?」
おいおい、犬用のリードを咥えてるじゃないか。ちなみに、俺は犬を飼っていない。
とりあえず、猫の指示通り、犬用のリードを身体に巻き付け、玄関ドアを開ける。12月の午前5時、服を着ているか疑うほどに寒い。
その後、人生初の猫との散歩が開始して、今この公園を歩いている。
これまでごく普通の猫らしい猫だったが、今日はどうしたんだ?と考える暇もなく、目の前に宇宙船が現れた。
お約束の如く、宇宙船から服を着た二足歩行型の猫が1匹、こちらにやってきた。
「こんにゃちわ」
喋れるんか!と思わずツッコミを入れたくなるが、俺の口は固く閉ざされている。
宇宙船猫がうちの猫を肉球で差して、こう言った。
「その猫、地球を救うにゃるよ」
は?どういうことだ?
「だから呼び出したにゃる。にゃあ、行こう」
「…おい!」
やっとの想いで声が出た俺はうちの猫を抱き抱えた。
「ダメだ!コイツは俺の猫だ!訳のわからんお前に渡す訳にはいかない」
「チッ」
舌打ちした宇宙船猫はリモコン片手に、俺たちに3D映像を見せてきた。
複数の猫が宇宙から地球へ向かう“どでかい隕石”に猫キックしているのがわかる。その中で一際鋭いキックを繰り出しているのがうちの猫だった。
うちの猫は猫キックが大好きだ。特別取り柄がない猫だが、おそらく全世界猫キックグランプリがあれば5位くらいには食い込める。そのくらい鮮やかな足捌きだ。
「猫キックで隕石の軌道を変えるにゃるよ」
そう宇宙船猫が言うと、うちの猫は察した顔で俺の腕からニュルっと飛び出し、宇宙船へ歩いていく。
「ちょっと待て!待ってくれよ、虎太郎!」
うちの猫が宇宙船から出た光に乗ってどんどん上っていく。眩しくて手で目を隠したのか、はたまた顔を洗ったのか。もふもふの手を頭の上に置いた時、俺には小さく敬礼したように見えた。
その日、地球は終わらなかった。つまり、うちの猫によって地球は救われたのだろう。誰も知らない英雄たちに俺は心の中で鰹節を送った。
12月の夜空には、綺麗な星が広がっていた。
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