元◯◯ですが。
――ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
もう、朝か?
まぶたがやたら重い。
薄らボケた視界。白い天井に見覚えはない。
ああ、そうか。俺は事故に巻き込まれたんだ……。ここは病院だろうか?
たくさんの管で繋がれたせいで身動き出来ず、諦めてもう一度まぶたを閉じようとした瞬間。
ぐわん――――っと、身体が勢いよく引っ張られた!
ピ──……
◇◇◇
白い高い天井は消え、ただ広い空間がそこにあった。真下を見れば、ベッドの上で酸素マスクをしたまま眠る自分の姿が――。
俺は死んだのか?
『ゴメンね。君は、手違いで死んでしまったんだ』
突如、現れた見知らぬ者に話しかけられた。
「……あんたは誰だ?」
『君たちの世界で言う、神……みたいな者かな?』
胡散臭いことこの上ないな。
透き通る肌に、美形すぎる顔。うん、気に入らない!
「で。手違いって、どういうことだ?」
『詳しくは話せないが、君の魂はまだ生きている。元の身体には戻れないが、他の世界に転生することは可能だ。異世界に行って、向こうの世界を救ってほしい。もちろん、特別な能力もプレゼントしてあげるよ――』
「いや、いらん」
『勇者になりたくないの?』
「当たり前だ」
『向こうの世界では、美人の聖女とパーティー組んで楽しくやれるのに?』
「ああ、そんなのは必要がない」
『どうして?』
しつこく食い下がる神もどきに苛立ってくる。
「俺は営業途中で事故にあった。それもこれも、せっかく育てた新人が、急にやめやが……辞めてしまったからだ。だから、取り引き先を俺が回らなきゃなんだ」
『世界の危機に比べたら、どうでもいいでしょ?』
「よくない! 早く元の体に戻せ!」
思わず怒鳴ってしまうが、久々に大声を出してスッキリした。
今の若いやつは辛抱が足りない。
そんなことを言えば、嫁から「パワハラになるから言うな」と叱られるが。
結局、頭を下げ俺自身の仕事が倍増する。愚痴ひとつ言えないが、それでも家族を養わなくちゃいけないんだ。
なのに、異世界で勇者だと?
甘い言葉ばっかり言いやがって。
「俺はまだ死んでない。さっさと消えろ! この死神め――!!」
◇◇◇
――ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
目を開くと、天井が目に入る。
ああ、戻れたようだな。
さっさと回復に専念しなければ。
死神らしき者の断末魔が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
――元、勇者……に倒された魔王なめるなよ!
「あー……。異世界で頑張ってくれていた、元部下たち……こっちに転生してきてくれないかなぁ」
今ならメッチャ優しい上司になれるんだが。
お読みいただき、ありがとうございました!
誤字脱字報告もありがとうございます!
訂正いたしましたm(_ _)m
 




