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section 15 まさか……

 明日会えるかとケイタイした蒼真に、「あの~ うっ、気持ち悪いです、吐きそうです、あとで……」と切れた。気持ち悪い? 吐きそう? まっ、まさか、アレか! 血の気が引いた。俺はちゃんと避妊したはずだが確信はなかった。それから何度かケイタイしたが応答がなく、不安になった。もし妊娠だったらどうしよう? 俺は秋から就職活動する大学3年生だ、そして由紀は2年生だ。俺たちは親になれるのか、いや、無理だ。親がかりの学生で経済基盤がない、覚悟もない、中絶か……

 俺たちの子を抹殺するのか? あの子に辛い想いはさせたくない! もしそうだったら親に相談するか? いや、相談できるわけがないだろう! 俺は卒業を諦めて就職するか…… しかし由紀は休学させたい。あの子の才能を摘みたくない、卒業させて夢を叶えさせたい。あーあ、あの子の親に何と言えばいいんだ。ザワつく頭を抱えて一睡も出来なかった。だがいちばん不安なのは由紀だろう、何度もケイタイしたが出なかった。寝ちゃったか、そんなに辛いのか? 俺は何の力にもなれないが現実を受け止めよう。それがどうであろうと、どうするかはそれからだ。明日は試験で大学は休めない、受けないと単位が消滅する。帰りに寄ろう、会って確かめよう。


 部屋は真っ暗でインターフォンは応答しなかった。あいつはどこへ行ったんだ? しばらく待ったら帰って来たが、顔色が悪かった。

「大丈夫か、まだ気持ち悪いか、病院に行ったか?」 

「あっ、蒼真さん、いつ来たんです? 早く入ってください」

「吐き気がすると言ったじゃないか、心配したんだ。病院に行こう、僕もついて行く」

「だいぶ平気です、でも気持ち悪いのは残ってます」

「残ってる? 平気なはずがないだろ、ちゃんと診てもらったほうがいい。それからだ、考えるのは。一体どうしたんだ?」

「へへっ、アレとアレです。父の薬を飲んで少し落ち着いた感じです。ねえ、考えるって何を?」

「アレとアレとは何だ?」

「やだぁ、言いたくなーい、恥ずかしい!」

「言わないとわからない! はっきり言えよ!」

「そんなに怒らないで。アレは女の子の日で、もうひとつはお腹を壊したんです、胃腸炎です。それでブクブク吐き気がして、大騒ぎしたんです」

 はあ~ 蒼真はがっくり床に座り込んだ。なんだ、生理と腹イタのWパンチか、脅かすなよ! ほっとした。

「心配するじゃないか、ケイタイぐらい出ろよ」

「いけなーい、充電してそのままだった」


 あーあ、なんてやつだ、考え過ぎた自分に腹を立てた蒼真は由紀を組み敷き、乱暴にキスして離さなかった。さすがにインサートしなかったが、猛り狂った激情は由紀の胸に溢れた。翌朝、由紀は呪文のような数字を伝えた。

「ナヤミハゼロでルームインです。もし私がいなくても中で待ってくれますか」

 翌日、蒼真は部屋のスペアキーを渡して、「いつでも来い、歓迎するよ」と笑った。

 

「夏休みは海に行こう、泳げるか?」

「まったくダメです。それより仙台に私と一緒に帰りませんか。父に恋人が出来たって言ったんです、そしたら会いたいって」

「いやだよ! どのツラ下げて行けばいいんだ、何と言えばいいんだ?」

「父に話したんです。蒼真さんが心配してロンドンまで来て、何もかもがイヤになってた私を励ましてくれて、蒼真さんと父の言葉でやっと海の底から救われたって。そしたら、その青年に会ってぜひお礼を言いたいって」

 ひえーっ、まいった! 恋人が出来たなんて普通は親父なんかに言うかよ! だがそんな子かぁ。常識が通用しない子だからなあ、まだ子供なのか…… うーん、そっちがそうなら俺は由紀を神戸に連れて行こう、夜景を見せてあげたい。

「わかったよ。行ってもいいけど、僕の実家は神戸だ。神戸に来るか? 君が来るなら僕は仙台に行ってもいいが、どうだ?」

「えーっ、練習があります。行けません」

「ピアノさえあれば僕と神戸に行くんだな、よく考えとけ!」


 とんでもない展開だ、まいった! だが、由紀を母さんに会わせるのも悪くはない。ピアノさえあればあいつは神戸に来るかもしれない、母さんに頼んでみるか。

「母さんのカンは正しい! 付き合ってる子は仙台の子だ。休みに神戸に連れて行きたいが、あの子は毎日練習しないとダメなんだ。どこかにピアノがあるといいんだが、心当たりはあるか?」

「ピアノ? 藪から棒に何を言うのよ? えーっと、上の階の室田さんとこにあるわ。娘をピアニストにしたいとか言ってたけど、まったくのヘタクソ! 誰でもなれるもんじゃないのにバーカって思ってるけど、けっこう仲良しだから頼んでみるわ」

「悪いけど頼むよ。ピアニストのタマゴは毎日3時間も練習するらしい。だからどこにも泊まりで出かけられないんだ」

「アンタはあの子と旅行に行ったこともないの? そりゃあ大変だわ」

 母は嬉しそうに笑った。

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