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風を肌で感じながら、颯爽と自転車を走らせる。風を切る轟音が、耳にまとわりついて、私と世界を遮断していく。そんな、私と私の周りの世界が交わらない瞬間を、私は愛おしく思う。そして大切にしたい。今、この瞬間、私だけが私を感じ、純粋で混じり気のない真実のみを見つめることが出来る。こんな時間が続けばいいのに。そう思っているうちに、家に着いた。

キキッと、音のなる自転車のブレーキをかけて、自転車をとめる。もう周囲は薄暗くなっていて、さっきまでの私だけの時間は嘘のように、薄暗い空が、なんとも言えない圧を私にかけていているように感じる。なんだか居心地が悪くなってきて、逃げるように、玄関をめざし、足早に庭をかけて行く。昨日の雨のせいで、庭の芝生が濡れていて、私の靴を僅かに濡らした。

カバンから鍵を取りだし、ガチャっと音を立てて、玄関の鍵を開ける。ガラガラっとスライドし、私は家に入る。「ただいまー」とは言わない。しんっ、とした空気とともに、暗闇に吸い込まれていくだけだから。私は祖父母の家で一人暮らしをしている。大学進学を機に、静岡へ引っ越してきた。当初、都内から電車で通うつもりが、ちょうどよくと言ったら不謹慎であろう。が、しかし、タイミングよく祖父母の家が空いたのだ。もとより、一人暮らしがしたかった私は、祖父母の家を名残惜しむかのようにして、転がり込んだ。正直に言う、好都合だった。何故かって、家賃を払わなくていい。一人暮らしをしたいと言った時、親は別にいいけど、自分で払うんだからねと、私を暗に引き止めた。そこをなんとかと、押し通りたかった私だが、高校三年生ながら、バイト代など現実的な側面を見つめ、素直に諦めた。そんな中、祖母が亡くなった。もとより、祖父は早くに亡くなっており、このだだっ広い平屋に、祖母は1人で住んでいた。それを不憫に感じたのだろう。数年前、私の母親が、祖母に猫でも飼わないかと提案した。そんなの拒否されるでしょ、そう思っていた私の考えとは裏腹に、祖母は何なりとその提案を受け入れた。翌週には、保護猫として貰い手を待っていた、小さな三毛猫が祖母の膝に座っている写真が送られてきた。そんなに簡単に命を受け入れる覚悟ができたのか?と、にわかに軽すぎるのではという思いと共に、私は大いに祖母の家にいる三毛猫を可愛がった。三毛猫はとても祖母に懐いていたと思う。そして、この平屋を気に入っていた。と、思う。縁側で祖母と一緒に日向ぼっこをしていた三毛猫を私は、とても幸せな気持ちで見ていた。しかし、祖母は三毛猫を残して亡くなってしまった。三毛猫が来て、2年だった。その間祖母も三毛猫も幸せだったのだろう。安らかな死を迎えた祖母は、生前、私たち家族よりも、三毛猫のことを気にかけていた。「私が逝ってしまったら、この子のこと、誰が世話してくれるのかねぇ」と。三毛猫が好きだった私は、「うちで引き取るよ」と言ったが、祖母は、「この子はここが気に入ってるからね。出来れば、このうちで生活させてやりたいんだけどね」そう私に言った。だからこそ、好都合だった。家賃だけの理由じゃなかった。「にゃ〜」吸い込まれてしまうような暗闇の中に、2つの小さな光が見えた。

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