Episode.1<中編>
「期待させてしまっていたみたいでなんかごめん」
オリービアからさほど遠くはない惑星ティアナのターミナルにつき、偽造パスポートを見せるといかにも人柄の良さそうな係のおじさんがティアナへようこそと笑顔で頭を下げた。オリービアからお目当ての惑星レピアノまでの非正規ルートがなかなか見つからず、やむなくその途中の惑星ティアナまでは公的なワープ路を使うことにしたのだ。
「いやそんなことないよ、今までは中継地まで行ってそっからワープなしで鈍行だったからそれと比べれば超楽だから〜」
テレサはそういうと、船を一旦降り、近くの大きなお土産に向かって走っていった。ここティアナは平和協定惑星群首都オリービアと比べると小さいが、このあたりでは最も栄えている惑星である。前世でいうところの東京と比べた名古屋や仙台あたりの惑星らしい。
「そういえばなんでこんなふうにワープできるんだ?公的なルート以外で」
テレサと入れ違いに船に戻ってきたセイラがティアナ名物ティアナ饅頭と書かれた袋をるんるんで開けながら興味津々に聞いてくる。こういう系の饅頭って大体どこのやつでも味さほど変わらんと思うがそれは言わないお約束だ。
「ワープってたとえばA地点からB地点に行く時、今の技術だと経路を一瞬で折りたたむことで成り立ってる。直線で結んでも曲線で結んでもとにかく繋げる通路が必要。で、その通路は人やものを含んではいけない」
饅頭を丸々一個口に入れるとそれをもぐもぐしながらこちらの話も同時に飲み込んでいく。
「となると個人的に整備するのは難しい。どんな宇宙船がいつ通るかなんてこの宇宙航海時代に管理しきれない。だから同盟星では協定を結び、自分の領域ではここはワープ用に通行止めとか法律を各自定めている。それくらいならなんとかなるだろうからね。じゃあ非公式にワープするためにはそのルートを確保すればいいってことか」
饅頭も話も消化が早いようで何よりである。この一見適当そうな麗しの麗人も頭の中身はモンスター級の天才なのだろう。
「うん。そのルート確保の方法をたまたま見つけて論文を出そうとしたらお誘いが来て今に至るというわけ。あと通訳用だって」
「優秀だねえそのとしで」
そういうとセイラはまた一個饅頭を口に入れた。
「いや本当にたまたま。ラボの中で適正試験理系科目最低点(過去20年調べ)。しかも不思議ーな力で論文出せなかったから今でも肩身が狭いよ。他のみんなは賢いからね。じゃあ今からワープします」
ワープの準備を始めると、忘れられて涙目のテレサさんが窓をどんどん叩いていることに気づいた。
ワープが完了し、首都からある程度離れた森林地帯に着陸する。
「これなんか変じゃないですか?カメラの映像なんですけど、この人たちおそらく高官ですよ。こんな廃墟に何の用があるんだろう」
衝撃で体が大きく揺れても表情はやはりびくともせずにクレアがいった。
「ほんとだ。着てる服がそれだね完全に」
映像には明らかに軍の上層部の厳つい服を着た男が数人取り壊される寸前の工場跡のようなところに入っていく姿が小さく写っている。しかも出てくるまでに結構な時間を有しており、また少し時間が経つと他の男が入っていくのだ。
「なんだかきな臭いわね、じゃあそことさっき私が言った繁華街に別れて調べましょう。セイラ、繁華街の方行ってくれる?なんかこっちヤバそうだから
私がいく」
姿を目立たなくさせるためのローブを船の奥から取り出そうとしていたセイラが布を掴んでい嬉しそうにこっちを向いた。
「え、繁華街?可愛い子いたらちょっと遊んでk」
「前言撤回、私がそっちに行きます。あんたはキモ男バスターズでもしてきなさい」
「えー、先輩もしかして私が可愛い子と仲良くしてると妬く?」
テレサのエルフのように白い顔がほんのりと赤く染まった。
「仕事中!」
「はいはい、で僕はどっちと行けばいいの?」
「二人は確か戦力外だよね」
特にオブラートに包む様子もなくそういうと、ローブを着ながらセイラはもう三着をポンポンと投げてくる。
「言い方、いやまあそうだけども」
ゴリゴリに武闘派の二人と天才プログラマーに囲まれてただでさえ自己肯定感ダダ下がりなのに事実を突きつけられて少し傷つく。
「二手に別れるときはこれから私とクレア、セイラとイオリで行動することにします。こっちが守るからあなたたちは自分のできることに集中して。あと耳にこれはめて常に連絡を取り合うこと。連絡が取れなくなり次第救助に向かいます。それとクレア、カメレオンできる?」
「はい。事前にもらっています」
廃墟に入っていく人間の時間や曜日の規則性を見ていたクレアがテレサの方を見て頷くと一旦監視カメラの映像を閉じ、カメレオンと書かれたアプリを立ち上げた。
「カメレオン?」
転生時に与えられた情報の中に今三人が話しているカメレオンらしきものは存在しなかった。
「最新の技術で五つの超小型カメラを使って五方面から映像を映して姿を溶け込ませる技術をカメレオンって言うんだけど膨大な計算が必要で民間では使われてない。普通に生きてたら後30年くらいは知らなかったと思う。もちろん一個でも虫、あー小型カメラのことね、が壊れたらその時点で終了」
なるほど、常識ではないから普通は知らないとしてインプットされなかったらしい。ネーミングセンスの悪さに自然と笑みが溢れる。
「え、でその虫はどこに」
クレアのアプリは起動しているようだったが特に周りに虫らしき物体は見当たらなかった。・
「そこにいるよ、見えないと思うけど。っていうかそんなばっちり見えてたらちょっとまずいでしょうよ」
セイラが呆れ顔でいった。
カメレオンなるものを使うと味方まで見えなくなり知らない星で迷子になるのではないかという心配は杞憂だった。そこら辺はクレアが色々管理しているらしく目的地に着くまでの、セイラと自分はお互いの姿を目視できるが周りからは見向きもされないという幽霊みたいな状態にもようやく慣れ始めたところで目的地に着いた。
「こっちは誰かいるからそいつらがいなくなり次第建物の中に入る、そっちはどう」
『うん、まあ典型的なただの繁華街。怪しいものはいっぱいだけど違和感は全く感じないよ。色々と情報を持ってそうな人を見つけるのも簡単そうな感じがするね』
「虫が撃ち落とされない限り姿は見えないんだけど誰かにぶつかったりする感触は消えないから気をつけて」
「了解、もしバレたらどうなるの?」
セイラが通信を切り、こっちに向き直り肩をすくめる。
「まあ追われるわなそりゃあ、捕まったらその時点でアウトだからそんときは実力行使だよ」
実力行使という言葉の端々に不穏の響きを感じて少し表情が固まった。
「そのための殺害権限ってわけ、ほら言ってたでしょ」
特に気にする様子もなく廃墟の入り口をじっと見ながら右手を振った。
「……」
返事がなかったからか短くはない沈黙の後に私の目を見て今度は冗談ではなく本気の表情でいった。
「大丈夫だよ、僕こう見えて中々強いし」
「今まで死んだ人って結構いる?」
「んー、まあ少なくはないね正直。でも大丈夫、君とクレアが死ぬことはまずないと言っていい。一つの係は基本的にベテラン二人と初心者二人で組むことになってて前者が後者を守ることが義務付けられてる。じゃないと人材が育たないからね。ちなみに僕と先輩は初めてベテラン側だからベテランの初心者だよ」
「係の面子って頻繁に変わるものなの?」
「三年で人事移動なんだけど、係の中で死亡者が出たらその時も補充なりなんなりがある。君たちはちなみにその補充だよ。まさか初心者側が来るとは思ってなかったけどね〜」
「……」
「大丈夫、追われることになったら、まあそうなると思うけどもセイラさんが顔だけイケメンじゃなくて戦うとこもイケメンなとこ見せてあげますよ!あ、いなくなった。行こう」
『まだ突入してない?』
突然耳にまたテレサの声が入ってきて驚いているとセイラが慣れた様子で右耳を押さえながら答える。
「してないよ、先輩の方はどんな感じ?」
『ちょっとした噂を聞いた。どうやらこの星人身売買の中継地やってる可能性がある』
あまり通信環境が良くないのだろう。ところどころノイズが入ったり音が飛んだりして聞こえにくいが耳を押さえると幾分かマシになった。やはり彼女は慣れているのだ。
「そこをつけば交渉がうまくいくねえ、スパイ班はおそらくその証拠まで掴んでるだろう」
セイラが横でニヤリと笑う。
『でも私たちはそれを自分たちの目でしっかりと確認し、証拠を集める必要があるわ。突入はいつ』
「今から」
入口からついさっきでききた三人の男が視界から消えるのを最後まで確認しつつ、フードを目深までかぶる。
『オッケーなんかあったら連絡して』
「はいはーい、じゃ、突入しよっか」
厨二病が抜けていないせいか嫌な予感はしつつも結構ノリノリで私もフードを目深まで被った。
「静かだね」
金属製の扉が一人でに空くのはホラーなのでなんとか今の時点で空いている隙間に体を滑り込ませると、中は廃墟らしく真っ暗で物音一つ聞こえなかった。
「うん。それに暗くない?」
「ライトつけるわけにはいかないし目が慣れるまで待とう」
セイラの言に同意し首を縦に振ったがおそらく本人には見えていないだろう。目を強く開けたり閉じたりを繰り返し、それが果たして意味があったのかは不明だが少しずつ周りの状況が視覚できるようになってきた。いかにも不衛生な環境の中に薄汚い布が散らばり、その上に色とりどりの瞳や髪を持つ自分と同じくらいの歳の少女たちが座ったり寝転んだりしている。
「これは……」
より奥の空間に向かうと、その空間にっこもりきった匂いは行き場なくあたりをうろつき、先ほどの男たちが吸っていたであろう煙草の煙がところどころに灯されたオレンジ色のランプを薄いベールのように覆っていた。
「胸糞悪いなこれ」
奥に造られた部屋の中を目で確認し、ポケットから小型カメラのようなものを取り出してその部屋の様子全体をスキャンすると、セイラはそれをポケットにしまい、耳につけた通信機を軽くタップした。
『今中の様子をスキャンしたやつ送った。確認して』
相手の返事を待たずにまた通信を切る。
「どうするの?」
セイラがランプにふっと息を吹きかけると煙が少し薄れ光がわずかに強くなった。
「まずはどこの星出身かを調べて彼女たちの”集め方”を推測する」
個室から出ると、また彼女たちのいる大広間へと歩き始めた。
「わかるのそんなの?」
「ほらこれ」
セイラはポケットから先ほどの機械を取り出しておもむろに私をスキャンする。
『惑星オリービア出身率97%その他3% オリービア出身と思われます』
クレアのAIとは異なり完全なる機械音声が流れた。
「便利だね」
この世界は元の世界よりもずっと科学技術が発展していることはわかっていつつそれでもなお驚いてしまう。目の前の風景と合わせるとそんな高度文明の光と闇を見ているようで嫌だった。死ぬ前も文明が発展して失ったものがある云々の現文の問題は吐き気がするほど嫌いだった。文明も科学も世界をより良くするためのツールであって、全ての人を救うことができないのは仕方がないことなのだ。より多くの人が助かる世界が理想郷でありそのための行動こそが善だ。
「これであの人たちをスキャンして出身星が偏ってるか調べる」
ずっと床を見つめていたからかセイラの声にハッとし、彼女の後ろをついていく。クレア曰く近い距離に居てくれた方が操作が楽なのだそうだ。詳しいことはよくわからないし、分かろうとしたところでおそらく私にはキャパオーバーだろうからそう言われた時はただ頷いただけだった。
「あれ、反応しない」
淡い水色の平行光線を集団から少し外れた背丈の低い少女にあて、しかし機械は先ほどとは違い黙りこくったままだった。怪訝そうな顔をしてセイラはまたそのz光線を少女の頭上から足にかけて今度はもっとゆっくりと当ててスキャンした。
「他の人にしたら?」
それを何度も繰り返してもなお一向に反応しないのを見てもう一人集団んから離れて一人で座っている少女の方を指差すとセイラは渋々そちらに向かった。そしてまたスキャンする。
「いや、反応しないな……さっきは確かに使えてたのに……」
インクが出なくなったペンのように機械を振ってまたスキャンをするがしかし全く反応しない。
「それが反応する条件は?」
こちらはその機械が何たるかをよくわかっていないが自分はスキャンされて目の前の少女はスキャンされないことは確かに気持ちが悪かった。もしかしたらここは管理社会で宇宙中の戸籍が管理されており戸籍がないものは人間として認識されないとかそういう感じなのだろうか?だとすれば十分彼女たちはスキャンされない可能性がある。
「生物学的に人間であること」
セイラが言葉を選びそう告げる。生物学的にということは彼女たちは文字通り”人間として認識されていない”ことになるがそのようなことはあり得るのだろうか。虚な目をしているが確かに近くに行けば呼吸の音が聞こえるし、座ったり立ったりの動作も完全に人間のそれだ。
「まず事実としてそれはあの人たちをスキャンできない。で、もう一回私をスキャンしてみて」
目の前の状況を理解できない時はまずは事実を羅列することから始めなければならない。そんなことは秘密結社にいようと普通に学生してようと変わらないようだ。
『惑星オリービア出身率97%その他3% オリービア出身と思われます』
確かに先ほどと同じ機械音声が流れる。
「事実2、それは壊れていない」
セイラが細くて長い右手の薬指を唇に軽く当て、何処かを見つめるというわけでもなくただ何度か刻々と頷きまた顔をあげ、通信機をつけた。
「聞こえてる?」
『うん』
送られたデータを見たのだろう、先ほどとは違って真剣な声色のテレサがすぐ応答した。
「”アンドロイドの”強制集団売春の痕跡を発見。クレアがいないと詳しいことがわからないから今すぐこっちにきて」
『了解』
相手が通信を切ったことを伝えるプツッという音が、もう何度も聞いたはずなのにやけに不気味だった。
「ひどい状態ねここ」
テレサが倉庫に入り、ため息と共にそうつぶやく。
「いつもこういう事件というか事案を担当してるの?」
こんな気分の悪いもんを毎回見せられるようでは精神的にまいりそうだ。銃とか刃物でどんぱちやらないのなら別にいいと思っていた自分を銃とか刃物で殴りたい気分だった。
「いや、こういう系は一年に一二回しかない」
しか、という言葉に肩をすくめる。ベテランのお二方は慣れているようで胸糞悪いとは感じつつもただこの状況を客観視しているだけにすぎないようだった。刑事ドラマで殺人事件を見てもなんとも思わない刑事を見ても特に違和感がないように二人の表情にも特に違和感は感じられないがこんなものになれる世界で生きる予定ではなかった。スローライフが送りたい。
「君はなんとも思わないの?」
もう一人の新入りクレアさんならなんとなく同じ感じかと思ったが、彼女はPCをものすごいスピードでいじりつつ首をゆっくりとかしげた。
「はあ、だって人間じゃないですし、まあ人間だとしても特に興味ないですけど」
そのセリフを吐く最中も一切こちらを向くことなく自分の仕事に集中していた。
「こんなんが作れるんなら助成金とかいらんだろ」
確かに口から息を吐き、肌(?)にはしっかりと毛が生えているアンドロイド政策をしつつ発展途上の星としてちゃっかりと助成金を受け取っているのは妙な話だった。助成金を受け取る星には年に一回監査が入る。その時に裏で何をしているのかバレる恐れがあり、実際にバレたわけだ。
「これ多分輸入品だと思いますよ。というかおそらく銃を密輸してその見返りというか代金というかだと思います」
キーボードを叩きながら気だるそうにクレアが言った。
「なんで」
「このアンドロイドの成分今確認したんですけど同じタイプのものを見たことがあります」
「え、どこで?」
「ISAの機密レベルIIのファイルです。一ヶ月ほど前にネットで潜ってた時どこが一番進入しづらいか議論してて、そこで言われたのがISA。まさか本当に存在する組織だとは思わなかったのですがなんとか痕跡を見つけてその組織のファイルをレベルIからこじ開けていったんです。これ以上はって思ってもついやめられなくてレベル4まで行ってそしたら流石にバレました」
それが何かとでも言いたげな様子で淀みなく言い終わるとセイラがため息をつく。
「で、入れられたってわけか。やっぱ変人だ」
「給料良かったんで」
入れられたという言い方に不満があるのか間髪入れずにクレアが答える。少しだけ頬を膨らましており、その横顔は無表情の時よりもさらに子供っぽくなる。いかにもロリコンが好きそうなタイプだ。
「でもどんなこと書かれてたかまでは覚えてないでしょう。一回見ただけじゃ流石に」
テレサがクレアのパソコンの画面を覗き込みながら尋ねる。
「いえ完璧に覚えてます。私一度見たものは忘れないので。確かうちの星の代議士が貿易会社と癒着してた件で、表向きはそれだけで話は終わったんですけどその貿易会社がちょっと怪しくてISAのスパイ班?がおそらく調べてたみたいで、その社長の秘書が癒着がバレる前と後で変わっていて、前の秘書のデータについて色々と調べた資料だったと思います。政府の調査が入ると知って隠したんでしょうね」
瞬間記憶能力持ち美少女ロリ社会不適合者天才プログラマーとはまあ大層な肩書きである。どれか一個でも分けてもらえれば鮮やかな人生が送れそうだ。ただし社会不適合者以外。
「いろいろな星から武器を調達し、それを流してアンドロイドを受け取り、数体は代金として自分のものにし残りをまた流すと」
「まあそんなとこでしょう」
テレサがまたため息をついた。
「しっかしわざわざ条約違反して銃を密輸してまでこの場所欲しいか?確かに五年前の改正で加盟星内での売春は全面的に禁止になった以上表立ってはこういう施設作れないだろうけどちょっと裏に足を踏み入れればいくらだってあるだろ。さっきの場所にはなかった?」
「あったわ。でもさっき船の中で見た監視カメラの映像、明らかにお偉いさん達ばっかりが利用してたからね。御身分的にそんな”裏” へは行きずらいんじゃない?」
皮肉ぎみにテレサが言うと釣られてセイラが乾いた笑い声を漏らす。
「それにしてもリスクが大きすぎるだろ」
「あの、スキャンに反応しないことでやっと人間じゃないことがわかるほど精巧なアンドロイドがわざわざそのためだけに作られてるとお思いなんですか」
いつの間にかクレアはアンドロイドの解析を終え、PCを閉じて怪訝そうに(二歳児を見るような目つきで)こちらを見ていた。またスマホのような機械を取り出すとその電源を入れ、中のデータをこちら側に突き出した。
「え?」
「このアンドロイドは100%人間と変わらない動きをすることができます。しかも人造人間やらクローンやらと違って意志は持っていませんから命令通りに動きます。殺せと言われれば躊躇わずに殺しますし、盾になれと言われれば躊躇わずに死にます。非常に便利な代物です」
空中に浮かんだ画面をスワイプすると左にはアンドロイドの画像が、右側にはその各部分の詳しい説明が書かれたページが現れた。脳の部分をタップするとそれ以外の部分全ての説明の何倍もの文章が現れた。
「念の為もう一度侵入しました。私が口で説明するより見た方が早いでしょう」
三人でその文章を読む間にクレアは一番近くのドロイドに近寄り、じっと観察していた。
「でもとてもこの人たちがそんな殺し屋集団には見えないけど」
何行か読み、これは多分専門的な知識がないとわからないやつだと諦めた三人は読んで理解しました感をなんとか出しつつクレアにいう。
「”これら”は今は確かに春を鬻ぐためのアンドロイドとして機能するようにされています。このような状況に置かれた人間がどのような態度をとるのか、どのような表情をするのか細部に渡るまで再現されています。ですがもしどっかから傭兵やら殺し屋やらのデータを持ってきて突っ込めば手練れがいっぱいですよ。性格や行動パターンに至るまで熟練の殺し屋と全く同じ。なんなら明日私たちが交渉に行くときに相手するのはこれらかもしれませんね」
今度はクレアが皮肉ぎみに笑う番だった。こちらとしては笑えなかった。
「軍隊自体はあるわけだし、手練れが必要な時だけそうさせられるっていうわけね。で、そんな状況はほとんどないから普段はここで使われると。もう少しマシな使い方は見つからなかったのかしらね。趣味が悪いったらありゃしないわよ」
ただどこか虚を見つめているアンドロイドたちは意志を奪われた奴隷のように見えた。彼女たちは歳を取らない。ただ命令されたことを行うだけの道具にすぎない。いや実際はそれが機械というものだ。そのはずだ。なのに姿形が人間に似ているだけでこうも彼女たちの存在は何かしら疑問を投げかける。
「今朝の新聞のロボメイド溺愛プログラマー、先見の明があるかもよ?こんな精巧なアンドロイドが売買されてたら法が必要になるかもしれない。あと個人的にこれは倫理的にアウトだ」
宇宙船まで戻る道のりの中でセイラがそう呟いた。