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声聞くときぞ 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山奈績
第二章 夢
12/34

実方顕彦 共同風呂

 顕彦が木戸の音で目を覚ますと、荻平と三郎次が、御重の中身を抓みながら、若衆小屋の囲炉裏を囲んでいた。


 顕彦は、上半身を起こして、辺りを見渡した。


 小屋から、夜回り当番の男が一人出て行った音だったらしく、小屋には三人しか居なかった。


「お、起きたね、顕彦さん。先に頂いている(ちょい)よ」


 荻平が、顕彦に声を掛けてきた。

 三郎次も、口をモグモグと動かしながら、顕彦に右手を上げた。


悪い(わり)ね。もう夜?」

そうそう(ですです)

「長は?」

実は(じちゃ)下方限(シモホーギリ)通夜(ヨトッ)が入って。常助(つねすけ)さん()(ゲェ)御婆さん(バッバン)が老衰で」

「成程」


 長は気の毒にも、酒を飲む前に仕事で呼び出されたらしい。


誘っておいて(さそっちょって)、済まない()ね。何か長に悪く(わる)て、(サッ)ではなくて(じゃねで)(ミッ)飲んでいた(のみおった)

「ああ、構わない(かんまん)よ」


 ノソッと起き上った顕彦は、自分の体に藁筵(わらむしろ)が掛けてある事に気付いた。


「あ、掛物。有難う(あいがと)


「ああ、其の辺(そこあたい)置いと(うっちょ)いて」


 荻平が、其の辺、と、顕彦の枕元を指で示したので、顕彦は藁筵(わらむしろ)を丁寧に巻いて、そっと其処に置いた。


 下方限(シモホーギリ)だと、此れを布団として使う家が多いのである。

 急に来たというのに、持て成しとしては、かなり上級だと言えた。


―若衆小屋に来るの、久し振りだな。


 里は火事を嫌う。


 延焼したら里全焼の恐れも有るからだ。

 だから喫煙は禁じられているし、若者が一人ずつ夜回りの当番をして、火の用心をするのである。


 若衆小屋は、其の為の待機小屋なのだが、大体は若者が集まって飲む為に使われる掘立小屋(ほったてごや)で、下方限(シモホーギリ)に幾つか在る。


 慣習として、近くに住む下方限(シモホーギリ)御婆さん(バッバン)が、若衆小屋に居る夜回り当番の若者の食事の世話をしてくれる。


 其処に、夜回りの若者の友人達等が集まって夜通し飲むのである。


 夜回り当番自体は、数えで十六の春から参加する事になっているのだが、精々(せいぜい)年二、三回、回ってくるか来ないか、というところなので、友達の少ない顕彦は、若衆小屋に来る事自体が久方振りなのである。


 酒の肴の乾物と思われる匂いと、埃っぽい藁の臭いと、囲炉裏で薪が焼ける臭いがする。


 別に顕彦は、若衆小屋が好きでも嫌いでも無いが、単純に、冬は寒そうだな、と思っている。


―あ、夜回りが出て行ったって事は三時間近く寝てしまったかも。


 悪い事をしたな、と顕彦が思っていると、三郎次が、笑顔で話し掛けてきた。


「顕彦さん、四時間も寝てい(ねちょっ)たよ」

「え?」


 道理で頭がスッキリしたわ、と顕彦が思っていると、荻平が心配そうに言った。


「顕彦さん、自分(わが)思っている(おもっちょい)より疲れている(だれよん)のではないの(のじゃね)よく(よお)寝ていたけど(ねちょったが)記憶が無い(おぼえんごなっちょた)でしょう。一度(いっど)、息をしている(しちょっ)か確認してしまった(しもた)わ」


そうかも(だかも)全く起きないで(おぼえんご)寝ていた(ねちょった)。…(オイ)(ミッ)で。こんなに(こげん)疲れていたら(だれちょったら)悪酔い(わるえ)しそう。ごめん、誘ってもらっておいて(もろちょって)


「いや、飲みに(のんけ)誘っておいて(さそおって)(ミッ)(じゃ)しね、こっちも。ごめん」


 顕彦と荻平は、そう言って笑い合った。


 三郎次が、再びモグモグと酒の(シオケ)を食べてから、此れ(こい)有難う(あいがと)、と言った。


 如何(どう)致しまして、と顕彦が言って、御重を見ると、()だ中身は(ほとん)ど食べられていなかった。


「今日の夜回り(ヨマワイ)当番(トバン)居なくなる(おらんごなっ)まで隠していたの(ちょったと)。今開けた」


 荻平の言葉に、顕彦は、成程、と言った。


 酒好きの父親が居る御蔭で、酒の(シオケ)が常備されている家ではあるが、どの程度の量が御重の中に入っているか、顕彦は見ていない。


 大勢で分ける程、酒の(シオケ)が有るか分からないので、吝嗇(けち)臭いかもしれないが、荻平の判断は賢明と言えた。


 顕彦は、囲炉裏端の脇に避けられた、御重を包んできた風呂敷の傍に行き、座った。

 左隣に荻平、更に荻平の左隣に三郎次が座っている。


 荻平が、自分と三郎次の間に置いてあった御重を、自身の前に置き、三人で酒の(シオケ)が抓める様にしてくれた。


 三郎次が言った。


如何する(どげんすっね)?顕彦さん。食べるかい(たもっね)それ(そい)とも先、風呂?共同風呂だけど」


「ああ、風呂?良さそうだね(よかいね)


 眠気が勝って、全く腹が減っていないのである。


 顕彦が、手拭い(チョノゲ)有る(あっ)しなぁ、と言うと、じゃあ行こう(いっが)、と荻平が言った。


―夜回りが出て行った、という事は、そろそろ火を落とす家が出るからな。夜回りは、上方限(カミホーギリ)から回って戻って来るから、行くなら今のうちかも。御言葉に甘えて、入らせてもらおう。でも、下方限(シモホーギリ)の共同風呂は初めてだな。


 里の外で経験済みなので、共同風呂には全く抵抗が無い顕彦だが、下方限(シモホーギリ)の共同風呂は初めてだった。どんな場所か、単純に興味が湧いた。


 提灯を持って、三人で共同風呂に行くと、もう顕彦達で最後だったので、風呂焚き当番の人に火を落としてもらって、湯が冷めないうちに、と時間勝負で、三人で()わる()わる入った。


 雨避けの屋根が付いているが、ほぼ露天、と言っても良いくらいの造りである。


 しかし顕彦は、風呂釜や湯屋に対しては、上方限(カミホーギリ)の内風呂と、そう変わらない印象を受けた。


 最後とあって、御湯は其処まで綺麗とは言えなかったが、誰かが、上がり湯用に、釜とは別に、大きな盥に湯を張っていてくれた。


 其れ程不快では無いが、露天風呂で行水をしている様な、よく分からない感じがして、顕彦は、何時(いつ)もの倍くらい忙しい風呂だ、と思った。


 何ヶ所かに洋灯(ランプ)が置いてあるので、持って来た提灯は、蝋燭が勿体無いので灯を消してある。


 薄暗い場所で、最後風呂の三人が、ボンヤリと橙色に照らされている。

 男三人、身の丈どころか体格まで横並びで、親しみの持てる感じはする。


 無論、とても妹達を連れて来られる様な上品な風呂ではないが、顕彦の様な、独り者の冷や飯食いには充分、という気もした。


―男湯に相応しい(ざつ)さ、と言うか。こう、急に来ても、風呂を貸してくれる様な、受け入れの間口が広い感じ、と言うかね。(せわ)しないけど、其れ以外は、其処まで気にならないな。


 もう一度、白張(しらはり)を着た顕彦が手鏡と櫛を使っていると、先に白張(しらはり)に着替えていた荻平が、手拭いで頭を拭きながら、話し掛けてきた。


「共同風呂、平気だったかい(じゃったね)?」

「平気も(なん)も。里の外じゃ風呂無しの宿も有るだろう(あっがな)。上等な風呂じゃないか(なかね)


 荻平は、少し心配そうに、そう?と言った。


そんなに(そげん)御坊っちゃんだと(やち)思われているの(よっと)かね」


 顕彦は、そう言って笑ったが、家では若様(わかサァ)だとか呼ばれているのを見られているのだから、無理も無い話では有った。


 荻平は、少し含みの有る笑みを浮かべてから、櫛を使っているの(つこちょんの)?と言った。

 

 顕彦は、不思議に思って聞き返した。

「荻平さんは使わない(つこわん)の?」

「あんまり」

「え?使わないで(つこわんで)其れなの(そいね)?」


 顕彦の言葉に、荻平は、キョトンとした顔で、うん、と言った。


 荻平の頭は、何だか何時(いつ)もサラリと整っているので、如何(どう)手入れしているのかと思っていた顕彦だったが、まさかの手入れ無しの様である。


 荻平が不思議そうに、なんで(ないごて)櫛を使っているの(つこちょんの)?と尋ねてきたので、顕彦は説明した。


(オイ)使わない(つこわん)(そっせ)なるからさ(なっでよ)最初(いっばんさっ)前髪(マエガン)(カタッ)作ってさ(つくっせぇよ)其れ(そい)から乾かしていかない(ちかん)と。(カン)全部(ずるっ)右側に跳ねる(はぬん)の」


 多分顕彦は、旋毛から右回りに髪が生えているのだ。

 生え方に癖が有るのだろう。


 荻平は、よく分からない、と言った様子で、そうなの(そうね)?と言った。


 何か腹立つなぁ、と顕彦が思っていると、珍しく三郎次が、着替えながら、ジットリした視線を荻平に送っている事に気付いた。

 羨ましいらしい。

 顕彦は黙る事に決めた。


 髪の話題は、やはり難しいのだ。




 片付けや掃除は明日、掃除当番が遣るので、釜は其の(まま)で良いと言われた。


 作業で湯冷めする者が出るから、と荻平が説明してくれた。


残り湯(ノコイユ)も、畑やら洗濯(センタッ)やらに使っている(つこちょん)の。だから(じゃっで)其の(そん)(まま)で」

「成程」


 其の辺りの事情は、上方限(カミホーギリ)の内風呂も、そう変わらないな、と顕彦は思った。


有難う(あいがと)、風呂」

「うん、顕彦さん、疲れていた(だれちょった)みたい()し、入りたい()ろ、と思っ(ちおも)て」

「荻平さん、気()利く人(じゃらい)ねぇ」


 顕彦は、散髪の後は、切った髪が()だ体の何処かに付いている様な気がするから入りたいし、墨も落としたかったので、素直に荻平の気遣いに感謝した。


―今から家に戻っても、風呂の火が落としてあるだろうし、助かったなぁ。


 今日は半ドンで、髪を切って、寝て、風呂にも入った、となると、顕彦は、かなりスッキリした気分になった。


 そして、何となく空腹を覚えてきた。


 自分は最近、本当に疲れていたらしい、と、顕彦は、しみじみと思った。


 しかし荻平は、言い(にく)そうに言った。

「いや、実は(じちゃ)少し(ちっと)事情が有って。()()時間になる(ない)まで風呂に誘わなかったの(んかったと)


「え?」


 顕彦が聞き返すと、荻平と三郎次は、若衆小屋に戻る道すがら、気不味そうに俯いた。


 (やや)あって、荻平が口を開いた。

(オトコン)()の共同風呂は、明治二四、五年くらいに出来たみたいなのだ(ごたっ)けど」

「へぇ。其れで(そいで)?」


 里では比較的新しい物だと顕彦は思う。

 何なら、顕彦の家の風呂よりも新しいかもしれない。


 顕彦が続きを促すと、荻平は、言い(にく)そうに言った。

其の(そん)頃は上方限(カミホーギリ)()()も、あの(あん)風呂に来ていた(きちょった)らしい」

「へぇ」


 うちの父親くらいの世代かな、などと思いながら、顕彦は相槌を打った。


 荻平は続けた。


「明治に出来たとなる(ちなっ)と、もう混浴、って()頃でも無い()し、女湯()方は、掘立小屋の()中に(なかせぇ)風呂が別に在るの(あっと)だけど(じゃっどん)、男湯は殆ど(あらかした)露天だろう(やっどが)。…えーとね」


「うん?」


「上方限の()()来なく(こんご)なった理由、っていう(ちゅう)()が」

「うん」


出歯亀(デバガメ)と盗難…が理由みたいなの(んごた)

「え?」


 顕彦は思わず懐の財布を確かめたが、有難い事に、盗られてはいなかった。


 いや、と荻平は、もっと言い(にく)そうに言った。

財布(フゾ)では無くて(ねで)

「え?他に(ない)有るかな(あっけ)


 荻平は黙ってしまった。


 三郎次がボソッと、手拭い(チョノゲ)、と言った。


「え?手拭い(チョノゲ)?」


「…そう。持ち主(モッヌシ)が体洗っ(あろ)たり、拭いた()した、手拭い(チョノゲ)


 荻平は、小さな声で、そう言った。


 顕彦は、聞き違いかな、と思って、言った。


「え?何でよ(ないごてな)(ダイ)が、そんな(そげん)(こっ)を」


「ねぇ?(ダイ)だったの(やったと)かね…」


 困った様に、そう言う荻平に、顕彦は更に尋ねた。


「え?あと…先刻(さっき)、出歯亀とか言わなかったか(いわんかったけ)?男風呂をわざわざ(たまさか)覗いている(のぞきよっ)()居る(おん)の?」

「昔は…」




 若衆小屋に戻ってから、酒の(シオケ)(つつ)きつつ聞いた話を(まと)めると、こうである。


 荻平の伝え聞いた話によると、上方限(カミホーギリ)の、ある特定の若者達が、下方限(シモホーギリ)の共同風呂に来ると、風呂の周りに人だかりが出来ていたらしい。


 其れが、時間を選んで行っても、絶対に混むのだという。


 そして、何時(いつ)の間にか、置いておいた手拭いが、新品と交換されている、というのである。


 気味が悪くなったらしく、其の若者達は風呂に来なくなり、次第に、上方限(カミホーギリ)の他の若者も来なくなった、という。


「つまり…(ただす)殿(ドン)(たっ)()()だった頃」

 荻平は、言い淀みながらも、そう言った。


 顕彦も理解してしまった。


「…そして、既に混浴という時代ではなくなっていた、と」

 顕彦は、思わず、荻平に合わせて方言を使う事も忘れて、そう言った。


 荻平は、うん、と言って肯定した。


 つまり、見目好い若者達が風呂に入るのを見たい男や、其の若者達が使った手拭いが欲しい男が居た、という事である。


 態々(わざわざ)、混浴ではない、と前置きする、という事は、其の場には男性しか居なかった事を示しているのである。


 荻平は言い(にく)そうに続けた。


そんな(そげな)事、今まで(いまずい)思い出しもしな(せん)かったのに。今日、(ただす)殿(ドン)息子(ムヒコ)を見て。あと、実方(さねかた)()の子とか。(まさ)(あき)()あれで(あいで)十四?」


「うん」


「昔は(ただす)殿(ドン)も、ああいう(あげな)感じだったの(じゃったと)かな、って()。…(ない)間違い(まっげ)が起きそうな感じの、綺麗(みご)()…」


「待って、待って、待って、待って。怖い、怖い、怖い、怖い」


 顕彦は、荻平の言葉に激しく動揺した。


 そう言えば、栄吉を見た荻平は『(ない)間違い(まっげ)が起きそうな感じ』と言っていたが、今にして思えば、栄吉の容姿の良さに対する心配や、警告の含まれた言葉だったのだろう。


―妹どころか、俺に弟が居ても連れて来られない様な風呂だって言うのかい?


 顕彦は鳥肌が立った。


 荻平が、怖いだろ(おじやろ)、と言った。


 顕彦は、うー、と呻いてから言った。

「待って、使った(つこた)()手拭い(チョノゲ)なん()盗って如何するの(いけんすっと)?」


「…(オイ)にも分からない()けど、分からない()()が、まともかもしれない()ら、深く考えない(ふこかんげん)(こっ)している(しちょっ)


 顕彦は、急に知らない国に来てしまった様な気がして、身震いした。

 他人の手拭いを欲しがる事自体が、顕彦には未知の感覚だった。


 荻平は、取り成す様に、まぁ、と言った。

其れ(そい)を思い出したものだから(んじゃっで)。顕彦さんを誘う(さそ)なら万が一()(こっ)考え(かんげ)て最後風呂にしようかな(すっかいな)って()思って(おもて)。まぁ昔()(こっ)(じゃ)けど、万が一、ね。流石に(ダイ)居ないだろ(おらんやろ)って()


「…荻平さんって()凄く(わっせ)()利く人だね(やね)有難う(あいがと)


 顕彦は、心から荻平に感謝しながら、鳥肌の立った腕を(てのひら)で擦った。


だから(じゃっで)、共同風呂に行ったなん()知られると(るっと)、顕彦さん、親御さんに叱られない(がられん)かね、って()


「あ、其れ(そい)で、下方限(シモホーギリ)()風呂が平気だったかと(やったかち)聞いたのか(とけ)有難う(あいがと)


「うん。長は絶対来ない(こん)し。まぁ…来なくて(こんで)正解なのかも(じゃっかも)しれない(しれん)し」


「…本当に(まこち)難しい(むっかし)話題(じゃ)ね」


そうだ(じゃらい)ねぇ。ほら、(オイ)(たっ)慣れている(ないちょっ)し、他に風呂が無い()けど。自分の家(わがや)に内風呂が有る(あっ)なら、普段(かねっ)は、そっちにした方が良いのではないかな(よかとじゃなかね)


「うん…」


 顕彦は、内風呂が在る、という自分の環境と、其れを与えてくれる親に深く感謝した。


 荻平は、更に言い(にく)そうに続けた。

「女湯も糠袋とか盗まれていたみたいだ(よったごたっ)けど」

「え…」


 糠袋は、身体を洗う為に米糠を入れておく袋で、其れを、身体を擦って洗う道具にするのである。手拭いと同じ話であろう。


だから(じゃっで)女湯は、覗き対策も兼ねて女同士で交代に見張り(ミハイ)ている(よん)の。でも男湯は、普段(かねっ)は、そんな(そげな)(こっ)、別に無い()から、見張り(ミハイ)も、居なくて(おらんで)…えーっと」


「うーん。…何て言い様(なんちゆよ)無い(なか)ね」


 荻平が言い淀む気持ちが、顕彦には何となく察せられた。


 其れ(そい)でさ、と荻平は言った。

(ただす)殿(ドン)は元々几帳面だったみたいだ(ごたった)けど、其の件以降、物を使っ(つこ)たら定位置に戻さな()と、気が済まなく(すまんご)なったらしいよ。無くなっている(ねごなっちょっ)か、交換されている(ちょっ)かもしれない()から、って」


「うーん…」

 以前から、糺が物を定位置に戻す癖の話は聞いていた顕彦だったが、結構重い理由が有ったらしい。


 唸るしか無いわ、と思いながら、顕彦は言った。


「いや…出歯亀って言っ(ちゆ)ても…。人だかりって(いち)そんなに(そげん)見たいのかな(みたかとけ)?」


(オイ)は、()()気持ち(キモッ)は分からない()けど…実際、凄い(わっせ)美男子(ヨカニセ)だったってさ(じゃったちよ)


 顕彦は、何とも言えない気分になったが、取り敢えず、そう、とだけ言った。


 過去の事例として記憶に留めるだけにして、理解や分析は保留にしよう、と思い、顕彦は、三郎次が湯呑に入れて出してくれた水を一口飲んだ。

 硝子や内風呂同様、布団も高級品でした。


 江戸の銭湯では、女性が糠袋を盗まれる、という被害があったらしいです。


 郷中(ごじゅう)を調べると、結構、男性同士の性の問題が出てきます(真偽の程は定かではないですが)。

 男性同士の話は、江戸時代までは結構出て来るので、不自然な事は無いのですが、郷中(ごじゅう)の場合、噓か誠か、朝鮮半島の花郎(ファラン)文化の影響を受けているという説を読んだ事も有ります。

 曰く、美少年を神聖視して敬うとか、稚児の文化みたいなところに共通点が有るそうです。

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 花郎(ファラン) 新羅(しらぎ)時代、貴族の子弟からなる青年集団が奉戴(ほうたい)した美少年。またそうした習俗。

 6世紀の真興王代に美少年2人を粧飾(しょうしょく)して花郎とよび、それを中心に貴族の子弟を二分し、互いに対立して道義、歌舞、武技などを磨かせたのが始まりとされる戦士団であり、教育機関であり、弥勒(みろく)信仰を奉ずる宗教的集会でもあり、新羅の発展に大きく寄与した。

 しかし高麗(こうらい)時代以降は変質し、李朝(りちょう)時代には男覡(だんげき)倡優(しょうゆう)などの呼称となった。

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