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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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突然の来客

「あたしたちもちょっと訳ありでね。あぁ、そうだ、言っておかないといけないわね。オストリンデ、今、店の前にレクス・フローウェルと王国騎士団長が待ってるわ」


 ウィンのその一言に、珍しくオストリンデが真顔になり、パチクリと瞬きを繰り返す。突然の事態に直面し、理解が追い付かない表情と言うのは、それなりに滑稽な表情だ。なのだが、オストリンデはそれなりに顔が良いので、そんな表情でも絵になってしまう。

 そんな彼女の横顔を見ていると、一の足元に可愛らしい衝撃がある。


「ごしじんたまっ! たらいまー」


 一の足に抱きつき、顔をぐりぐりと擦り付ける世界で最も可愛い犬耳幼女に、思わず笑みが溢れてしまう。


「おかえりー、シロ。どうだ、外は楽しかったかぁ?」


 シロと同じ目線に合わせるためにしゃがみ込み、ぐしぐしと擦り付けてきたキュートな頭をくしゃくしゃと撫でながら一はそう尋ねた。


「うぃ! キラキラしてうお日様に乗ったの!」

「おぉ、そうか! お日様に乗ったのか! 良かったな!」


 とは言いつつも、キラキラした太陽に乗ったと言うのはどう言う意味なのだろうか? と考え始めると同時くらいに、オストリンデがようやくウィンの言葉を理解したようで


「ちょ、ちょっと! な、なに、何が起こってるのよウィン! 店の外で、この国の王が待ってる!? ほんと!? それ本当なの! 待って、言わないで! 何これ、ドッキリ!? 私を驚かせようって魂胆なの!? ねぇ、何とか言いなさいよウィン!」


 パニックになりながら、オストリンデはウィンににじり寄り、ガシッと肩を掴んで前後に激しく揺らす。


「ちょ、ちょっと! 落ち着いてよ、オストリンデ! あたしは嘘なんて言ってないわ。と言うより、早く出迎えに行かないとまずいわよ! ここ、あんたの店なんだから!」

「そ、そうね! そうだわ! そうしないと!」


 ギョッと目を見開き、オストリンデはすぐに行動を始める。すぐさまシャワー室から飛び出し、音しか聞こえないがドダバタと走り回り、ガシャンと何かを割り、またドタバタと走り回り、今度はバキッと何かを壊し、そしてようやく静かになる。


「な、なぁ、ウィン。この国の王様が来てるって本当か? 俺どうすればいい? 隠れてた方がいいかな?」

「いえ、今回は問題ないわ。と言うか、レクスの目的はあんただもの、隠れるのは悪手だわ」

「は? 俺!? なんで!」

「レクスと一緒にいた王国騎士団長がグラムだったのよ」


 その名前を聞き、一は数秒の逡巡を経て、顔を思い出した。その名前は確か、カッスラーで共に炎龍討伐をした騎士の一人だったはずだ。懐かしいな、と思える程には時間が経っているため、変な懐かしささえ覚える。


「へぇー、そうか……あ? ってかあいつ、王国騎士団長だったのか? そんな事、一言も言ってなかったよな?」

「えぇ、あたしもさっき会った時に聞いて驚いたもの。あんたがカッスラーで使ったポーションについての情報がグラムの耳に入ったみたいでね。どうにかしてその薬が欲しいんだってさ」


 その言葉の真意に気付かない一ではない。つまり


「賢者の石の事が外にバレ始めてる、ってわけね……」


 そう言う事である。とは言え、あまりウィンが焦っているような素振りをしていないため、自分も特段焦るような事でも無いのだろう。それに、案外グラムも何かすごい薬があるらしい、くらいにしか思っていない気がする。でなければ、もっと早くに彼らは一たちに接触をしてきたはずだ。


「面倒事になりそうか?」

「……まぁ、十中八九、そうなるわね。でも安心していいわ。何とかなりそうだから」

「頼りにしてるぞ?」

「任せておきなさい!」


 ふふん、と慎ましい胸を張るウィンを横目で見て、一はどうしてか一抹の不安を覚えてしまった。



 そんな一とウィンのやりとりの最中、オストリンデは店内を行ったり来たりと大忙しであった。

 この薬学店はどちらかと言えば、平民向けの店である。とは言え下級や中級貴族が何人か訪れた事もあったが、店構えに関して言えば特に何も言われていないし、嫌な顔もされていないはずだ。普通の貴族ならば迎えられるくらいには問題無いと自負しているが、それ以上の人物を迎えるなどとは考えていなかった。そんなものは他の大店の問題だと思っていた。

 だがどうだ? あのエルフ娘は何と言った? レクス・フローウェルが店の前で待っている? 一体何がどうなれば、この国の王がこんなチンケな薬学店を訪ねてくることになるのか全くもって分からない。

 とは言え、やる事は変わらない。何故ならばここは薬学の聖地、ペネストレーデ。ここに来る者は総じて患者で、自分は薬師。その前提が崩れない限り、いくら身分が上だろうが、権力を持っていようが、やる事は同じなのである。


「……とは言え、流石に王族を店内で立たせておくってのはマズイわよね」


 レクス・フローウェルを迎えるための部屋を必要最低限だが整え終えると、オストリンデは疑問を抱き始める。これはドッキリなのかも知れない、という現実逃避に近い類の疑問だ。だがそれも裏から店内に出て、入り口へと歩を進めると、その考えを正さなくてはならなかった。

 店の前に止まっているのは、豪奢な馬車だ。いや、豪奢なだけではない。王族に、しかも国王にのみ許された紫色の竜胆の花と、王家の紋章が描かれているのだ。平民は分からなくとも、貴族であれば誰もがその場に跪き、頭を垂れるはずだ。

 オストリンデは貴族では無いもの、それに近い身分であるため、王族に対する知識は多少だがある。しかし、目の前の光景が現実だと素直に受け止めきれずに、目をぱちくりとさせる事しか出来なかった。

 そうしていると


「む? 君がオストリンデ嬢だな?」


 騎士姿の筋骨隆々熱血漢に声を掛けられ、オストリンデはハッと息を飲み、速やかに笑顔を作る。接客の修行が生きた瞬間だ。サボらずに練習していた子供の頃の自分に最大級の感謝を捧げながら、騎士に一礼をした。


「私がオストリンデでございます、騎士団長様。ようこそ、オストリンデ薬学店へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「王国騎士団長のグラムだ。実はな。ここにいるハジメという男に用があるのだ。無論、君の力も借りる事になるだろう。事情はエルフの嬢ちゃんに聞いてるか?」

「いえ、何も聞いてはいませんが……」


 とオストリンデはきょろきょろと周囲を見渡し、ススっとグラムに近づき耳打ちをしようとと背伸びをする。それに気付いたグラムも彼女の口元に耳を近づけようと腰を屈める。


「レクス・フローウェルがいらっしゃっていると伺っております。認識阻害の魔法薬がありますが、お使いになりますか?」


 ひそひそ話にグラムは首を横に振る。


「いや、その必要はない。身分を隠すならばこの馬車を使ったりはしないからな!」

「畏まりました」

「では陛下をお呼びしても良いか?」


 グラムの言葉に、オストリンデはごくりと息を呑む。ほとんどの人間は生きている内に王族に出会う事はない。名前は知っていても姿を見た事がない者の方が多いし、何なら名前も知らない人も多い。

 そんなほとんどに当てはまらないの一部の人間に、オストリンデも含まれている。とは言え、国王たるレクス・フローウェルに会ったのは随分昔だし、彼女もまだ子供だった事もあり、記憶は朧げだ。どう挨拶するのが正解だったっけ? 普通に貴族に対する礼で良かったのかしら? と呑気な事を考えていると、グラムが馬車の扉を開ける。もちろん降りてきたのはレクス・フローウェルだが、それが影武者であろとは彼女も気付かない。


「陛下。こちらがこの薬学店の店主、オストリンデ嬢です」

「初めまして、レクス・フローウェル。御身を浴する機会を頂けた事、光栄に存じます」

「うむ、オストリンデ・メイラード。ペネストレーデの聖女。お前の話は聞いた事があるぞ。確か、ロルド・ペネストレーデの頭を薄くした一番の原因、だったか、グラム?」

「陛下、それはサロンでの噂話に過ぎませぬ」


 クックッと喉を鳴らして笑うレクスに、グラムはやれやれと疲れたように溜息を吐くと、改めてオストリンデに向き合う。


「では、店内を紹介してくれ」

「畏まりました。ではどうぞ」


 恭しく一礼をすると、オストリンデは所々に緊張が垣間見える動作で二人を店内へと招き入れる。

「ほぅ……良い店だな、グラム」

「えぇ、これは薬屋には見えませんな」

 店内に入った二人は、それぞれに感嘆の声を漏らす。その様子に、オストリンデはちょっとした喜びと優越感に浸る。


「グラム様。奥に部屋をご用意させていただきましたので、そちらでお待ちください。ハジメさんをお探しであったと言うことですので、すぐにお呼びします」

「いや、よい。こちらがお願いする立場なのだ、我らが赴くとしよう」


 レクスの一言に、はぁ? とオストリンデが面食らう。声に出さなかった自分を褒めてやりたいが、それが出来るのはきっと目の前の二人が帰った後になるのだろう。


「い、いえ。それには及びません。王族の方にご足労願うなど……本来であれば、我々が王城へと参上するのが常ですのに」

「本来ならば、な。だがオストリンデ嬢。既にその本来からは大分道を外しているのだ。気にしなくて良い。で? ハジメたちはどこにいるんだ?」


「えぇっと……どうでしょう? さっきまでバスルームにいたので、まだそっちにいるかも知れません」

「バスルーム? 身を清めていたのか?」

「いえ、そういう訳では……」

「じゃあ乳繰り合っていたのか?」

「まさか。ちょっとした薬の実験をしてただけですよ。ちょっと確認してきますね」


 怖いこと言わないで下さい、とグラムを一瞥すると、オストリンデが店の奥、バスルームへと走る。すると、一たちはまだバスルームにいたのだが、どうにもこうにも面倒臭い事になっていると一目見ただけでも分かる状況だった。


「ご主人様、奥様にご挨拶させて頂いて宜しいでしょうか?」

「ちょ、ちょっと! あたしはハジメの奥様なんかじゃないんだって!」

「そ、それは失礼いたしやした! 罰は如何様にでも!」

「ウロニム、そんな事はしないから安心しろ」

「ごしじんたま、ぶたないよ? シロのこと、いい子いい子って、いっぱいなえてくえうよ!」

「そうだぞ、ウロニム。まぁ、お前はもう撫でるって歳でも無いから、そんな事はしないが……」

「ですが、奥様に失言をしてしまったのは事実でやすんで、罰は受けなくては……」

「だぁかぁらぁ! あたしはまだハジメの奥さんじゃないの!」


 バスルームに残った四人がそれぞれに話をしており、収拾が付かない状態だ。

 ウィンは顔を真っ赤にしてちょっと嬉しそうに怒っているし、一はウロニムの奴隷としての考え方に悩んで憤っているし、シロは新しい家族に戸惑いながらもそれを受け入れようと一生懸命になっているし、ウロニムはそんな三人の言葉に右往左往しながらもそれに馴染もうとしている。

 そういうのはバスルームじゃなくて、もうちょっと別の……そう、もう少し静かで落ち着いて話し合えるような場でやってくれないかな、とオストリンデは思いながら、大きく咳払いをした。


「お話中の所すごい申し訳ないんだけど、レクス・フローウェルが来たわ。ウィン、ハジメさんを連れて行って! シロちゃんとウロニムさんは上の部屋で待ってて貰える?」


 シン、と静まったバスルームで、オストリンデはテキパキと指示を出す。だが、誰一人として動かず、全員が彼女を見つめていた。


「ほら、早く動きなさい! ウィン、ハジメさん!」


 名指しされた二人はビクッと背筋を正し、すぐにバスルームを出て行く。残されて不安そうなシロに対し、オストリンデはしゃがんでその頭を優しく撫でる。


「シロちゃんは、ウロニムさんと上の部屋で待っててくれるかな? 一緒にお菓子食べたお部屋よ? 覚えてるかな?」

「……ぁい、お、おぼーてりゅ、ます」

「そう、偉いわ。じゃあそこにウロニムさんを案内して上げて、寂しく無いように一緒にいてあげてくれるかな、シロお姉ちゃん?」


 オストリンデの『シロお姉ちゃん』という言葉に、ほんの少しばかり緊張して人見知りを発動させていたシロはきゅるんと目を輝かせた。ふんす、と鼻息荒く、お姉ちゃんとしての決意を瞳に宿し、ウロニムの左手の人差し指を掴むと、彼を引っ張るように歩き出した。


「こ、こっち! シロ……おねーたんが案内しゅる!」

「へい。よろしくお願いしやす」


 へこへこと頭を下げ、ウロニムは年も背も小さな姉貴分に引っ張られていく。オストリンデとすれ違う際、彼女は小声で


「話し合いが終わったらそちらへ向かいますので、それまで辛抱を」


 と彼に伝え、了解したと、頷く。

 そんな二人を見送り、オストリンデはフッと肩を下ろして、自身も一とウィンの後を追う。

 レクスとグラムを通したのは一階の奥にある一と共に尿管結石の研究をしている部屋だ。流石に平民たちに応対する部屋では、と思った結果でもある。だから研究道具や機材には大きな布が被せられ、見られたら困る物などは隠し、洗浄の魔法で部屋内を綺麗にし、椅子を人数分用意されていた。

 オストリンデがその部屋に入った時に真っ先に目に入ったのは、一がグラムの肩をバンバンと叩きながら笑って親しく話している姿と、ウィンがレクスに向かってイラついた表情であーだこーだ文句を言っている姿だった。

 気絶するかと思った。いや、そうした方が良かったのだ、この後の事を考えると。

 言葉を失い、半開きになった口から息だけが漏れていき、酸欠になった脳が新しい酸素を欲して無理やりにオストリンデに息を吸わせる。酸素を取り入れた事で、脳が思考を再開した。


「ちょ、ちょっと二人とも! 何をしているのですか! 相手は王族とその騎士ですよ!」


 眉を吊り上げ、オストリンデはズカズカと四人の間に割って入り、礼儀のなっていない二人に詰めよる。


「大丈夫よ、オストリンデ。これくらいの事で怒ったりしないわ……しないわよね?」

「そうですよ、オストリンデさん。これでもグラムとは友達なんで……俺たち友達だよな?」


 似た者同士の問いかけに、当人たちは顔を見合わせてそれぞれに笑う。


「もちろんじゃ。そのように器量が狭くては王なぞ務まらんからな」

「うはは、勿論だ! 共に戦場を駆けたのだ、お前はもう俺の友だ!」


 その様子を、またもやポカンと見ているオストリンデは改めて、自分が知り合ったこの二人が思っていた以上に変な人物なのだと実感する。或いは想像以上にぶっ飛んだ狂人の類か……まぁ、どちらにせよ、王の御前であるというのに臣下の礼すらせず、何なら対等に話している人物が一般的であるはずもない。


「それよりオストリンデ、突っ立って無いで座れば? 本題に入りたいんだけど?」


 悪びれもせずにウィンが椅子を進めてくる。もうどうしていいのか分からずに、彼女は言われるがままに着席すると、「では」とウィンが口火を切る。


「今からここで話す事は全て他言無用よ。念の為に盗聴、盗撮、透視防止の魔法障壁を張らせてもらうわ」


 立ち上がったウィンが呪文を唱えている間に、言葉は一が引き継ぐ。一は務めて真面目な表情を作り、前のめりになりながらグラムを見つめ、訪ねる。


「グラム。お前はどこまで知ってるんだ? 申し訳ないけど、答えによっちゃあ……」

「いきなり恐ろしい事を言い出すな、ハジメは。そうだな……お前たちがどんな傷でも治す万能薬らしき物を所持している、ってところだ。それがどういったもので、どうやって手に入れたのか、どうやって作られたのか、どこにあるのか、そう言った類の事は何も知らん。あくまで万能薬らしきものをお前たちが所持している、と言うことしか知らないんだ」

「嘘はないな?」

「あぁ、騎士団長の名に誓おう」


 グラムも同じように真面目な顔のまま深く頷き、一を見つめ返す。


「なるほどな……じゃあ、質問を変えるけどいいか、ウィン」

「えぇ、大丈夫よ。障壁は張り終えたから」


 ウィンがぱちりとウインクをして椅子に座り直すと、一はふぅ、と息を整える。


「よし、じゃあ本題に入ろう。誰に使うつもりだ、グラム」

お待たせしてすみません!!

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