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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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馬車内の密談 後編

「なに? あんたら、もしかして付き合ってるの?」


 そう尋ねた結果、二人は真逆の反応を見せた。


「む? そんなわけはなかろう!」

「えっ!? ええええ!? い、いや、べ、べべべ、別に、ま、まままま、まだ、まだ付き合ってはないよ!」


 ちなみに、前者がグラムで後者が影武者ちゃんである。


「ふーん。まだ、ね……じゃあ好きなんだ?」

「すすすす、好き!? え、えっと、す、すすす、好き、かどうかは……その……あの……」

「あんた、素の声になってるわよ?」


 うはは、と笑っているグラムの隣で、顔を真っ赤にして俯き、チラチラと隣を盗み見する老人という意味不明な絵面が目の前にあることに、ウィンは頭を抱えたくなる。数秒前のじぶんの不用意な発言を戒めてやりたいと心から思い、チッと舌打ちをした。だから、腹いせの意味も込めて、他人の好意に疎そうな騎士様に告げてやることにする。


「グラム、こいつ、あんたの事が好きみたいよ?」

「うわあああああああああああああああああ! ちょ、ちょっと! ちょっと待った!」


 最後まで言い終わるかどうか、というタイミングで影武者がウィンの口を塞ごうと飛びかかってきた。


「いきなり変な事をいう口はこれか!」

「やめなさい! 離せ! こら! シロが起きちゃうからっ!」 


 決して広くない馬車内でエルフの美少女と老人(中身は女性)が取っ組み合うという珍事に遭遇しながらも、一度寝ついたシロが起きることは無かった。


「ちょっと! グラム! 見てないで止めてよ!」

「ん? あぁ、悪い!」

「ちょ、ちょっとグラム殿! 離して! 離してってば!」


 グラムがズイッと手を伸ばし、ウィンの口を塞ごうと四苦八苦していた影武者の首根っこを掴んで引き剥がす。そして大人しくなった影武者はムスッとした表情でウィンを睨みつけ、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「私、あなたのこと、嫌いよ」

「あっそ」


 ツンっ、とウィンをそっぽを向く。


「おいおい、頼むからもうちょっと落ち着いてくれ」


 そっぽを向き合う二人に、溜息を漏らしたグラムは、項垂れて首を横に振った。


「さて、話を戻すが……治療することになった場合、すぐに薬は用意できるのか?」

「出来るわよ? ただ、オストリンデに色々と調べてもらわないといけないから、時間は欲しいわね」


 サラッと言ったウィンにグラムは顔をしかめ、少し怒気の強い口調で言う。


「効果の怪しい薬をカッスラーの民に与えていたのか?」

「緊急事態だったから仕方ないわよ。本当なら、オストリンデに調べてもらってからどう使うかを決めるつもりだったもの」


 悪びれた様子もなく、ウィンは淡々と話す。対してグラムは、ウィンの言葉に納得をした。確かにカッスラーの大惨事を見れば、急を要する事態であったのも頷けるし、どうにか出来る手段があったのであれば、それを使うのも当然だと言えよう。


「まぁ、理由が理由だ。別に責を問うつもりはない。だが、その薬の効果は確かか?」

「そうねぇ……詳しい事は言えないわ」

「何故だ?」

「何故だ、って……あんたそれしか言えないの?」


 辛辣な言葉に言葉を詰まらせたグラムに、影武者が助け舟を出す。


「つまりこういう事よ、グラム殿。その薬の効果は本物で、恐らくは病気だろうが怪我だろうが、一瞬で治癒させる。でも、その詳細を教えてしまえば、そこから秘密は漏れ伝わっていくだろうって」

「俺たちが秘密を漏らすと思っているのか?」

「当たり前じゃない。秘密なんてどこから漏れるか分からないし、何なら魔法で簡単に奪えちゃうもの。それに、知識とか情報って言うのはね、独占しているから価値があるの。更に言えば、何でも治せるボーションを持っている者と持っていない者、どちらが厄介事に巻き込まれるのか、言わなくても分かるでしょう?」


 そう言われてしまえば、流石のグラムと影武者は何も言えなくなってしまう。グラムは考えていなかったが、影武者の女性は秘密裏に本物のレクス・フローウェルより、ポーションの生成方法や必要な素材、或いはどんなに高額でも買い付けることは可能なのか、といった諸々の調査を命じられていた。しかしながら、目の前のエルフの少女はその価値を正しく認識しており、迂闊な事は何一つとして喋らない。


「でも一番の理由は、あのポーションの全貌がまだ分かっていない、ってことね。知らない物は教えられないから」

「だが、その目で見たんだろう?」

「死に体の黒龍が完全回復した所をね」

「なら、問題無い、よな?」


 とグラムは影武者をチラッと見た。


「そうね。ただ黒龍と人間で効果が違うかも知れないわよ?」


 影武者はもう声を偽る事を辞めたのか、素の声で話し始めている。


「だから、オストリンデに調べてもらうつもりでここに来たんだもの」

「その調査にはどれくらい時間が掛かるんだ?」

「そうね……」


 とウィンは考え込む。

 オストリンデには賢者の石の研究をしてもらうつもりだった。それが終わった段階でポーションの研究を始めてもらおうと思っていたのだが、こうなってしまった以上、賢者の石自体の研究は後に回し、ポーションについての研究をしてもらった方が良いだろう。それに、その方が後の手札が増えることにも繋がるはずだ。ただまぁ、オストリンデがそれで納得するかどうかが問題だ。目の前にぶら下げた餌を一度外し、別の餌に差し替える事をペネストレーデの薬狂いが許しくれるだろうか?


「うーん……」


 小難しそうに顔を歪めてウィンは唸る。


「そ、そんなに時間が掛かるのか?」


 不安そうにそう尋ねたグラムに、ウィンがゆっくりと首を横に振って否定する。


「オストリンデなら、基本的な事を調べるだけなら一日で出来ちゃうと思うの。でも、熱中すると周りが見えなくなるから、きっと自分の調べたい事とかやりたい事までやっちゃうのよ、あの子」

「なるほど……そこら辺はお前とハジメに任せるから、何とか数日中にお願いしたい」

「まぁ、大丈夫だと思うけど、お店に着いたら確認してみるわ。あと、あんたじゃなくて、レクスが言えばすぐよ、すぐ」


 そう言ってウィンは影武者を見た。そういう事なら、と影武者は大仰に頷く。


「任せてください。これでも影武者ですから」


 彼女の声はどこかツンケンとしていたが、ウィンはどうでも良さそうに手を振り払い、話題を変える。


「それよりグラム。あんたが護衛に戻ったって事は、炎龍討伐の件は王都に知れ渡っているのよね?」

「ん? あぁ、その通りだ。と言うよりも、アルメルディア領内で見つかった鉱石窟のせいでかなり注目されていてな。やれ利益がどうの、供給量がどうのと連日連夜にわたって貴族たちが話し合っていたんだ。そこに来てロルド・アルメルディアから黒龍と炎龍が争っていて領が滅びるかも知れないと知らせがきてな。王が全軍をアルメルディアに派遣しようとしたんだが、それに待ったが掛かった。やれ配属がどうの、指揮系統がどうのと、そうやって貴族たちがあれやこれやと会議していてな。埒が開かないから、とりあえず動ける奴らだけを連れて、俺が勝手に飛び出した。もちろん王から許可を得てな」

「で? 貴族はどこまで知ってるの?」

「そうだな……俺が報告した公式の報告書には黒龍は山脈に撃退、炎龍は村の自警団と旅の行商人の協力があって倒した、と報告をしたぞ。あぁ、それから、ハジメから聞いた、石化魔法が炎龍の体内では違う効果を発揮して金になった、とは言ってある」

「なるほどね」


 グラムの話を聞き、ウィンは腕を組んで難しい顔をした。時折、むぅ、と唸っては眉間に皺を寄せ、再び唸っては唇を尖らせたりする。


「と言うことは、カッスラーの村人に尋ねれば、旅の行商人があたしたちだって分かる。そこから辿っていけば……ん? ちょっと待って? 公式の報告、って言ったわね?」

「あぁ、貴族用にはそう言うことにしておいた。申し訳無いが、レクス・フローウェルには全てを話してある」

「あっそ、じゃあ貴族たちは黒龍を手懐けたのがハジメだとは知らないのね?」

「あぁ、あまり事を大きくしない方がいいと思ってな」

「ありがたいけど、どうして?」

「ハジメが望んでいなかったからな。もしあの時、あいつが俺の言葉に頷いて、着いて来てくれたのなら、貴族たちに本当の事を話して、あいつに貴族位や領土を与えてやるつもりだった」


 グラムは懐かしそうに微笑み、フッと鼻を鳴らす。そしてその考えを打ち払うように首を振る。その表情は後悔が滲んではいたものの、どこか吹っ切れたような表情にも見えた。


「いや、あいつは良い貴族になると思ったんだがな……アテが外れてしまったわけだ」

「ふんっ! 悪いけど、あいつはあたしと運命共同体なの。あんたにはあげないわよ」

「そう言えば、帰ってきてからグラム殿は例の彼の話ばっかりするわよね。もう少ししたら会えるわね。どんな人かしら?」


 影武者が話に入ってくると、ウィンはどうしてか勝ち誇った様な笑みを浮かべる。


「そうねぇ。ハジメは割と気が効くわよ。料理も上手だし、掃除もこまめにするし、シロの面倒もよく見てくれるわね! あと結構色々と物を知ってるし、人当たりも良いし、あんまり物怖じもしないわね。でもたまにバカなこと言う時もあるのよね。あと、普通に色んなことに首を突っ込もうとするから、面倒を見るこっちが大変ね!」


 上機嫌に話すウィンに、グラムは呵々大笑し、膝を叩く。


「そうかそうか! そこまで色々と話されると聞いているこっちが恥ずかしくなってしまうな!」

「なんでよ! 別に言って恥ずかしくなる事なんて言ってないわよ!」

「いやいや、仲が良いのは良い事だぞ? それに種族が違えど、恋人や夫婦になった者もそれなりにいるだろう?」

「別に! 別にハジメとはそう言うのじゃないわ。あっちがどうかは……知らないけど」

「ははぁん、魔法に聡いエルフ様でも恋愛には疎いのか」


 心底楽しそうにグラムと影武者はニヤニヤと笑っている。その様子がとてつもなくムカつくのだが、どうしてか真面目に怒る気にもならないし、心のどこかでは居心地の良さを少しだけ感じている自分がいるのも事実だ。


「でも、恋愛がどうとかは本当によく分からないのよね」

「そう言えば、前にエルフの価値観は人間とは違うって話を聞いた事がありますけど……本当に違うんですか?」


 影武者が思いついたように話し、ウィンは首を傾げる。


「価値観というか、寿命がそもそも違うから、考え方が違うわよね。エルフの中でも特に妖精種のエルフは普通のエルフのさらに倍くらいの寿命だし……でも、基本的な事は普通の生命と同じような考え方だと思うわ。価値観だって、さほど人間と変わっているわけでも無いと思うけど?」

「まぁ、価値観なんてものは人それぞれだしな。エルフにだって変人や物好きな奴らはいるんだろ?」

「そうねぇ……知り合いのエルフのオカマは人間の街でバーをやってるし、友達が欲しいって言って街に降りて暮らしているのもいるわね」


 ふと彼らの事を思い出し、何となく懐かしさを感じる。今頃どうしてるのか、亜人排斥の流れに負けてしまったのだろうか、と考えを巡らせていると、久しぶりに母の作った硬いパンと、豆のスープが食べたくなってきた。店に戻ったら何か食べようと心に決める。


「そのバーはどこにあるか知ってるのか? 国内にあるなら行ってみたいものだが……」

「さぁ? 場所までは聞いてないわね。でもフローウェルでは無いと思うわ」

「それは残念だ。ん?」


 ウィンの言葉に苦笑を返したグラムは馬車の扉がノックされた事に気付く。どうやら御者が目的地に着いた事を知らせてくれたようだ。


「どうやら着いたようだな。先に出てくれ。いきなりレクスが出ていっても店の人が混乱するだろうしな」

「そうね。じゃあ先に行ってるわ。ほら、シロちゃん、起きて? お店に着いたわよ」


 ぐっすりと眠っていたシロの肩を叩き、揺らし、背中をさすってやる。すると、うにゃうにゃ言いながらシロが目を覚ます。


「おねーたん、あしゃ?」

「違うわよ、まだ夜にもなってないわ。お昼寝よ、お昼寝」

「おしるね……ふわぁ……うにゃ」

「ほら、シロちゃん、行くわよ」


 まだとろんとした目をクシクシとこすりながら、シロはウィンの膝の上から起き上がる。まだふらふらと頭が動いている彼女の手を取り、ウィンは馬車を降りた。目の前にはオストリンデ薬学店があるのだが、店の中に人の気配が無い。


「まさか、店番も立てずにずっと研究してるんじゃないでしょうね……」


更新遅れて申し訳ない。

短納期の依頼が飛び込んできて、毎日残業と休日出勤の連続で余裕が無いので…

年明けには執筆時間も取れそうなので、ちまちまやっていきます。

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