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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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馬車内の密談 前編

 店の外に出たウィンは、入る時には無かった豪華な意匠の凝った、見るからに王族が乗ってますよ、と言わんばかりの馬車が目の前にあることに驚きはしない。対し、ウィンと手を繋いでいたシロは、初めて見る煌びやかで豪奢な馬車を見上げて、「うわぁ……」と感嘆の声を漏らしていた。そしてぽかんとしていた愛くるしい顔が破顔し、クリクリとした紅い瞳が太陽のようにキラキラさせると、「むふぅ」と鼻息を荒くしてウィンを引っ張りながら馬車に近づいていく。


「おねーたん、しゅ、しゅごいねぇ!」

「そうね。たかが馬車なのに、よくもまぁ、こんなギラギラとさせてるわね」

「ギラギラ〜?」

「シロにはどう見えてるの?」

「キラキラしてう! あと、お日様みたい!」


 シロの心からの言葉に、ウィンは豆鉄砲を食った鳩のようにきょとんとしていると、彼女の後ろから声が返って来た。


「そうかそうか。お嬢ちゃんにはこれが太陽みたいに見えるのか」


 何の気無しに振り返ると、かっかっかっ、と機嫌よさそうに笑いながら、レクス・フローウェルがグラムを引き連れて店から出てくる所であった。


「陛下の威光を体現していますので、そう見えるのは正しい事ですな!」


 うはは、と笑いながら、グラムが馬車の扉を開けて、王をエスコートする。


「で? あたしたちはどれに乗ればいいわけ?」


 それを見ながら、ウィンは辺りを見渡す。他の馬車が見当たらなかったので、グラムにそう尋ねたのだが、そのグラムは不思議そうに首を傾げた。


「ん?」

「ん? え? だから、あたしたちが乗る馬車は?」

「何を言ってる、目の前にあるだろ?」

「はぁ!? 本気で言ってるの!? 王と同じ馬車に乗れって? あんた本当に護衛騎士なわけ!? いくらバカでもそれはしないわよ!?」

「と言われてもな。別に構わんだろう」

「構うわよバカ! もしあたしがレクスを暗殺しようとしたらどうするのよ!」

「暗殺するのか?」

「しないわよ!」

「なら良いじゃないか」

「良くないわよ! 仮にもあんた王国騎士団長なんでしょ! どこに平民と王族を同じ馬車に乗せるバカがいるのよ!?」

「目の前にいるだろう?」

「ハジメみたいなこと言わないで!」

「それに、俺も平民の出だ。騎士の位はもらったが、それだけだ。貴族じゃない」

「だから大丈夫だって? どんな屁理屈よ、それ」


 すぅ、と大きく息を吸い、はぁ、と長く吐き出すウィンは目を閉じてこめかみをトントンとリズム良く叩く。

 どうやらグラムと自分の価値観は異なるようだ。しかも忌々しい事に一のそれに似通っているから余計に質が悪い。大丈夫? と言わんばかりのシロの視線にも耐えかね、観念したように肩の力を抜いて顔を上げたウィンは、口をへの字に曲げた。


「シロが失礼な事しても、剣とか抜かないでね」

「うはは、気にするな! 俺だってたまにやらかす!」

「はぁ、もういいわ。ほらシロ、馬車に乗りましょ」


 シロを先に乗せ、ウィンがその後に続く。最後にグラムが乗り、皆が席についたのを確認した御者が操車を始める。

 流石王族専用の馬車なだけある。普段乗っている物よりも格段に乗り心地が良い。


「おねーたん、お尻痛くないね!」

「そうね、揺れが少ないから気分も悪くならないわ」


 きゃっきゃっとはしゃぐシロを、和やかな笑みを浮かべて見つめるレクス・フローウェルは、不意に視線をウィンへと移す。


「さて、じゃあ、店に着くまで時間もあるし、大事なお話をしましょう?」


 そのウィンは、王城の七色庭園に咲く薔薇もかくや、と言わんばかりの可憐な笑みを浮かべ、レクス・フローウェルを見つめてそう言った。


「大事な話?」


 レクス・フローウェルが答えるよりも前にグラムが割って入る。


「えぇ、そうよ。レクス・フローウェルの容体について、ね」

「すまないが、それは話すことが出来ない」

「それもそうよね。だってーー」


 ウィンは割って入ったグラムに視線を移す。


「ーーそこにいる影武者は健康なんだもの」


 ウィンのその発言に、グラムは一切の反応を示さなかった。訓練された騎士としての矜持がそれを許さなかったからだ。だからこそウィンは薄く笑う。何の反応も無い、と言うことはすなわち、反応しないように身体と心を制御している、と言うことに他ならない。それはつまり、知られたくないから反応しない、とも言い換えることが出来る。

 隠し通したいのならば、目をパチクリさせてきょとんとしたり、何を言っているんだ? と小首を傾げたりした方がまだ信憑性があったろう。しかしグラムはそんな事をせず、情報を抜かれまいと反応しない事を選んだ。


「あんた、騎士としては一流かも知れないけど、政治的な駆け引きについてはまだまだお子ちゃまね」


 ふふん、と勝ち誇ったように笑うウィンに、グラムは数秒の沈黙を経て、気まずそうに視線を逸らす。


「……いつ気が付いた?」


 そして、観念したような声音でグラムはそう尋ねていた。


「そうね、さっき店の中で会った時に違和感があったけど、確信したのはあんたの言葉ね。やんごとなきお方が〜、とか言ってたけど、すぐ側にいるんだから、そんな言い方しなくても良いじゃない。それと、あんたが事あるごとにあたしとこの人の視線に割って入ろうとしてきたから何かあるのかなぁ、って。あぁ、あと」

「まだあるのか?」

「えぇ。あと、普通は王族と平民を同じ馬車に乗せたりしないわよ。もしそこにいるのが本物のレクス・フローウェルだったら、あんた、あたしたちを同じ馬車に乗せる?」

「王が許せば、な」

「そうよね。でも、あんたは確認せずにあたしたちを乗せようとしたじゃない? だから、あぁ、この人は影武者か何かで、本気で守る必要が無いのね、って思っただけよ」

「いやはや……恐れ入った」


 感心したように頷き、グラムは笑った。


「と言うよりも、あんたが下手なだけよ。もっとちゃんとしてないと、戦い以外の場で殺されるわよ?」

「それは困る。俺にはまだやる事がいっぱいあるんだ」

「んじゃ精進しなさい」

「まさかこの歳になって、教えられる立場になるとはな……」


 やれやれ、と苦笑を浮かべ、グラムは隣の影武者に視線をやる。


「まったく、グラム殿は脳みそまで筋肉で出来ているようね」


 呵々大笑し、レクス・フローウェルの影武者は笑った。好々爺如き雰囲気を持ちながらも、どこか威厳が見える、と言った印象は変わらずに、しかし声だけは劇的に変わっている。レクス・フローウェルだった時よりも高く、女性らしい丸さの音だ。しかし、外見はどう見ても老人なので、少しばかり混乱してしまう。


「女性?」

「そうよ」


 ウィンが思わず呟き、影武者はふふん、と鼻を鳴らして答える。


「おねーたん? このおじいしゃん、声が違くなった」

「あはは、やっぱり地声よりもレクス・フローウェルの声の方がこの子も混乱しなくて済むかのぅ」


 言いながら、女性的な声が元の老人然とした声に戻っていく。初めての経験だが、意外に驚きがある。


「それで? 大事な話ってのは何だ? まさか多額の治療費を寄越せとか言うんじゃ無いだろうな」

「悪いけど、大事な話については本当のレクスにしか話せないわ。でも、ここにいる影武者さんにはある程度の権限が認められているわよね?」


 チラッと影武者に視線をやると、影武者は「その通り」と言いながら肩を竦めた。


「なら、幾つか条件を言うから、貴方の権限内で可能かどうか教えて欲しいの。例えば、本物のレクスの診察にあたしも立ち会う、とか」

「あぁ、それくらいなら大丈夫じゃ」

「あらほんと? なら、条件は全部で四つ。一つ目は今言った、レクスの診察と治療にあたしも立ち会う事。二つ目は治療はレクス、あたし、オストリンデの三人のみで行い、あらゆる防止魔法によって情報を外に出さない事。三つ目は、治療後にオストリンデを宮廷薬師の一人に加える事。四つ目は……レクス・フローウェルの治療完了後に、あたしとの会談を行う事。どう?」

「そうじゃな……一つ目と三つ目は問題無いじゃろう。だが、二つ目は許可出来ん。仮にもこの国の王を治療するのじゃ。筆頭薬師殿、神官長、騎士団長、側使え、そして他の王族がいる前で、全ての器具や薬の鑑定をし、問題無いと分かったら、彼らの目の前で治療を行う事になる。故に三人のみで、尚且つ情報を秘匿する事は出来ん。やろうと思えば暗殺や、服従や従属の魔法でレクスを操る、なんて事が出来てしまうからの。四つ目に関しては儂の権限を超えておる。本物のレクス・フローウェルに聞いてみておくれ」

「そう……なら、この話は無しよ。あたしの友達も紹介しないし、薬も出さない」

「ま、待ってくれ!」


 とウィンの言葉に割り込んできたのはグラムである。彼は若干の焦りを漂わせながら、厳しい視線をウィンにぶつける。


「どうしたのかしら?」

「待ってくれ、エルフの嬢ちゃん。い、今の条件を全て飲むことはできないが、謝礼はいくらでも払える。欲しい額を言ってくれ」

「いいえ、別にお金はいらないの」

「じゃ、じゃあ、魔道具はどうだ?」

「……そうなのね。レクスの治療にペネストレーデの薬師は必要無いのね?」

「なッ!?」


 ウィンの溜息混じりの言葉に、今度こそグラムは驚愕の音を発した。そして、どうして分かったのだ! と言わんばかりの表情でウィンを見つめている。


「なるほど。だからハジメに会いたがったってわけね。で? どこで知ったの?」


 あからさまに機嫌が悪くなったウィンは腕組みをし、不機嫌そうに顔を歪め、ふんぞりかえる様に背もたれに体重を預けた。


「あぁ、別に言わなくていいわ。カッスラーよね。住民にでも聞いたのかしら?」

「まぁ……なんだ、その通りだ」


 気まずそうに、グラムは答える。その姿はイタズラが見つかった子供のようで、自慢の巨軀が小さく見えた。


「白状すると、あそこの住民から、ハジメの持ってきたポーションで怪我や病気が一瞬で治った、という話を聞いてな。もしかしたらレクス・フローウェルの病にも効果があるのではないか、と俺が打診した。そしてお前たちの足取りを追っていたら、このペネストレーデに向かっていると分かってな。急いで来たってわけだ」

「なるほどね。ちなみにその話を知っているのは?」

「私とレクス・フローウェル、その影武者の三人だけだ」

「………じゃあ、それこそあたしの出した条件を飲んで貰わないとダメね」

「何故だ?」

「ポーションについての情報を秘匿するためよ」

「秘密にしなくてはいけないのか?」

「当たり前じゃない。どんな怪我や病気を癒すポーションの存在が公になれば、それを狙う奴も出て来るわ。あたし一人だけが狙われるなら良いけど、ハジメとこの子には自衛手段がまだ無いの。だからよ」


 言いながら、ウィンはウトウトしているシロの頭を撫で付ける。そのままシロはウィンの膝の上に倒れ込み、すやすやと寝息を立て始めた。


「むぅ。なるほど、確かにそうだ。だが……いや、何も言うまい。こちらはお願いをする立場だからな。よし、可能な限り、条件を受け入れてもらえるように尽力させて貰おう。仮にもお前たちは炎龍討伐の立役者だからな!」


 小難しそうに唸っていたグラムはようやく普段の表情に戻り、肩の荷が降りたように笑う。


「とは言えグラムよ、一応はレクス・フローウェルを含めた方々に相談してからになるぞ。もしこれで条件が呑めないとなれば、また他の方法を探すしかないからの」

「いや、きっと他の方々も理解してくれるさ。それに何か言われたら、王のご病気を治さないとは反逆罪だ! とか言っておけば問題なかろう」

「いやいや、それはまた別の問題に発展しそうだよ、グラム殿! でも、そうね。それくらいならたまにはドカンと言ってもいいかも?」


 したり顔で笑うグラムに、やれやれと言った具合で苦笑する影武者の女性はいつの間にか声が元の女性のそれに戻っていた。。その二人の雰囲気にウィンは片眉を上げて不思議そうに見つめる。


「なに? あんたら、もしかして付き合ってるの?」

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