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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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意外な再会

「……つまり、ハジメさんはドラゴンの言葉も、エルフの言葉も、聞き取れるし、話せる……というわけですか?」


 オストリンデがポカンと口を開けている。間抜けな表情だが、それも頷けるだろう。何せ、今しがた一が話した事は、彼女にとってあまりにも非常識な内容だったからだ。


「あぁ。んでもって、文章とかもちゃんと分かるっぽい」

「なるほど、分かりました。が……それがどうしたのですか?」

「…………そのスクロール、オストリンデさんには空欄がたくさんに見えてるんだろ? 俺には全部の欄にしっかり鑑定結果が書かれてるんだ」


 オストリンデの表情が固まり、瞬きの回数が増えている。唖然としているという言葉がこれほど似合う表情はないだろう。


「仰っている意味が……分からないのですが……」

「いやいや、そのまんまの意味だよ? 例えば……ここの欄はオストリンデさんにはどう見えてる?」


 一が指差したのはスクロールの中ほどの成分表の部分。


「成分の部分ですね。私には空欄に見えます」

「なるほど。俺にはこの欄に、この結石の成分表が見えます。主成分と副成分、それからその成分に対する詳細な情報も見えますね」

「……ちょっと待ってください。このスクロールの内容に、空欄が無いんですか?」

「うん、無いよ。あ、待った、ここは……俺にも分からないな」


 一が指差したのはスクロールの一番下。その項目名はーー


「え、どれですか? あ、生成方法の欄ですか?」

「……あ、うん。それそれ」


 ーー『存在理由』。

 そこには、本当に何も書かれていない。そして、そもそもオストリンデには、その最後の項目自体が見えていないらしい。これには、一も頭を抱えたくなる。


「生成方法って、ハジメさんでも分からないんですね……」

「これって多分、自然に出来るのじゃないよな。人の手で作るための方法、って感じか?」

「どういう意味ですか?」

「この尿管結石ってのは、食生活とか水分不足とか、色々となんか悪い事が重なると出来るんだよ。だから、成分とかが分かれば、人の手でも作れるんだろうな。多分、人工的に作るための方法が書いてあるんだと思う」


 生成方法が見えていない、と言うのはもちろん嘘である。ただし、その方法を一が教えられるか、と言うのはまた別問題だ。


「じゃあ、ちょっと大変ですけど……この空欄部分で分かる所は全部教えてください!」

「それは別に良いんだけど……一つ確認していい?」

「何でしょうか?」

「この鑑定のスクロール、余ってるのあったら一つか二つか、貰えないかな?」

「構いませんが……何か調べたい物があるんですか? それならウィンに頼めば……あぁ、なるほど」


 妙に達観したような表情でオストリンデが目を細める。


「変な勘違いはしないでくださいよ? 別に変なことには使いませんからね。野営の時とか、食べられるやつの鑑定とか、飲める水の鑑定とか、そういう感じで使うんで!」

「フフ、そういう事にしておきますね?」


 オストリンデから鑑定のスクロールを四本、手渡しで受け取ると、一は片眉を上げて彼女の中の一の人物像が変な方向へ向かっていることに対して溜息を吐いた。





 一方その頃。

 ウィンとシロはペネストレーデの街並みを散策しながら、旅の買い出しを行っている。

 医学と薬学の街なだけあって、街中には数多くの薬品店や診療所が並んでいた。とは言え、どれもが競合しているわけではなく、何か一つに特化している店が多い印象を受ける。例えば、薬草店でも湿布や塗り薬のように体外へ使う薬草を取り扱う店と、飲み薬のように体内へ使う薬草を取り扱う店で別れており、その中でもさらに細分化されている。

 何より印象的なのは、この街の作りだ。

 医学会の本拠地である大聖堂ポンピマーニを中心に碁盤状に規則正しく店が並んでいるのだが、特筆すべきはその通りにある。


「この通りは『体外・首痛通り』で、あっちは『体外・頭痛通り』なのね……いつ来てもよく分からないわね、ここは」


 通りの名は、ポンピマーニを中心にアルドーラ川によって北と南で体内外に分かれる。北が体内、南が体外だ。そして、通りの最東端が頭部関係。その通りから西に向かうと身体の部位も下へ向かっていき、最西端は脚部関係となっている。そして何より、自分の症状に応じた通りを行けば、必ず完治すると言われているほどに、各店の質が高いのだ。

 ただ一つだけ不満があるとすれば、通常の商店や工房の数が少なく、それらと、オストリンデのような少し特殊な店が街のハズレの方にあるという事だろう。


「ほら、シロちゃん、行くわよ」

「えんっ!」


 物珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡すシロの手を引いて、ウィンは歩き出す。ここ数日、シロはスポンジのように新しい知識を蓄えていく。その背景には知らなかった事が余りにも多く、自由となった今、見えるもの全てが新鮮で興味の対象となることにある。だが、一方であらゆることに対して、アレ何、コレ何と尋ねてくるのだから、流石のウィンでもうんざりしそうになる時がある。ただ、そうならないのは、シロがあまりにも純粋無垢で、あまりにも単純明快で、あまりにも感受性が豊かであることが一番だろう。

 綺麗なものは綺麗だと、シロは心からそう思い、言っている。


「そういえば、ハジメが言ってたわね。美しいものを美しいと言えるシロの心が美しい、だったかしら?」

「うちゅちゅしい?」

「うつくしい、よ。ほら、言ってごらん? う、つ、く、し、い」

「う、つ、く、し、い?」

「うん、よくできたわねぇ!」


 空いている手でシロの頭をくしゃくしゃと撫でつけると、シロはくすぐったそうに笑う。

 現在、彼女たちが向かっているのは、このペネストレーデの東側。アルドーラ川の流れに逆らって歩いており、そのまま向かえばナイヤシロ湖へと行けるのだが、彼女たちは湖には向かわず、南へと足を向ける。


「おねーたん、あれなぁに?」


 クイっと引っ張られ、ウィンがシロの指差す方向を見ると、そこには白亜の宮殿があった。外壁の内にいてもその宮殿の全貌が見えるのだから、ナイヤシロ湖とここの高低差はそれなりにあるのだろう。


「あれはね、エクスラグーザ宮殿よ。このペネストレーデの領主、ロルド・ペネストレーデが住む所ね。ナイヤシロ湖っていう大きな湖の真ん中に建てられてて、中に入るには魔法を使うか、日に三度だけ掛けられる魔法の橋を使うかしないといけないの」


 もちろんそれだけでなく、領主の宮殿にふさわしいだけの防衛魔法も掛けられており、許可なく入ることは出来ない。


「しゅごいねぇ! 真っ白だよ! キラキラしてうね!」

「キラキラ……あぁ、水面に光が反射してるからよ」

「きれぇ……」


 同じように瞳をキラキラさせながら、シロはずっとエクスラグーザ宮殿を見つめている。


「ほら、早くしないと夕方までに帰れなくなるわよ?」

「えんっ!」


 こう言ったやり取りをもう十数回も繰り返し、既に太陽はだいぶ傾いている。さらに言えば、まだ買う予定の物は一つも買えていない状態であり、このまま行けば旅の準備は遅々として進まないだろう。どうすべきか、とシロの手を引きながら悩んでいると、またシロが立ち止まった。


「ねぇ、おねーたん……」

「どうしたの?」

「おしっこ」

「えぇ!? 我慢できる?」

「たぶん……」


 いきなりの告白にウィンは慌てふためき、トイレを探す。幸いにも近くに薬草店があり、シロを抱え、あまり揺らさないように早歩きでそこへ向かう。暖簾をくぐり、目に入った人影に声をかける。


「すいません、ちょっとトイレ貸して貰っても……」


 しかし、良いですか、と続ける事が出来なかった。何故か? その理由は至ってシンプルだ。ウィンが声を掛けたのが、薬草店の店主ではなかったからだ。

 白を基調とした祭服には金で施された精細な刺繍が流れるように踊り、羽織るマントは煌々と燃える火のように赤く、手に持つ権杖の先端には、フローウェル王国の国旗にも描かれている獅子と蛇の意匠が施されている。

 誰がどう見ても一般人でないと分かる服装だし、何よりもその手に持つ権杖は、この王国においてただ一人にのみ継承される聖遺物だ。


「………え? まさか……レクス・フローウェル?」


 レクス・フローウェルは肩書きであって名前ではない。そして、このフローウェル王国において、その名を名乗ることが出来るのはただ一人。つまり、国王だ。


「いかにも。儂がレクス・フローウェルである」


 ウィンの記憶では、今代のレクス・フローウェルは齢七十を越える老体だったはずだが、目の前にいるのは初老に差し掛かったおじいさん、と言うのが妥当だろう。思っていたよりは若いのね、と思いながらも、どうにも拭えない違和感にウィンが首を傾げた瞬間、二人の間に割り込むように巨体が躍り出てきた。


「おぅ、エルフの嬢ちゃん。また会ったな! ん? ハジメは一緒じゃないのか?」

「グラム……ステーツ?」


 その正体は、レクスの背後にまるで影のように控えていたのはグラム・ステーツである。かつて、カッスラーの村で共に戦ったフローウェル王国の騎士だ。


「なんであんたがここにいるわけ?」

「ウハハ、簡単な事だ! 俺が国王陛下の護衛だからだ!」

「……は?」

「聞こえなかったか? 俺が護衛だからだ!」

「聞こえたわよ! つまり、なに? あんた、王国騎士団長だったわけ!?」

「うん? 言ってなかったか?」

「聞いてないわよ! と言うかセシリスは!? あのアルカイックスマイル野郎はどうしたのよ!」

「うん? オッタヴィア前団長の事を知ってるのか? あの方なら五年前に亡くなっている」

「え、死んだの!? あいつが!? 手刀で海を割るような奴が!?」

「あぁ、老衰だ。七十四歳で息を引き取られた」

「そう……まぁ、しょうがないわね」


 しょぼん、と肩を落とすと、左の裾をちょいちょいと引っ張られる。ふと、その方向へ目をやると、顔を真っ赤にし、今にも泣きそうな顔をしたシロがいた。


「そうだったわ! トイレ! トイレどこ!」

「ん? あぁ、そこの赤い棚の奥だ」


 グラムが指差すのと同時に、シロを引っ張るように赤い棚の奥へと走っていった。


「行ってしまったな……」

「グラムよ。本当にあやつらで間違い無いのか?」

「はい、間違いありません。もう一人、人間の男が一緒にいるのですが……どこかで待機しているのでしょう」

「そうか……あの炎龍を討伐し、傷を一瞬で完治させるポーションを持つ男、か」

「現物を手に入れる事は出来ませんでしたが、村人たちが口を揃えて証言していましたので間違いないでしょう」

「であれば、何としてでも手に入れなくてはな……」

「えぇ、陛下のためにも」


 王と騎士、商品である薬草を見ながら、そんな事を話していると、赤い棚の方から、ウィンがシロを連れて戻ってきた。


「で? なんであんたがここにいるわけ? まさか、レクス・フローウェルの診察に同行してきた訳じゃないでしょ?」

「話が早くて助かるな! ん、いや待て、ハジメはどうした? 一緒じゃないのか?」

「別行動中よ!」

「……」

「何よ!」

「いや、一応、陛下の御前だぞ?」

「それが?」

「……まぁ、いい」

「ふーん。じゃあ、話を続けて?」

「あぁ……そうだな、どこから話せばいいか……やんごとなきお方がーー」


 グラムの長い説明を総合すると、こうなる。


「つまり、そこにいるレクス・フローウェルが不治の病を患って、その病気を治療するために、ペネストレーデに来たってわけ? 腕の良い医者を探して? 宮廷薬師でもダメだったのに?」


 腕を組んで、への字に口を曲げ、グラムは困ったように眉を上げた。


「まぁ、そう言う事だな。腕のいい奴なら誰でも良い、紹介してくれないか?」

「知り合いに、ペネストレーデ一の薬師がいるけど?」

「そこにハジメもいるのか? 久しぶりに会いたいもんだが……」

「えぇ、いるわよ。彼を診てもらうためにきたんだもの」

「どこか悪いのか?」

「ほら、結構長い時間、炎龍のお腹の中にいたでしょ? 念のためよ」

「なるほどな。ここから近いのか?」

「遠いわね。ポンピマーニの西、城壁のすぐ側にお店があるの」

「そうか。なら、一緒に行くか? ハジメの元に送ってやるぞ」

「あら、いいの? なら送ってくれると助かるわ」


 じゃ、先に外で待ってるわね、とウィンは爽やかに笑い、シロの手を引いて店の外へと出ていった。その背中を見送ったグラムは、ふぅ、と息を吐いて腕を組む。


「上手くいってくれると良いんだがな……」

「そうだな、グラム」


 レクスの疲れ切った笑みを受けて、グラムは困ったように笑う事しか出来なかった。

一章ぶりの登場となるグラムさん。

実は結構偉くて強い人だったんです!

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