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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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オストリンデ薬学店

 ウィンと操車を交代した一は、御者台に座り、手綱を握る。ペネストレーデの正門まではざっと一キロほどだろう。のんびり操車しても日の入り前には着くのだが、問題はこの領地がこれまで領地と同じで亜人に対して厳しいかどうかだ。ここに来るまでに通った三つの領地では、何故か一が主人で、ウィンとシロは奴隷だと勝手に決めつけられ、嫌な思いを二人にはさせてしまった。

 ウィンは「比較的穏やかな領地だし、領民のほとんどが研究や実験にしか興味ないから大丈夫。それに新しい素材とか技術とか、そう言うのを与えておけば害はないはず」と言っていたが、それでも心配だし、特にシロには出来るだけそういう心配をさせたくはない。


「ウィンの言う通りだと嬉しいんだけどな……」


 ぼやきながら、近づいて来る正門を見つめる。

 質素だが堅実な作りのそれはやはりどの領地でも見たような門だった。ただ他の領地と比べて真新しさを感じるのだが、新品という訳ではなく、古くからある門を常に綺麗に保っている、という雰囲気だろう。


「止まれ」


 気付けば正門前まで来ており、兵士に声を掛けられる。ごくごく普通の兵士モブといった感じの人だ。こういうタイプに好感を持てるくらいにはこの異世界にも慣れてきている。


「初めてみる顔だな。どこから来た」

「アルメルディアからです。行商の旅をしてます」

「そうか。商業手形はあるか? 無いなら入都税で銀貨一枚を支払ってもらうぞ」


 商業手形、だと……そんなものの存在があったのか!? と少し前の一ならば途方に暮れた事だろう。しかし、今の彼は違う。何故なら、商業手形は既にウィンが所持しているからだ。


「手形ならここに……ありますよ、っと」


 時に、旅の行商を行うために必要なものがある。もちろん、品物や資金などではない。それは何かと言えば、服装だ。この異世界において、服装というのはかなり重要視されている。王には王の服装が、貴族には貴族の服装が、平民には平民の服装が、それぞれある。その中でも、さらに細分化されており、商人はこの服装、職人はこの服装、といった具合に、服装で身分や職種を表すのが基本となっている。しかし、貴族のような服を纏い、後に身分が貴族ではないと判明すると、即裁判沙汰になる。

 一度裁判となれば実刑は免れず、故に服装はとても重要視される。


「はい、これ。商業手形ですよ、っと」


 カッスラーの村を出た一たち一行が初めに立ち寄った街で行ったのは、服の買い物である。ウィンに見繕ってもらいながら、商人用の服を買い揃えたのだが、もちろんその資金源は彼の持つ万能の霊石、賢者の石。もとい尿管結石だ。


「どれどれ………ほぅ、通商連合の手形か。噂には聞いていたけど、初めて見たなぁ……おっと、失礼。手形は確認出来たので、入都税は免除だ。領内で商売をする場合には、別途商業届けが必要になるぞ」

「分かりました、ありがとうございます」

「それじゃ、積荷を改めさせてもらうぞ」

「えぇ、どうぞ。荷台に同行者が二人いますが、お気になさらず」


 兵士が頷き、荷台へと移動する。しばらくすると兵士が戻ってきて、問題無し、と告げる。そして、幾つかの用紙に色々と記入をして、質疑応答を経て、ようやく首都ペネストレーデへと入る事が出来た。

 兵士たちに別れを告げた一は操車をしながら、ウィンに教えてもらった目的地を目指す。


「なぁ、ウィン。本当にこの道で合ってるのか?」


 御者台の覗き窓から荷台を覗き込む。


「合ってるわ。首都に入ったらすぐに左に入って城壁に沿って行けば目的地よ」

「んで? その目的地にいるのは誰なんだよ。結局教えてくれなかっただろ」

「あら、そうだったっけ? なら教えてあげる」


 ふふん、と鼻を鳴らし、ドヤ顔になったウィンが嬉々として語る。


「私たちが会いに行くのは、このペネストレーデでも最高の腕を持つ薬師よ。あたしが旅している途中に知り合って助けてあげたの。それからちょくちょくと親交があってね。あたしが助けてあげてから彼女、メキメキと力をつけて、今ではこのペネストレーデで最高の腕を持つと言われるほどにまで成長したんだから!」


 どうよ、すごいでしょ、と言わんばかりの声音に、一はやれやれと肩を落とす。


「今の話からどうやって人物像を想像すりゃ良いんだ……いや、イメージとしては鉤鼻の老婆みたいな感じか? THE・魔女、みたいな?」

「あんたの言う魔女がどんなイメージか知らないけど、普通の女性よ? 確か、出会った時が十五歳くらいだったかしら? 出会ったのが十年くらい前だから、多分、あんたより少し年下くらいね!」

「ほぅ、なるほど……で? その情報は信頼出来るのか? どんな女性だ? 好きなタイプとか知ってるか? こんなアラサーのおっさんで子連れみたいなもんだけど、ワンチャンあるか?」

「何いきなり……変な声出さないでよね、気持ち悪い」

「うるせー。俺だってこの世界に骨を埋める覚悟があるんだ。ちょっとくらいそういう夢を見たっていいだろうがよ……」


 今度はウィンがやれやれ、と肩を落とす番だった。諦めたような表情で首を横に振り、小馬鹿にしたように笑う。


「あんた如きじゃ勿体無いわね! オストリンデはあの当時でもうめちゃくちゃ可愛くてスタイルも良かったのよ!? あれから十年も経ってるんだから、それはもうものすごい美人になってるはずよ! 楽しみだわ!」


 一は考える。ウィンのこの言葉はどっちだろう、と。フラグなのか、事実なのか、どっちなのか、を。だが、それなりに美意識の高いウィンがここまで褒めちぎるということは、少しは期待してもいいのだろうか?


「ん? ちょっと待て。ちょくちょく親交があったんだろ? 今の話からすると、十年間会ってないみたいじゃんか」

「あぁ、そうね。会ってないわよ? 親交があったて言うのは、手紙のやりとりのことよ。あ、ちょっと待って、ここ見覚えがあるわ。もうちょっとで着くと思うわ。記憶では家の二階から大きな煙突が伸びてたわね。あと、家から木が生えてたわ」

「そんな家が……」


 あった。

 一の視線の先、おおよそ二百メートルほど先に、その家はあった。

 木造三階建ての立派な一軒家だ。

 一階は薬屋となっており、「オストリンデ薬学店」の看板が見える。二階からは大きな煙突が突き刺さるように存在し、何より奇妙なのが、一軒家の中心に巨木があることだ。

 いや、考え方を変えれば、この巨木を中心に家を建てたようにも思える。むしろそれ以外に無いと言うほどに一軒家と巨木が融合していた。


「おいおいマジか、本当にあったぞ。てか何だ、あのトンデモハウスは! おいウィン、本当にあそこで合ってるのか?」

「えぇ、間違いないわ」


 ウィンが荷台から飛び出して一の隣に座ると、家を指差し、唱える。


「クルソルト」


 すると、ウィンの人差し指に淡いオレンジの光が現れ、鳩のような形となった。バサバサと羽を広げると、鳩のようなそれは大きく口を開く。


「久しぶり、オストリンデ。ウィンチェスカよ。丁度今、あなたのお店の近くまで来ているから、良かったら会いましょ」


 そう伝えると、鳩のようなそれは飛び立つ。行き先は当然、二百メートルほど先にあるあの家だ。


「おいおい、今の何だ、魔法か?」

「え? 見るの初めてだったっけ? あれはフローウェル王国独自の通信魔法の一つよ。今くらいの短い言葉なら大陸の端から端までの距離でも届けてくれるの。詠唱も必要ないし、鳩を形作る魔力だけあれば、この国の人なら誰でも使えるはずよ」

「へぇ、やっぱり何度見てもすごいな、魔法ってのは」


 と話していると、二百メートルの距離はあっという間だった。

 薬屋の目の前で止まると、ウィンが真っ先に飛び降りて薬屋へ駆け込み、


「オストリンデー、あたしよー、ウィンチェスカよー、いないのー」


 と大声で店内に呼びかける。それに遅れてシロも荷台から飛び降りて、ズカズカと店内へ入っていくウィンに続いて、シロも面白そうにキョロキョロしながらウィンの後を追う。


「おい、ウィン! シロ! 勝手に人様の家に入っていくな! まずは馬たちをだな! って、聞いてねぇ……あーあー、もう! どうしていつもこうなんだ」


 一はガシガシと頭を掻きむしり、御者台の足元にある棚から輪止めを取り出し、馬車の車輪に噛ませる。次に幌馬車から馬たちを解放してあげて、ここで少し待つように伝え、餌をあげる。この旅の中でウィンのわがままを聞いてきた馬たちとは心が通じ始めていると自信を持って言える。だから餌を上げて、これまでの苦労を労い、ちゃんとお願いすれば、彼らも聞いてくれる。


「悪いな、金閣、銀閣。あとでちゃんとブラッシングして、ちょっといいご飯を食べさせてやるからな。本当にありがとうな」


 金閣、銀閣と勝手に一名付けられた二頭は、両方とも雌。金閣は姉御肌で勝気な性格で、銀閣は逆にマイペースでおっとりしている。一の目には仲の良い姉妹のように見えているので、彼女らと共にほのぼのと旅するのがそれなりに楽しいのだ。

 そんな二頭は一に撫でられて、金閣は照れ隠しをするかのように嘶き、銀閣はもっと撫でろといわんばかりに頭を擦り付けてくる。


「ちょっと待っててくれな、二人とも」


 そして、ようやく一もウィンとシロの後を追う。

 オストリンデ薬学店の看板を潜り、店内に入った一は入店を知らせる鐘の音を聞きながら、店内の様子に言葉を失った。

 異世界の薬屋と言うのは、至る所に薬や薬草などが乱雑に置かれ、部屋中に大きな棚が所狭しと並び、試験管やフラスコといった実験器具がコポコポと音を立て、その場で薬を調合してくれる、一が知る所で言えば、駄菓子屋の薬屋版だと思っていた。

 しかし。


「すっげ……なんだ、これ」


 店内に入った一は、まずそのシンプルさに驚く。その様子は、生前に営業に行った化粧品専門のようだった。

 まず初めに目を引くのは、店内の中央に置かれた新作の置かれた展示場である。店の中央にある巨木を少し切り出して展示棚のようにして、そこに商品が置かれており、その並べられ方は芸術品のようだ。意匠の凝ったガラス瓶の中には色とりどりの液体が入っており、スポットライトのような物でライティングされている。

 そこから視線を移すと、店内には三つのテーブルが見えた。

 一つ目はお菓子売り場のようなポップさがある。テーブルの上にあるのはお茶会などで使われる三段のケーキスタンド。それに置かれているのは可愛らしい小瓶に入ったこちらも色とりどりのキャンディたち。

 二つ目は老舗の茶屋のような穏やかさがある。テーブルは木組でその上には袋詰めされた薬草などが陳列されている棚があり、効能や産地が書かれた紙が貼ってある。そしてその手前にはお手製の香り袋が置かれていた。

 三つ目は高級な化粧品店のような煌びやかさがある。テーブルの上にはガラスのショーケース。その中には様々な小瓶が置かれており、その手前にはテスターのようなものまであった。

 三つのテーブルの雰囲気は全く異なっているのに、店全体で見れば何故かまとまって見えるのだから、不思議なものである。さらに店内を見渡すと、奥にはカウンターが二つあり、片方のカウンターには鏡まで置かれている。


「薬学店、っていうか……デパートの売り場みたいだな、ここ」


 きょろきょろと店内を見渡すが、そこに二人の姿はない。どこへ行ったのか、と思っていると、店の奥に続く扉と二階へ上がる階段が目に入る。

 どちらに行くべきだろうかと悩んでいると、店の奥から笑い声が聞こえてきた。

次回、新キャラ登場です。

名前はもう出てますが・・・

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