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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第二章 ペネストレーデの薬狂い
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そうだ、ペネストレーデへ行こう

「ペネストレーデに行くわよ」


 早めに野営の準備を終えて、お茶の準備を始めていたウィンがそう言った。

 陽が傾き始めているとは言え、まだまだ明るく、野営の準備をするには少しばかり早いだろう。ただ、たまにはこうして早めに休まないと、幌馬車を牽引してくれる馬たちが拗ねてしまうのだ。


「ペネストレーデ? なんだそれは」

「薬学と医学において他の追随を許さず、その功績によって第二位の位置にいるフローウェル王国の大領地よ」

「ふーん。別に良いけど、この前見たいに厄介事を持ってくるなよ、ウィン」

「はぁ!? この前ってどのことよ! それに、厄介事は全部あんたが持ってきてるでしょ!」


 カッスラーの村を出てから、早一ヶ月半。もちろんその間に何も無いわけは無く、凶暴な肉食ウサギの群れを退治したり、悪戯ばかりする妖精の大捕物があったり、過疎化する村で特産品のじゃがいもを使ってフライドポテトを作ってあげたり、そんな事をしながら、とりあえずで旅を続けていた。

 もちろん、商売も忘れない。金継ぎの技術を完全に自分のものにした一は、行く先々で権力者や富裕層の顧客を獲得した。

 のだが、その権力者たちから齎された厄介事の数々を、一は二つ返事で受けてしまったがために、本来は二週間ほどで行けた行程が一ヶ月半もかかっている。


「それで? なんでそんな所に行くんだ? 薬の買い付けか?」

「それもあるけど、本当の目的はあなたよ」

「俺?」

「カッスラーの村でも言ったでしょ? あんたの身体がどうなっているのか、きちんと調べてもらわないと」


 一一は転生者だ。

 かつての生は、大好きな声優を凶刃から守り、終えた。気付けばこの異世界にいて、特別なボーナスなどもなく、この身一つで放り出されたわけだ。しかし、それは流石に酷いと神様か誰かが思ったのだろう。彼に二つの能力を与えた。この異世界の言葉を理解する能力と、もう一つ。


「あぁ……なんかそんなこと言ってたな。俺の尿管結石が異世界では賢者の石だったからな。でも、今のところ、何か不調があるわけでもないんだがな」


 彼の持病である尿管結石が、何故かこの異世界において、御伽噺の中にしか存在しない伝説の魔石、賢者の石になっているのである。その効果は皆が良く知るものと大差はない。触れた物を金に変え、液体に触れせればあらゆる状態異常を回復させる万能薬となる。それはカッスラーの村で起こった事件で証明されているのだが、とは言え病気は病気。この異世界においてどのような症状に変化しているか分からない以上、油断は禁物だろう。


「まぁ、確かに、一度はお医者様に見てもらったほうが良いのかもな」

「でしょ? だから行くのよ。ペネストレーデにはあたしの友達もいるし、その人に頼めばすぐに診てくれるはずよ……まぁ、ちょっとクセの強い人だけど」

「最後の言葉は聞きたくなかったな……嫌な予感がしてきた」


 そんな話をしていると、とてとてと可愛らしい擬音が聞こえてきそうな雰囲気でシロが枯れ枝を大量に抱えて戻ってきた。


「ごしじんたま、見て見て! たくしゃんとえた!」


 汚れても良い服に着替えさせておいて良かった、と一とウィンは思う。泥だらけで草や種のようなものが服にも髪にも満遍なくくっついている。綺麗な白い髪も、動きやすいように纏めていたはずなのに、いつの間にか解けていた。


「おぉ、シロ。よく頑張ったなぁ!」


 にへら、と表情を崩して、駆け寄ってきたシロの頭をくしゃくしゃと撫で付けてると、シロも嬉しそうに頭をぐりぐりと押し付けてきた。その様子があまりにも可愛らしくて、一の笑みはさらにだらしなくなる。その様子を見ていたウィンはジトッとした視線を一に向け、不服そうな表情をしていた。


「なんだよ、その目は」

「別に! ただ、シロちゃんを甘やかし過ぎなんじゃないかなぁ、って」

「甘やかしてはいないぞ?」

「親バカね」

「うるせーわい。こんな可愛い子を愛でるのに理由なんかあるのか?」

「……ないわね」

「じゃあ良いじゃん」

「そうじゃ無いわよ! あたしも、その……シロちゃんときゃっきゃしたいの!」


 この一ヶ月半の間、シロはウィンによる英才教育の真っ最中にある。言語から始まり、一般教養、読み書き、算術、果てには魔法学や戦闘教練まで、とにかくあらゆる勉強を教えているのだ。そして、それは正に過酷そのものだと、一は感じている。

 この異世界についての知識が未だ不足している一だが、ウィンの知識はこの世界の一般人に比べて豊富であり、それどころか高水準にあるのだと推測している。特に魔法に関しては素人レベルの彼からしても、世界トップレベルにあるのだと感じている。それに関しては先の戦いで王国の騎士団も似たような事を言っていたし、間違いではないだろう。

 そのせいか、ウィンは人に教えると言うのがあまり上手くない。理由は簡単で、ウィンにとっては呼吸をするのと同じような知識であるため、どうしてシロが理解出来ないのかがよく分かっていないのだと思う。そのせいか、シロはウィンに対して苦手意識が芽生えてしまい、ぎこちない感じになっている。


「あぁ、じゃあ勉強の手を緩めてやらないとな」

「え?」

「いや、え? じゃなくて……お前の教育が厳しすぎるから、シロが避けてるんだろ」

「え? だって、今シロちゃんがやってるのって、私が三歳の頃に習うやつよ? シロちゃんくらいの年齢なら寝てても分かるもの」

「そりゃお前の、というかエルフの価値観だろ? この前まで奴隷だった幼女にそこまで理解出来るはずないだろ。と言うよりも、詰め込み過ぎなんだよ、お前の場合。俺の世界では九年間掛けて色んな勉強をするんだから、それを一ヶ月半で終わらせようとするのはヤバい。それにシロのやる気の問題もあるしな。野営の旅に嬉々として外に遊びに行くってことは、それだけお前との勉強の時間が苦痛なんだろな」


 チラッとシロを見ると、困ったように眉を下げたシロがウィンを見上げている。


「シロ、ウィンおねーたんはしゅきだけど、おべんきょはきらーい」

「だってさ、ウィン」

「でも……」

「デモもヘチマないの。とにかく、少しは勉強の手を緩めてやれ。もしくはシロが自発的に勉強したい、って思えるようなやり方でも考えたらどうだ?」

「……そうね。考えてみるわ」


 小難しい顔で唸り始めたウィンはさておいて、一はシロの持ってきた枯れ枝を受け取って、そこら辺の石で作った簡易的な竈門に適当に組んでいく。ここ数回の野営で、火をつけるのは魔法の勉強を兼ねてシロが行う事になっている。ウィンが言うには、シロが持つ魔力は一般的なフェルーシアン・クーシーよりも少ないらしい。それでも人間の魔法使いと同等レベルなので、普通に魔法を扱う事は出来るとのこと。そのため、訓練次第では普通の魔法は難なく扱えるようになるのだとか。羨ましい限りである。


「じゃあ、シロ。火をつけてくれるか?」

「あい!」


 真剣な顔をして、シロは竈門に向けて手を向けた。


「火のせーれーに、シロがめーじる! えーちのけっしょーたる火よ、あわわえろ!」


 火の精霊にシロが命じる。叡智の結晶たる火よ、現れろ! と言いたかったのだろうが、シロの言葉はまだまだ不十分だ。しかし火の精霊さんが気を遣ってくれたのか、シロの掌から小さめな炎が緩やかな放物線を描いて竈門の中の枯れ枝に落ちた。いきなり景気良く燃えてくれるほどの威力では無かったので、炎が落ちた部分に空気を送って燃焼させる。すぐに火は着き、シロが満足気な表情で頭を差し出してきた。


「だいぶ様になってきたな、シロ。後は滑舌というか、喋る練習をいっぱいしないとな」


 ぽんぽんとシロの頭を撫でてやる。シロと戯れ合うのもそこそこに、一は夕食の準備を始める。今回のレシピは最後に寄った寂れた村から貰った特産品のじゃがいもだ。大樽二つ分もの量を貰ったのだが、その余りの量にここ数日は毎食がじゃがいも料理だった。


「えー、またじゃがいも料理なわけ?」

「シロ、じゃがいもしゃん、あきたー」


 世の中のお母さんの苦労が痛いほど分かった十数日間である。


「しょうがないでしょ! じゃがいもいっぱい貰ったんだから! でも、今日で最後になると思うから! 明日は久しぶりに肉食べよ、肉!」


 貰ったじゃがいもも、今日で使い切れる量まで減った。恐らく知る限りのじゃがいも料理を披露した一も、初日は賞賛の嵐を受けたのも束の間、翌日には乾いた笑みを向けられ、その次の日には引き攣った笑みを、さらにその次の日からは二人から笑みが消えた。そしてついにじゃがいもの在庫も今日で終わる。


「そうね、肉が食べたいわ。もうこの際、何の肉でもいいわ、とにかく肉が食べたい」

「お肉!? お肉しゃん、たべうの? シロも、食べていーの?」


 一の言葉に、キラキラと目を輝かせる二人を見ながら、一は最後のじゃがいも料理をどうしようかと頭をフル回転させ始めた。


 最後のじゃがいも料理を堪能してから二週間ほどが経つ。珍しいことに、この二週間ほどは比較的平和な時間が過ぎていた。

 そして、もう間も無く目的地であるペネストレーデへと到着する。

 カッスラーの村があるアルメルディアからは三つの領地を通る必要があり、通常であれば一ヶ月ほどあれば目的地に辿り着くはずだ。寄り道をしていたとはいえ、その倍ほどの日程をかけて、ようやく到着である。無論、この旅の最中、勉強をしていたのはシロだけではない。一もこの世界の常識や地理などを覚えている途中だ。


「フローウェル王国の大領地・ペネストレーデ。

 その全貌は、首都ペネストレーデから南に伸びるムンブーロ街道から見ることができる。まずは赤竜連山より流れ出る雄大なアルドーラ川。山の雪解け水が蒼く輝くナイヤシロ湖へと流れ込む。

 ナイヤシロ湖の中央に浮かぶは領主の住む壮大なる白亜の宮殿エクスラグーザ。さらにアルドーラ川は流れ、川沿いにはペネストレーデが誇る医学会が本部として使用している荘厳なる大聖堂ポンピマーニがある。その周囲には碁盤上に並んだ規則正しい街並みが広がっており、四方を守護するが如く配置された四つの塔と、それを結ぶように建てられた外壁。その外側に大きく広がる草原地帯。

 その草原地帯をさらに南下していくと鬱蒼としたロランド大森林が大自然の雄大さを歌っている。その深く暗い大森林を抜け、ムンブーロ街道を通ってきた者は必ず足を止め、その光景にただただ目を見開き、口を開け、感嘆の息を吐き、思うのである。

 ここは世界で最も美しい都市だ、と。

 冒険家、ナイス・ナイバッツ著『英雄の愛した世界の歩き方』より抜粋」


 カッスラーの村を出て初めて立ち寄った街、ミリシランで手に入れたブリタニカ百科事典並みの大きさを誇る本による情報を一は読み上げる。この『英雄の愛した世界の歩き方』は各国分あり、全て揃えると本棚が幾つあっても足りない、とウィンは言っていた。

 資金に余裕もあったので買ってみたのだが、金貨二十五枚という破格の金額には度肝を抜かれたのを今でも覚えている。だが、その金額以上にその内容が素晴らしかった。その国の特産、各領地の特産、観光名所、宗教体系など、ほぼ全てを網羅しているのだから、買った事に後悔はしないし、ある程度の地理を覚えた後には、シロに上げても良いのだから、良い買い物だったはずだ。


「俺らが通ってきた街道が、ムンブーロ街道ってやつか。すると、あれがアルドーラ川で、あのでっかいのが宮殿か」


 パタンと本を閉じ、荷台から顔を出すと、操車をしているウィンに声をかける。


「そろそろ変わるか?」

「そうね、流石に疲れたわ。変わって」


 街道の端に幌馬車を止めると、ウィンは飛び降りて大きく伸びをする。ポキポキと小気味の良い音が耳に届く。


「お疲れさん。どうする少し休憩していくか?」

「いえ、このまま行きましょ。ペネストレーデは陽が落ちると完全に扉が閉められて出入りが出来なくなるのよ」

「そうか……まぁ、日の入りまで余裕はあるけど、さっさと街に入ってゆっくりしようぜ。久しぶりにちゃんとしたベッドで寝たい」

「そうね。ちゃんとしたベッドで寝たいし、お風呂もちゃんとしたのに入りたいし、何よりもちゃんとしたご飯が食べたいわ」


 そう言いながら、ウィンは荷台へと消えていく。

 ウィンと操車を交代した一は、御者台に座り、手綱を握る。ペネストレーデの正門まではざっと一キロほどだろう。のんびり操車しても日の入り前には着くのだが、問題はこの領地がこれまで領地と同じで亜人に対して厳しいかどうかだ。ここに来るまでに通った三つの領地では、何故か一が主人で、ウィンとシロは奴隷だと勝手に決めつけられ、嫌な思いを二人にはさせてしまった。

 ウィンは「比較的穏やかな領地だし、領民のほとんどが研究や実験にしか興味ないから大丈夫。それに新しい素材とか技術とか、そう言うのを与えておけば害はないはず」と言っていたが、それでも心配だし、特にシロには出来るだけそういう心配をさせたくはない。


「ウィンの言う通りだと嬉しいんだけどな……」


 一はそうぼやいた。


明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします!!

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