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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第一章 転生したのに病気はそのまま
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素晴らしきかな異世界

 炎龍討伐から一週間後。

 クロの協力と、一の寄付した金のおかげで、村の復興はかなり進んでいた。

 村もこれまで以上に活気づき、道行く人々はとても楽しそうにしている。そんな人々を見ながら、昼食を終えた一は村長の家から宿屋に戻っていた。


「ハジメ様、こんにちは!」

「様は付けなくていいって言ってるだろ」


 彼が道行けば、必ずみんなが挨拶をしてくる。


「そういうわけには……」


 作業をしていた青年は被っていた帽子を取り、頭を下げてきた。


「それより、どうだ? クロはちゃんとみんなの役に立ってる?」


 巨大な瓦礫や崩れた家など、人間の力ではどうしようもないものはクロが運び、細かいものは人間が運ぶ。建築用の木をクロが森から運んで来れば、人間がそれを加工する。


「えぇ、最初はみんなびっくりしましたけど、今じゃ誰もがクロ様を慕っていますよ。特に子供たちは大喜びでクロ様の所に遊びに行きますね」

「なら良かったよ。それよりさ、なんか人増えてるように感じるんだけど、気のせい?」

「気のせいじゃありませんよ。村長が隣町まで行って復興の人手を集めてきたんです。そこで大量の金を見せつけてきたようで……今じゃ他の村や町から出稼ぎにくる奴らばっかりですよ! 宿屋のおばちゃんは悲鳴上げてましたけどね」

「ってなると、治安も悪くなるんじゃね?」


 人が集まれば自ずと治安も悪くなるだろう。だが、そんな話はまだ聞いた事がない。


「あぁ、それなら青年団の連中がしっかりやってるらしいですよ。何でも、ハジメ様を置いて逃げ出した奴らが自責の念とやらに駆られているらしくてですね」


 ワハハと笑いながら、青年はアレやアレやコレやと情報を教えてくれた。


「そうか、まぁ、ちゃんと休みながら仕事しろよ、じゃあな!」

「あ、はい! お気をつけて!」


 元気に働く若者を見るのは気持ちがいいものだ。なるほど、会長や社長が現場を視察したがる理由が何となく分かる気がするな……、と呑気に考えながら、宿屋に戻った。


「ただいまー」

「ごしじんたま! おかえりなしゃい!」


 部屋に戻った途端、シロがとてとてと一の元に駆け寄り、ぽふっと抱き着いてきた。


「おぉ、シロー、どうだ、ちゃんと勉強してるかー?」

「うん! シロ、おべんきょうしてう!」


 シロを抱き上げて甘やかしていると、今しがた入って来た扉から、ウィンが入って来た。


「あら、おかえり。どうだった、村長のお話は」

「ん、あぁ、ここに残って暮らしませんか、だとさ。もちろん丁重にお断りしておいたが」

「あの黒龍の事はどうするわけ?」

「クロにはここにいてもらうよ。村の人もクロの事を気に入っているしな」


 抱えていたシロを机まで連れて行き、椅子の上に降ろす。


「さて、シロ、先生が戻って来たから勉強再開だぞ!」

「うー、シロ、まだごしじんたまとあそびたい!」


 ウィンの勧めでシロに読み書きを教えることになったのだが、どうやらこの子は覚えがとても速いらしく、教師役を買って出たウィンも、その学習速度に驚いていたのだから、どれだけうちの子が優秀なのかは言うまでもない。


「終わってから遊ぼうなー。俺はまた出てくるから、後は頼んだぞ、ウィン」

「どこに行くわけ?」

「あぁ、村の外壁の作業を手伝ってくる。夜は青年たちが自警団を作ったらしくて、その発足式に呼ばれてんだ」

「あら、有名人は大変ね」

「なりたくてなったわけじゃないわい! まぁ、多分帰りは遅くなると思うから、晩飯は先に食ってていいぞ」


 結婚してもいないのにこんな所帯じみたセリフが出てきてしまっていいのか、と言ってから不安になったが、別にウィンは気にしていないようなので、口にするほどの事でもないようだ。


「そう? じゃあそうするわ」

「ごしじんたま、いってらさーい!」

「気を付けてね、ハジメ」


 そう言えば、あの一件から、ウィンの態度が少しばかり丸くなったように感じる。まぁ、未遂とは言えキスしそうになったからな……あいつの歳が人間換算で何歳かは知らんが、こんな尿管結石持ちのおっさんを好きになるかね? と寂しい事を思いつつ、部屋を後にした。


 結論から言えば、一が宿屋に戻ったのは日付が変わってすぐだった。


「くっそぉ、あいつら……吐かせるまで飲みやがってぇ。こちとら三十路手前のおっさんなんだぞ……この結石ポーションがなきゃ急性アルコール中毒で死んでたぞ、全く」


 ブツブツとぼやきながら、一は宿屋に帰り、寝ている二人を起こさないように扉を開けて、ゆっくりと自分のベッドに入って、眠りについた。





 さて、村の復興作業も一ヶ月を過ぎた頃には終盤に差し掛かっており、カッスラーは以前の風景を取り戻しつつある。復興するに当たって真っ先に取り掛かっていた外壁修理もクロの助力によって、作業スケジュールは大幅に短縮され、もう数日で外壁の修理は完了する。


「で、だ」


 宿屋の食堂で朝食を終えた一は自室のベッドで食後のお茶を飲みながら言う。


「このままズルズルとこの村に居座るわけにはいかない」


 確かにこの村は居心地が良いし、住人たちとも仲良くなった。だが、ウィンは行商人だし、シロにも他の世界を見せてやりたい。


「炎龍を倒したって噂が広まれば、物好きがここに来るだろ? そうすると俺たちに行きつくわけだ。別にお前たちは構わないだろうが、俺はこの世界の人間じゃないからな。それがバレると色々と面倒な事になるのが異世界転生のお約束だ」

「そうね。あんたの言う通りだわ。あたしも行商のために来ただけだし」


 ベッドに腰を下ろし、シロの髪の毛を丁寧に整えながらウィンは頷いた。


「この世界で俺には使命みたいなものは無いからな……魔王を倒せとか言われたなら仕方なくそうするけど……まぁ、何が言いたいかと言うと、外壁の修理が終わったら、この村を出よう。それで、ウィンの行商を手伝うよ」


 前から言っていたが、こう改まって宣言すると少し気恥ずかしさが芽生えてくる。 


「そうね、前からそう言っていたし、行商って事にしておけば金の出どころなんていくらでも誤魔化せるしね。賛成よ。それに……」


 とウィンは一度言葉を区切り、ふぅ、と息を吐いた。


「あんたの持ってる結石ポーションを必要とする人たちはここ以外にもたくさんいるわ。そうね、世直しと言うか、人助けのために全国行脚ってのもいいかもね」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「それはそうと、あんた! 行商を手伝うって言ったわよね? だったら行商道具をきっちり揃えてちょうだい? 村長にお願いすれば揃えてもらえるでしょ?」

「いや、お前な……流石に復興を頑張ってる人たちに、俺たち行商に出るから、必要なもの全部揃えてくれ、って言えるか?」


 そう尋ねるとウィンは唸り出す。その様子を真似し始めるシロには愛おしさしか感じない。


「……言っちゃダメなわけ?」

「いや、流石に迷惑だろうが……」

「え、でも村長は二つ返事で良いって言ってくれたわよ?」

「そりゃ恩人からの頼みなんだから、オッケーだすだろうよ……え? 何?」

「え? マズかった?」

「もう言っちゃったの?」

「うん」

「お前、バカなの?」

「はぁ? 言うに事欠いてバカですって!? と言うか、あんたがバカよ!? 私が使ってたのは一人用の馬車なのよ? もう壊れちゃったけど! 三人が乗れて、三人分の食糧や水を一週間分くらい積めて、そこに行商の品物を載せることを考えたら、もっとデカイのにしないといけないじゃない! それに馬だって買わないといけないのよ? どこにそんなお金があるのよ! シロちゃんだって育ち盛りなんだから良い物食べさせてあげたいでしょ!? そんなこともわからないから彼女もできないし、結婚だってできないのよ! バカなの、あんたは?」


 え、何でそんなにひどい言われなきゃいけないの? と泣きそうになりながらも、一は反論する言葉を探していた。だと言うのに、彼女はそれを許さず、さらに言葉を続けていく。


「そもそも、あたしはこの村には商売しに来たのよ? 道端で倒れている人を助けてあげた結果、ドラゴンとの闘いに巻き込まれて商売道具は全部無くなって無一文なの。誰かさんに責任とってもらわないと割りに合わないわ!」

「………え、俺が全部悪いって言いたいわけ?」

「元凶はあんたでしょう? それに、あんた身元不明じゃない。誰かが保証人にならないといけないでしょ?」


 照れ隠しのつもりなのか、本当にそう思っているかは知らないが、どうやら彼女たちは一が思っていた以上に心優しい少女たちらしい。


「ごしじんたまとおでかけー」


 二人とも、どこか楽し気な声で言うものだから、それを聞いた一も楽しく……なるはずがない。これから何が起こるか分かっていないのだから不安でしかない。しかしながら、行商という職自体に忌避感はない。売り物と売り方が違うだけであって、これまでに培った営業の知識は活かせるはずだ。

 とはいえ、ここは異世界。そう簡単に何もかも上手くいくハズがない、そう思ってしまうのはしょうがないことかもしれない。

 だから一には、とにかく何も起こらないでくれ、と祈る事しか出来ないのである。


「まぁ……なんだ、お前らがそれでいいなら、俺は何も言わんよ……んで? その馬車とか馬はいつ頃くるんだ?」

「そうねぇ……村長の話だと中古の幌馬車だって言ってたからすぐにでも来るんじゃない? 箱馬車もあったみたいだけど、私、箱馬車の扱いが下手なのよね。あと、馬もすぐに手配してくれるって言ってたわよ。まさか即金で払ってくれるとは思ってなかったらしくて、割引してくれたって村長が……」


 ちなみにウィンの話では幌馬車と馬二頭でガリアン金貨十六枚だったそうだ。後で村長に渡しておこう。いや、迷惑料も込みで二十枚くらい渡しておくか。

 それから数日は、街の復興を手伝いながら、出発の準備を進めていく。

 まずは水。小樽一つに満タンに水を入れて約五リットル。それが六つ。計三十リットルほどだ。ウィンに聞いたら、飲み水の確保は主に川や雨水らしい。それを魔法で飲み水に変えるらしい。だが、どうやら魔法で水は生み出せるらしいので、そこまで神経質になる必要は無いとのことだ。素晴らしきかな異世界。

 続いて保存食。干し肉、焼きしめた黒パン、炒った豆、干し芋、干し魚などが主で、傷みやすい葉物や生物は少量だ。他にも小麦粉、根菜、岩塩、それと少量の調味料だ。やはりというか何というか、胡椒はめちゃくちゃ高価だった。ちなみに保存食の量は大人三人が三週間食べられるくらいだろうか。切り詰めれば一ヶ月は保つかもしれないが、別にそこまで逼迫した状況でも無いので、これくらいでいいだろう。

 続いて日用品。籠や箱、調理器具、洗面用具、ロープや頑丈な縄、馬の手入れ道具など。それに加えて三人の衣服やその他の荷物がある。

 と、ここまでで幌馬車の荷室の三分の二ほどが埋まってしまったため、行商のための商品を少しばかり制限しなくてはならなくなった。本来であれば、ウィンはこの町に魔法具を卸し、この村の品や毛皮、冒険者たちから買い取った素材を受け取る予定だったのだが、あの騒動のせいで商品の買い取りが難しくなってしまった。そこでウィンが目をつけたのが調度品だった。クロが伐採しすぎた木材を利用して小さい棚や机、椅子などを作った職人にお願いして買い付けたのだが、想像以上に場所を取る上に商品以外の荷室占有率が高くなってしまったため、ウィンには泣く泣く諦めてもらった。そうすると商品が無くなってしまうと嘆いたウィンに一は一つの提案をする。

 この村には使い切れないほどの金があるのだ。だったらその金を売ればいい、と。そう話したら「だからあんたは童貞なのよ」と言わんばかりのジト目を向けられた。いや、申し訳ないけど俺、童貞じゃないよ?


「おいおい、勘違いをするな。金をそのまま売れって事じゃあない。俺が言いたいのは金を利用した商品を作ったらどうだ、ってこと」

「例えば?」


 まだジト目のままのウィンに何と説明すればいいのか、しばらく悩み、妙案が浮かぶ。そうだ! 俺にはこれがあるじゃないか! と取り出したるはスマートフォン。


「なにそれ? 魔法具?」

「まぁ、似たようなもんだ。それよりもほれ、これ見ろ」


 画面を操作し、写真フォルダの中を探し、目当ての画像を見つけると、その画面をウィンに見せる。


「なにこれ……お皿? すごいわね、こんな綺麗な……これ、え? すごいわね、これ! 割れた部分を金で補修してるの? よく考えたわね、こんな金持ちの道楽みたいなの」


 そう、金継ぎである。


「うちの両親がそういうの好きな人でな。ずっと使ってた皿が割れちゃったから直したらしい。やり方も簡単だって言ってた……多分。いや、どうだろうな…普通に溶かした金で接着させるだけだと思うんだけど……」


 実際には漆で接着させ、金粉を塗すのだが、そんな技術を彼が知るはずもない。


「でもそうね……基本的に割れた物を直すって概念がそんなに浸透していないから、これは新しい商売になるかもしれないわね! しかも金には困らないわけだし! 上手くいけばどこかの貴族の御用商人とかになれるかも! ならないけど! でも、すごいわね、あんた! これなら商品のスペースもそんなにいらないし、何なら商品仕入れないで廃品から作ればいいものね!」

「いや、そこはちゃんと仕入れてくれ……まぁ、何だ、結構いい案だろ?」

「で、もちろんあんたがやるのよね? これ」


 言い出しっぺの法則という物があるとかないのか。


「私、そういう細かくて繊細な作業って苦手なのよね……」


 思わず「だろうな」という言葉が口から滑り出そうになり、ハッと息を飲む。


「んじゃ、頼んだわよ!」


 嬉々とした表情で一に背を向けて部屋から出て行ったウィンの後れ髪を見送り、勢いよく閉じられた扉を凝視する事数分、一はようやくその重い腰をあげたのであった。

更新遅れてすみません!

あと、今回で一章終わりって言ったけど、もう一話だけあります・・・ごめんなさいね

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