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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第一章 転生したのに病気はそのまま
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異世界転生のお約束?

 ウィンの魔法で金になった炎龍を浮かせ、黒龍に運んでもらいながら、三人が村に戻ったのはさらに一時間後のことであった。

 てっきり宴会は終わっているものだと思っていたが、そんな事は無かった。むしろ、英雄が財宝を持って帰還したことで、宴会は更なる盛り上がりを見せることになる。


「やったな、英雄!」


 べろんべろんに酔っぱらったグラムは真っ赤な顔で豪快に笑う。どうやら絡み酒のようだが、その豪快さも相まってとてつもなく絡みにくい。


「まさかお前さんがあんな切り札を用意しているとは思わんかったぞ、えぇ? ありゃどういうわけなんだ? あんな巨体を金の像に変えちまうなんてよぉ!」


 彼らが泊まっている宿屋の一階の酒場では、一の持ち返った金の炎龍の話で盛り上がっている。


「いやぁ……まぁ、色々と、な」

「なんだなんだ、教えてくれないのか?」

「あー、うっとおしいな、お前! 魔法だよ魔法。何だっけ? あー、そうそう、石化の魔法を使ったんだが、どうやら炎龍の腹の中だと違う事になっちゃったらしくてな! 俺もまさか金になるとは思わなかったよ」


 宿屋の前に乱雑置かれた金の炎龍を一目見ようと村中の人間が押し寄せる中、一はこの金の炎龍を全て村に寄付すると宣言し、後日、金の炎龍の寄贈式を行うことになっている。


「にしても、お前さんの取り分が無いけど、良いのか?」

「この村には世話になったからな。少しでも恩返しが出来ればそれでいいさ」


 豪快にジョッキを傾けるグラムとは対照的に、ちびちびとグラスを傾ける一は、隣にいるウィンとシロに微笑みかけた。


「大切な出会いもあったしな」

「ハジメ、お前……」

「やめろ、言うな。恥ずかしくなってきただろ……」

「気に入った!」


 ガシッと肩を組まれ、耳元で大声を出されれば誰だって嫌な顔はするだろう。


「なんだその顔は! 俺はお前の事が気に入ったぞ! お前さんは、この後はどうするつもりだ? この村に残るのか?」


 グラムに問われ、そう言えばどうするのかをあまり深く考えていないなぁ、と思ったのだが隣でウィンがゲフンゲフンとわざとらしい咳き込みをした。


「あー、グラム……誘ってくれて悪いが、俺はこいつらと一緒にいるつもりだ。ウィンの行商の手伝いをするって約束してるからな」

「そ、そうよ! こいつはあたしの手伝いをするのよ! だから悪いけど、あんたにあげる気はないわ!」

「そうか……お前ならいい騎士になれると思ったんだがな」


 残念そうなグラムは残っていた酒を一息に飲み干し、お代わりを要求した。


「騎士か……いや、騎士って柄じゃないと思うけどな」

「何言ってる。あの炎龍を討伐して、黒龍を手懐けたなんて、王都の連中が聞いたら泡吹いて倒れるぞ……下手すりゃ王から爵位付きの領土だって貰えるかもしれん」

「うへぇ……そりゃすごい」


 呑気に答えながらも、内心実はものすごきドキドキしている一は、


『これだこれ! これこそ異世界転生のお約束ってやつだぜ! 王様から爵位と領土が貰える? これはアレだろ。可愛いメイドさんとかいて、領民にも優しい領主様になって現実世界の知識無双が出来るパターンだコレぇ!』

「それは……夢が広がるな……」

「だろ? なら一緒に行くか? 何ならこの俺が直々に口添えしてやるぞ?」

「いや、でもただの平民にいきなり爵位とか領地とか、簡単に渡したりするわけ?」


 何となく気になり、そんな質問をぶつけてみるとグラムはグッと距離を詰め、彼の耳元で渋い声で語り出した。


「普通は無理だな。だが、お前は特別だ。いいか? さっきも言ったが、炎龍を討伐し、黒龍を手懐けた。そんなお前を国が放って置くはずがない。何が何でも囲い込もうとするだろう。お前さんを取り込んでしまえば漏れなく黒龍が付いて来るんだからな。どんな手を使ってでも取り入ろうとする。だが、強引な手を使えば黒龍を嗾けられてしまう。となれば懐柔して領地でも与えて飼い殺すのが得策だろう。そうなれば後は王族の誰かと適当に結婚させて家族の情に訴えれば国は黒龍を手に入れられる。世界の覇権を獲ったようなものさ」


 グラムの話を聞く限り、ろくな事にはならなそうだ。と一は片眉を軽くあげて、グラスを傾ける。


「それはそれは……退屈しないかもな」

「まぁ俺の想像だからな、全部が全部その通りってわけじゃないぞ? それに、もし本当に興味あるなら、俺が口添えする。可能な限りお前の要望を通そうじゃないか!」


 耳元で話していた声が最後でいきなり声量マックスになった瞬間、一は大きく仰け反り、その反動でグラスの中身を溢しそうになる。


「っと……あぶね。こんな美味い酒をこぼすなんて罪だぞ、全く……なぁグラム。そうしたいのも山々なんだがな、俺はもう少しここにいるよ。今は少しでも人手がいるはずだからな」

「そうか、なら仕方ない。俺たちは明日にでも王都へ戻るつもりだが……お前という男に出会えて良かったぞ、ハジメ」


 酒のお代わりを受け取ったグラムは、ジョッキを掲げる。


「あぁ、俺もさ……助かったよ、グラム」


 照れくさくはあるが、一もジョッキを掲げ、グラムのそれに軽くぶつけた。


「お! そうだそうだ! 忘れるところだったぜ! ほれ、これだ」


 とグラムが甲冑の内側から布に包まれた細長い物を取り出して、一に押し付けるように手渡した。


「なんだこれ?」

「炎龍の角だ。これが炎龍討伐の証になる。生憎他の部分は全部金になっちまったからな、これしか証拠がねぇんだ。別にお前が持ってなくてもいいが、一応は討伐した証がなくちゃな。ただの法螺吹きに間違われても困るだろ?」

「あっ、そういう事か……そうだな、ありがたく受け取るよ」

「おう、そうしとけ!」


 ぐわっはっはっ、と大口開けて笑ったその数分後には、グラムは酔いつぶれて豪快ないびきと体勢で眠ってしまった。それが終わりの合図などではなく、むしろグラムに遠慮していた騎士や青年たちが、ぜひ話をしてくれ、奢らせてくれ、と大量に押し寄せてきたのだ。


「シロちゃん、眠い?」


そう言ったどんちゃん騒ぎからいち早くウィンは離脱しており、ウトウトと眠たそうにしていたシロを抱えて、先に部屋に戻って寝かせておくわ、と言い残し、戦線を離れたのである。羨ましいことこの上ない。そんな圧倒的な物量作戦に押し負けてしまった一は、結局明け方まで次から次へと酒を持ってくる輩と戦い続け、朝日が昇ってくると同時にようやく解放される。

 千鳥足になりながらも、一歩ずつ慎重に階段をあがり、自室へと戻るまでに十五分の時間を有した。自室のドアを開け、ベッドに倒れ込む。


「あぁ、ヤバい。今ので吐きそう……」


 倒れ込んだ衝撃で頭がグルグルし、胃の中が氾濫しそうな感覚に襲われた一は、起き上がって枕元に置いてある水差しに手を伸ばす。


「……酒に酔ってるのも、状態異常に含まれるのか?」


 唐突に閃き、伸ばしていた手を止める。


「そうだとありがたいんだが………」


 一は結石を取り出すと、水に触れされた。


「…………うわぁ、飲みたくねぇな、これ」


 自分でやっておいてそれは無いだろう。だが、やはり抵抗があるのも事実だ。目の前の水差しに入っているのは言ってしまえば自分の尿が固まった物を触れされた液体だ。もっと直接的かつ大胆に表現するなら自分のおしっこのような物だ。誰も自分の尿を飲もうとは思わないだろうし、そんな勇気と決断力はそうそうない。極限の状況下であれば話は別だろうが、今はそうでもない。


「まぁ、この酔いがすぐに醒めるなら安いもんだよな……」


 コップに注いだ水を見つめながら一度、大きく深呼吸をする。意を決し、一は結石ポーションを飲んだ。その瞬間、まさに一瞬で酔いが吹き飛んだ。それどころか彼の身体にあった無数の擦り傷や切り傷なども治る。


「……今更ながら、やっぱりすげぇな、これ」


 完全に酔いが醒めたとは言え、やはり眠気だけはどうにも出来なかったようで、一は結石ポーションの飲んだあと、すぐにベッドに倒れ込み、死んだように眠ったのである。

 彼が目覚めたのはなんと、その翌日の事だった。


「……俺、一日中寝てたの?」

「えぇ、死んだようにね。本当に死んだのかと思って焦ったわよ、気を付けてよね! どうせあの晩は、朝まで飲んでたんでしょ!?」

「いや、だってアレは仕方ないだろ? お前もすぐに部屋戻っちゃうしさ!」

「はぁ? 何? 私のせいにするわけ?」

「ごしじんたま、おちゃけくちゃかった」

「え、シロまで!?」


 炎龍の討伐から二日後の今日、彼が持ち返った金の炎龍の解体と黒龍の紹介、という二大イベントが待ち構えている。そのどちらも主役は彼だ。


「それよりも、黒龍の方は本当に大丈夫なんでしょうね?」

「あぁ、心配いらないと思う。帰る時に俺が呼べば来てくれるって言ってたし」

「そういう事じゃないわよ。人間を襲わないのか、ってこと!」

「クロが? 心配しすぎだって。理由があって村を襲ってたんだからな。それに、村の復興を手伝うって約束したし」


 あの夜、金になった炎龍を村に運び込んだ黒龍は、やはり村人からは畏怖の眼差しを受けることになった。無理もないことなのだが、それでもその誤解を何とか解きたいという思いもある。


「お前こそ、頼んでいた件は大丈夫そうか?」

「実際に試したことが無いから、上手くいく保証はないけど……きっと大丈夫だと思うわ。でも、本当に良いの?」

「あぁ。クロもその方がいい、って言っていたしな。それに、あいつはもう俺の友達になんだ。心配いらないさ」


 そう言って、一は身支度を整え始めた。





 村の中央にある噴水広場には簡易的な仮設のステージが出来上がっていた。

 と言っても本当に簡易的で、木の箱を並べてベニア板で床を作り、その上に布をかぶせただけというもので、その前には金になった炎龍が運び込まれていた。そのステージ横にはこれまた簡易的なテントが設置されており、一とウィン、シロの三人はそのテントに備えられた椅子に座って待機している。

 炎龍の金の像は、既に何度も見ているはずなのだが、村人たちはまるで初めてそれを見たかのような新鮮な表情をしているのが不思議で仕方ない。

 さらに言えば、恐らく村人全員がこの場に集まっているのではないか、と感じるほどに人が集まっており、これから始まる金の寄贈式の開始を今か今かと待っていた。そして


「皆さん、今から数日前、この村は黒龍に襲われました」


 壇上に上がった村長が拡声器のようなものを持って語りだす。


「なぁ、ウィン。アレなんだ? 魔法具?」

「そうよ。声を大きくして遠くの人まで伝えるの」


 世界は違っても、そういうものは共通なんだなぁ、としみじみ思う。


「黒龍は村を我が物顔で闊歩し、家の壊し、家族を奪い、我々に絶望を齎しました。そして、黒龍に恐れをなした騎士たちは逃げ出し、この村を守る者がいなくなったのです」


 村長の言葉に黙って耳を傾ける村人たちは、深々と頷く者や、悲しみに顔を伏せる者など様々な反応を見せていた。


「そんな中、その黒龍だけでなく、伝説の炎龍までもがこの町を襲いました。そして龍同士が争いを始めたのです。そして……黒龍は炎龍に敗れ、炎龍はそのまま去りました」


 あの時の恐怖は正直、今でも忘れられないし、恐らく当分は忘れられないと思う。まぁ、逆に言えば、そこら辺の恐怖では動じなくなっていると言える。多分、メイビー、恐らく。


「本当の敵は、黒龍ではなく炎龍だったのです。そして、敗れた黒龍を治療し、共に炎龍と戦う事を決意した者がいたのです。その方々は王国騎士と共に黒龍を率い、ヒルデンの丘にて見事に炎龍を討ち取ったのです」


 村長が一の方をチラッと見る。


「紹介しましょう。見事に炎龍を討ち取った方々を。ハジメ様、ウィンチェスカ様、シロ様です!」


割れんばかりの大歓声を受けながら、三人は壇上へと上がった。


「では、ハジメ様、お言葉を……」


 そう言って町長から拡声器を受け取り、一はポリポリと頭をかいた。


「あー、どうも。ただいまご紹介に預かりました一です。えー、こういう場はあまり得意ではないんですが……色々と説明しようと思っていたから、丁度良かったです」


 さて、彼がスピーチをするにあたり、ウィンと相談をして四つのルールを設けていた。

 一つ。賢者の石の事、或いはそれに繋がるような事は絶対に話さない。

 二つ。自分自身の正体が露見するような事は絶対に話さない。

 三つ。炎龍を金にしたのは、炎龍の体内で石化魔法が何らかの原因で変質した結果である。

四つ。一は東の国出身で、ウィンと共に行商をしているという設定にする事。

 これらを踏まえて、一はスピーチをしていく。


「まず、俺とウィンとシロについて少し。俺はこの町の住人じゃない。もっと東の国からやってきたんだ。で、こいつはウィン。見ての通りエルフなんだが、一緒に旅をしている。で、その小さくて可愛い幼女がシロ」


 シロは自分の名前が呼ばれると、ガチガチに緊張しながらペコリと頭を下げた。その様子に一部から黄色い声援が飛んできて、余計にシロは戸惑い、緊張していた。


「俺たちは黒龍を撃退しようとした。ウィンは魔法使いとしても優秀だから、まぁ、撃退くらいは出来るだろうと思ったんだ。あとはさっきの話の通り、黒龍と共に炎龍を倒した。その証拠がこれだ」


 一は腰のベルトに刺していた布で巻かれた炎龍の角を取り出し、掲げる。


「討伐した炎龍の角だ。他は全部金になっちゃったから、これが唯一の証拠になるんだけど、別にこんなものなくても、あの戦いに参加した奴らがいるから、みんなは俺の事を信じてくれるよな? だからこの角は村長さんに預ける事にする。きっと噂を聞きつけて色んな人が来ると思うから、その時はこの角を見せてやってくれ」


 そう言って、角を村長に手渡す。その瞬間、大歓声と拍手が間欠泉のように吹き出た。


「あと、どうやって炎龍を金にしたのか、ってのがみんな聞きたいと思うんだ」


 拍手や歓声に負けじと声を張った一は、そのまま続けた。


「何というか、アレは本当に偶然なんだ。俺、炎龍に飲み込まれてさ、何とかしなきゃ、って思って石化魔法を使ったんだ。そうしたら炎龍が金になったんだよね。原因は分からないから再現できないのが残念だけど、みんなが知りたがってた真相はそういうことだ」


 一はそこで一呼吸置き、


「この金になった炎龍は、正式にこの村に寄付する。復興資金も必要だろうし、短い間だけど色んな人に世話になったからな、恩返しだと思って受け取ってくれ!」


 再び割れんばかりの歓声と拍手が村中に響き渡る。今度のは終わることを知らないようで、いくら彼が拡声器で声を出しても誰もその歓声を止めようとしなかった。


「みんな聞いてくれ! 頼む、少し静かにしてくれ! 伝えたい事はまだあるんだ! もっと大事な事なんだよ! おーい、お願いだからちょっと静かになってくれ!」


 このまま暴動が起きるのではないか、と不安になりそうなほどの盛り上がりを見せる村人たちを何とか宥めた一は、コホン、と咳払いを一つ。


「あー、それで……その……一つ、みんなにお願い、というか……頼み、というか……提案、というか……」


 煮え切らない彼の言葉に、町人たちの間に不安や困惑が生まれていた。


「この村の復興を手伝ってくれる、俺の友達を紹介したいんだ。村長にも話して、きちんと許可を貰っているし、きっとすぐに慣れると思うんだが……何というか、誤解されやすい奴なんだ。だからきちんとここで紹介しておきたい」


 どよどよ、ざわざわ、と村人たちが波立つ中、一はその次の言葉を慎重に探っていく。もしここで少しでも間違えてしまえば、混乱が広がってしまうからだ。


「みんな、その、驚かないで聞いてほしいんだ。これから紹介するのは、その……俺たちと一緒に戦ってくれた――」


 ええいままよ! 心の中で祈りながら、その名前を口にした。


「――黒龍なんだ!」


 シーン、と辺りが静まり返る。それまでざわめき立っていた人々は、まるで呼吸を忘れたかのように静まり返っていた。


「……信じられないと思うけど、俺は黒龍と友達になって、クロって名前を付けた。そしてクロは、この村の復興を手伝ってくれると約束してくれた」


 そしてようやく静かだった人々の間に動揺と困惑、そして恐怖の波が生まれ始めてしまった。


「だから俺は彼の事を紹介したい!」


 一は拡声器を降ろし、あの時のように手を空に掲げる。


「来い、クロッ!」


 その声と共に、遥か天から黒い太陽が落ちてきた。だが、それは噴水広場に降り立つことは無く、その上空でゆっくりと羽ばたき、人々を見下ろしているだけだった。

 村の人々にとって、それは恐怖でしかなかっただろう。自分たちを襲った黒龍が自分たちの上でその悪魔のような翼を羽ばたかせているのだから。


「紹介する! 俺の友達、黒龍のクロだ。こいつはあの炎龍に家族を殺され、その復讐のために炎龍と戦った。別にこの村が憎くて襲ったわけじゃない。そして俺は黒龍と一緒に炎龍を倒した。むしろ、こいつがいなかったら炎龍には勝てなかった。確かに村を襲ったのは良い事じゃないが、村の復興を手伝うと約束してくれた。だから、お願いだ、クロを信じてやってくれ」


 自分の言葉は人々に伝わっているのだろうか。不安になるのは仕方ないが、ここでそれを表情に出してしまえば、きっとクロを裏切る事になるのだと思う。


「ウィン、頼む」


 ウィンに視線を送り、頷いた。


「はぁ、失敗しても文句言わないでよ?」


 一はその言葉に苦笑で返すと、ウィンは短く詠唱をして、その掌をクロに向けた。


「これで大丈夫だと思う……」

「ありがとう、ウィン」


 クロの方へ向き、大声で呼びかけた。


「おーいクロ! ちょっと喋ってみろ!」


 一の言葉を、クロはしっかりと理解していた。だからコクリと頷き、口を開いた。


「我が名はクロ。そこにいるハジメの莫逆の友にして、黒龍種最後の生き残りである。友であるハジメの願いを受け、この村の復興に力を貸すことになった。汝らは我が行いを許せないであろう。我が姿に、我が声に恐怖を感じるだろう。だが、我はこれより友の願いのため、この村を守ると誓おう。汝らの村を守護し、我が友の願いに応えよう」


 やはり唸り声と同じ遠雷のように低い声だったが、人の声に変換されるとこれまたかなりのイケボに聞こえるのがとても悔しい。そんなどうでも良い事を思いながら、人々の反応を待っていた一は、予想外の答えを知ることになった。


「うおぉぉぉぉぉ! すげぇ! 黒龍と友達とかすげぇ!」

「ハジメ様、かっこいいぃ!」

「おぉ、黒龍様がこの村の守護者となられるのかね、ありがたや、ありがたや」


 老若男女、それぞれの反応は違うが、負の感情によるものではなく、正の感情によるものばかりであった。もちろん負の感情が全く無いわけではなかったが、それでも見た限りでは数えるほどしかいなかった。

 人々は歓声と拍手を惜しみなくクロへと送っている。


「これも、異世界転生のお約束、ってやつかね……」


 ホッと肩を降ろし、一はクロを見上げた。


『やったな、相棒』

『うむ!』


 心なしか嬉しそうな声音だったのは胸の内にしまい、今はこの、異世界転生の特有のご都合主義を謳歌するとしよう。

 そう思いながら、一は安堵の吐息を漏らした。

遅くなりました!

次回で一章が終わりになります。

閑話をかきつつ、二章を準備しますので、しばらくお待ちください!

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