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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第一章 転生したのに病気はそのまま
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ドラゴン退治は可能か?

 時間は少しばかり過ぎ、翌日になる。昨日のドラゴン襲来によってこのカッスラーの村は壊滅的な被害を受けていた。

 特に南側の被害は甚大だ。南門から西門にかけて防壁は崩壊し、門内部も瓦礫の山と化している。それだけならまだしも、死傷者数も少なくない。無残に破壊された村からは活気など失われ、残された人々は絶望を抱く事しか出来なかった。


「そして最悪な事に、生き残った騎士や冒険者たちが逃げ出してしまいましてな……村を守る者がいなくなってしまったのです」


 そう語るのは村長だ。

 一、ウィン、シロの三人は現在、村長の邸宅がある北東エリアにいる。このエリアは比較的被害の少ない一角だが、それでも黒龍の無差別な攻撃を受けていた。そもそもこの村はあまり広くない。その気になれば三十分もしない内にドラゴンはこの村を滅ぼせただろう。

 村長の邸宅、その応接室で三人は村長と向かい合って座っている。


「うーむ、そうなると復興には時間かかるよなぁ……」


 出された紅茶のような飲み物に手をつけた一は呑気な声で言った。


「そこでウィン殿に、この村を守って頂きたいのです」

「おぉ、良かったじゃん。永久就職先が出来たぞ、ウィン」


 出されたクッキーのようなお菓子に手をつけた一は呑気な声で言った。


「あんたはちょっと黙ってて! あの村長さん。良いですか? 確かに黒龍を退けたのは私たちです。ですがあれは、単に撃退しただけです。しかも普通の龍種じゃないんです。黒龍ですよ? 龍の上位種を相手にしろと? そんなの無理です! 謹んで辞退させていただきます」


 出された物には手を付けず、ウィンは首を横に振った。


「シロ、お前も食ってみろ。これ結構美味いぞ」


 二人の間でお茶とお菓子をジッと見つめていたシロに、一は許可を出す。その途端、シロは満面の笑みを浮かべ、お茶菓子に手を出した。


「なーんでこうも緊張感に欠けるわけ! 信じらんない!」


 ぷんすか怒りながらも、ちゃっかり出されたお菓子に手を出すウィンを見ながら、一は思案する。


「なぁ……あのドラゴンを倒すにはどれくらい魔法使いがいればいいんだ?」


 これまた呑気な声で一が言うものだから、釣られてウィンも呑気に答える。


「どれくらい? そうね……王宮騎士クラスの魔法使いが百六十人くらいいれば何とか」


 ふーん、と相槌を打ち、一は最後のお茶菓子を頬張った。


「この村に魔法使いってどれくらいいるんだ?」

「彼女を加えて三名です」


 答えたのはウィンではなく村長だった。

 この村長、どう見ても山奥で霞でも食っているような仙人然とした老人なのだが、どうやらまだ五十代だという。ふむ、どうやらどの世界でもイメージというのは大事なものらしい。


「その三人であのドラゴンは倒せる?」

「倒せるわけないでしょ!」


 何をバカなこと言っているのかしら、この男は。とでも言わんばかりの視線に、一は少しばかり仰け反る。


「えー、何その目。やめろよ、そんな蔑んだ目で見られると興奮するだろ……あ、すいませんごめんなさい嘘です本当に蔑んだ目で見ないで下さいお願いします何でもしますから」

「ごしじんたまのいうこと、むつかしくてわかんない」


 お菓子を食べ終わったシロが物欲しそうにウィンのお茶菓子を見つめている。


「シロは分からなくて良いんだよ。で? 三人でも倒せる方法とかないわけ?」

「使う魔法にもよるけど、属性魔法の中で最強の魔法を十回くらい連発出来て、その全部が命中するなら三人でも倒せるんじゃない?」


 そんなシロに残りのお茶菓子を上げたウィンは大きな溜息を吐く。


「ふーん……なるほどねぇ」

「え、まさかとは思うけど、その三人で戦えとか言うんじゃないでしょうね!?」

「いやそのまさかだけど……」


 フカフカなソファに大きく沈み込むように背を掛けた一が緊張感の欠片もないような声音でそう言った。


「あんた何考えているわけ!? そんなバカ魔力どこにある、って……言う、のよ………まさか……」

「そっ。そのまさかだ。忘れたのか? 俺が何者で、何を持っているのか」


 ふふん、と得意げに笑う一。対してウィンはしかめっ面で彼の言葉について考えていた。


「なるほどなるほど。確かにそうね。それなら不可能じゃないわね」


 ウィンの口から出た言葉に、一が声を出して驚いた。


「何だと!? ウィンが俺の意見を肯定した!? どういう事だ! お前まさか――」


 偽物か? と言う前にウィンの右ストレートが炸裂した。


「でも、いくつか問題点があるわ。まず、属性最強……そうね、炎熱系とでもしておきましょうか。その最強の魔法を普通の魔法使いが使うなら魔法陣の補助が必要になる。しかも詠唱が長いから、その時間も確保する必要がある。さらに言えばその魔法は広範囲殲滅魔法だから、効果範囲を魔法陣の中に絞らないと多分倒せない。だから黒龍を魔法陣の中に誘導して足止めする必要があるわ」


 痛がる一を無視して話を進めるウィンは、少し早口になりながらもそう言う。


「と言っても、その役目をしてくれる騎士や冒険者はもういない」

「……ドラゴンの好物で釣るのは?」

「黒龍に好物なんてあんの?」

「質問に質問で返すなよ。というか、そもそもの話だけど、なんで龍が襲ってきたわけ?」


 根本的な質問だ。あのドラゴンが襲ってくる前に、ウィンが言っていた事を思い出す。冒険者ギルドから出てきた彼女は言った。

『数日前からこの近辺で黒龍の目撃例があったらしいわよ』と。

 今思えばフラグはこの時点から立っていたのだろう。


「こういうのは基本的に縄張りを荒らされたとか、眠りを邪魔されたってのが一般的だと思うんだけど……」

「それなら心当たりがありますぞい」と村長が二人の会話に割って入って来た。


「数年前に我が国では王位継承を巡って大きな争乱がありました。それが終わった時、負け組の領地の多くの貴族が粛清され、フローウェル中の貴族が少なくなり、豊穣祭や収穫祭が出来なくなりました」

「あぁ、なるほど。そう言うことね」

 このフローウェル王国では、魔法使いは貴族として登録されている。逆に言えば、平民でも魔力を持って生まれれば貴族になれるのだ。そして貴族たちはその魔力を領地のために使う。一般的には春先の豊穣祭で魔力を土地に与えて富ませ、平民が作物を育てる。そして秋の終わりの収穫祭で農地に再び魔力を与えて、次の年の豊穣祭に向けて土地を整えるのだ。

「えっと、つまり……?」

「つまりこう言うことよ。領地の貴族が激減したから、土地を富ませるための魔力供給が出来なくなった。でも農地は魔力を欲する。だから周囲から魔力を取り込もうとするの。で、この村の近くで一番魔力濃度が高いのは黒龍山脈よ。痩せ細った農地は黒龍山脈の豊潤な魔力を取り込もうとした」

「左様です。後はもうお分かりでしょう。自分の縄張から勝手に魔力が盗られれば、山脈の主が怒るのも当然でしょう」

「うげぇ……」


 心底うんざりしたように一は項垂れた。そんな一を心配気に見つめるウィンとシロ。特にシロに至っては項垂れた一の頭をヨシヨシと撫でていた。


「まぁ、何にせよ、ドラゴンを誘い込んで足止めする必要があるわね」


 一のために話を戻したウィンとその気遣いに触れた一は、少しずれた話を元に戻す。


「町の外れに魔法陣を用意したとして、そこまでどうやって誘導するわけ?」

「そうね……魔力をギリギリまでに込めた魔石を大量においておくのはどうかしら?」

「適当におちょくってやればいいんじゃね? 石投げたりしてさ」

「真面目に考えてる?」

「当たり前田のクラッカーよ! こういうのは、基本的に上手くいくって相場が決まってんだ」

「何の相場よ、それ」

「ラノベだ」


 自信満々に言い放った一に、呆れたように首を振ったウィン。


「何それ?」

「まぁ、それは置いといて。で? どれくらい魔法陣の中に足止めしておけばいいわけ?」


そうね……、とウィンは腕を組んだ。


「補助詠唱に二分、範囲固定に一分、本詠唱に二分……大体五分、ってところかしらね」

「……長いな」


 黒龍を撃退した時に放った魔法の詠唱はほんの十数秒だった事を考えると、如何にその詠唱時間が長いのかが伺える。


「でしょ? 五分間、あの黒龍を一箇所に留めておくのは至難の業よ」

「じゃあ逆に魔法を発動する瞬間にドラゴンを魔法陣の中に入れるのは?」

「それが出来るんなら、とっくに龍種は絶滅してるわよ」


 先人はよく言ったものだ。曰く


「会議は踊る。されど進まず……か」


 はぁ、盛大に溜息を吐いた一とウィンに、不安そうな表情のシロはきょろきょろと二人の顔を交互に見つめた。


「……ご、ごしじんたま?」

「ん、どうした? お腹痛いのか?」


 フルフルと首を振るシロ。


「ごしじんたま、あのおっきいやつとたたかう?」

「そーだよー。でもいい方法が思いつかなくてなぁ」

「だったらシロ、おーえんすりゅ!」

「おー、そうかそうか、シロは良い子だなぁ!」


 それにしてもこの元奴隷の幼女はとてつもなく可愛い。娘を持ったことはないが、恐らく娘を持てばきっと溺愛していただろうとさえ思う。この反則級の可愛さはどの世界でも共通だ。きっとシロのような幼女が平和を唱えれば世界中から争いという争いは消えるに違いない。それほどまでにこの幼女は可愛いのだ。親バカだと言われようが、うちの子が世界で一番可愛いのだと胸を張って言えるだろう。

 そんな事を考えながらシロの頭をわしわしと撫でつける一は、ふと思いつく。


「なぁ……ウィン。お前の卸してる魔法具の中でドラゴンと戦えるようなやつってある?」

「………まぁ、無いわけではないわ。ただ、通用するかどうかは分からないわよ?」

「ふーん。数は十分あったりする?」

「何に対しての数なわけ?」


 おかわりの入っているティーポッドに手を伸ばしたウィンは、次の言葉を聞いて伸ばしていたその手を止めた。


「奴隷」

「は?」


 何を言い出すんだこの変態は、とでも言わんばかりの声音と表情だが一はそれをすんなり受け流し、彼女の代わりにティーポッドへ手を伸ばし、空になったカップに紅茶を注いだ。


「いや、今思いついたんだけどさ。あの奴隷商人から全員買い取って、魔法具持たせて戦わせりゃいいじゃん」


 何を言い出すんだこの馬鹿は、とでも言わんばかりの声音と表情だが、二度目ともなれば流石の一も少しは傷付くというものだ。


「あんた、本気で言っているの?」

「本気も本気、大マジよ!」


 その声音には、冗談など微塵も感じられない。それどころか、自分のアイデアが天啓であるかのような声音だ。


「………奴隷に黒龍の相手をさせるわけ?」

「お前、黒龍の攻撃は防げるだろ?」

「防げるわけないでしょ!」

「魔力ならあるんだぜ?」


 トントン、と一は胸を叩く。そこには首から下がる金色の巾着袋がある。大層な金色の巾着に入っているのはもちろん彼の尿道から排出された尿管結石もとい賢者の石だ。


「ウッ……ま、まぁ、それなら……って、そうじゃないわよ!」


 うっかり言いくるめられそうになるウィンだが、中々どうして、このエルフにはノリツッコミの才能があるのかもしれない。


「黒龍相手にするのに、戦い方も知らない奴隷を使うなんて、あんた鬼畜なの!?」

「俺だって、本気で奴隷に相手させようってわけじゃないさ。ただお前たちの詠唱の時間が稼げればいいの。さらに言えば、奴隷にだって死ねっていうつもりもない。危なくなったら死ぬ気で逃げろって言うつもりさ」


 とは言ったものの、そもそも先のドラゴンの侵攻によってあの奴隷商人がこの村を去っている可能性もあると言うのに、一はその可能性を最初から排除していた。あの奴隷商人がこのビジネスチャンスを逃すはずがないと踏んでの事だ。人手が足りていないのならば、その人手を売りつければ良いのだから。


「………上手くいく保証はないわよ?」


 とは言え、ウィンには彼のアイデアがどうしても受け入れ難いものに感じている。まるで奴隷を道具の様に扱っているように思えてしまうのだ。

 異世界から来た彼が、奴隷のオークションを見て、あれほどまでに酷い顔色になったのを今でも鮮明に覚えている。だからこそ、彼の口からこんなアイデアが出てくることに不安と違和感を覚えてしまうのだ。


「最初から上手くいく奴はいないんだぜ? それに、色々と考えもあるのさ。お前、風系の魔法が得意って言ってたよな?」

「うん、得意よ」

「あのドラゴンの翼、どっちでもいいから切り落とせる?」

「どうかしら? やろうと思えば出来なくもないけど……でも、ドラゴンの動きを封じないと無理ね」

「その注意を、俺と奴隷たちが引く。奴隷たちはお前の魔法障壁とやらで守ってやればいいだろ?」

「あ、そう。で? その黒龍をどうやって呼び寄せるわけ?」

「あのドラゴン、盗られた魔力を取り返しに来たんだろ? なら、その魔力をたくさん用意しておけばいいんだよ」

「どうやって?」

「前に言ったよな? 俺の体内からアレが出た瞬間に、体内にあった余分な魔力が一気に放出した、って。同じようには出来ないが、魔力だけを放出することは出来るんだろ?」

「そうね……まぁ、可能よ」

「でだ。賢者の石は高密度の魔力結晶体なんだろ?」

「えぇ」

「でも、その魔力は感知出来ない」

「そうね」

「なら感知出来る様にすればいい。どうやって、ってのは専門家のお前が考えてくれ」

「……なるほど。そうね……それなら何とかなるかも」

「決まりだ。じゃあ早速準備するぞ。俺とシロは奴隷商人の所に行く。お前は卸した店に行って使える武器は全部持って来い!」


 こうして、踊った会議はいとも容易く終わりを迎えたのである。



 さて、一とシロが担当する奴隷商人との交渉は思っていた以上に簡単だった。と言うのも彼の奴隷商人が町長邸宅へと商談をしに来たからだ。どうやら奴隷商人は手持ちの商品を町に購入させる気満々で尋ねてきたらしい。その奴隷商人が一とシロの顔を見て鳩が豆ガトリング砲の斉射を喰らったような顔をしていた。その表情はきちんとスマホで録画しておいたから後でウィンに見せてやろう。


「で? どうなんだ? 売るのか、売らないのか、はっきりさせてもらおうじゃないの」


 まるで借金の取り立て屋のような凄みで商人に詰め寄る一。


「何の話だ? 私は今、町長と話をしているのだ。お前ではない」

「あ、ふーん。そういうこと言うわけ? それとも言葉が分からなかった感じですかー? もう一回言います? あんたの持ってる奴隷、全部俺が買い取ってやるって言ったんだけど」

「全部と言うのがバカな話だ! そう言って買い取った奴隷たちを使って反乱を起こす気だろう! 黒龍に襲われたこの町ならば支配するのも容易いと踏んだか! 町長、この男は危険ですぞ。この混乱に乗じて町を乗っ取ろうとしているのです! こんな男に奴隷は売ることなど出来ません! 町長、どうか奴隷を買ってください! それしかこの町を守る方法はありません!」

「うむ……しかし……」


 チラチラと町長は一の様子を窺う。助け舟を求めているように思えるが、それよりも一はこの奴隷商人がとてつもなく気に入らない。何故こうも人をこき下ろしたがるのだろうか。


「はぁ……おっさんよ。俺の事が嫌いなのはいいよ。あと勝手に勘違いしているのも、まぁ許すよ。でもさぁ……」


 大きく溜息を吐く。

 そしてそこから約四十分、一のお説教タイムが続いたのであった。

 最後は根負けした商人が渋々彼の申し出を受け入れ、一に全ての奴隷を売ることに承諾したのであった。補足しておくと、その奴隷たちはこの作戦の終了と共に開放され、町長の懇意によって町での生活が約束された。奴隷たちからはまるで神のように崇め奉られそうになったが、そこは丁寧に辞退しておいた。

お待たせしました・・・

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