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俺の尿管結石が異世界では賢者の石だった!?  作者: 卯月真琴
第一章 転生したのに病気はそのまま
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賢者の石を調査せよ!

 賢者の石。

 あらゆるものを金に変え、不老不死を与えるという霊石。

 その知名度は高く、マンガやアニメ、ゲーム、映画、小説など、幅広い分野で登場する。

 その名前は、この異世界でも知られているようだが、まさか名前まで同じだとは思わなかった。


「まぁ、賢者の石、なんてネーミングも安易っちゃあ安易だがな……」


 一は勘違いしているようだが、この賢者の石という名前はウィンの口から発せられた単語と一致していない。どころか、この世界では賢者の石とは呼んでいない。これも彼が異世界に転生した際に与えられた言語理解の力なのだが、一はまだそれに気づいていない。


「準備はいいかしら?」


 一とウィン、二人は今、宿屋の裏庭にいる。これから行うのは、一が手にしている賢者の石の調査である。


「さて……何から始める?」


 ウィンが言うには、この賢者の石というのはおとぎ話の中の存在、或いは彼のいた世界同様に空想の産物ではないか、ということらしい。だから、その効力を目の当たりしている彼女にとっては摩訶不思議な物体に見えてしまうのだ。


「そうだな……とりあえず、俺の世界での賢者の石の話をしていいか?」


 とは言っても、一も賢者の石について精通しているわけではない。知っている事と言えば、触れた物を黄金に変える、触れた液体は不老不死を齎す水となる、くらいだろうか。


「黄金に変えるって言うのはこっちの世界でも同じね。でも二つ目は少し違うわ。こっちの世界では賢者の石に触れた液体は、あらゆる状態異常を瞬時に回復させる万能の液体になるのよ。それを飲み続ける事で不老不死になれるの」


 彼女の言う状態異常というのは、ゲームなどでよくある毒や麻痺、混乱というステータスだが、これ以外にも内外傷を含め、身体的破損なども含まれる。つまり、片腕が無い人間に液体を飲ませれば、腕が復活するということだ。


「え、そりゃすげぇな。という事は、少しばかり仕様が違うのか。賢者の石っていう名前の由来は?」

「一番有名だから、ってのが大きいかしら。もちろん他にも呼び方はあるわ。聖シルヴェスタの宝珠、天上の霊石、頂きの魔石、詐欺師の石ころ、とかね。その中で最も有名なのが、皆が知っている賢者レイガスの悲劇っていう話よ」


 賢者レイガスの悲劇。

 この異世界で勇者冒険譚に続いて知名度の高いおとぎ話である。学校の教科書に載るほど有名な話で、簡単に言えば


「賢者レイガスは魔法使いとしても一流で、彼の元にはその術を学ぼうと数多くの魔法使いが集い、彼は弟子に自らの術を教えていくの。杖にはめられた燦然と輝く赤い石が黄金を生み出し、その石に触れた液体はあらゆる怪我や病気を治すとされ、彼は偉大な魔法使いと呼ばれ始めた。でもある日、弟子の一人が眠っている彼を殺したのよ。不老不死とされていた彼が死んだの。そして弟子は彼の杖から石を奪おうとした。でも弟子が石を手にした時には、もう石はただの石になっていた。燦然と輝く赤い石は、彼と共に死んだの。他人は救えるのに、自分は救えなかったのね」


 これを悲劇と取るか、皮肉と取るか、或いは喜劇と取るか、それを議論する授業の題材になっている。故にこそ、この話を知らない人はいないほどに知名度が高いのだ。


「なるほどな。道徳の授業みたいなやつか……よし、分かった。結論としては、俺たちはこいつの事はほとんど知らない、ってことだな」


 手にしている結石に視線を落とす。


「そうね。どの話にも赤い石っていう共通点があるのに、これは赤くないし、そもそも触れたものを黄金に変えるっていうのに、持っているあんたはなってないし」

「確かにそうだよな……」

「あ、そうだ。昨日調べた魔法陣の事なんだけどね?」

「あぁ、そういや調べてくれるって言ってたな。どうだった?」


 一の股間に展開された黄金の魔法陣。昨日は宿屋のおばちゃんに要らぬ誤解を与えてしまったが、その後にちゃんと調べてもらっていたのだ。


「何と言うか……単純な術式だったわ………その……」


 と言い淀むウィンに、一は何となく察した。言いにくいことなのか、と。


「普通に、身体強化の、魔法だったわ………その、ある一部分を、強化、する……ね」

「身体強化魔法?」

「うん……その……」


 とウィンが耳打ちをしてきた。


「……うん。うん………は? え、うん………えと、つまり……」


 彼女の話を簡単に言えばこうなる。


「俺のアソコを強化する魔法?」

「恥ずかしいから大きい声で言わないでッ!」


 顔を真っ赤にしたウィンが怒鳴る。


「俺のあそこが、強化された………?」

「その……このサイズが出てくるなんて………無理だから、魔法的な補助があったんだと思う」

「まさか……異世界転生した時のボーナス的なものって……」


 そのまさかである。

 最も、彼は知らないが本来のボーナスは『言語理解』であって、この『身体強化魔法』は彼の御仁によるオマケのようなものだ。


「嘘だろ………異世界転生して、チート級の魔法とか能力とかで俺つえぇーッ! ってやりたかったのに……ただあそこを強化させる魔法だけだなんて……あんまりだ……今日日エロゲだってこんな設定ないぜ……」


 あまりのショックにその場に崩れ落ちた一。その悲壮さに同情の念を禁じ得ないウィンだが、掛ける言葉は見つからなかった。


「と、ところで……」


 だからウィンが強引に話を元に戻そうとする。


「あんたの身体の中で精製されたってことは、所有者が触れても金にならないのよね? だから直接触れても自分は金になってないじゃない?」

「………うん」


 死にかけの深海魚のような顔で、一は頷く。


「という事は、あんたが触れている物なら金にならないんじゃない?」

「……つまり?」

「あんたが着ている服に触れさせて」


 言われた通り、自分の服に賢者の石を触れさせる。だが、彼の服が金になることはない。


「おぉ……金にならない」

「やっぱり。あんたが触れている物は金にならないのよ!」

「いや、でも昨日俺が拾った小石は金になったじゃん」

「あ……そっか……」

「もしかしてさ……これ、俺に所有権があるもの、とかじゃないか?」

「どういうこと?」

「つまり、俺が所有権を持っているものに関しては金にならない。昨日の小石は拾っただけで、俺の物じゃないだろう? だから……」


 そう言って一は靴を脱ぐ。


「これは俺の物だからこうやって――」と、賢者の石を今脱いだ靴に触れさせる。

「――石を触れさせても、金にはならない。でも……俺はこの靴を捨てる! と宣言した上で同じように靴に石を触れさせる。すると……」

「……金にならないわね」

「何か他に条件があるのか?」

「一つ、試したい事があるんだけど……魔法も金になるのかしら?」

「……はい?」

「いや、だって触れたもの全てを金に変えるんでしょ? だから魔法が触れた瞬間にその魔法も金になるのか気になるのよ」

「……でも、昨日これを便器から取り出す時に魔法使ってたけど、金にならなかっただろ」

「あれは周囲の空気を使って浮かせただけだから、直接魔法が石に触れてないのよ」


 という事で、賢者の石を地面に置き、そこに向かって魔法を放つことになった。

 地面に石を置いた瞬間に、石に触れている砂が金になったのだが、もうその程度では驚かなくなっているのも、少し不思議な気分だった。

 賢者の石との距離は五メートルほど。ウィンの少し後ろに立つ一は、ワクワクしながら魔法を待っている。


「とりあえず、使ってみるわね」


 そう言ってウィンは詠唱を始める。


「我、火の神の威光に従い、御身に仇成す怨敵を討たん! 火矢の射手!」


 火属性攻撃魔法の初歩、火の玉を撃つ魔法だ。


「おぉ!」


 差し出した彼女の右手の前に小ぶりな赤い魔法陣が展開され、そこから三発の火の弾が放たれる。それぞれ三つの軌道を描き、火の弾が賢者の石に着弾した。ボンッ! と破裂音が二つ、そして巻き起こる砂煙。恐らく二つの火弾は石には当たらず、地面を抉ったのだろう。砂煙が落ち着くとやはり地面には二つの火弾の跡がある。だが、火弾の一つは賢者の石を直撃していた。

「……すげぇ」と、駆け寄った一は思わず呟く。

 賢者の石のすぐ脇、黄金に輝く炎のオブジェがそこにはあった。


「触れたものが魔法であっても、黄金に変えるのね。という事は……生物も金になるのかしら」


 石と黄金になった炎を拾った一は、チラッとウィンを盗み見ると、彼女の少しばかり不安そうな表情をしていた。


「なんだ、あんまり嬉しそうじゃないな」

「当たり前よ。この石に触れればあらゆる物が黄金になるのよ? 魔法だけじゃない。きっと生物も……」

「あぁ……確かにな。そうかも知れないが……試すわけにもいかないしな……」

「その……思ったんだけど、これを破壊する方法ってあるのかしら? 触れたものが全て金になるなら破壊出来ないんじゃ……」

「いや、んなことはないだろ。ハンマーで叩けば粉々になるぞ、きっと。試しみるか?」

「止めておきましょ。貴重な物だし……」

「貴重って言ってもただの結石だし……いずれ出てくるかも知れないぞ?」

「次に出てきたのが同じように賢者の石だとは限らないでしょ?」

「あぁ、なるほど。そりゃそうだ」

「あと最後に一つ。その石は莫大な魔力の塊だと思ってちょうだい。その石から魔力は感知出来ないけど、無尽蔵の魔力供給源になるはずよ」

「そんなすごいのになんで魔力が感知出来ないんだ?」

「きっと質が違うのよ。この世界の人間ではないあんたの体内で精製されたんだから、この世界の魔力と異なっているんだと思う。質が違うんだから、この世界の魔法使いが感知出来ないのよ」

「なるほど……でもなんで魔力の塊なんだ?」

「その石が、その……あんたの身体から出てきた瞬間、だと思うんだけど、凄まじい魔力爆発があったの」


 思い返してみれば、確かに魔力爆発がどうとか、とウィンが言っていたはずだ。


「魔法使いなら気付いたはずだけど、あり得ないほどに強烈だったわ。特大サイズの魔石の魔力爆発に似ていたから、きっと分類的には魔石なのよ」


 魔石と言うのは、高純度の魔力結晶体で、世界が蓄えている星の魔力とでも言うべき力が長い年月を経て鉱石化したものだ。


「でも魔力は感知できないんだろ?」


 これは憶測だから、間違っているかもしれないけど……と前置きして、ウィンはふむ、と唸る。


「それが出た瞬間、そこにあったこの世界の魔力が、異質の魔力に押し出されたんだと思う。かぼちゃの中にかぼちゃが転移したら、転移先のかぼちゃは破裂しちゃうでしょ?」


「いや、でしょ? って言われても、転移魔法なんて無かったから……」

「あぁ、そうだったわね……」

「……ってことは、俺を介して魔力を分けたり出来るのか?」

「そうね……試してみる価値はあるわ」


 そう言うとウィンは一の手を取る。触れた手が少しだけ熱を帯びているように感じるが、間違いではなかった。結石を持つ右手と繋いだ左手がほんのり温かい。


「すごいわね……これ。この世界のエネルギーを賄えるほどに莫大な魔力よ」

「エネルギーって言葉は通じるんだな……」


 ふと思ったことを口にしてみたが、ウィンの言葉によれば彼以外にも転生者や召喚者がいるのだから、きっと同郷の人間が言葉を教えている可能性もある。だから、何にも不思議ではないのだろう。それに、万に一つの可能性として、この世界の文化も異世界人によって齎された可能性だってある。


「それは飛躍しすぎか……」

「何が?」

「いや、こっちの話。それよりもういいか?」

「うん、ありがとう。やっぱりあんたを介する事で、石の魔力を受け取ることは出来るわ」

「なら良かった。じゃあ実験はこんな所か?」

「そうね……後は石が触れた液体にどういう効果があるか調べたいけど、専門外なのよね、魔法薬って。それに、今は怪我も病気もしてないし……」

「そうだな……無理やり怪我するってのも嫌だしな」


 な? と同意を求めたが、一の欲した反応はなく、ウィンはにへら、と笑うのみだ。


「試してみたい魔法が……あったりする、んだけど……」


 そんな笑みがどんな意味を持つのか、何となく理解した一は口元を痙攣らせた。


「……一応、どんな魔法か聞いても?」

「爆裂魔法と転移魔法の混合術式。爆裂魔法を相手の体内に転移させるの」

「え、こわ……死ぬじゃん」

「あとは風魔法の応用術式で雷を発生させるやつとか圧縮魔法とか。それから、火炎魔法の応用術式の融解魔法でしょ?」

「一つじゃねぇのかよ!」

「うるさいわね! もうここまで来たら運命共同体でしょ、あたしたち!」

「え?」きょとんとする一と

「え?」きょとんとするウィン。


 数秒の沈黙の後、ウィンの眉が寂しそうに下がった。


「……嫌なの?」

「いや、え? いいのか? 俺、行商なんてやったことないけど……」

「いいわよ、別に。一人旅も飽きてきたしね」


 先ほどのにへらとして笑みを消し、快活な笑みを浮かべて、ウィンは右手を差し出した。


「そうか……んじゃ、まぁ、何だ……その……よろしく頼むよ、ウィン」


 差し出された右手に一は顔を綻ばせ、握手に応じた。


「えぇ。こっちこそよろしく、ハジメ」


 涼やかな笑顔とピョコピョコと動く耳を見ながら、異世界生活における相棒を得た事に少しばかりの不安と胸いっぱいの安堵感を覚えた一であった。

さて、次回はいよいと最高に可愛い幼女が出てくるよ!!!!!

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