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森の中
◆本作品は『エブリスタ』にも投稿してあります。
ここはどこ……
切幡朝香は森の中を彷徨っていた。
この森がどこなのか、どうやって来たのか、いつからここに居るのか判らない。朝香は両親を呼んだが返事はない。それでも彼女は両親を呼び続けた。脚は痛くなり、眼から涙が溢れる。
もう、あるけないよ……
そう思ったとき、森が途切れ小さな祠が現われた。朽ちかけた鳥居と社、それを守るように朱い華が取り囲んでいる。
……さか……
「だれ?」
気のせいだろうか、誰かの声が聞こえた気がした。朝香は辺りを見回した。
「だれかいるのぉ~?」
朝香は力を振り絞って大声を出した。しかし、返事は無い。
やはり空耳だったのだろうか、再び涙がこみ上げる。
あさか……
今度はハッキリと自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
改めて周りを見回すと、祠の前に一人の少年が立っていた。
もうすぐ行くよ……