第9話 アリアとの邂逅
「はぁ……はぁ」
くそっ、今度は良い線いったと思ったのに!
「驚いた……この短期間で雷の『身体強化』をものにしたか」
早く身に付けないと、うっかりあんたに殺されそうだからだよ!
「はぁはぁ、まだまだ……ですよ。僕はあの時の仕返しをするって決めてるんです」
アレのせいで、エレナにどれだけ付き纏われたか。
「ほう、それは楽しみだ。よしっとりあえず今日はここまでにする、しっかり休め。私は仕事があるので先に戻っているぞ」
父様はそう言い残し、修練場を足早に立ち去って行った。恐らく昨日の分の仕事が残っているのだ。
時折、溜め息を吐いていたから間違いない。
「はぁ〜、一度屋敷に戻って休むか……」
クタクタな身体に鞭打って屋敷に続く道を歩いく。もうほとんど身体に力が入らないし、
魔力もすっからかんだ。
これもあれも全部あのクソ親父のせいだ。
絶対仕返ししてやる!
「あっ、仕返しといったらあのヒゲ野郎のこと忘れてた。この時間帯なら……今は庭に居るはず!」
フッフッフ、俺はすごく根に持つタイプなのだ。俺の執念を舐めるなよ、ダニエル!!
「ってあれ?」
あ、視界が歪んで……。
遠ざかる意識の中で「あの髭……絶対、生けてやる」そう呟いた後、すぐに俺は意識を手放した。
「んんっ」
なんか首が痛い。おい、この枕硬いぞ。
俺は柔らかめ派だとあれほど……あれ、枕?
目を開けると、すぐ目の前に人の顔があった。
「え?だれだ……。あっ、赤い髪」
アリアが俺の頭を膝に乗せて寝ている。
うーん、今いる場所は……庭にある大木の下だな。倒れた俺を運んでくれたのか。
初対面ではあんなに冷たかったのに、意外だな。
「ママ……」
ん?寝言か。ママって言えばアリアの母親は病気で亡くなったんだっけ。それで身寄りのないアリアを引き取ることになったって母様から聞いたんだよね。
母様からはアリアの事頼まれてるし、何とかしてあげたいけど……。
黙って考えているとアリアの目が開き、アリアの眼には俺が写っている。
「あっ」
目覚めちゃったよ、どうしよ。
「ど、ど、ど……」
ど?
「どいて!!」
アリアは顔を赤らめた後、急いで俺の頭を放り投げた。酷いよ、俺まだ全然体動かないのに……。
なんとか上半身だけ起こしてアリアの方をみやった。アリアは黙ったままこちらをみているだけだ。
「えーと、ありがとねアリア」
「別に……」
「ほんと助かったよ、いきなり倒れちゃってさ。身体が限界だったみたいでさ」
「あっそ……」
おお、会話ができてるぞ! 誰がなんと言おうとこれは立派な会話なのだ。
「ん、なんでかって?それはね、父様と鍛錬してたんだよ。魔法とかの」
「!?……魔法使えるの?」
「うん。最近、雷魔法が使えるようになったんだよ。アリアは魔法は使えるの?」
「私は炎魔法、ママに教えて貰ってた……」
やばい、地雷踏んだだろ! どうしよう。
あっ! そういえば母様から聞いてたんだ。
元々は元気で活発な子だったって。
それと俺に似て極度の負けず嫌いだとも。
ふむふむ……よーし! 良いこと思いついた!
「へー、まぁ僕の魔法の方が強いと思うけど」
「!?」
「まぁそんなの当たり前だよね。ハハハ!」
「な……」
「あっ! 今度魔法教えてあげるよ! アリアより強いこの僕がね!」
「な、何言ってんのよ!! 私の方が強いわ!!
良ーい?聞いて驚きなさい!!
私はママに大天才だって言われてたのよ!」
「ふーん、親はみんなそー言うの。というか僕は男だし?アリアとは体の作りが違うんだよね。だから僕が強い」
「はぁ?私は5歳よ! あんたより歳上で体も私の方がでかいわ!!」
歳は関係ないだろ!? 3歳児舐めんな!!
「はいはい、体の大きさなんて関係ないし?
これは魔法の勝負なんだからさ」
「あ、あんたが先に言ったんでしょ!! 魔法でも力でも私は負けないわ!!」
「へーそれはすごいねー。でも僕の雷魔法には敵うわけがないよ。なんたって上位属性魔法だよ?」
そう! 最近この事を知ったのだ。自慢したくなるのは俺が子供だからではない、当たり前の事なのだ。
「へー、アンタ知らないの?珍しいからそう言われてるだけだって。戦って強い方が勝つのよ。まったく……情けないわ。あーあ、ガキね」
俺がガキだと!? 俺は大人だ!!
「そ、そう言うことは僕に勝ってから言ってよね。まぁ無理だけど!」
俺がそう言い放った瞬間アリアは立ち上がった。拳を握りしめ肩を震わせている。
そして大量の魔力を放出させている。
まずい、熱くなってやり過ぎたかも……。
「良いわ、勝てないかどうか確かめてあげる。いくわよ! 炎魔法──」
ヤバいヤバいヤバい!!
今の俺の状態じゃ、そのどデカい魔力で放たれる魔法なら軽く死ねる!
「ちょ、ちょっとまって! 今は身体が……」
聞いちゃいないし!!あっこれ死んだかも……。ほんの一瞬がいつもの数十倍にも感じる。そうして俺は長い思考の末、目を瞑り死を待ったのだった。