4.
「はい、これで大丈夫」
「おお…よくわからんがありがとう」
あれから、男達はこぞってギルドの店員の連行されていった。だいぶ前から目をつけていたらしい。
俺は無茶をしすぎだとお叱りを受けつつも回復魔法とやらを受けた。とはいえ外傷がほとんどないので、明日以降の打ち身が無くなる程度みたいだ。十分すごい。
「これ、ギルドカードね。身分証としても使うものだから無くさないでね」
「…ミコが代わりに作ったもので身分証明できるのか?」
「多分大丈夫よ。たぶん。」
そもそも書いてあることも名前と性別とかだ。それ以外にはほとんど書いてないはずだから…何をもって身分証明になるんだこれ。
「ま、少なくともギルドが認めたってことになるからね」
「初日に問題起こしてるけど認められたのか」
「あの程度じゃ大したことないわ」
備品ぶっ壊したけど大したことじゃないのか。
「…そういや、俺なんで勝てたんだ?」
「え?よくわかんないけど机にぶっ飛ばしたんじゃないの?」
「いや…なんか急に合気道みたいな動きができたからさ。格闘経験なんて皆無なのに」
「んー…要因はいろいろ思いつくけど、多分アキトの肉体が作り替えられたからじゃない?」
「ちょっと待ってなにそれ怖い」
肉体が作り替えられた?…どういうことだ?
「ほら、ニホンじゃお迎えトラックに吹っ飛ばされたでしょ?本来ならあれで肉体もお釈迦になって、魂もあの世へ行くわけだけど…こっちに飛ばされると同時に身体が適応するように再生されたのよ」
「つまり…今の俺は日本にいる普通のDKとは違う、と」
「自分のことDKって言う人初めて見た。ちょっとうざい」
「辛辣」
「まあ…今ニホンに戻れば、喧嘩ならある程度は勝てるようになってるんじゃない?単純に身体能力も上がってるだろうし」
「ふーん…戻るにも向こうじゃ死んでるし、そこはどうでもいいかな。というか身体能力が上がってるってことは…」
さっきの男からの拳、咄嗟に避けることができたと思っていたが、そもそも反応できるほどにまで身体が強くなっていたというわけか。殴られた時に思ったよりも痛みが少なく、持ち上げて投げることが出来たのもそう言う理由っぽい。
「そもそもそうじゃなきゃゴブリンに殺されてるし」
言われてみれば、こっちに来てすぐにゴブリン倒してるや。
「…俺頑張れば最強目指せる?」
「いやチート持ったわけじゃないからね?」
多分普通に否定された。とは言っても最強チートは別にいらないし、悲観するほどでもないか。
「うん、なんか魔物と戦うとか馬鹿じゃねえのって思ってたけど、ちょっと自信湧いてきた。今ならスライムとか倒せそうな気がする」
「某ドラゴンなRPGだと最弱なんだけどソレ。ま、先にやることもあるから、まずはクエスト掲示板を見に行くわよ!」
「おう!…なにそれ」
「締まらない…」
仕方ないだろ…?兎にも角にも、先程までの騒ぎは忘れ、掲示板と呼ばれるところまで行くことにした。
ギルド施設の入り口の方に近いようで、掲示板の目と鼻の先には受付口や出入り口もある。
「ここがクエスト掲示板!ギルドを通しての依頼はここに貼り出されるの。ここから受付口まで持っていって、処理されれば無事に受注されるわ」
「某モンスター狩りと似たシステム?」
「近いわね。もちろんクエストを受注するのにも、冒険者ランクが関係してくるわ。見合った難易度かどうかね」
「冒険者ランク?」
はて、そんな単語は初めて聞いた。とはいえ大方の予想がつく。
「言ってなかった?冒険者は1から10までのランクに振り分けられるの」
「お、おお…桁は少ないのか」
「ゲームみたいにインフレした数字出しても、管理がめんどくさいじゃない」
まあ…ランク999まであったとして、どの基準で昇格するかも考えないといけないだろうしな。回数重ねればってタイプだと、数だけはこなした実力に見合わないのもいるだろう。
でも某狩りゲーなら一定以上はやり込み度数をわかりやすくしただけだったな。
「そもそも方式が違うわ」
「ん?加算式じゃない?」
「加算式は間違ってないけど、クエストなどを通した働きを、ギルド側が裁定してランク付けするの。だから依頼をクリアし続けたからランクアップ、とはいかないわ」
「…つまり、クリアランクを最高位で取り続けたらランクアップ?」
「そのゲームに当て嵌める癖やめない?…けど、つまりはそう言うことになるかな」
ふむふむ…ここはゲームの世界なんかじゃないというわけだ。実際に人間がいて、色々と管理されている。『これだからこう』といった単純なものにはできなさそうだ。
「さて、そんな私たちが受ける依頼があるのだけど…受付に行くわよ」
「おう。…おう?」
すぐそこのある受付口には、店員が待機している。すぐに対応はしてもらえそうだが、ミコの手には依頼の用紙が無い。何を受けるつもりなのだろうか。
「どもー」
「いらっしゃいませー。どう言った用件でしょうかー」
セミロングほどの長さで、少し明るめな茶髪の女性が、少し間延びした声で対応する。
「私たち冒険者になったばかりなの」
「あー、さっき騒ぎの方ですねー。ちゃんと準備してありますよー」
「ありがとう。助かるわ」
さっきの騒ぎって、もう軽く有名になってるなこれ?それよりもささっと受付嬢が取り出したのは、依頼書だった。
「あれ?掲示板から依頼書持ってくるんじゃないのか?」
「そうよ。けど初回は特別なやつ」
「おねーさん詳しいねー。これの内容は簡単で、街を廻ってきてっていうものなんだー」
依頼書を受け取り、その内容を読んでみる。…アイテムの納品?場所は素材屋、道具屋、武具屋…あ、これおつかいだわ。
「街でアイテムを集めて、ギルドに納品する。初回専用のお試しクエストなのよー。おねーさんもよく知ってたねー?」
「…あー…マニアなので…?」
「なるほどー」
多分、以前から冒険者について覗き見てたなこいつ。それにしてもマニアって苦しい言い訳だと思うが…ごまかせてるな。うん。
「期限は1週間だけどー…超頑張れば1日で終わる内容よー。けど、自分のペースでやっていいからねー」
…このクエストに限っては、本当に楽そうではないだろうか。超頑張ればとは言うが、各お店に行って物を持ってくるだけだ。
ミコと二人で納品の場所を教えてもらってから、ギルドをあとにした。
*
「さて、まだ日も高いしクエストを進めましょうか」
「そうするか」
体内時計だと、午後の2時くらいだろうか。正確な時間はわからないが、昼過ぎだとは思う。そういえば聞いていなかったが、この世界の時間はどうなっているのだろうか。
「ん?時間?」
「ああ。クエスト期限が1週間って言ってたけど、1日何時間とか詳しくないからさ。実際はどうなの?」
「地球と一緒よ?」
「…まじ?」
「うん。というかここが地球。全く違う歴史だけど」
「…異世界っていうより、並行世界?」
「そんな感じね。だけど異世界って言った方がテンション上がるでしょ」
「いやどっちでも上がる」
「そ、そう…?とにかく、まずは素材屋に行くわよ」
「場所は?」
「…アキトに任せる」
ずい、っとどこから持ってきたのか地図を押し付けてきた。まさか地図を読めないのか?
微妙にミコを一人にしてはマズイのだろうなあと察してしまった。
しかし読めないのなら仕方なく、地図を広げる。
「…素材屋『ストラーダ支店』。この道を直進かな」
「ふむ。見逃さないようにしないとね」
「おう。しかし『ストラーダ支店』って…よく見たら道具屋も武具屋も支店じゃねえか。チェーン店なの?」
「そうよ?本店は王都のギルドにあったはず」
「ギルド系列なのか。…それでおつかいクエストとかがあるのかな」
いわゆる同会社みたいなものか?それで多少の融通が効くとか、みたいな。
「あ、あれよ素材屋」
歩き続けていると特徴的な看板が目に入った。…何かの動物の骨を飾るのは、だいぶ悪趣味だと思うんだが。もし猫ならこの店は潰しにかかるぞ。
「入りましょ。クエストで来たと言えば、多分伝わるでしょ」
「たしかに」
悪趣味な看板を尻目に、素材屋へと入った。
ミコ「ゲームってどれくらいするのよあんた」
アキト「人並み。つっても家庭が特殊だから、他人と比較できないな」
ミコ「ふーん…某モン狩はやってるっぽいけど」
アキト「最新作、取り敢えずはEDまで見てるぜ。…アップデートで続きがあるみたいなんだが、こっちの世界に持って来れたりは」
ミコ「無理」
アキト「デスヨネー。…はぁ」