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Project StarFighter  作者: 菅原やくも
6/16

No.6

 グルーム・レイク空軍基地では、二十四時間体制での作業が行われていた。とはいえ、夜間は当直のエンジニア二名が機体のシステムを監視するだけだった。

 ぼんやりとしてモニターを眺めていたエンジニアは、


【 ココ ハ ドコ ダ? 】


 と表示されたのを見た瞬間、眠気が吹き飛んだ。これまでずっと沈黙していたコンタクト用モニターに文字が表示されたのだから。

「お、おい、これ見ろよ」もう一人に声をかけた。

「なんだ?」

「〈レギオン〉が目を覚ましたらしい。すぐ教授を呼んでくるよ」


 教授自身も部下と同様、基地の施設内で寝食をしていた。

 真夜中も過ぎている時間にたたき起こされた教授は、最初は少し不機嫌だったが、コンタクトができたと分かると眠気も不機嫌もどこかへ吹き飛んだようだった。

「ついに起動したのか。やったぞ、私の研究が歴史に残る日は近い」


 教授は駆け足で格納庫の現場へと向かった。

「どんな状況だね」

 モニタールームに入るなり、パソコンに向かっているエンジニアに聞いた。

「ええ、先ほどから、これだけが表示されてます」エンジニアはコンタクト用のモニターを指示した。

「まだ、なにも返答はしてないよな?」

「ええ、ただ、キーボードの用意はしておきました」

「それはご苦労」

 教授はモニターに表示されている文字列を確認した。

「これは、いいぞ」

 それからもう一度確認すると、返答の文言を打ちはじめた。


〔 おはよう、レギオン。ここは航空基地の格納庫の中だ 〕


【 レギオン? ソレ ハ ワタシ ノ ナマエ カ? 】


〔 そうだよ、君の名前だ。君は飛行機の管制・制御システムなのだ 〕


【 ワタシ ハ セイギョ システム? 】


〔 詳しいことは、これから少しづつ話をしよう 〕


 しかし、それからは返事はなかった。

 一同はため息を漏らした。

「脳波のモニタリングには?」

 教授は隣にいたエンジニアに聞いた。

「いえ、異常はありません。しかし、波形からすると睡眠状態に入ったと思われます」

「そうか、」教授は部屋の壁にかけてある時計に目をやった。

 午前四時半を過ぎたところだった。当直の交代は五時の予定だった。

「しばらく様子を見ようじゃないか?」

「了解です」

 それから給湯室へ向かった一人が声を上げた。

「教授、コーヒーは要り様ですか?」

「ああ、頼むよ。今日は忙しくなるかもしれん」


 教授は大佐にEメールで連絡を入れた。だが、返事はすぐには来なかった。もっともそれ自体は重要なことではないし、教授もとやかく気にはしなかった。


 その日も遅くなったころ合いに、大佐からの電話が入った。

「教授、〈レギオン〉が目を覚ましたって?」

「ああ、だがまた休止状態だよ。とにかく、一歩前進したのには違いないね」

「それは良かったな」

「そっちはどうだね? 無人機の後片付けは」

「まあね、一つはそれらしい原因が見つかった。しばらく飛行テストは中止だよ。残ってる機体の方も今一度分解して機器を見直すことになっている」

「やれやれ、お互い大変なのは変わりないようだ」

「時間ができたら、またそちらへ行くよ」

「ああ、いつでも来てみたらいいさ。歓迎会を開く時間はないけどね」

「こっちだって」大佐は苦笑した。「参加する時間もないだろうよ」


 無人戦闘機の研究開発は継続されることになったが、予算も規模も縮小となった。

 その代わりにサンチェス教授率いる新システム制御戦闘機開発は事実上公式のものとなった。もっとも極秘扱いなのは変わらなかったが。予算と人員がわずかながらも増加されることとなった。


 教授はモニターに記録されたログを見ながら、大きくため息をついた。

「うむ、予想より大きな数値だな」

「何が予想より大きいって?」

 ちょうどそのとき、部屋に大佐が訪れた。

「ああ、これは大佐、久しぶりだね」

「やっとひと段落さ。そっちはどうだい教授?」

「まあね、順調といえば順調だ」

「それで、何をため息をついていたんだ?」

「ああ、生命維持装置に割いている電力消費が、予想より多くてね」

「だが、人間の脳というのはそもそも、多くのエネルギーを必要とするんじゃないのか」

「そりゃ分ってる。普通に生きている人間だって身体全体で使うカロリーの二割は、脳味噌で消費されているからね」

「で、それがなにか問題になりそうか?」

「まだわからんよ。飛行時間や航続距離が短くなる可能性もある」

「空中給油機じゃ間に合わないのか?」

「まあねぇ、独立したバッテリー電源だからな。発電機でも積めばいいかもしれんが、そんなスペースはない」

「太陽光はどうだ? あるいはエンジンの排熱を電気に変換する機器をつけるとか」

「ソーラープレーンは戦闘機には向かん。高高度偵察機なら別かもわからないが……。それと排熱を使う案は考えたことがある。ペルチェ素子というやつだが、得られる電力はたいした足しにもならんよ。だったらめいっぱいバッテリーを積んだ方がましだ。

「案外、初歩的なことでつまずいてるな」

「まさか! 一応は想定内の話だ。ただ、設計がどれもこれもギリギリまで切り詰めたものになっているのが問題なんだ」

「余裕がないというわけか」

「そうだ。これが原潜だったら話はもっと簡単だっただろう」

「だが、原潜なら量子コンピュータだって積めるさ」

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