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Project StarFighter  作者: 菅原やくも
3/16

No.3

 オペ室を一望できるガラス窓越しに、大佐は厳しい目つきで眺めていた。

「教授、あれが人間の脳を、単体の生命を維持できる装置というわけだな? 以前、私が見たのとは違うな。意外とコンパクトにまとまってる」

「そうですよ、大佐。今のところの最新モデルだ。エンジニアたちのおかげで、なんとか機体に乗せるには限界のサイズにまとめたもんだ」

 大佐の横に立っているのは、先日の電話の相手であるルーカス・サンチェス教授だった。彼はスターファイター計画の最高責任者であり、大佐は彼を監督する立場にあった。

 教授と呼ばれていたが、それは単なるニックネームだった。じっさいには博士号を持つ立派な学者で、研究者でもあった。彼の風貌や性格から、周りが面白がって言い始めたのがすっかり定着してしまったのだ。どうにも本人もそれを気に入っているようすだった。それから、中年にもなっても相変わらずの甘党で、仕事中もトゥインキ―(注釈:アメリカの国民的お菓子)を食べない日は無かった。おかげで若かりし頃の面影はなかったが、さして本人は気にしていない様子で、時折、そのでっぷりと太った腹をポンと叩くのが癖だった。

 そして今も、不躾な様子で食べかすを少しこぼしながらトゥインキーを食べていた。

「この光景を見ながら、よく食べられるね」

「まだ食事を取っていないもんでね。急いで駆けつけたんだから、このために」

「まあ、いいさ。それで、これまでの実験はどうだった?」

「動物実験ではほぼ百パーセント、人体実験では蘇生率九十七パーセント。ただ、なんとも言えんね。正直なところ、意識レベルや知能指数の低下など……長期にわたってはどうなるかは、見当がつかないのは事実だ」

「それも含めたのが、この計画だろう?」

「それはそうだが、もし、記憶処理がうまくいかなかった場合、本人がどんなことになるかは……」

「それに関してはあまり危惧する必要はないだろう。記録にはざっと目を通している。記憶処理に関しては、これまでの実験結果で充分に要求を満たしている。それに完全に自立したシステムでもないだろう?」

「ああ……いつ何時でも、地上オペレータが割り込めるように設計してある」教授は苦笑した。「勝手に暴れまわっては、誰もかれも困るだろう」

「そりゃ、そうだ」

「とにかく、実験用ラットの脳みそでおもちゃの車を動かすのとはわけが違う。もちろん細心の注意は払うがね。これからどうなるか、悪いことを考えると胃が痛くなるよ」教授は少し冗談じみた口調だった。

「ダイエットにはいい機会になるんじゃないか?」

 教授はそれを聞いても軽く笑うだけだった。「そのうち、大佐殿も呑気なことを言えなくなるかもしれませんよ」

「さあ、どうだか」


 作業は時間との勝負であった。脳を含む神経細胞というのは、血液による酸素供給が止まるとすぐさま壊死していく。他の細胞と違い、再生もしない。しかも脳だけでなく、脊髄を含めた神経全てを取り出す必要があった。すでに断裂した神経系の再接続の医療技術は確立されていたが、不確実要素は徹底的に排除するとの意向があったためだ。

 そこで考えられたのは、遺体全体を専用の培養液へ浸した状態で作業をおこなうというものだった。いずれにせよ、取り出した脳は高比重培養液に浮かんだ状態で蘇生維持される手順になっていた。


 無事に脳と脊髄がすべて取り出されると、すぐさま生体脳維持装置への接続作業が行われた。その一方でリアムの遺体の修復作業も始まった。それでも想定していたより順調に進んでいった。

 かつてリアムの意識を宿していた脳が収められた装置一式は、安定状態が確認されると慎重に運び出された。傍目にはそれがなんなのか分かる者はいなかった。そして作業員と装置を乗せたトラックは護衛とともに、空軍基地の滑走路へと向かった。駐機場には、すでにローターを回転させて待機している輸送ヘリ〈CH‐47(チヌーク)〉の姿があった。開かれている後部ハッチへ、同じように慎重な手つきで運び込まれると、ヘリは離陸した。

 ヘリの向かう先は、ネバダ州南部にあるグルーム・レイク空軍基地だった。

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